国際投資仲裁 概略および課題 GBL(Global Business Law)研究会 於: 同志社大学 (2013.1.26) (2013年3-4月一部修正) 同志社大学法科大学院 高橋宏司 (Koji Takahashi) 追記 本報告の内容は、「投資紛争仲裁の概略」Business Law Journal (2013年6月号) 110-116頁および「投資紛争仲裁の課題」 Business Law Journal (2013年7月号) 112-117頁として公表した。 歴史の流れ 植民地支配 独立後の資源ナショナリズム 国有化・収用 自由主義経済思想の支配 宗主国企業による資源の搾取 経済の牽引力としての外資導入促進策 環境、生命、健康、人権の保護目的の規制と の衝突 (一部の国での)資源ナショナリズムの再興 国際仲裁以外の紛争解決方法 砲艦外交(gunboat diplomacy) 外交的保護(diplomatic protection) 受入国における裁判 独立性の欠如 中立性の欠如 法律自体の適用排除は不可 裁判拒否 仲裁合意の所在 投資契約 受入国の包括的な仲裁申込み 国内法 投資条約 BIT 多国間条約(の中の投資章) e.g. NAFTA, CAFTA, ASEAN, ECT 選択されうる仲裁の種類 機関仲裁 ICSID (International Centre for Settlement of Investment Disputes) Convention on the Settlement of Investment Disputes between States and Nationals of Other States ICC (International Chamber of Commerce) SCC (Stockholm Chamber of Commerce)など。 (UNCITRAL Arbitration Rulesなどによ る)アド・ホック仲裁 カフェテリア形式も。 「投資財産(investment)」の定義 投資条約上の定義 直接投資 証券投資、契約、免許、知的財産権など ICSID条約上の解釈 受入国の経済発展への貢献 Salini v. Morocco (16 July 2001) 濫訴の懸念の当否 「投資家(investor)」 国籍の決定基準 投資条約上の基準 設立だけでなく、本拠の所在を要求するか。 条約漁り 受入国の法人・自然人によるもの 第三国の法人・自然人によるもの Saluka Investments v. Czech Republic (17 March 2006) オランダ‘BV’ (besloten venootschap: 有限責任会社) 政府系ファンドの投資家適格 近年、ファンドの規模が著しく拡大。 西欧諸国とは異なる価値観の国のファンドが多い。 請求の根拠 契約違反 投資契約とその準拠法 安定化条項(stabilization clause)の効果 条約違反 収用の場合の迅速、十分、かつ実効的な補償 公正衡平待遇(Fair and equitable treatment) 完全な保護と保障(full protection and security) 内国民待遇(national treatment) 最恵国待遇(most-favored-nation treatment) 仲裁廷の判断権限 仲裁合意の範囲 「本件投資に関する紛争」 「投資条約違反に関する紛争」 アンブレラ条項(締約国がその「義務」を遵守する ことを約した投資条約上の条項) 投資条約上の特定の紛争 補償金額 e.g. 収用に対する 選択(fork-in-the-road)条項の解釈 投資契約中の裁判管轄合意との競合 仲裁判断の取消の可否、要件 ICSID以外の仲裁 各国の仲裁法による。 仲裁地裁判所による取消しの可能性 ICSID仲裁 自己完結的手続 特別委員会(ad hoc committee)による取消 し 取消事由は、仲裁廷の明白な権限逸脱など 準拠法の選択の誤り cf. 準拠法の適用の誤り 仲裁判断の執行 執行拒否事由 ICSID仲裁 執行免除のみ ICSID仲裁以外の仲裁 New York条約 仲裁地で取り消された仲裁判断の執行可能性 仲裁判断不遵守の例と対抗措置 アルゼンチン、ロシア 外交的保護 IMF融資に対する反対(アメリカ) ハゲタカ・ファンドへの仲裁判断の譲渡 国際投資仲裁の政治問題化 南米諸国のICSID離脱 米韓FTAの批准を巡る韓国における紛糾 オーストラリア政府による仲裁条項の拒 否方針(2011) Productivity Commission Report (2010) 投資促進効果に対する疑問 外国投資保険による代替保護 Philip Morris v. Australia (2012年申立て) TPP交渉における仲裁(ISDS)条項 課題 仲裁廷の判断権限の広さ 「投資」概念の広さ 最恵国待遇条項の拡張的適用 仲裁廷の裁量権の広さ 交渉や受入国裁判手続の前置条項を回避するため 公正衡平待遇の概念の曖昧さ 間接収用(indirect expropriation)と補償を要しない規制 の間の線引きの困難 仲裁判断の不統一 実体判断の基準の不統一 先例拘束性の欠如 e.g. 金融危機時にとられたアルゼンチンの措置に対する緊急避 難理論(doctrine of necessity)の適用の可否 課題(2) 係争額および費用の大きさ 濫用的申立てのおそれ e.g. $1.8 billion in Occidental Petroleum v. Ecuador (5 October 2012) 実際には、認容額は、billion単位ではなく、せいぜいmillion単 位であることが多い。 認容額の大部分は、実際に収用された額の補償にすぎない。 欧米法律事務所のビジネス機会の追求 途上国政府の不十分な防御能力 第三者による費用の援助 受入国の政策決定権侵害と萎縮効果(regulatory chill) 金銭的解決のみ cf. 処分の取消し、原状回復 敗けるが勝ち(長期の安定的な投資を呼び込む効果) 2004 US Model BITなど近年の投資条約の文言の変化 課題(3) 仲裁人の中立性への疑念 先進国投資家に有利な判断が多いとの指摘。 実際には、受入国勝訴の事例も多いとの調査も。 透明性の欠如 cf. 私人間の商事紛争 書誌情報の公開 (ICSID) 仲裁判断の公開 利害関係者(法廷の友: amicus curiae)の意見書 の受入れ (ICSID) 審理の公開 e.g. webcast 課題(4) 内外投資家間の不平等 外資導入のために受入国が自主的に譲歩。 民主制の過程には外国投資家は参加できない。 政策の恩恵は、内国民が享受。 ガバナンス向上の間接的恩恵は内国民も受ける。 不平等な二国間投資条約と離脱の困難 締結の際の状況 有効期間: 10-15年プラス自動更新 有効期間中の投資に対する継続適用 例 20年 様々な法分野の交錯 国際公法 投資条約の起草と解釈 国際取引法 投資契約の起草と解釈 国際私法 準拠法の決定 仲裁法 仲裁手続の分析 行政法 多くの場合、行政府の行為が 審理の対象
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