社研3_p.23-29 石井良一

3.人材育成活動
人材育成活動
3
❏公共経営分野
滋 賀 大 学 公 共 経 営 イブニングスクール
1.経緯
平成 15 年 4 月以降、公共経営に関するセミナーを毎月第 4 金曜日の夜に開催している。定員を 30 名として、1 年
度を前期、後期と分けて、以下のように毎年度もっとも旬なテーマを設定し、開講している。
【図表 1 滋賀大学公共経営イブニングスクールの経緯】
年度
平成 15 年度
前期
ニューパブリック・マネジメント・セミナー-市
町村合併と新しい自治体経営-
後期
ニューパブリック・マネジメント・セミナー-
事務事業評価から戦略予算システムへ-
平成 16 年度
事業革新の目を鍛える-プロフェッショナル公務員をめざして-
平成 17 年度
事業革新のケースから学ぶ-プロフェッショナル公務員、地域リーダーをめざして-
平成 18 年度
平成 19 年度
「事業仕分け・地域事業組成」を考える-地
方自治体のしごとはどうあるべきか-
地域組織・地域事業を組成する-事業仕分
け・地域事業組成から考える-
「事業仕分け・地域事業組成」による地域
経営改革-地域事業をどう作っていくか-
地域協働の視点で役所を変革する-自治
基本条例を考える-
平成 20 年度
市民ガバメントの設計-市民が自治体経営に関わるために-
平成 21 年度
国のかたち・自治体のすがた-道州制・県と市町の役割分担を考える-
平成 22 年度
今こそ!地方自治体歳入改革-少子高齢社会における自主財源拡大策を考える-
平成 23 年度
アグリビジネス地域経営論-農林業を興す-
平成 24 年度
福祉自治体の設計理念-持続可能な自治体福祉政策を考える-
平成 25 年度
都市計画の疑問-成熟社会の都市農村計画行政の視座-
平成 26 年度
自治体のエネルギー自立化戦略を考える
2.狙い
これまでの受講者は、国、県、市町職員、NPO、民間企業、地方議会議員と職種、年齢も多彩である。京都府内、
奈良、岐阜県内からの受講者もいる。テーマに応じて、ゲストスピーカーとして市長、NPO リーダー、民間企業経営
者、学識者なども数多く呼んでいる。私のスクールに対する想いは次のとおりである。なお、平成 26 年度から大学院
プレスクールとして位置づけ、成績評価を行い、修了要件に達した者に履修証明を出している。今年度は 1 名の方が
修了した。
①公共経営に関する語り場の設置
滋賀県下の地方自治体は大きな改革の渦中にある。この数年間で市町合併は大きく進展した。地方財政は破綻
の危機にある。地域社会も大きく変化しようとしている。あちこちで改革の取組みが始まっているが、公共経営に関し
て議論する場が十分ではない。スクールは所属や職種を超えて、それぞれの取組みや考えを意見交換する場の形
成を意図している。
スクールでは、私やゲストの問題提起に対してディスカッションを行うように促している。ディスカッションを通じて受
講者は気づきを得ることができる。毎回、おおいに議論で盛り上がる。スクールは毎月1回なので、メーリングリスト
23
3.人材育成活動
などにより、スクール外でも情報共有や意見交換をできるようにしている。
②改革リーダーの育成
最終的な私の期待は、受講生が行政改革や地域社会でリーダーとして改革の手腕を発揮してもらうことである。こ
れまでの受講生の中からは、自治体の副市長や部課長、職場改革の旗振り役になる者、県議や市議に挑戦する者、
指定管理者公募に挑戦する者が次々に現れている。こうした挑戦の取組みを聞くことは、スクールを主宰する者の
喜びである。
3.平成 26 年度「自治体のエネルギー自立化戦略を考える」の実施概要
1)趣旨
東日本大震災に伴う福島原子力発電所の事故を受けて、国のエネルギー政策は大きな変革期にある。原子力発
電の位置づけについても未だ国民のコンセンサスは得られていない。原子力発電所の再稼働についても行政と地域
住民間でさまざまな議論があり、地震や津波の懸念がある中、結論はなかなか見いだせない状態が続いている。こ
れまで、エネルギー政策や開発は国が主導してきており、自治体自らが政策展開をする余地は少なかったが、分散
型電源である再生可能エネルギーの技術開発の進展、固定価格買取制度の開始により、ようやく自治体自らがエネ
ルギー政策を考え、実践することが可能となっている。
本スクールでは、再生可能エネルギーの最新動向を踏まえて、自治体のエネルギー自立化戦略について議論す
ることを目的とする。なお、分権社会において、法律解釈、条例制定はますます重要となっており、本年度から提中
客員研究員(大津市職員)による政策法務講座を設置した。
2)プログラム
いずれも 18:30~20:30
【政策研究】担当 石井 良一
1.平成 26 年 4 月 25 日(金) 「オリエンテーション」、「エネルギー需給の現状」
2.平成 26 年 5 月 23 日(金) 「再生可能エネルギー各論:太陽光」
3.平成 26 年 6 月 20 日(金) 「再生可能エネルギー各論:バイオマス」
4.平成 26 年 7 月 25 日(金) 「再生可能エネルギー各論:水力、風力」
5.平成 26 年 8 月 22 日(金) 「再生可能エネルギー各論:地熱、ごみ発電等」
6.平成 26 年 9 月 19 日(金) 「再生可能エネルギー都市スタディツアー」(希望者)
7.平成 26 年 9 月 26 日(金) 「エネルギーに関する法制度」(講師:提中)
中間レポート提出
8.平成 26 年 10 月 24 日(金) 「エネルギー自立都市の先進事例」
【政策法務講座】担当 提中 富和
9.平成 26 年 11 月 21 日(金) 「政策法務の視線①」
10.平成 26 年 12 月 19 日(金) 「政策法務の視線②」
11.平成 27 年 1 月 23 日(金) 「政策法務の視線③」
【政策研究】担当 石井 良一
12.平成 27 年 2 月 20 日(金) 「エネルギー開発における国と自治体の関係」
13.平成 27 年 3 月 13 日(金) 「自治体のエネルギー自立化戦略の提言」
最終レポート提出
24
3.人材育成活動
3)「自治体のエネルギー自立化戦略の提言」のまとめ
本年度のスクールでの議論をまとめると次のとおりである。
(1)固定価格買取制度の開始による再生可能エネルギーの導入促進
固定価格買取制度は、国が再生可能エネルギーの買取価格を決定し,再生可能エネルギーの発電を行う企業は,
発電した電力の全量を国が決めた価格で電力会社に買い取ってもらうことができ,電力会社は再生可能エネルギー
発電企業からの買い取りに要した費用の全額を,電気料金に上乗せして企業や個人の顧客から徴収できる制度で
ある。
2012 年 7 月の制度開始後、再生可能エネルギーの普及にはずみがついたが、太陽光発電が制度開始後の導入
量の 9 割以上を占めている。
【図表 2 固定価格買取制度のしくみ】
(出所)資源エネルギー庁 HP
(2)再生可能エネルギーの課題
再生可能エネルギーは電源別にさまざまな課題がある。特に、太陽光発電や風力発電は、時間や季節、天候に
よって大きく変動し、我が国の送電システムの受容量の制約もあり、バランスのとれた導入を進めることが必要とな
っている。
25
3.人材育成活動
【図表 3 再生可能エネルギー電源別の課題】
電源
設備利
用率(%)
発電特性
課題
・建設費が高く、適地も限定的。
・太陽光発電に依存すると、消費者が負担する電気
太陽光
10~15
・日中に発電し、雨天時、
代が高止まり。
夜間には発電しないが、長
・変電所の受け入れ容量がない。
期的に年間日射量が大き
・不安定な電源で送電網に悪影響。
く変動することはない。
・不適切な農地転用が進展。
・地域の景観、生態系に悪影響。
・地域の雇用を生み出さない。
・騒音、電波障害など生活環境への影響
風力
20~30
・時間や季節によって発電
・バードストライクなど自然環境への影響
量は大きく変動するが、長
・不安定な電源で送電網に悪影響。
期的には年間風速が大き
・老朽化や台風、落雷などによる落下事故の懸念
く変動することはない。
・使用済設備の処理方法
・洋上発電への期待
・将来的に未利用材や一般材が将来不足
・燃料となるバイオマス資
・製紙用との競合
源(木質チップ等)が確保さ
バイオマス
80~90
・林地残材は山林に広く分散していることから収集運
れていれば、天候、時間、
搬に費用と手間。
季節に関わらず安定的な
・原料の乾燥にも多くの熱量が必要
発電が可能。
中小水力
地熱
50~90
70~80
・熱利用の推進
・季節によって発電量の変
・安定水量が確保できる適地が限定的。
動はある が、長期的には
・水利権の調整など行政手続きの簡素化。
年間の水量が大きく変動
・水路を流れてくる木の枝や枯葉、もろもろのゴミの
することはない。
維持管理。
・年間を通じて比較的安定
・初期投資、維持管理費用など開発コストが大きい。
的な発電が可能。しかし、
・地熱資源の探索や開発期間の長さなど開発リスク
地熱資源の減衰要因とし
が大きい。
て、貯留層圧力の低下、坑
・環境アセスメントを行い、自然保護、景観への配慮
井内・貯留層内のスケール
を図る必要がある。
(難溶性物質)付着や閉塞
・硫化水素は、発電所機器の腐食劣化や人体への影
がある。
響を及ぼす
26
3.人材育成活動
(3)これからのエネルギー政策の考え方
火力や原子力発電に多くを任せられない現状を考えると、再生可能エネルギーの課題を克服し、その比率を高め
る必要がある。水力発電を加えても我が国の再生可能エネルギーの電源構成は 2013 年度で 10.7%に過ぎず、その
割合を 20~30%にするためには、これまでの国主導のエネルギー政策を国と自治体が連携する政策体系に組み替え
る必要がある。
【図表 4 これからのエネルギー政策の方向性】
これまでのエネルギー政策
理念
電源構成
これからのエネルギー政策
集権的 原料海外依存、拠点電源開発
方式(タテ型)
国・自治体協働 多極分散地域連携方式(ヨコ型)
火力、再生可能エネルギーのベストミックス
火力、原子力主体
暫定電源としての原子力
エネルギー政策基本法
計画
エネルギー政策基本法
エネルギー基本計画
エネルギー基本計画
自治体再生可能エネルギー推進基本条例
自治体エネルギー基本計画
石油業法、電気事業法、電源開発促進
法、原子力基本法等で業界をコントロー
ル、事業者指導
手段
化石資源確保に対する国の関与(独立
行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源
左記に加え、自治体主導での再生可能エネルギー
政策実現手段を確保
機構等)
固定価格買取制度
自治体等
の関わり
拠点発電所(原発等)整備に対する電源
三法による支援
①エネルギー政策主体、②エネルギー消費者、
③エネルギー供給者、として主体的に行動
その他、関与は薄い
(4)自治体のエネルギー自立化戦略の提言
自治体はエネルギーの自立化に向けて下記のプロセスで地域ぐるみで再生可能エネルギーの推進を図るべきで
ある。
【図表 5 自治体のエネルギー自立化のプロセス】
27
3.人材育成活動
① 再生可能エネルギー賦存量調査
再生可能エネルギーの賦存は地域によって大きく異なるため、まずは、電源別に再生可能エネルギーの賦存量、
導入可能量を把握することが重要である。
② エネルギー基本計画(ビジョン)の策定
現在、自治体においてはエネルギー基本計画の策定が義務づけられていないが、エネルギー自立化に向けて、
自治体版エネルギー基本計画の策定が欠かせない。条例を策定し、自治体に策定を義務付けることが望ましい。エ
ネルギー基本計画は、例えば 2030 年の政策目標として、電力自給率、電源種別ごとの再生可能エネルギー導入量、
省エネルギー目標を示す。将来の利用可能量を踏まえ、適切なエネルギーを想定し、定める。
【図表 6 エネルギー基本計画の枠組み例】
③ エネルギービジョン推進実施計画の策定
エネルギー基本計画は長期ビジョンであり、単年度ごとに政策の柱ごとに実現の施策を明らかにした「エネルギー
ビジョン推進実施計画」を策定する。電源別の再生可能エネルギーの目標を達成するためには、それぞれ毎年どの
程度の整備を行うかが明らかになり、その具体的な推進策を明らかにする。国のエネルギー政策は年度ごとに変更
が想定されるため、毎年度施策を定め、年度末に施策評価を行い、改善し、次年度計画を策定する。
④ 自治体電力会社の設置、地域共同発電の推進
現状では、地域内で創った再生可能エネルギーは系統電力に売電され、市内の変電所を経由して市外に送電さ
れる。ほとんどは市外利用となる。売電によって得られた収入は、住宅や市内企業以外は、市外にある本社の収入
となる。「電力自給率」というものの本来的な地産地消の意味ではない。メガソーラーによる収入もほとんどが域内に
落ちず、産業育成もできない。また、多くの公共施設は新電力等外部から電気を購入しており、市内で創られた再生
可能エネルギーは購入しようとも購入できない。
今後は、市内で創った再生可能エネルギーをできるだけ市内で利用するために、クリーン電力会社としての自治
体電力の設置が望ましい。平成 27 年 4 月から電力小売自由化となり、住宅、事業所とも電力購入が選択可能となる。
自治体電力の設置により、市民や事業者は自分で創った再生可能エネルギーの余剰を自治体電力に売電し、市民
や事業者は地産の再生可能エネルギーを購入することができる。自治体は自らの施設で創った電力を公共施設間
で融通することが可能となる。市民はより積極的に再生可能エネルギーの開発を進めることとなる。自治体電力は
系統電力や他の新規電力会社と相互補完的となるものである。
28
3.人材育成活動
【図表 7 自治体電力会社の設置、地域共同発電の推進】
現状の再生可能エネルギーの利用(地産外商型)
自治体電力によるエネルギーの自立化の推進(地産地消型)
滋賀大学公共経営イブニングスクールが、地方自治体や地域社会の改革推進のアイデアの源泉となるよう今後
とも精一杯努力をしていきたい。
(文責 教授 石井 良一)
29