壮年期がん患者の 子どもへのケア

社会や家庭において重要な役割を担う 壮年期がん患者・家族の看護
壮年期がん患者の
子どもへのケア
(親ががんになった子どものケア)
■子どもを支えるためには,まず親を支援
することが重要。
■子どもの発 達に合わせた特徴を理解
し,子どものSOSに気づく。
■子どもの発達に合わせた支援方法を知
り,実践する。
総合病院 聖隷三方原病院 看護部
がん看護専門看護師 佐久間由美
1993年聖隷三方原病院に就職。呼吸器外科,消
化器外科病棟,ホスピスで勤務した後,2009年
にがん看護専門看護師の資格を取得。2012年から
は緩和ケアチーム専従看護師として勤務している。
役割遂行のために,精神的,肉体的負担が増
強し,従来できていたことまでできなくなる
など,自分自身の位置づけが危うくなるとい
う体験をするのです。
■家族の状況を理解する
家族の危機とは,「家族の基盤が継続でき
ず,家族内の習慣的役割や仕事が実行され
親ががんになるということ
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ず,家族の相互理解や思いやり,コミュニ
ケーションやリーダーシップ機能が低下し,
親ががんになった子どもへの支援の必要性
家族メンバーが適切な状態で機能できなくな
を理解するためには,まず親の状態,家族の
る状況」1)と言われています。がんに罹患す
状況を知らなくてはなりません。そして,親
ると,患者のみならず配偶者も病状を受け入
が落ち着けるようにすることを最優先に考え
れながら,さまざまな変化への対応が迫ら
る必要があります。
れ,親自身が今を乗り越えていくことに精
■親の状態を理解する
いっぱいで,余裕を失うことが考えられま
がん患者は,がんを告知されると,生命存
す。そのために,従来親が子どもに対し配慮,
続への不安や,今までの自分ではいられなく
維持してきた生活習慣やコミュニケーション
なるかもしれないという悲しみ,喪失感など
が難しくなり,家族が危機に陥りやすい状態
で苦悩すると言われています。それが親であ
となります。
る場合,強い緊張と不安の中で新たな治療と
■親が落ち着くための支援を最優先に考える
向き合い,自分のことで精いっぱいとなり,
がん患者の子どものケアを考える時,前述
家庭での自分の役割を担うことが困難になり
したようにまず親に落ち着いてもらうことを
ます。また,配偶者も,患者の病状に対する
最優先に考えます。患者には,①がんになっ
心配,不安,悲しみを抱えながら,従来の役
た苦しみや悲しみを受け入れられるように支
割もこなし,加えて今まで患者が担っていた
援する,②家族の中で自分にもできることが
役割を遂行することを求められるようになり
あると気づけるよう支援する,③家族から求
ます。
められる存在であることを感じられるよう支
これらのことから,配偶者は,新たな役割
援することに努めましょう。また,配偶者に
がうまくこなせないことへの焦りや,複数の
は①患者の病気に対する心配,不安,悲しみ
オンコロジーナース Vol.8 No.4
への思いを吐き出し,気持ちが整理できるよ
へと移行する 2) ことで,子どもは家族の中
う支援する,②役割を一緒に整理する,③支
で蚊帳の外の存在になりやすく,孤独感を募
援者を見つけ支援が受けられるようにする,
らせてしまいます。ですから,なるべく早い
④できていることを認められるようにするな
時期に子どもに真実を伝えることが重要で
どの支援を実施します。親が落ち着くこと
す。家族の中でがんについてオープンなコ
が,何より子どもの安心につながることを意
ミュニケーションを可能とし,子どもが家族
識しましょう。
と一緒に生活の変化,対応について相談でき
子どもの発達に合わせた
支援方法の理解
たり,自分ができることで親の治療に参加し
子どもは,大人のように自分の気持ちを論
一緒に支え合っている」という安心感を持て
理的に言葉にできない分,自分の感じた情報
るようにすることが重要です。
から思いをめぐらせます。また,子どもは積
アメリカのM. D. アンダーソンがんセン
み重ねた小さな経験の中から懸命に状況を理
ターでは,がんになった親を持つ子どもをあ
解し,対応しようとします。表に,エリクソ
らゆる方法でサポートするKNIT(ニット)と
ンらの発達段階を基に,子どもの発達段階別
名づけられたプログラムが実践され,その中
の特徴と反応(SOS)
,それに合わせた支援
で「病名を伝える」ことを推奨しています。
方法を示しました。
たりするなど,孤独にならず「闘病に向けて
「病気」というあいまいな表現は,風邪のよ
医療者である私たち自身が,子どもの受け
うにすぐ治るという理解や,病院に行けば治
止め方や理解は発達ごとに違うことを認識
るなど,独自の想像の中で,現実とはかけ離
し,そのうえで,親と一緒に子どもの反応を
れた理解をすることがあるからです。
確認しながら,支援方法を検討し実践する必
要があります。また,支援者や親を支える家
子どもに「がん」を伝える時の
注意点
族などにも,これらについて理解できるよう
子どもに対して親ががんであることを伝え
働きかけ,子どもの様子を一緒に見守れる環
る時には準備が必要です。子どもも親ががん
境づくりができるよう支援しましょう。
であることを伝えられればショックを受けま
子どもに真実を伝えることで
一緒に支え合う
す。周囲の大人が全員余裕のない状況で,子
前述したように,がんを患うと,親自身が
も,誰も子どもを支えられません。子どもの
さまざまな役割を遂行することが難しくなり
孤独感,不安はかえって増強し混乱するで
ます。加えて,治療過程が長期間となり,副
しょう。
作用を伴う,がんがさらに進行する可能性が
したがって,大人が落ち着いて子どものそ
あることなどから,親の様子や生活環境に変
ばにいられるかどうかを考えなくてはいけま
化が生じます。子どもたちは何が起こってい
せん。親に全く余裕がない状態のまま,焦っ
るのか必死に情報収集し理解しようとします
て子どもに伝えることを優先すると,子ども
が,家族の関心が子どもからがんになった親
が追い詰められてしまうことがあります。で
どもに親ががんであることを伝えたとして
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