急性膵炎の病態と治療 - 日本消化器外科学会

急性膵炎の病態と治療
近畿大学医学部外科肝胆膵部門
はじめに
竹 山 宜
典
類されるが,これらがさまざまな程度で混在し,
急性膵炎は数日間の絶食で軽快する軽症例か
特に発症早期では膵虚血から膵壊死への移行が認
ら,致命率が10%以上に達する重症例までその重
められる.膵内で活性化された膵酵素や二次的に
症度により大きく病態が異なる疾患である.重症
産生されたサイトカインやキニン類などの炎症メ
例の主な死 因 は 発 症 早 期 に お け る 多 臓 器 不 全
ディエーターが血中や腹腔内に溢流し,発症初期
(MOF)と晩期における感染性膵壊死による敗血
から全身炎症反応性症候群(systemic inflamma-
症であり,この二つに対する対策が急務となって
tory response syndrome:SIRS)をきたす.重症膵
いる.急性膵炎の治療においては,発症早期にお
炎とは,高度な SIRS 反応により膵局所の炎症が
ける的確な重症度診断と早期からの集中治療の開
全身の障害へ拡大したものであり,膵炎全体の約
始が重要である.現在では輸液栄養・呼吸管理を
20%内外を占めると推測される.重症膵炎では,
中心とした集中治療と急性膵炎に対する特殊治療
全身末梢血管の透過性が亢進し,組織浮腫と血管
が発達した結果,早期死亡の比率は減少し,発症
内脱水(hypovolemia)をきたし,血管内皮障害に
早期に外科治療が適応されることはまずない.一
起因する臓器虚血により肺・肝・腎などの遠隔重
方,重症急性膵炎の死因の多くが感染に起因する
要臓器障害が早期から引き起こされ,免疫系や凝
後期死亡となったため,本疾患における外科治療
固系の障害や,重症感染症や DIC を合併する.さ
は発症後期における膵および膵周囲の感染巣に対
らに,発症早期を乗り切っても,膵および膵周囲
するものとなっている.また,近年,抗菌薬・蛋
後 腹 膜,腸 間 膜 な ど の 壊 死 部 に 腸 内 細 菌 移 行
白分解酵素阻害剤持続動注療法(動注療法)が壊
(BT:bacterial translocation)から感染を生じ,敗
死性膵炎に適応されることにより,膵壊死の病像
血症を併発すると予後は不良である.
にも変化が見られ,その治療戦略も変化しつつあ
る.
2)症状
約90%の症例に,急激に発症し増悪する持続性
1.病態と診断
の上腹痛を認める.嘔気・嘔吐,発熱,背部への
1)疫学・病因と病態
放散痛をしばしば伴う.また重症例では呼吸困難,
急性膵炎は,アルコール摂取や胆石症などによ
意識障害,ショック症状,出血傾向が見られる.
り何らかの機序で膵酵素が膵内で活性化し,膵の
まず心窩部に圧痛を認め,時間経過とともに腹膜
自己消化をきたした非化膿性急性炎症で,発症初
刺激症状,筋性防御が明らかとなってくる.また,
期には無菌的である.わが国では,年間約5.8万人
腸間膜根部への炎症の波及による麻痺性イレウス
が発症すると推計されており,明らかに増加傾向
から鼓腸を呈する.
胆
にある1).成因としてはアルコール摂取が40%,
石性が約20%,特発性が約20%となっており,そ
3)急性膵炎の診断と成因診断
のほか内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)後など
診断は,厚生労働省により策定された診断基準
にも発症する.膵の変化は浮腫,出血,壊死に分
によって診断する(表1).腹痛患者の約5%が膵炎
49
胆
・
膵
2
急性膵炎の病態と治療
表 1 急性膵炎診断基準
①上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある.
②血中または尿中に膵酵素の上昇がある.
③超音波,CTまたは MRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある.
上記 3項目中 2項目以上を満たし,他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎とする.
ただし慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める.
注:膵酵素は特異性の高いもの(膵アミラーゼ,リパーゼなど)を測定することが望ましい.
であることが報告されており2),外来における腹
循環のモニタリングを行いつつ,疼痛に対して鎮
痛患者から血清アミラーゼ測定や腹部エコー検査
痛薬投与を行う.輸液は軽症例では末梢経路で十
などによる拾い上げが重要である.また,胆石性
分であるが,尿量やヘマトクリットを目標に血管
膵炎では他の成因による膵炎とは初期治療方針が
内脱水をきたさないように,十分量を投与する.
異なっており,血液検査における肝酵素や胆道系
軽症と判定されれば,モニタリングとしては,体
酵素の上昇,画像診断における胆石の存在などに
温,脈拍数,血圧,尿量,呼吸数などの基本的項
注意して胆石性膵炎を見逃さないように注意する
目で十分で,一般病棟での管理が可能である.た
必要がある.
だし,一旦軽症と判定された症例でも,発症後 3
日までは重症に移行することがあり,上記モニタ
リングで全身状態の悪化が認められれば,再度,
4)重症度判定と「特定疾患」申請
急性膵炎と診断されたら入院加療とし,直ちに
画像診断を含めた重症度判定を行うべきである.
厚生労働省により発表されている急性膵炎重症度
軽症例では,予防的抗菌薬投与は不要である.た
判定基準(表2)によって重症度を判定する.この
だし,蛋白分解酵素阻害薬は後述する重症例に準
重症度判定システムは予後因子のスコアによる判
じて投与されることもある.
定と,造影 CT による判定の 2 種類の判定から
2)重症例の初期治療方針
なっており,どちらの判定でも重症度が判定でき
重症急性膵炎では,全身モニタリングが必須で,
るようになっている.すなわち,予後因子 3 点以
内視鏡治療や手術が施行可能な施設で診療するこ
上,または造影 CT grade 2以上が重症と判定され
とが必要で,全身状態によっては ICU 管理が必要
る.この急性膵炎重症度判定基準は,2008年度に
となることを前提に高次医療機関への搬送を考慮
改定されており,重症と判定された症例の致死率
する.また,治療開始後も重症化が進むことがあ
が旧基準よりも上昇することが予想される.重症
るので,一旦軽症と判定されても経時的に重症度
と判定されれば,厚生労働省の特定疾患治療研究
判定を行うことが重要である.
事業の対象となる.主治医が申請書を作成し,患
①輸液
者家族が住民票のある地域の保健所を通じて申請
重症膵炎では,全身の炎症反応により全身の血
する.難病認定を受けると,受理後の医療費が公
管透過性が亢進し,血管内の血漿成分が血管外に
費負担となるので,重症と判定されれば速やかに
逸脱して,高度の血管内脱水が惹起され,循環障
申請を行わねばならない.
害から臓器障害をきたす.したがって,重症例で
は軽症例にも増して初期輸液が重要となる.輸液
2.治療方針(図1)
量は,中心静脈圧,時間尿量,血圧,ヘマトクリッ
1)軽症例の治療方針
トなどを指標に決定するが,重症例では,入院第
急性膵炎と診断されたら,ただちに入院の上,
1 病日に平均8L,第 2 病日以降も4L∼5L を要する
成因検索と重症度判定を行いつつ,同時に基本的
といわれており,中心静脈圧をモニタリングしな
治療を速やかに開始する.まず,絶食下に呼吸・
がら尿量が確保されるまで輸液を行う.
50
2010年(平成22年)度後期日本消化器外科学会教育集会
表 2 急性膵炎重症度判定基準
A.予後因子
原則として発症後 4
8時間以内に判定することとし,以下の各項目を各 1点として,合計したもの
を予後因子の点数とする.
1
.BE≦-3
mEqまたはショック
2
.Pa
O2≦ 6
0
mmHg(r
o
o
ma
i
r
)または呼吸不全
3
.BUN≧ 4
0
mg/
dl
(または Cr≧ 2
.
0
mg/
dl
)または乏尿
4
.LDH≧基準値上限の 2倍
5
.血小板数≦ 1
0万/
mm3
6
.総 Ca値≦ 7
.
5
mg/
dl
7
.CRP≧ 1
5
mg/
dl
8
.SI
RS診断基準における陽性項目数≧ 3
9
.年齢≧ 7
0歳
臨床徴候は以下の基準とする.
・ショック:収縮期血圧が 8
0
mmHg以下
・呼吸不全:人工呼吸を必要とするもの
・乏尿:輸液後も一日尿量が 4
0
0
ml以下であるもの
SI
RS診断基準項目:
(1
)体温> 3
8
℃ あるいは< 3
6
℃
(2
)脈拍> 9
0回/
分
(3
)呼吸数> 2
0回/
分あるいは Pa
CO2< 3
2
mmHg
(4
)白血球数> 1
2
,
0
0
0
/
mm3か< 4
,
0
0
0
m3または 1
0
%超の幼若球出現
B.造影 CT Gr
a
de
原則として発症後 4
8時間以内に判定することとし,炎症の膵外進展度と,膵の造影不良域のスコ
アが,合計 1点以下を Gr
a
de1
,2点を Gr
a
de2
,3点以上を Gr
a
de3とする.
1
.炎症の膵外進展度
(1
)前腎傍腔:0点
(2
)結腸間膜根部:1点
(3
)腎下極以遠:2点
2
.膵の造影不良域:膵を便宜的に膵頭部,膵体部,膵尾部の 3つの区域に分け,
(1
)各区域に限局している場合,あるいは膵の周辺のみの場合:0点
(2
)2つの区域にかかる場合:1点
(3
)2つの区域全体をしめる,あるいはそれ以上の場合:2点
C.重症度判定
予後因子が 3点以上または造影 CT Gr
a
de2以上のものを重症とする.
②モニタリングと呼吸・循環管理
外麻酔が有効な場合もある.麻薬を使用する場合
重症例では,体温,脈拍数,血圧,尿量,呼吸
には,Oddi 筋の収縮を避けるためアトロピン配合
数などのバイタルサインのモニタリングに加え
薬を選択する.
て,動脈血酸素飽和度,動脈血ガス・酸塩基平衡
④蛋白分解酵素阻害薬
分析,中心静脈圧,電解質バランスをモニタリン
蛋白分解酵素阻害薬の点滴静注は致死率の低下
グし,必要に応じて,人工呼吸やカテコラミン投
や合併症発生阻止に有効と考えられており,大量
与などの呼吸循環管理を行う.
のメシル酸ガベキセート投与は,致命率や合併症
③疼痛対策
発生率を低下させることが報告されており3),急
疼痛ストレスは病態を悪化するので,早期から
性膵炎診療ガイドライン2010ガイドラインでも投
十 分 な 疼 痛 対 策 を 行 う.疼 痛 の 程 度 に よ り,
与が推奨されている(推奨度 C1)
.また,重症膵炎
NSAIDs などの非麻薬性鎮痛薬を投与する.硬膜
では DIC を併発することが多く,その治療として
51
胆
・
膵
2
急性膵炎の病態と治療
図 1 急性膵炎の基本的治療方針
もこれらの投与が行われる.メシル酸ガベキセー
の抗菌薬投与は MRSA などの耐性菌や真菌への
ト600mg!
日の持続点滴静注,メシル酸ナファモス
菌交代現象を助長することも明らかとなってお
タット20mg∼100mg!
日の持続点滴静注や,ウリ
り7)8),漫然と抗菌薬を投与するべきではない.投
ナスタチン5万単位×3回!
日点滴静注などが行わ
与期間は 5 日間程度とし,その後は感染徴候がな
れる.また,DIC を合併している場合は,メシル
ければ中止する.
酸 ガ ベ キ セ ー ト2,400mg!
日またはメシル酸ナ
⑥胃酸分泌抑制
ファモスタット240mg!
日に増量する.
胃液の十二指腸流入による膵刺激を回避する目
⑤予防的抗菌薬投与
的で,H2ブロッカーが投与されるが,軽症例では
重症例では,膵や膵周囲の壊死巣に腸内細菌の
必要ないとされている.ただし,軽症例であって
BT から発症後期に感染が併発することがあり,
も急性胃粘膜病変による上部消化管出血例や疑診
感染性膵壊死となれば治療に難渋する.重症例の
例には投与する.軽症例では経鼻胃管に留置は必
最大の死因が感染合併による敗血症ないし多臓器
要ないとされているが9)10),重症例では麻痺性イ
障害であり,感染を防止することが重要である.
レウスが合併することが多く,経鼻胃管による胃
そのため重症例では,予防的抗菌薬投与が行われ
の減圧も必要になることが多い.
る.抗菌薬としては膵への移行性が良く抗菌スペ
⑦経腸栄養
クトラムの広いカルバペネム薬が選択されること
重症膵炎では,全身の炎症反応のために必要エ
が多い.ただし,最近の予防的抗菌薬投与の RCT
ネルギーが正常時の1.2∼1.5倍に増加しており,栄
による解析では,予防的抗菌薬投与は感染防止に
養補給が重要である11).栄養補給の経路として
無効であるとの結果が報告されている4)∼6).長期
は,中心静脈経路と経腸栄養が選択可能であるが,
52
2010年(平成22年)度後期日本消化器外科学会教育集会
重症例における早期からの経腸栄養の併用は感染
を導入する.CHDF には,炎症性メディエーター
性合併症の発生率を低下させるので12)13),可能な
の血中からの除去効果が期待されることから18),
限り早期から,空腸内に留置した栄養カテーテル
臓器障害が進行する症例には腎補助目的以外に
から経腸栄養を開始する.高度の壊死や穿孔など
も,オプションとして施行されることがある.ま
の腸管合併症がないことを確認し,発症早期の腸
た,成因や病態によっては血漿交換も選択される.
管麻痺から腸管蠕動が回復した後に施行すること
3)感染性合併症に対する治療
になる.また,施行に当たって,開始時から必要
急性膵炎の感染性合併症は,壊死膵および膵周
カロリーをすべて経腸投与する必要はなく,腸管
囲壊死組織に感染が合併した感染性膵壊死と,膵
の状態に応じて投与カロリーを調整する.
および膵に隣接した限局性の膿貯留である膵膿瘍
⑧特殊治療
に分類される.臨床的に感染が顕在化するのは,
膵局所動注療法
発症 2 週間以降であることが多く,一旦炎症所見
発症から早期には膵虚血域にも血流が残存する
が軽快しても,再度炎症所見が出現した場合には
感染を疑って,画像診断を行う.
ことから,膵潅流不良域の支配動脈から蛋白分解
酵素阻害薬と抗菌薬を集中的に投与して,壊死へ
①感染の診断
の進展阻止と感染防止を期待して行うわが国で開
CT 上の膵壊死部や膵周囲における気泡の存在
14)
15)
.適応は,重症例で造
は,腸管穿孔またはガス産生菌による感染を意味
影 CT において造影不良域の存在する症例であ
している.いずれにせよ感染と判定してよい.そ
り,壊死が完成する前の発症後48時間以内に開始
れ以外で感染が疑わしい場合には,US または CT
発された治療法である
16)
することが望ましいとされる .実際には,大腿
ガイド下に細径針による組織吸引(Fine needle
動脈からカテーテルを胃十二指腸動脈や脾動脈に
aspiration:FNA)を行って,細菌培養により感染
留置し,蛋白分解酵素阻害薬を持続投与し,抗菌
を確認する.
薬を間歇投与する.壊死完成後には効果は期待で
②感染性合併症の治療
きず,持続期間は 5 日間程度が妥当と考えられる.
原則的には,感染性膵壊死は壊死部分を外科的
保険適応ではないので,十分な説明と同意のもと
に切除する壊死部切除術が必要である.壊死部切
に施行する.ただし,わが国では壊死性膵炎に対
除術後には,十分な局所ドレナージを行うことが
して既に広く普及しており,造影 CT における造
重要で,術後は創を閉鎖して閉鎖式ドレナージと
影不領域を認めた場合には,その適応に関して家
し,持続洗浄を行う.膵膿瘍は,一般的に経皮的
族に十分に説明をしておくべきであろう.
ドレナージや内視鏡的ドレナージで対処可能であ
選択的消化管除菌
るが,臨床症状が改善しない場合には,ただちに
重症例において腸内病源菌を腸管内から減少さ
外科的ドレナージを行うべきである19).ただし,
せ,BT による感染を防止する目的で,非吸収性抗
最近では,壊死性膵炎であっても周囲と境界が明
17)
菌薬を腸管内に投与する治療法である .長期間
瞭であるような場合は,エコーや CT ガイド下の
行うと,腸内での菌交代現象を助長する結果とな
ドレナージのみで治療可能である例なども報告さ
るので,5日間程度とすべきである.同時に抗真菌
れており20),感染例であっても最初から開腹手術
薬や,腸管粘膜保護目的でグルタミンなどが投与
を行わない傾向にある.
4)胆石性膵炎に対する治療方針(図2)
されることもある.
胆石性重症急性膵炎で胆管炎,胆道通過障害が
血液浄化療法
重症例に対して,上記のようなモニタリング下
存在すると判断された症例は,ただちに内視鏡的
に大量輸液を行っても,十分な尿量が確保されな
逆 行 性 胆 管 造 影(ERC:Endoscopic retrograde
い場合は,躊躇せず持続的血液濾過透析(CHDF)
cholangiography)と内視鏡的乳頭切開術(ES:en-
53
胆
・
膵
2
急性膵炎の病態と治療
図 2 胆石性急性膵炎の治療方針
doscopic sphincterotomy)を行う.総胆管内に結
おわりに
石が認められれば結石除去を行い,結石が認めら
急性膵炎は通常の日常生活を送っていた患者が
れなくとも胆道ドレナージ目的で ES を付加す
突然の腹痛で発症し,本人と家族に病状の理解を
る.胆道ドレナージとして ES のかわりに内視鏡
得ることが難しい場合が多い.たとえ発症時に軽
的経鼻胆管ドレナージ(ENBD:endoscopic nasal
症であっても,経過の中で一旦,重症と判定され
biliary drainage)を行うこともある.それ以外の
れば生命の危険がある重篤な疾患であり,繰り返
場合は,急性膵炎の基本的初期治療を行って膵炎
して重症度判定を行う必要性を説明することが重
が回復した後,待機的に ERC!
ES による胆道検索
要である.搬送に関する判断も,説明の上で同意
と総胆管結石除去を行う.
をとり,それを診療録に記録することが必須であ
胆石性急性膵炎では,胆嚢を放置した場合には
る.特殊療法の施行にあたっては,適応と合併症
再発率が高く,原則として胆嚢摘出術を行うべき
を十分に説明する.特に,膵局所動注療法は有効
である.そして,胆嚢摘出術や総胆管遺残結石の
性が証明されてはいないことを告げたうえで,適
処置などの外科的治療は,できれば同一期間入院
応に関する方針を十分に説明して,施行,非施行
21)
内に行うことが望ましく ,胆嚢摘出は腹腔鏡下
に関する同意を得ておく必要がある.
22)
23)
で行うことも可能である
.
急性膵炎は,一旦重症化すると,人的,物的医
療資源の大量投入が必要となる難治性の疾患であ
る.急性膵炎治療の原則は重症化の防止であり,
54
2010年(平成22年)度後期日本消化器外科学会教育集会
早期に診断して十分な補液と全身モニタリングな
creatology 7:531―8, 2007.
どの初期治療を速やかに開始することにより,膵
7)Garg PK, et al. Incidence, spectrum and anti-
炎を重症化させないことが最も重要であることを
biotic sensitivity pattern of bacterial infec-
強調したい.そして,急性膵炎発症早期の刻一刻
tions among patients with acute pancreatitis.
と変化する病態を的確に把握し,重症化を見逃さ
J Gastroenterol Hepatol 16:1055―9, 2001.
ないことも重要であり,重症例は高次医療機関に
8)Grewe M, et al. Fungal infection in acute ne-
おいて,必要な特殊治療を躊躇なく行うことが重
crotizing pancreatitis. J Am Coll Surg 188-
症膵炎治療成績向上のために必須である.
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胆
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