「コンクリート診断士試験完全攻略問題集2015年版」 実力確認テスト 記述式問題-建築- 解答例 図に示されるひび割れ発生状況から,竣工後約 2 年で生じた変状の原因として,コンクリートの乾 燥収縮が挙げられる。一般に,コンクリートの乾燥収縮は打込み後約 2 年で収束するとされているた め,調査によって原因が乾燥収縮であると判断されたのであれば,エポキシ樹脂を注入したことは妥 当である。 しかし,補修した箇所に新たにひび割れが生じた場合,その原因として以下の 3 点が挙げられる。 ①変状の原因に乾燥収縮以外の要因も含まれていたこと。②竣工後約 2 年で乾燥収縮が収束していな かったこと。③補修したときの材料が収縮したこと。そこで,以下の手順で新たな調査を実施し,補 修の方針を決定する。 <書類の確認> 2 年前に行われた補修の際の調査結果および補修記録を確認する。その際に竣工時 の施工記録が確認されていると思われるが,不足していればそれを補う。建物のおかれている環境が 日本海側の寒冷地域で,補修時期が 11 月であること,さらに補修期間が約 2 週間と短期であったこ とから,補修の施工手順を重点的に確認する。 <現状の把握> 現地に赴いて外観調査を行う。このとき,ひび割れや浮きの存在とともに外壁の塗 装の状況を確認し,剥離やふくれの存在を確認する。塗装にも変状が確認されれば,補修時の乾燥が 不足していた可能性が高くなる。また,方位による特徴の存在も確認する。 <コンクリートの状況の観察と補修の方針> ひび割れが発生している箇所の外壁塗装を除去し,コ ンクリートの状況を確認する。コンクリートのひび割れが進展していなければ,変状の原因は補修材 の収縮作用によるものであると判断することができる。この場合は,ポリマーセメントモルタルによ る薄塗りを再度行って,十分乾燥させた後に塗装を施せばよい。 つぎに,コンクリートのひび割れが確認されれば,その原因には乾燥収縮以外の要因による場合と, 乾燥収縮が進展したことによる場合がある。経過年数を考慮すると,アルカリシリカ反応や中性化は 除外されるため,要因には不同沈下や塩害が考えられる。不同沈下の場合は,構造的な補強を計画し, 塩害の場合はコンクリートコアを採取して内在塩分を確認してから補修の方針を立案する。乾燥収縮 が進展したと判断される場合は,竣工から約 4 年経過しているため,再度エポキシ樹脂を低圧注入し て弾性系の塗料で外壁を仕上げるとよい。なお,今後も継続的にひび割れ幅の進展状況を確認するこ とが必要である。 以 上 【解答のポイント】 竣工後約 2 年に生じた変状は,ひび割れ図によるとコンクリートの乾燥収縮が原因であるものと推 察される。一般に,乾燥収縮約2年で収束するものとされているため,変状の原因が乾燥収縮である と断定されたのであれば,エポキシ樹脂を低圧注入する工法は妥当である。 しかし,その 2 年後に補修した箇所にひび割れが生じた原因には,以下の 3 点が挙げられる。 ①乾燥収縮以外の要因も含まれていたこと。 ②竣工後約2年で乾燥収縮が収束していなかったこと。 ③補修したときのポリマーセメントモルタルが収縮したこと。 そこで,竣工後約 2 年に補修した際の記録や補修工法を選定した過程を確認するとともに,上記 3 1 点について調査し,その結果に応じてそれぞれ補修の方針を立案することが必要である。 なお,補修工事は,工期や施工時期,施工時間に制約を受けることが多く,不適切な補修工事によ って新たな変状が発生する場合がある。本設問の場合,補修時期が 11 月で,期間が約 2 週間であっ たこと,さらに日本海側の寒冷地域であることを考えると,補修の環境や工程に無理があったことも 推察される。 2
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