アブストラクト

 理論と実験
小谷野由紀 Ý ,栄伸一郎,北畑裕之,長山雅晴
樟脳粒は微結晶からなる白い粉末状の市販の樟脳 を押し固めたもので,水面に浮かべると樟脳粒か
ら樟脳分子が水面に拡散し,水面には樟脳分子の濃度場が形成される.樟脳分子は界面活性をもち,表面張力を下
げることが知られているので,樟脳分子の濃度場に対応した表面張力の空間分布が生じる.例えば樟脳粒が円板
状である場合,図 に示すように,静止した樟脳粒周りで樟脳分子濃度が円対称な状態が存在する.樟脳粒は
水面との接触線上の各点で常に法線方向に表面張力で引っ張られているが,接触線上の各点にはたらく表面張力
が釣り合って樟脳粒が動くことはない.しかし,物理的に突っつくなどの摂動によって樟脳粒周りの樟脳分子濃
度にわずかでも異方性が生じると,樟脳粒周りの表面張力のつりあいが破れて樟脳粒は駆動される .樟脳粒の
運動方向の前方と後方の樟脳分子濃度を比較すると,図 に示すように,もともと樟脳粒があった後方の水面
のほうが樟脳分子濃度が高いことが容易に想像できる.樟脳分子濃度が高いほど表面張力が下がるので,樟脳粒
は継続的に駆動される.このように,樟脳粒の自己駆動運動は動くことによって維持され,一定速度で運動する
状態が安定に現れることが知られている .樟脳粒のように自発的に運動する粒子は,自己駆動粒子,または,
アクティブマターと呼ばれ,近年盛んに研究されている .
樟脳粒の運動はその形状にも依存する.これは,樟脳分子の供給や,周囲の水面の表面張力から受ける力が樟
脳粒の形状によって決まるためである.例えば,楕円形の樟脳粒の運動を並進運動のみに制限すると,樟脳粒は
楕円の短軸の向きに動くことが知られている .また,自転の自由度まで含めて,静止状態が不安定化したとき
に現れる並進運動や自転運動についても議論が行われている .更に,樟脳粒が複数存在する場合,一般には樟
脳粒は濃度場を介して斥力的な相互作用することが知られている .
今回の発表では,楕円形樟脳粒が相互作用したときの運動の様子について,実験結果を報告する.楕円形の樟
脳粒は,楕円形に切り取ったろ紙に樟脳を染み込ませることで実現した.ろ紙の重心に穴をあけ,軸を通すこと
で並進運動ができないようにし,楕円形樟脳粒の自転運動に関する相互作用の影響のみを観測できるようにした.
実験装置を図 に示す.楕円形樟脳粒を水面に浮かべると,自発的な自転運動が安定にみられる場合と安定な静
止状態がみられる場合がある.どちらが安定であるかは,抵抗係数や楕円の離心率に依存する.本研究では,単
独で静止状態が安定な楕円形樟脳粒を つ用意し,重心距離を一定にした状態で相互作用させたときの楕円の向
きの時間変化を観測した.その結果,図 に示すように,樟脳粒の重心を結ぶ直線とそれぞれの楕円形樟脳粒の
長軸が直交し, つの楕円形樟脳粒の長軸の向きが平行となる様子が観察された. つの樟脳粒の間の距離は有限
ビデオ
カメラ
θ2
位置
樟脳濃度
樟脳分子
(b)
θ1
π
樟脳粒
楕円形
樟脳粒
運動方向
角度 θ1, θ2
(a)
樟脳濃度
ではあるが,これは,理論で予言された楕円形樟脳粒の振る舞いをよく再現している.
位置
π/2
120
時間 (s)
図 3 : (a) 楕円形樟脳粒の向きの定義と
(b) 向きの時間変化 .
図 2 : 実験装置の概略図 .
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θ2
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top view
図 1 : 樟脳粒の運動と水面の濃度場の関係
を表したイメージ図 . (a) 静止しているとき
(b) 運動しているときの様子を表す .
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