掌胆局所多汗症のイオソトフォレーシス療法(水道水法)の 治療効果の定

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日皮会誌:102
(5),
583-586,
1992
(平4)
掌胆局所多汗症のイオソトフォレーシス療法(水道水法)の
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治療効果の定量的評価
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横関
博雄
大城由香子
片山
一朗
西岡
清
木下 正子*
西山
茂夫**
要 旨
実験材料と方法
今回,イオソトフォレーシス療法(水道水法/週1回)
1.対象
の臨床効果を評価するため大橋らの開発した局所発汗
掌胆の局所多汗症の患者10症例(男4例,女6例,
量連続記録装置1)2)を用いてその治療効果を判定した.
16歳∼50歳)につき正常人(男6例,女4例,23歳∼36
外用,内服療法で改善が認められなかった難治性の掌
歳)を対象として検討した.掌獣限局性多汗症10例は
聴限局性多汗症10例に対する治療効果を検討した.施
掌胆の多汗を主訴として平成2年9月から平成3年2
行後4週から16週目まで2週ごとに局所発汗量連続記
月までに北里大学,河北総合病院,東京医科歯科大学
録装置を用いて対側手握り刺激を発汗誘発刺激とし,
を受診した患者で外用療法,内服療法に抵抗性を示し
第1指屈面の発汗量を定量した.療法開始4週より発
た症例である.また,3例肢高の多汗,1例では掌駄
汗量を定量した.療法開始6週ごろより発汗量の減少
角化症も認められた.全例,全身状態は良好で,一般
を認め,12週後には治療前の発汗量の3分の1程度に
理学所見,一般臨床所見は異常を認めなかった.1例
まで改善した.以上より,イオソトフォレーシス療法
のみ甲状腺ホルモンの上昇を認めたが多汗症以外の臨
(水道水法)が治療抵抗性の掌随局所多汗症に有効な手
床症状は認められなかった(表1).
段であることが,局所発汗量測定装置により証明され
2.発汗量測定方法
た.
治療前に各種の刺激を加え右第一指の発汗量を局所
発汗量連続記録装置(Kenz・PerspiroR)
はじめに
(スズケソ
(株),東京)1)2)を用いて測定した.本装置は,皮膚に直
掌随限局性多汗症の治療法として現在まで報告され
接装着するカプセル内(容積200mm3)の湿度変化を,
確立されている治療法は,大きく4つに分けることが
中に設置されている静電容量式温度センサーが直接測
できる.塩化アルミニウムなどの外用療法,トランキ
定されるように設定されているものである.測定条件
ライザーなどの内服療法,汗腺そのものを除去する外
は温度24∼26℃,湿度55∼65%の一定の条件下でベッ
科療法,そしてイオソトフォレーシス療法である3).イ
ト上で測定した.発汗刺激因子としては,1)深呼吸ダ
オソトフォレーシス療法は1968年にLevitらが報告し
2)反対側の手を数回強く握る,3)簡単な暗算をして
て以来4)欧米では多汗症に対する一般的な治療法とさ
もらう.の3種類の刺激を発汗刺激因子とした6).基線
れているが,本邦ではまだ報告が少なくその効果さえ
安定時間はカプセル装着後,基線が安定するのに必要
疑問視されている5).今回,局所連続発汗量装置を用い
な時間で3sec/mmとして算出した.発汗量は発汗時の
て局所多汗症に対するイオソトフォレーシス療法(水
基線の最高波高より0.015ml/min/mmとして算出し
道水法)の臨床効果を検討した.
た5).
3.イオントフオレーシス治療法
東京医科歯科大学医学部皮膚科学教室(主任 西岡
患者の右手,右足を水道水で浸した金属トレイの中
清教授)
に入れ右手側を陽極に右足側を陰極にして6∼9mAの
゛河北総合病院皮膚科
電流で通電を20分間行う.この通電を週に1回毎週繰
¨北里大学医学部皮膚科学教室(主任 西山茂夫教授)
り返し施行する.この際水道水に浸した右手,右足間
平成4年1月28日受付,平成4年3月6日掲載決定
別刷請求先:(〒113)東京都文京区湯島1丁目5番45
で電流を流すが,左手,左足はコントロールとして通
号 東京医科歯科大学医学部皮膚科学教室 横関
電をせず左右差を比較する.通電は歯科用イオソト
博雄
フォレーシス(ビックサービス社)を使用した.
584
横関 博雄ほか
表1 Clinical features in 10 patients with hyperhi-
○ : Hyperhidtosis
drosis
普
Duration
of
Hyperhidrosis
(years)
50, F
4
22, M
25
15
5
6
19, F
39, F
7
8
11
35
晋
一
一
舟
10
一
升
20, M
10
晋
一
一
升
26, M
33
20
9 18, F
10 21, M
10
15
一
升
十H-
32, F
+
舟
十
升
升
升
十
升
升
併
十
升
併
一
一
+
−
一
一
一
100
一
一
一
aiGj ledMQ
一
昔
昔
+
/lUI 1
16, F
2
3
Axilla Palm
Keratosis
palmaris
et
Soles
plantaris
一UIUI
1
Sites
I"S)
Case
●:Control
Tト4ト上 T・に‘
結 果
正常人,掌誼局所多汗症における基線安定時間およ
び各種発汗刺激による誘発発汗量
図1に示すように掌駄局所多汗症では基線安定時
0
間,各種刺激による誘発発汗量が正常人と比較してい
0
De叩
陥nd Mmtal
Base
breathing
g'ip arithmetic
stable
line
time
ずれも高値を示し基線安定時間は118.5±19.0(p<
0.005),深呼吸による誘発発汗量は0.42±0.15ml/min
(p<0.01),暗算による誘発発汗は1.43±0.6(p<
図1 正常,発汗症における各種発汗刺激による局所
発汗量と基線安定時間(平均値士標準誤差)
0.05)であった.刺激による誘発発汗において掌吐局
所多汗症と正常人との間でもっとも信頼性のある差
(p<0.005)が認められたためイオソトフォレーシ不
表2 Overall
治療による効果判定は握り刺激による誘発発汗量とし
た.
sweat Moderately
Weakly
reduced reduced
reduced
of
of
hyperhidrosis
hyperhidrosis
normal
Sites to
臨床効果
このイオソトフォレーシス療法による臨床効果を14
回目の治療前に患者の訴えと受診時の発汗の程度で,
evaluation of treatment efficacyafter
14 times of treatment
No
response
Palms
3
4
2
1
Soles
2
2
3
3
〔正常程度に改善:明らかに左右差が認められる;左
右差はあるが軽度;効果なし〕の4段階に分類したと
減少しているのが認められた.季節的な発汗量の変動
ころ表2のごとく手掌では70%,足底では40%明らか
を見るためにイオントフォーレーシスを開始しはじめ
な左右差が認められるほど右側のみ発汗量が低下して
た平成2年9月と終了した平成3年4月に正常人10人
いた.
握り刺激による誘発発汗量を測定したが有意差は認め
イオントフォレーシス治療による発汗量の変化
なかった.最後にイオソトフォレーシス療法での副作
無効であった1例を除き9例の多汗症のイオソト
用に関してであるがピリピリ感などの不快感,小水庖
フォレーシス治療法による発汗量の変化を経時的に
などがあるが治療を中止しなければならないような重
Kenz-perspiro⑨を用いて測定した.発汗量測定は毎回
篤な副作用は認めなかった.
のイオソトフォレーシス施行前のデータである.発汗
考 按
誘発刺激は握り刺激で施行した.イオソトフォレレー
多汗症は,1)全身性多汗症,2)局所多汗症にわけ
シス6回施行後より右手のみ発汗量が減少し始め12回
られ仝身性多汗症は甲状腺機能完進√感染症,糖尿病,
施行後では施行前の発汗量の3分の1の発汗量にまで
褐色細胞腫などで見られ,また局所多汗症は掌欽に見
585
イオソトフォレーシスによる局所多汗症の治療
●:Lelt
h即d
○:Right
hand
■:Control
1上 T東上
一
一
一
一
ヤ
Sll一一
0、6
\
\
\
\
\
\
\
1
χ
\
\
駅上
( UIU/一E︶
0.8
04
0、2
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16
Numtiet ol treatment
図2 イオソトフォレーシス療法による発汗量の変化(毎回イオソトフォレーシス施
行前に測定)(平均値士標準誤差)
られることが多くその病因に関しては未だ不明なとこ
いる.今回,
ろが多い6)7)局所多汗症の治療は皮膚科領域では,1)
発汗量連続記録装置を用いて,水道水イオソトフォ
20%塩化アルミニウム液を外用するなどの外用療法,
レーシス療法が局所多汗症に有効であることの確認を
2)メージャートラソキライザー,抗コリソ剤などの内
試みた.方法は予備実験として現在までに報告された
服療法,3)外科療法7)8)
15∼20mAの通電を手掌,足底間で試みたが疼痛が認
4)イオソトフォレーシス療
1985年大橋,東らにより開発された局所
法と大きく4つに分けることができる3).イオソト
められたため6∼9mAの通電を20分間,週1回施行し
フォレーシス療法は欧米では一般的な治療法として認
た,結果として施行後6週間後より効果が表われ始め
められている3)‘)が本邦では未だその効果が疑問視さ
12週目では施行前の3分の1にまで減少していた.こ
れている5).イオソトフォレーシス法は1936年に
のことは現在まで報告されているような高電流の通電
Ichibashiらによりアトロピン,ヒスタミソ,フォルム
でなくとも10mAまでの通電で十分効果が期待できる
アルデヒドなど種々の薬剤を用いてイオソトフォレー
ことを示唆している.またこの局所発汗量連続記録装
シスすることにより手掌の発汗を抑制しうることが報
置は主観的評価に頼りがちな多汗症の治療による効果
告されたが9)その後水道水のイオソトフォレーシス療
を客観的に評価出来た点で非常に有用であると考えら
法で十分効果かあることが報告され3)‘)水道水イオソ
れた.
トフォレーシス療法が簡便な治療法として注目されて
文
献
1)酒田正雄,大橋俊夫,東 健彦:静電容量式湿度セ
5)嶋 多門:エックリン汗腺.山村雄一,久木田淳,
ソサを用いた局所発汗量連続紀録装置,電気通信
佐野栄春,清寺 真編:現代皮膚科学体系,
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: 511-512,
1985.
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指標の開発,体力研究,
3)
Stolman
of
123
4)
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devece
treatment of
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Role
Med
8)
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Rosengarten
of sympathectomy
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Cloward
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7) Greenhalgh
for
15,
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6)神野公孝,古池高志,小川秀呉:新しく開発された
1987
by iontophoresis, ArchDermatol,
Levit F : Simple
98
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RB
DS,
Martin
P:
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586
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T : Effect
of drugs
glands by cataphoresis,
on
the
sweat
on the effectof diaphoretics and adiaphoretics,
J Orient Med,25
: 101-102,
and an effective method
The Clinical Evaluation of the Treatment
Hyperhidrosis by Tap
Hiroo
Yokozeki,
Yukako
Mashako
Department
of Palmoplantar
Water Iontophoresis
Oshiro, Ichiro Katayama,
Kinoshita*
and Shigeru
Kiyoshi
**Department
of Dermatology, Kawakita General Hospital
of Dermatology, Kitasato University School 0f Medicine
(Received January 28; accepted for publication March
order to evaluate
measured
revealed
the clinical effect of the of tap water
the perspiration
iontophoresis
using
recently
from
developed
volume
can be a suitable therapy
(Jpn J Dermatol
Key
volume
10 cases with
equipment
reduced
to manage
for continuous
was
recording
first observed
palmoplantar
iontophoresis,
perspiration
volume
6,1992)
in palmoplantar
hyperhidrosis
to one third of that before treatment.
the patients with
102: 583∼586,1992)
words: hyperhidrosis,
iontophoresis
palmoplantar
that the clinical effect of tap water iontophoresis
application, perspiration
Nishioka,
Nishiyama**
of Dermatology, Tokyo Medical and Dental University School of Medicine
*Department
In
1936.
before and
hyperhidrosis,
of local perspiration.
after 6th application
These
hyperhidrosis。
we
after the tap water
and
The
result
after 12th
results indicate iontophoresis