相撲競技者における朝食摂取の有無が好中球機能に及ぼす影響

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Title
Author(s)
相撲競技者における朝食摂取の有無が好中球機能に及
ぼす影響
伊東, 良
Citation
Issue Date
URL
2015-03-24
http://hdl.handle.net/10129/5599
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Text version
author
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
医共様式1
学位請求論文の内容の要旨
論文提出者氏名
総合医療・健康科学領域
氏名 伊東 良
スポーツ健康科学教育研究分野
(論文題目)
相撲競技者における朝食摂取の有無が好中球機能に及ぼす影響
(内容の要旨)
【背景】
相 撲 競 技 は 、土 俵 と い う 比 較 的 狭 い 競 技 ス ペ ー ス で 取 り 組 み を 行 う 無 酸 素 性 運 動 の ス
ポーツであり、日々高強度、高頻度のトレーニングを実施している。また、プロの大相
撲 に お い て は 、朝 早 く 起 き て 朝 食 を 摂 ら ず に 稽 古 を 行 い 、稽 古 終 了 後 に 昼 食 を 朝 食 の 分
まで食べるという伝統的習慣があり、アマチュア相撲でもこれを踏襲することが多い。
し か し 、稽 古 前 に 食 事 を 摂 ら な い こ と が 稽 古 後 の 免 疫 機 能 に 関 連 し て い る か ど う か 調 べ
た 研 究 は み ら れ な い 。そ こ で 本 研 究 は 相 撲 競 技 者 に お け る 朝 食 摂 取 の 有 無 が 稽 古 後 の 好
中球機能の変化に及ぼす影響について調査した。
【方法】
A 大 学 の 男 子 相 撲 部 員 25 名 を 対 象 と し た 。 調 査 日 の 朝 食 摂 取 の 有 無 に よ り 、 朝 食 摂
取 群 、 非 朝 食 摂 取 群 の 2 群 に 分 類 し 解 析 を 実 施 し た 。 対 象 者 の 内 訳 は 朝 食 摂 取 群 10 名
( 平 均 年 齢 19.4 歳 )、 朝 食 非 摂 取 群 15 名 ( 平 均 年 齢 20.0 歳 ) で あ っ た 。
調 査 測 定 項 目 は 、身 体 組 成 値 、調 査 前 3 日 間 の 栄 養 摂 取 状 況( 自 記 式 栄 養 調 査 + イ ン
ス タ ン ト カ メ ラ 撮 影 )、血 液 生 化 学 検 査( 白 血 球 数 、好 中 球 数 、筋 逸 脱 酵 素( CK、AST、
ALT、 LDH) 血 糖 、 中 性 脂 肪 、 遊 離 脂 肪 酸 )、 免 疫 グ ロ ブ リ ン ( IgG) 及 び 補 体 ( C3)
で あ っ た 。 ま た 、 好 中 球 機 能 と し て 、 活 性 酸 素 ( ROS、 reactive oxygen species) 産 生
能 及 び 貪 食 能( PA、phagocytic activity)、血 清 オ プ ソ ニ ン 化 活 性( 発 光 剤 に ル シ ゲ ニ ン
とルミノールを使用)を測定した。
【結果】
筋 逸 脱 酵 素 は 、両 群 で 稽 古 後 に 有 意 な 上 昇 が 見 ら れ た が 、両 群 間 に 差 は み ら れ な か っ
た。したがって両群はほぼ同じ負荷の稽古をしたと考えられた。
血 糖 は 、 朝 食 摂 取 群 で 稽 古 後 に 有 意 な 低 下 が み ら れ た ( p<0.01) が 、 朝 食 非 摂 取 群 で
はみられなかった。
中 性 脂 肪 は 、 両 群 で 稽 古 後 に 有 意 な 低 下 が み ら れ た ( 朝 食 摂 取 群 : p<0.01、 朝 食 非 摂
取 群 : p<0.05) が 、 両 群 間 に 低 下 率 で 有 意 な 差 は み ら れ な か っ た 。
遊 離 脂 肪 酸 は 朝 食 摂 取 群 で 有 意 な 上 昇 が み ら れ た( p<0.01)が 、朝 食 非 摂 取 群 で は み
られなかった。
IgG、C3 は 、朝 食 非 摂 取 群 で 稽 古 後 に 有 意 な 増 加 が み ら れ た( IgG:p<0.01、C3:p<0.05)
が朝食摂取群ではみられなかった。
好 中 球 数 は 、 朝 食 摂 取 群 で 有 意 な 上 昇 が み ら れ た ( p<0.05) が 、 朝 食 非 摂 取 群 で は み
られなかった。
平 常 時 ROS 産 生 能 は 、 朝 食 摂 取 群 で は 上 昇 、 朝 食 非 摂 取 群 で は 低 下 の 変 動 パ タ ー ン
を 示 し た( p<0.05)。異 物 投 与 時 ROS 産 生 能 は 、両 群 で 稽 古 後 に 低 下 し た が 、摂 取 群 に
比 べ 非 摂 取 群 で 顕 著 な 傾 向 を 示 し た 。貪 食 能 は 非 摂 取 群 で 有 意 に 低 下 し た( p<0.01)が 、
摂取群で有意な変化はみられなかった。
血 清 オ プ ソ ニ ン 化 活 性 で は 、 ル ミ ノ ー ル ( Peak Height) は 朝 食 摂 取 群 で 有 意 に 上 昇
( p<0.01) し た が 、 朝 食 非 摂 取 群 で は 逆 に 有 意 に 低 下 ( p<0.01) し た 。
【考察】
本対象において、朝食摂取群では稽古後に、血糖値が有意に低下し、遊離脂肪酸は有
意に上昇したが、朝食非摂取群ではそのような傾向はみられなかった。したがって、朝
食非摂取群では糖質や脂質由来のエネルギー供給が不十分であったと考えられた。
また、朝食摂取群では稽古後に好中球数が増加するという通常の反応がみられたが、
朝 食 非 摂 取 群 で は み ら れ な か っ た 。こ れ は 、運 動 に よ る 炎 症 反 応 に 対 し て 好 中 球 の 動 員
が抑制されていた可能性が考えられた。
好 中 球 機 能 で は 、 朝 食 摂 取 群 で は 稽 古 後 に ROS 産 生 お よ び オ プ ソ ニ ン 化 活 性 が 上 昇
し 、貪 食 能 が 低 下 す る 傾 向 を 示 し た 。一 方 、朝 食 非 摂 取 群 で は 稽 古 後 に 3 機 能 す べ て が
低 下 の 傾 向 を 示 し た 。こ の こ と か ら 、運 動 の 内 容 や 負 荷 強 度 は 両 群 で 同 程 度 で あ っ た に
も か か わ ら ず 、朝 食 を 食 べ な か っ た 選 手 で は 、糖 質 か ら の エ ネ ル ギ ー 供 給 が 十 分 で な く 、
運 動 負 荷 に 対 し て 好 中 球 機 能 が 適 正 に 反 応 で き ず 、運 動 負 荷 後 に 好 中 球 機 能 が 抑 制 さ れ
ていたと考えられた。加えて、脂質からのエネルギー供給も十分でなく、その供給スピ
ードも遅かったことが原因の一つと考えられた。
相 撲 選 手 は 連 日 の 稽 古 と 過 密 な 試 合 日 程 を 余 儀 な く さ れ る た め 、日 々 の 稽 古 に よ る 免
疫 機 能 の 保 持 は 体 調 管 理 の 点 で 重 要 で あ る 。そ の 点 か ら も 、相 撲 選 手 に よ る 朝 食 摂 取 の
重要性が示唆された。