11 November 2015 ポリオとポリオワクチン ▶ポリオの流行とワクチン開発∼IPVとOPV ポリオは19∼20世紀にかけて、 ヨーロッパや米国等世界各地で 流行しました。米国では1843年に初めてアウトブレイクが報告さ れ、1952年には2万1千人以上のポリオ患者の発生が報告されて います。ポリオの主な症状は四肢の弛緩性麻痺ですが、呼吸筋に も麻痺が現れ、自力での呼吸が困難となり死に至ることもありま す(右写真: 「鉄の肺」 と呼ばれる人工呼吸器に入っている患者)。 ポリオがもたらす恐怖は世界的にも非常に大きいものでした。 鉄の肺(iron lung) タンク内を陰 圧 にし たり平圧にしたりして 呼吸を助ける。 CDC: Public Health Matters Blog, Stepping Up to Take Down Polio より こうしたポリオの脅威に対抗するため、 ワクチンの研究が積極的に行われ、1950年代前半には米国でジョナス・ソーク博士によっ て不活化ポリオワクチン(ソークIPV)が、 また、同時期にセービン博士により経口生ポリオワクチン(OPV[セービン株])が開発さ れました。 この2種類のワクチンは、現在まで世界中で使用されており、いずれも確固たる使用実績を有する優れたワクチンとして 評価されています。 ▶日本のポリオ流行∼OPVの功績 国内のポリオ患者数の推移(1947年∼1994年) 人 6000 C OPV緊急輸入 he ck! OPV(セービン株)は 日本のポリオ根絶に 大きく貢献した。 4000 患者数 この2種類のポリオワクチンのうち、日本の流行 抑制に大きな役割を果たしたのはセービン博 士が開発したOPV(セービン株) でした。 日本では1960年に北海道を中心とした大規模 な流行があり、患者数は5,606人にも達しまし た。そのころはすでにソークIPVが日本でも製造 され始めていましたが、不活化ワクチンでは大 流行の抑制は難しいと判断され、当時まだ未認 可であったOPVがカナダおよび旧ソ連から緊急 輸入されました。OPVは1,300万人の小児に一 斉投与され、流行抑制に絶大な効果を発揮し、 患者数は激減しました。1981年を最後に野生 株によるポリオの流行はみられていません。 2000 0 ポリオワクチン 定期接種開始 1960 1950 野生株による 最後の患者発生 1970 1980 1990 年 出典 : CDC : Poliomyelitis,CDC : Global Health - Polio - Why CDC Is Involved, 阪大微研HP 第1回ワクチンの匠, 国立感染症研究所 予防接種の話, ポリオワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版) ▶ワクチンの変遷∼OPVからIPVへ 日本のポリオ根絶に大きく貢献したOPVですが、少数ながらワクチン関連麻痺(VAPP)の発生が問題となり、OPVからIPVへの切 り替えが望まれるようになりました。VAPP患者発生のリスクをなくすため、2012年に国内の定期接種はOPVからIPVへと切り替え られました。現在日本で使用されているIPVには「ソークIPV」 と 「セービンIPV」の2種類があります。 ソークIPVとセービンIPVの違い ▶2つのIPV∼ソークIPVとセービンIPV 出典 : ポリオワクチンに関するファクトシート (平成22年7月7日版) , Global Polio Eradication Initiative Strategic Plan 2004‒2008 野生の ポリオウイルス 不活化 養 細胞培 不活化された ワクチンウイルス 製剤化 ソーク IPV 強毒株 弱毒化 不活化 製剤化 セービン株(弱毒株) C 「ソークIPV」は、強毒株を不活化したワクチンで海 外で長年の使用実績があります。 一方、 「セービンIPV」は、世界に先駆けて日本で開 発されたワクチンで、野生株を弱毒化したポリオウ イルス(セービン株)を不活化したものです。 世界的にポリオウイルスの排除が進んでいること から、WHOは製造におけるバイオセーフティーレ ベルが低い「セービンIPV」を推奨しています。日本 が世界に先駆けて弱毒株由来の「セービンIPV」を 開発したことは、ポリオ根絶において将来的に大き な意味を持つかもしれません。 製剤化 OPV ck! he セービン IPV どちらもポリオウイルス (強毒株)に対する有効 性が確認されています。 企画編集:一般財団法人 阪大微生物病研究会(http://www.biken.or.jp) 発行:一般財団法人 阪大微生物病研究会/田辺三菱製薬株式会社 ▲上記本文中の内容に関するお問い合わせは、お受けしておりません 5BI-428A-
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