日本の製造業の経営成果: 近年の動向とその要因の産業別分析*

DP2016-J03
日本の製造業の経営成果:
近年の動向とその要因の産業別分析*
松本
陽一
2016 年 5 月 19 日改訂
*この論文は神戸大学経済経営研究所のディスカッション・ペーパーの中の一つである。
本稿は未定稿のため、筆者の了解無しに引用することを差し控えられたい。
日本の製造業の経営成果:
近年の動向とその要因の産業別分析 1
松本陽一
2016 年 3 月作成
2016 年 5 月改訂
アブストラクト
本稿では、日本の製造業を代表するエレクトロニクスと自動車の分野について、近年の収
益性を観察し、それにどのような要素が影響しているのかについて探索的な分析を行った。
ここから、大別 6 つの発見がえられた。第 1 に、苦戦するエレクトロニクスに対して好調
な自動車という対比は 2015 年まで延長したデータでも確認することができた。第 2 に、産
業間で過去の利益率による影響に違いがあった。デバイス製造業と自動車製造業について
は儲かっている会社ほどさらに儲かり、儲からない会社はさらに儲からないという関係が
存在している。ICT 機器製造業については、売上高営業利益率について 2 期前に儲かってい
るほど今期は儲からなくなるという関係が存在する。これは過去の利益水準がインプット
となって今期の利益水準を決めているというよりはむしろ、ICT 機器製造業においては、儲
かっている企業がそのまま儲かるという安定的な関係が成り立たないということを意味し
ているように思われる。第 3 に、利益水準にもっとも広く寄与するのは固定資産比率であ
る。第 4 に、日本企業が推進してきた「選択と集中」は少なくとも事業領域の数を基準と
して見る限りでは収益性に安定的な効果をもっていない。第 5 に、資産効率の改善は ICT
機器製造業において利益水準の向上につながる。第 6 に売上高の拡大は自動車において営
1
本稿は科研費(25285116)による研究成果の一部である。
1
業利益率の向上をもたらすが、それは同時にキャッシュフロー利益率の低下につながる。
1.本稿のねらい
日本企業の低利益率が問題視されるようになって久しい。企業が持続的な成長をなしと
げるためには、現在の事業から十分な利益を獲得し、それを未来のために投資しなければ
ならない。この利益獲得と先行投資のサイクルがうまく回ってこそ企業の成長がある。か
つて「日本的経営」といえば終身雇用、年功序列、企業別組合の 3 つの特徴をもち(アベ
グレン、2004)
、短期的な利益よりもむしろ長期的な成長を重視していた(加護野・野中・
榊原・奥村、1983)
。右肩上がりの成長の時代にあっては成長すれば利益は後からついてく
ると信じることができたのであり、日本企業が利益を軽視していたわけでは必ずしもない。
とはいえ実際に利益がついてきたのかといえば、それはあやしい。1960 年代以降、日本企
業の営業利益率は超長期的に低落傾向にあった(三品、2004)
。そして日本経済の成長速度
が鈍化し、成長が容易には望めなくなると、企業経営の目標は変化した。簡単に言えば、
それは利益の回復に移った(浅羽、2008)
。
2000 年代中頃から、日本企業の利益獲得能力の低さという共通する問題意識をもった研
究成果が蓄積されてきた(例えば、三品、2004;榊原、2005;青島・武石・クスマノ、2010;
延岡、2011)
。それらをまとめると、日本企業の利益獲得能力については次のような特徴が
ある。第 1 に、そもそも日本企業の利益獲得能力は長期にわたって低下し続けていた。売
上高利益率は 1960 年代から低下傾向にある(三品、2004)
。代表的な産業分野であるエレ
クトロニクスについては 1980 年代の後半から利益獲得が難しくなりつつあった。第 2 に、
1970 年代からエレクトロニクスと自動車が日本の産業の主役になったが、両者の趨勢には
違いがある。
前者の利益水準は 70 年代から 80 年代にかけて製造業平均を上回っていたが、
2
80 年代後半から停滞しはじめた。2000 年代になって回復傾向にあるものの製造業平均を下
回る水準で推移している。後者のそれは 80 年代以降 90 年代半ばまで低下したが、90 年代
後半になると改善し、製造業平均を上回る水準で推移している(武石ほか、2010)
。2000 年
代以降の業績回復について日本を代表する産業分野であるエレクトロニクスと自動車とは
対照的である。
第 3 に、
この産業間の違いは技術開発の面でも現れている(武石ほか、
2010)
。
80 年代以降、日本企業の研究開発費は 90 年代前半の一時期を除いて増加傾向にあり、GDP
との相対的な規模においてはアメリカを上回る水準であるものの、90 年代後半からは金額
の伸びにおいてアメリカに引き離されつつある。2006 年のデータを見ると、海外子会社と
の取引を除いた海外企業との技術輸出入でエレクトロニクス産業が輸入超過であるのに対
して自動車産業は輸出超過である(武石ほか、2010)
。かつてエレクトロニクス関連分野に
おいては、日本企業が「技術開発で先行しながら事業収益で苦戦する」という構図が観察
され、多くの研究者の関心が集まった(例えば、榊原、2005;伊藤、2005;井上、2006)。
この構図は今日では成り立ちにくくなっている可能性が高い。
さて、多くの研究が日本企業の収益性に関して悲観的な事実を提示してきたものの、そ
れは渦中にある企業の全てが無為無策だったということを必ずしも意味しない。既存研究
は日本企業の「戦略なき投資の悲劇」
(伊丹、2000)、「利益なき拡大」(三品、2004)とい
った低収益事業への安易な参入による事業領域の膨張を指摘している。この点については
しかし、1990 年代以降、日本企業は収益性の高い事業分野に注力し、収益性の低い事業を
整理する「選択と集中」を進めてきた(浅羽、2008)
。1990 年代から 2000 年代初頭にかけ
ての時期を対象とした調査によれば、日本企業は本業と関連の薄い事業から撤回し関連性
の高い事業へ進出する行動をとっている(菊谷・齋藤、2006;浅羽・牛島、2008)
。この「選
択と集中」がもたらす利益への影響について菊谷・齋藤(2006)は、第 1 に本業の成長性
3
が高いことは本業以外の事業撤退を促進すること、第 2 に新規進出業種の成長率は撤退業
種のそれよりも高く、場合によっては本業のそれよりも高いこと、の 2 点を示している。
これらの発見事実を合わせると「選択と集中」は企業の業績に良い影響を与えてきた可能
性が高い。また、1984 年から 2004 年までの日本企業のダウンサイジング(規模縮小)を分
析した浅羽・牛島(2008)によれば、従業員と資産いずれのダウンサイジングも、利益率
の向上には結びつかない。ただし、従業員と資産の両方を同時に削減するダウンサイジン
グは利益率を向上させる。加えて、受動的ダウンサイジング(ダウンサイジングが予想可
能な状況下での実施)と能動的ダウンサイジング(ダウンサイジングが予測困難な状況下
での実施)はともに実施直後の利益率を引き下げるが、能動的ダウンサイジングが利益率
の変化に有意な影響を及ぼさない、あるいは利益率を引き下げることがあるのに対して、
受動的ダウンサイジングは中期的には利益率を引き上げる。その効果については研究ごと
に若干の違いがあるものの、
「選択と集中」が企業の利益獲得能力に何らかの影響を与えて
いることは確かなようである。
いくつかの重要な研究が 2000 年代前半までの日本企業の長期的な利益率低下の事実を示
し、警鐘を乱打してきた。それと時を同じくして日本企業の経営目標における利益獲得の
優先順位が高まり、
「選択と集中」のような取り組みが本格化した。果たして 2000 年代以
降、日本企業の収益性に何らかの変化はあったのだろうか。もしも何らかの変化があった
とすれば、それは企業のどのような取り組みによるものなのだろうか。本稿は、この素朴
な問題意識にもとづいて日本の製造業企業の収益性の近年の動向を把握し、その要因につ
いて探索的な分析をおこなう。
2.調査の対象
4
この調査では Nikkei FinancialQUEST の企業財務データを用いて、日本の製造業企業お
よび、それを代表するエレクトロニクス関連産業と自動車関連産業に属する企業の収益性
と、これを左右しうる企業の特徴を分析する。分析期間は 1986 年から 2015 年までの 30 年
間であり、連結決算の数値を優先して利用した。ただし、第 5 節の経営成果と企業の特徴
との関係の分析は 2000 年から 2015 年のデータが対象である。
ここで製造業と呼んでいるのは日本標準産業分類(2014 年基準)において大分類 E に該
当する分野のことである。そのうちエレクトロニクス産業と呼んでいるのは 28 の電子部
品・デバイス・電子回路製造業(以下、デバイス製造業と略)と 30 の情報通信機械器具製
造業(以下、ICT 機器製造業と略)のことであり、自動車産業と呼んでいるのは 31 の輸送
用機械器具製造業のうち 311 の自動車・同附属品製造業(以下、自動車製造業と略)のこ
とである。自動車製造業で産業分類の小分類を用いているのは、輸送用機械器具製造業の
中には自動車とは産業の性質が異なると思われる船舶や航空機を含んでいるためである。
第 5 節において、これら企業間の違いを分析する際に用いたデータによれば、2000 年から
2015 年の製造業 2167 社のデータのうちデバイス製造業が 120 社、ICT 機器製造業が 103 社、
自動車製造業が 122 社となっている。異なる水準の産業分類を用いているものの、3 つの産
業には同規模の企業数が存在している。Nikkei FinancialQUEST では各企業の業種について
全社とセグメントそれぞれについて売上高の大きな順に 3 つの日本標準産業分類を割り振
っている。ここでは全社レベルでの筆頭分類がそれぞれに該当する企業を抽出した。
なお、データ抽出時点(2016 年 1 月)において Nikkei FinancialQUEST は企業全体の業
種の割り振りに 2014 年版の産業分類を用いているが、セグメント情報については 2014 年
までは 2002 年版を、2015 年からは 2014 年版の分類を、それぞれ用いている。後述する事
業領域の広さの分析について本稿ではセグメント情報にもとづく産業分類を利用している。
5
単純にセグメント数をかぞえただけなので、ここでは異なる日本標準産業分類について区
別せずに用いた。
つまり、
ある企業が 2014 年まで 3 つの大分類にあたる事業を行っており、
2015 年にも 3 つの大分類にあたる事業を行っているならば、どちらも大分類 3 つに相当す
る事業を営んでいるものとする。また、データを抽出した時点では 2015 年 10 月までの決
算情報しか入手できなかったので、2015 年だけ他の年よりもサンプル数がやや少ない。
以下、本稿の構成は次の通りである。まず次節において、日本の製造業とエレクトロニ
クス産業および自動車産業の利益率と成長率の推移を観察する。次に 4 節では、企業の戦
略の特徴をとらえうる様々な側面を観察する。第 5 節では、そうした特徴の何が利益率と
どう関わっているのか、その傾向に分野間で違いが存在するのかを分析する。
3.利益率と成長率の推移
3.1 営業利益率
はじめに見るのは売上高営業利益率である。営業利益は事業外の投資や税金等の影響を
含まないので、企業が事業から得た利益を表すもっとも代表的な指標である。なお、本節
と次節の分析では、外れ値の影響を考慮して最大値と最小値からそれぞれ全体の 0.5%ずつ
を除いて表示している。また、以下の分析で記している年とは暦年であり会計年度ではな
い。例えば 2009 年 3 月期決算は 2009 年の数値に対応する。
まず製造業全体を見ると、80 年代後半から 90 年ごろにかけて上昇し 6%台であったもの
が、90 年代中頃にかけて 4%を下回る水準にまで低下した。90 年代はほぼ一貫して 4%台
後半から 5%台前半で推移している。2002 年に大きく落ち込んで 2.9%を記録したあとは急
激な回復を見せ 2006 年には 6%を超えた。2009 年には 2%を割り込みこの 30 年間で最低の
水準にまで落ち込んだものの、その後は急激に回復している。利益率の大きな落ち込みは
6
経済全体の景気の動向と連動している程度が非常に高いように見える。利益率の大きな低
下は 90 年代前半のバブル崩壊による経済の低迷期、90 年代終盤のアジア経済危機、2001
年の IT バブル崩壊、2008 年のサブプライム危機の 4 回おきている。それらを考慮するなら
ば、製造業の利益水準は 90 年代の低迷期をへて 2006 年にむかって緩やかに回復し、その
後ふたたびジリジリと低下しつつあったように見える。2013 年からは利益率が回復しつつ
ある。
図 1 売上高営業利益率の推移
10
8
6
4
2
-2
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
-4
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQuest のデータを使って作成。
個別業種の傾向はどうだろうか。デバイス製造業については、2 つの傾向を見ることがで
きる。第 1 は、利益水準の変動幅が製造業全体に対して大きいことである。良いときは良
いし、悪いときは悪い。その差が他の分野に比べて大きい。第 2 に、90 年代までは製造業
7
全体と比べて良いときはより良いし、悪いときはより悪いという具合であったが、2000 年
代以降になると良いときは製造業全体と同程度なのに対して悪いときは非常に悪い。先行
研究が示した低利益率の問題は、この分野についてはさらに深刻化している懸念がある。
ICT 機器製造業にはデバイスのような大きな変化はなく、利益水準はほぼ一貫して製造業全
体と同じかそれよりも低い。自動車製造業には 2 つの特徴がある。第 1 に、2000 年ぐらい
まで一貫して利益率が製造業全体よりも低い。第 2 に、それ以降、利益水準は回復傾向に
あるが、それは製造業全体と同水準にとどまっている。
3.2 ROA
ここで ROA(Return on Asset)と呼んでいるのは税引き後利益(経常利益から税金を除き、
税効果会計分を足し戻したもの)の総資産に占める割合のことで、資産から企業が年度末
にどれだけ利用可能な資金を得たかを表している。
数値の全体的な動きは売上高営業利益率のそれとほぼ同じである。すなわち 4 度の不景
気に併せて落ち込んでおり、その影響はとくにサブプライム危機の時に大きかった。また
各業種の傾向もほぼ同じである。すなわち変動が大きく 2000 年代から落ち込みが目立つデ
バイス製造業、変動が少なく全期間を通じて利益率が高くない ICT 機器製造業、そして 2000
年代から他産業よりも良い傾向にある自動車製造業、という特徴である。ただし、自動車
については ROA の方が売上高営業利益率よりも高水準で推移しており、製造業全体を下回
っているのは 1980 年代の後半から 1990 年代の前半にかけてとわずかな年のみである。2000
年代以降は製造業全体よりも自動車製造業の方が安定的に 1%超高い。
8
図 2 ROA の推移
6
4
2
-2
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
-4
-6
-8
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei Financial Quest のデータを使って作成。
3.3 OCFROI
つづいて営業キャッシュフローの総資産に占める割合の推移を見てみることにしよう。
これは投入に対して得られた営業キャッシュフローを意味している。一般的に営業利益な
どの会計上の利益に比べてキャッシュフローは判断や見積もりといった裁量の余地が少な
い「硬度」の高い利益(伊藤、2016)だと言われており、OCFROI は前 2 つの指標にくらべ
て企業が稼ぐ力をより素直に反映していると考えられる。ここではキャッシュフロー計算
書が有価証券報告書に含まれるようになった 2000 年以降の推移だけを示した。
製造業全体では 2000 年以降、5%前後の水準で推移している。営業キャッシュフローに
関してはサブプライム危機時の大きな落ち込みは見られない。むしろ 2010 年には比率が上
昇していることから、この時期に製造業全体の傾向としては手元にキャッシュを残すこと
9
を重視していた可能性がある。
図 3 OCFROI の推移
12
10
8
6
4
2
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
デバイス製造業はこの間、緩やかに低下する傾向にある。2000 年代は製造業全体よりも
高い成果をあげていたが、2010 年からは製造業全体と同じがそれよりも低い水準で推移し
ている。ICT 機器製造業は、期間中ほぼ一貫して製造業全体よりも低い水準にある。自動車
製造業は一貫して製造業全体よりも高い水準であり、安定的に 2%程度、製造業全体の数値
を上回っている。2010 年から 2011 年にかけて急激に上昇しているのは、サブプライム危機
に際してキャッシュフローを重視する姿勢をこの分野の企業がとくに強めたことを示唆し
ている。
10
3.4 売上高成長率
利益の獲得は企業にとって重要な課題である。それと同時に、持続的な成長もまた企業
にとっての大きな目標である。利益獲得が日本企業の重要課題となった背景には、日本の
経済成長速度の鈍化にともなって、成長を重視すれば利益はあとからついてくるという見
込みが立ちにくくなったことが考えられるけれども、実態としてはどうだろうか。
図 4 売上高成長率の推移
140
120
100
80
60
40
20
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
製造業全体の売上高の成長率は利益率と同じように 4 度の不景気を除けば 100%を超える
水準で推移している。ここでもデバイス製造業の振れ幅が大きいという特徴が見える。ITC
機器製造業は安定しているものの 1990 年代前半を除けば製造業全体よりも低調に推移して
11
いる。自動車製造業は 2000 年以降、2009 年と 2010 年をのぞけば製造業全体よりも高い成
長性を記録している。ただし、製造業全体で 1980 年代末に 110%以上を記録した成長率は、
その後、1 度も超えていない。
図 5 資産成長率
140
120
100
80
60
40
20
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
つぎに図 5 は資産の成長率を示している。これの製造業全体および業種ごとの特徴は、
売上高の成長率と同じである。ただし、全体の変動の大きさは売上高のそれに比べて緩や
かである。これは売上高の増減に比べて資産のそれの柔軟性が低いことを示唆している。
2000 年に連結決算中心主義が採用された影響と思われる資産の大きな伸びをのぞけば、
1990 年代以降は低調な水準で推移している。1987 年から 1990 年にかけての資産成長率は
平均すると 110%を超えているのに対して、1991 年以降、110%を記録した年はない。
12
3.5 小括
本節では製造業全体とエレクトロニクスのデバイス製造業、ICT 機器製造業、そして自動
車製造業について、利益率と成長率の推移を見てきた。製造業全体の動向としては 90 年代
を底に 2000 年代以降わずかな例外を除いて利益率は回復しているように見える。ただし、
業種によってその成否はさまざまである。エレクトロニクスでは ITC 機器製造業が一貫し
て低水準なのに対して、
デバイス製造業は 2000 年以降むしろ悪化している。
それに対して、
自動車製造業は 2000 年以降、過去よりも高い利益水準に達している。成長性という点にお
いてもエレクトロニクスに比べて自動車の好調さが目立つ。先行研究が指摘してきたエレ
クトロニクスと自動車との対照的な成果については、ここでも改めて観察された。そして、
その傾向は 2015 年までと分析期間を延ばしても持続している。
4.業績を左右する企業の取り組み
先行研究がくりかえし観察してきた日本の製造業を代表するエレクトロニクスと自動車
の業績の違いについては、ここでも観察することができた。では、企業のどのような取り
組みが利益率の向上につながっているのだろうか。先行研究は産業ごとの技術的特性(例
えば「製品アーキテクチャ」(藤本・武石・青島編、2001))の違いに加えて、利益との関
係で大別三つの課題を指摘している。第 1 は、研究開発効率の低下である。榊原(2005)
は日本の全製造業を対象といた研究開発費と設備投資額の推移(児玉、1991)を参照して、
日本の製造業において研究開発が実際に事業に向けた投資に結びつきにくくなった可能性
を指摘した。また、代表的な企業を取り上げた調査(村上、1999)から、研究開発の努力
が利益に結びつきにくくなっていることを示している。投入要素としての研究開発費から
利益をえることが難しくなっているのである。経営戦略の分析では、しばしば、この研究
13
開発費に加えて広告宣伝費と固定資産との 3 つが産業と企業の戦略の特徴を知るのに有効
な指標であると言われている(Montgomery and Hariharan, 1991; Sharma and Kesner, 1996;
Chang and Singh, 1999)
。本稿では、この 3 つの動向を検討する。
先行研究が指摘してきた第 2 の課題は、事業領域の広さの問題である。日本企業の「戦
略なき投資の悲劇」(伊丹、2000)、「利益なき拡大」
(三品、2004)といった事業領域の拡
大をめぐる問題は、確かに利益率を引き下げる要因となっているものと思われる。近年の
日本の企業行動に関する流行語のひとつである「選択と集中」は、この広すぎる事業領域
の縮小を目指した動きである(浅羽、2008)
。日本では 1990 年代以降の流行であるけれど
も、それが企業業績にとって良い成果を生むことを実証した研究は古くから存在する
(Berry, 1971)
。本稿でも事業領域の広さの動向と、その利益に対する影響を分析する。
先行研究が指摘した第 3 の課題は、利益の「質」の問題である。延岡(2011)は、日本
の製造業企業の売上高営業利益率と、産出額から原材料使用額などの中間投入分を差し引
いた「付加価値」の対売上高比率をくらべて、前者が 2〜6%の範囲で増減を繰り返してい
るのに対して、後者は 1990 年代半ばまで 20%を超えていたものの、そこから一貫して低下
し続けており、2009 年には 13%になったことを示している。とくに 2000 年代初頭には「い
ざなみ景気」とよばれる好景気の時期があり、企業の営業利益率が大幅に好転したにもか
かわらず、付加価値率は低下傾向が続いた。つまり、この間の企業の利益は新たな価値を
生み出したことによるものではなく、短期的に無駄に見えるものを排除して、資産を効率
的に使ったことで得られたものであり、自動車産業よりもエレクトロニクス産業において
「価値づくり」に失敗してきた(延岡、2011)
。付加価値については延岡(2011)が明らか
にしているので、この分析では資産の効率性について検討すると同時に、それが利益に及
ぼす影響の産業間の違いを検討する。
14
4.1 研究開発、広告宣伝、固定資産
図 6 は売上高に対する研究開発費の割合(縦軸は%)を示している。ここには研究開発
費が費用として一括計上するように制度が変更された 2000 年以降のデータだけを記した。
これを見ると、製造業全体では売上高研究開発費比率は 3%程度で安定的に推移している。
2009 年、2010 年とサブプライム危機からくる不況期に売り上げが減少した影響で一時的に
研究開発費の比率が高まった時期はあるものの、それを除けばほぼ一定である。
図 6 売上高研究開発費比率の推移
6
5
4
3
2
1
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
業種別に見ると、デバイス製造業と ICT 機器製造業の研究開発費比率は相対的に高い。
15
ほぼ一貫して 4%超~5%超の水準である。それに対して自動車産業の研究開発費比率は製
造業全体よりも低い。すでにエレクトロニクス関連業種の利益水準が自動車よりも低いこ
とは見た。ところがエレクトロニクスの方が売上高に対する研究開発の相対的な規模が自
動車よりも大きい。エレクトロニクスの方が将来のリターンが不確実な活動に対して、自
動車産業よりも多くのお金を使わなければならない。
図 7 売上高広告宣伝費比率の推移
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
図 7 は売上高広告宣伝費比率の推移を示している。広告宣伝費が売上高に占める割合は、
製造業全体では 1995 年ごろから緩やかに上昇を続け、2009 年から 2010 年にかけて急激に
16
上昇した。この 2 年間は不況期にあたるけれども、その後も高い水準を維持している。各
業種を見てみると、デバイス製造業は全体的な動向とは異なり、例外的に高まる年は存在
するものの、全体としては低下する傾向にある。それに対して ICT 機器製造業と自動車製
造業は増加する傾向にある。前者は 1990 年代後半まで低下していたが、1998 年から 2007
年にかけて 1%程度の水準を維持し、サブプライム危機をへて 1.5%程度に高まった。後者
は極めて低い水準から安定的に増加し、こちらもサブプライム危機を経て急上昇した。
図 8 売上高固定資産比率の推移
80
70
60
50
40
30
20
10
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同付属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
図 8 は売上高固定資産比率を示している。製造業全体としては 1994 年にむけて増加した
後、1998 年までは 50%程度の水準を維持し、2002 年まで再び増加傾向をたどった後、若干
17
の変動を示しながら 60%を少し下回る水準にとどまっている。2002 年に向けて増加傾向に
あったのは、商法改正による連結決算優先の会計制度の採用、いわゆる IT バブルの崩壊、
という二つの理由が考えられる。業種別に見ると、デバイスは 1993 年までは製造業全体を
上回る水準であり、その後は全体を下回る水準で 2001 年まで推移し、2002 年に急上昇して
製造業全体と同じ水準になった。それ以前の水準に比べて高止まりしていることから、2002
年以降、デバイス製造業各社が過剰な設備をもった可能性がある。つぎに ICT 機器を見る
と、いくつか例外的に上昇する年はあるものの、全体の趨勢としては製造業のそれに近い。
ただし、2000 年以降、大きく変動しているのが単に景気動向によるものなのか、他の要因
があるのかは、さらに詳細に検討しなければならない点である。ITC 機器の固定資産の比率
は 3 つの業種中もっとも低い。自動車も趨勢としては製造業全体の動きに近い。緩やかな
上昇が 2002 年まで続き、その後は安定している。一貫して製造業全体の値よりも小さい。
4.2 事業領域の広さ
図 9 は Nikkei FinancialQUEST のデータにおいて企業に割り当てられた日本標準産業分
類の中分類(2 桁)の数の推移を示している。データはセグメント情報の開示を義務づけら
れた 1999 年以降のみを対象としている。ここで単一業種としたのは全社レベルでもセグメ
ントレベルでも 2 桁の産業分類を 1 種類しか含まない企業である。Nikkei FinancialQUEST
は全社と各セグメントに最大 3 種類までの産業分類を割り振っているので、全社レベルの
情報しか存在しない企業の場合には最大でも 3 種類の業種を抱えていることになる。そこ
で、セグメント情報を開示していて、かつ 3 種類までしか業種分類が付与されていない会
社と、セグメント情報を開示していなくて、かつ 2 種類以上の業種分類を付与されている
会社とを分けて表記した。4 種類以上の業種が割り振られている企業は必然的にセグメント
18
情報を開示している企業である。
これを見ると、製造業全体では一貫して単一業種の企業が減少していることが分かる。
この減少の理由として、第 1 に単一業種の企業が退出した、第 2 に単一業種の企業が多角
化した、という 2 つの可能性が考えられる。ただし、同時に 3 業種以下(セグメント情報
開示企業)の数もわずかながら減少しつづけていることから、第 1 の理由の方が有力な説
明であるといえる。4 業種以上の企業数は 1999 年以降微増傾向にあったが、2011 年に大き
く減少した。
2011 年にセグメント情報開示企業で 3 業種以下の数が増加していることから、
この時期に急激な事業の絞り込みが起きた可能性が高い。
図 9 事業領域の広さ(製造業)
2500
2000
1500
1000
500
0
単一業種
3業種以下(セグメント)
3業種以下(全社)
4業種以上
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
次に、業種ごとの動向を見てみよう。デバイス製造業の傾向(図 10)は製造業全体とほ
ぼ同じである。ただし、4 業種以上を抱えている企業の割合が全体の数値よりも低い。また、
19
ほぼ一貫して 3 業種以下(セグメント情報開示)の数が増加しており、単一業種の数が減
少していることから、その中には単一業種の中に多角化を行ったか、あるいは小規模な事
業が大規模になった企業が存在していると考えられる。
図 10 事業領域の広さ(デバイス)
120
100
80
60
40
20
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
単一業種
3業種以下(セグメント)
3業種以下(全社)
4業種以上
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
ICT 機器製造業の事業領域の動向(図 11)を見ると、こちらはデバイスよりも製造業全
体の趨勢により近い。単一業種が減少傾向にあるけれども、それが多角化した結果という
よりは退出した結果であると思われる。3 業種以上(セグメント情報開示)の数は 2011 年
以降増加しているけれども、同時に 4 業種以上の企業数が減少しているためである。
図 11 事業領域の広さ(ICT 機器)
20
120
100
80
60
40
20
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
単一業種
3業種以下(セグメント)
3業種以下(全社)
4業種以上
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
図 12 事業領域の広さ(自動車)
140
120
100
80
60
40
20
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
単一業種
3業種以下(セグメント)
3業種以下(全社)
4業種以上
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
21
最後に自動車製造業について見てみると(図 12)
、この業種が製造業全体の動向に最も近
い。ただし、自動車の場合には他の業種に比べて単一業種の減少の程度が小さい。製造業
全体では 1999 年に 997 社(約 50%)存在していた単一業種企業が 2015 年には 490(36%)
に減少した。それが自動車では 1999 年に 59 社(約 51%)に対して 2015 年には 40 社(約
45%)となっている。
製造業全体の傾向としても、ここで分析対象としている個別業種の傾向としても、単一
企業が市場から退出する割合は多角化企業のそれよりも高い可能性がある。大きな趨勢と
して単一業種の企業は減少している。一方で経済危機の直後には 4 業種以上を手がけてい
た企業が減少して 3 業種以内の企業が増加している。危機に直面した時に「選択と集中」
が実行された可能性が高い。
4.3 資産の効率性
資産の効率的な利用の指標として、ここではキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)
の分析を行う。CCC は企業が現金を回収するまでの日数を意味し、資産の効率性をはかる指
標のひとつである(大津、2009)
。売上債権回転期間(日)と棚卸資産回転期間(日)を足
して仕入債務回転期間(日)を除いた値で表す。これが短いほど企業は現金をすばやく回
収していることになるので、前 2 つの指標が短いほど、最後の指標が長いほど CCC の数値
は改善することになる。
はじめに製造業全体の CCC を見ると、
1986 年から 2002 年にかけて緩やかに増加している。
1980 年代終盤から 1990 年代半ばにかけて増加の程度はとくに大きい。その後、2005 年ま
では少し減少したが、2006 年からは再び緩やかな増加に転じている。各業種を見ると、デ
バイス製造業と ICT 機器製造業の傾向は似ている。1990 年代前半まで増加したあと、多少
22
の増減はあるものの 2010 年ごろまで 100 日を少し下回る水準で推移し、2010 年から増加傾
向を見せている。1986 年の段階では 2 つの業種の CCC は製造業全体にくらべて 20 日ほど多
かったが、1990 年代終盤にほぼ同水準になった。それに対して自動車製造業は 1986 年から
2002 年まで一貫して緩やかな増加傾向にある。その後 2008 年までは増加しなかったが、
2009
年から再び増加傾向にある。ただし、自動車製造業の CCC の水準は製造業全体に比べて約
40 日短く、期間中その差は変化していない。
図 13 CCC の推移
140
120
100
80
60
40
20
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
CCC を構成する売上債権回転期間(図 14)、棚卸資産回転期間(図 15)
、仕入債務回転期
間(図 16)それぞれについて推移を調べた。これを見ると、デバイスと ICT 機器の数値が
製造業全体と自動車に近づいた、言い換えれば製造業全体および自動車の数値が悪化した
23
理由は棚卸資産回転期間の増加にあることが分かる。それ以外の指標については各業種が
ほぼ平行に推移しているからである。売上債権や仕入債務の回収日数は業界の慣習で決ま
っている可能性があり、全体を平均すると、その慣行に沿った値に収斂するものと考えら
れる。それに対して棚卸資産回転日数は製造業全体と自動車製造業で悪化している。自動
車製造業の業績の相対的な良さと合わせると、この悪化は興味深い。
図 14 売上債権回転期間の推移
120
100
80
60
40
20
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
図 15 棚卸資産回転期間の推移
24
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。製造業全体の 2014 年、2015 年の数値
はそれ以前に比べて不自然に増加しているので、ここには表示していない。
図 16 仕入債務回転期間の推移
120
100
80
60
40
20
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
電子部品・デバイス・電子回路製造業
情報通信機械器具製造業
自動車・同附属品製造業
製造業全体
注:Nikkei FinancialQUEST のデータを用いて作成。
25
4.4 小括
本節では、研究開発費や広告宣伝費といった企業の収益を左右するインプットの産業ご
との特徴と、インプットの効率的な利用を左右する事業領域の広さおよび資産の効率性に
ついて、それぞれの動向を観察した。それぞれ特徴的な点としては次の通りである。
まず研究開発費については極めて安定的である。産業レベルで見れば売上高に対する比
率はほとんど変化していない。それに対して広告宣伝費比率は 2000 年代の終盤に ICT 機器
製造業と自動車製造業とで大きく伸びた。デバイス製造業では一貫して低下傾向にあり、3
つの産業間の差異が際立つ結果となっている。固定資産については、製造業全体で見ると、
2000 年代になって減少傾向にあったものの、それが 2010 年ごろから上昇に転じはじめた。
ただし、個々の産業別の動向については、はっきりした傾向を見いだすのは難しい。
つぎに事業領域の広さについて見ると、製造業全体の傾向としては単一事業の企業の割
合が減少している。これは少数事業を営んでいた企業が事業数を絞り込んだというよりは
単一事業の企業の中に相対的に多くの退出が見られたことによると考えられる。また 2011
年以降に 4 業種以上を営む企業が減少し、3 業種までの企業が増加したことから、景気後退
に際して企業の「選択と集中」が急速に進んだ可能性が高い。個別産業に目を移すと、単
一事業の企業の退出はエレクトロニクスにおいての方が自動車よりも顕著に観察可能であ
る。そのため単純に業種ごとの中分類(2 桁)事業の保有数の平均をとれば、エレクトロニ
クス産業では増加傾向にあるという結果が得られるはずだけれども、それはいわゆる「選
択と集中」の動きとは必ずしも矛盾しない。
資産の効率性については、業績が最も好調と見られるはずの自動車産業において、もっ
とも顕著な増加傾向が見られる点は驚きである。またエレクトロニクス産業では 90 年代を
通じてゆるやかに減少傾向にある。この間に、とりわけエレクトロニクス産業において利
26
益創出に向けた効率性の追求が試みられた可能性がある。ただし、いずれの産業も 2000 年
代はほとんど増加していない。CCC の内訳を見ると、その増減の多くを占めるのが棚卸資産
回転期間の変化であることが分かる。
5.利益と企業の特徴との関係
5.1 データの概要と分析方法
近年の日本の製造業の動向について、ここまで収益性とそれを左右する特徴について分
析してきた。本節では、これらの指標から、企業のどのような行動が成果に結びつくのか
を検討する。ここで検討の対象とするのは連結決算中心主義となり研究開発費が一括費用
計上されるようになった 2000 年の商法改正以降の期間である。被説明変数には各社の各年
の売上高営業利益率の 2 桁産業平均との差(ROS)および営業キャッシュフローで見た投資
収益率と日本標準産業分類中分類(2 桁)の産業平均との差 2 桁(OCF)を用いる。
説明変数は次の通りである。まず研究開発費、広告宣伝費、固定資産を表す変数として
対象年の売上高研究開発費比率の 2 桁産業平均との差(RND)
、売上高広告宣伝費比率の 2
桁産業平均との差(ADS)
、売上高固定資産比率の 2 桁産業平均との差(CAP)を用いる。資
産の効率性を表す変数としては CCC の 2 桁産業平均との差(CCC)を用いる。事業領域の広
さを表す変数として各社に Nikkei FinancialQUEST によって割り振られた日本標準産業分
類中分類(2 桁)の種類(JSIC2)を用いる。この業種分類数についてはセグメント情報を
優先し、利用できない会社については全社の値を用いている。小分類(4 桁)の種類(JSIC4)
については、表 2 にあるとおり JSIC2 と強い相関が見られるため、モデルには含んでいな
い。
コントロール変数として、各社の売上の 2 桁業種平均との差(SALES)を使った。利益率
27
については「平均への回帰」が指摘されており(大日方、2013)
、ここでは、それをコント
ロールする簡便な方法として前の期の利益率を加えた(浅羽・牛島、2008)
。全てのモデル
に年ダミー(YEAR)を含む。
分析にはシステム GMM(Arellano and Bond, 1991; Blundell and Bond, 1998)を用いて、
企業間の分散の不均一性を考慮したロバスト推定を行った。ただし、Sargan test はロバス
トオプションを外したモデルで推計している。
<表 1 を挿入>
<表 2 を挿入>
5.2 分析結果
はじめに ROS を被説明変数としたモデル(Model 1 から Model 6)について見てみよう。
システム GMM については残余の自己相関がないことが前提となっており、この検定のため
に Arellano-Bond の検定を行うと、デバイス製造業と自動車製造業については 1 期前の ROS
のみを説明変数に含むモデルが解釈可能なのに対して ICT 機器製造業は 1 期前の ROS のみ
を含むモデルには自己相関が残されている仮説を棄却できない。そこで、これに 2 期前、3
期前と ROS を加えると、3 期前までを含むモデルにおいて自己相関が存在する仮説が棄却さ
れた。なお、自動車製造業についても 3 期前までの ROS を含むモデルが解釈可能であり、
デバイス製造業については有意水準 5%未満までを有意だと見なすならば、3 期前までの数
値を含むモデルは妥当な結果であると言える。
デバイス製造業については、1 期前の ROS が当期の ROS に優位な影響を与える。RND、CAP、
JSIC2、SALES はそれぞれ負の影響をもつ。他の要因が同じならば、前期に良い ROS を上げ
28
ている、固定資産の比率が小さい、事業領域を絞っている、売上が小さい、と ROS の値は
大きくなる。有意水準 5%までを有意な結果と見なすならば、1 期前の ROS は正の、2 期前
の ROS は負の効果を当期の ROS に対して与えており、過去の利益水準は今期の利益水準に
対して錯綜した関係にあると見なすことができる。
ICT 機器製造業については 1 期前の ROS が正、2 期前の ROS が負、3 期前の ROS が正の影
響をもつ。さらに RND、CAP、CCC、が負の影響をもつ。したがって他の要因が同じならば、
ROS は前期、前々期、さらに前の期と、それぞれ入り組んだ効果を当期の ROS に及ぼす。そ
して固定資産の比率が低く、CCC の値が小さい(良い)と良い ROS になる。
自動車製造業については 1 期前の ROS が正、CAP が負の影響をもつ。SALES については 1
期前の ROS を含むモデルでは有意だが 3 期前までの ROS を含むモデルでは有意ではない。1
期前を含むモデルの有意水準は 10%と高くないので、SALES の影響の解釈は難しい。少な
くとも他の要因が等しければ 1 期前の ROS が良く、固定資産の比率が低いほど、当期の ROS
は良い結果となる。
<表 3 を挿入>
つぎに OCF を被説明変数としたモデルについて見てみることにしよう。こちらは、デバ
イス製造業と ICT 機器製造業についてのモデルは 1 期前の ROS を含むモデルで残余の自己
相関が解決されているが、自動車については 2 期前の ROS まで含むモデルにおいて残余の
自己相関が存在する仮説が棄却されている。
デバイス製造業については 1 期前の OCF が正、CAP が負の影響を及ぼしている。つまり、
他の条件が等しい場合に、1 期前の OCF が良い、固定資産の比率が低いと、当期の OCF が良
29
い。
ICT 機器製造業については 1 期前の OCF が正、CAP、CCC、SALES が負の効果をもつ。他の
条件が同じならば、1 期前の OCF が良い、固定資産の比率が低い、CCC の値が小さい(良い)
、
売上高が小さい、と当期の OCF が良い。
自動車製造業については、1 期前と 2 期前の ROS がそれぞれ正、ADS と SALES が負の影響
をもつ。他の条件が等しければ、1 期前の 2 期前の ROS がそれぞれ良い、ADS が少ない、SALES
が小さいと当期の OCF が良い。
5.3 産業間の共通点と相違点
ROS を被説明変数としたモデルについて、まず固定資産の比率が低いほど ROS が良いとい
うのが各業種で共通する特徴である。一方で、ROS についてデバイス製造業と自動車製造業
とは 1 期前のそれが当期の ROS に有意な効果をもつのに対して、ICT 機器製造業については
1 期前と 3 期前が正に対して 2 期前は負という錯綜した効果をもっていることがわかる。こ
れは、3 期前までの ROS がインプットとして当期の ROS に影響するというよりはむしろ、毎
年のように業績が変動していることを表しているように思われる。なお、この効果は各年
の景気指標をコントロールしても変わらない。デバイスのみが事業領域が狭いことと売上
高が大きいことが ROS の向上につながる一方で、ICT 機器についてのみ CCC の改善が ROS の
向上につながる。
OCF を被説明変数としたモデルについては、
1 期前の OCF が当期のそれと正の関係にある。
自動車製造業については、さらに 2 期前の OCF も同様の効果をもつ。これは自動車産業に
おいて企業の OCF で見た業績が他の 2 産業よりも継続的であることを示している。一方で、
固定資産の比率についてはデバイス製造業と ICT 機器製造業において負、ICT 機器製造業に
30
おいてのみ CCC が負の効果をもつ。また、ICT 機器製造業と自動車製造業では売上高が小さ
い方が OCF は高い。
全体を通じて、過去の ROS と OCF の影響については興味深い結果が出ている。前者につ
いて、ICT 機器製造業は錯綜した効果を示しており、後者について自動車製造業は業績の継
続性の強さを示している。モデルの当てはまりの良さを見ると、デバイス製造業と自動車
製造業との 2 つに比べて ICT 機器製造業の数値が極端に大きくなっており、前 2 つに比べ
て ICT 機器製造業ではここで採用した諸変数によって今期の収益性を説明できる程度が低
い。
<表 4 を挿入>
6. まとめと今後の展望
本稿では、日本の製造業を代表するエレクトロニクスと自動車の分野について、近年の
収益性を観察し、それにどのような要素が影響しているのかについて探索的な分析を行っ
た。ここから、大別 6 つの発見がえられた。第 1 に、苦戦するエレクトロニクスに対して
好調な自動車という対比は 2015 年まで延長したデータでも確認することができた。
第 2 に、
産業間で過去の利益率による影響に違いがあった。ROS についてはデバイス製造業と自動車
製造業について利益率の慣性とでも呼ぶべき現象が観察できるのに対して、ICT 機器製造業
にはその関係性が錯綜している。また OCF では 3 つの製造業ともに利益率の慣性が観察で
きるが、この効果はとくに自動車について強い。他の産業が 1 期前の影響のみであるのに
対して自動車では 2 期前の利益率も当期の利益率に正の関係をもつからである。デバイス
製造業と自動車製造業についてはどちらの利益指標においても儲かっている会社ほどさら
31
に儲かり、儲からない会社はさらに儲からないという関係が存在している。ICT 機器製造業
については、ROS の場合に 2 期前に儲かっているほど今期は儲からなくなるという関係を見
いだすことができる。これは過去の ROS がインプットとなって今期の利益水準を決めてい
るというよりはむしろ、ICT 機器製造業においては、儲かっている企業がそのまま儲かると
いう安定的な関係が ROS を基準にして見た場合に成り立たないということを意味している
ように思われる。第 3 に、利益水準にもっとも広く寄与するのは固定資産比率である。自
動車製造業の OCF を除いて、この数値の向上が収益性を増加させている。したがって、利
益水準を急速に回復させたければ、固定資産の売却がもっとも直接的に効果をもつといえ
るだろう。第 4 に、日本企業が推進してきた「選択と集中」は少なくとも事業領域の数を
基準として見る限りでは収益性に安定的な効果をもっていない。デバイス製造業の ROS に
おいてのみ、これは利益性の向上に効果をもつ。第 5 に、CCC の改善は ICT 機器製造業にお
いて利益水準の向上につながるが、他の分野では自動車において OCF の向上に資するのみ
である。第 6 に売上高の拡大は自動車において ROS の向上をもたらすが、それは同時に OCF
の低下につながる。
1990 年代以降、日本企業は収益性の改善を大きな経営目標としてきた。その中で、いわ
ゆる「選択と集中」が行われたはずである。しかしながら、利益水準の改善には産業間で
大きな違いがある。確かな改善を見せる自動車産業に対して、それが必ずしも上手くいっ
ていないエレクトロニクス産業という位置づけは過去の研究でも指摘されたのと同様に本
稿でも観察された。一方で各社が対象とする事業数を標準産業分類の数で計測した限りで
は事業領域の絞り込みは収益性に必ずしも明らかな効果をもっていない。好調な自動車と
不調なエレクトロニクスという構図が、かりに個別企業の経営努力にも関わらず固定化し
ているのだとすれば、それがなぜ生じるのかを明らかにすることは残された課題である。
32
また過去の収益性については、とくに自動車産業において利益水準に慣性とでも呼ぶべ
き効果が働いている。つまり、儲かる会社はその後も儲かり、儲からない会社はその後も
儲からない。したがって自動車産業は確かに全体として好調ではあるけれども、利益水準
について二極化しつつある可能性がある。この点について、さらに検討を加えるのは今後
の課題である。
本稿では 3 つの産業分野を対象として、その利益水準を説明する要因を探索的に推定し
た。その結果として、いくつかの発見を得たが、興味深いことにモデルの説明力に大きな
違いがあった。すなわちデバイス製造業と自動車製造業に比べて ICT 機器製造業は諸変数
によって説明可能な収益性の程度が著しく低い。このことは、ICT 機器製造業において特に
企業の収益性を向上させる方策のあいまいさが強い、あるいは因果関係の不確実な環境に
さらされていることを表しているのかもしれない。このことが企業による意思決定にどの
ような影響をおよぼすのかについて、さらに検討する必要がある。
参考文献
アベグレン、ジェームス・C著、山岡洋一訳(2004)『日本の経営〈新訳版〉
』日本経済新
聞社。
Arellano, Manuel and Stephen Bond (1991). “Some tests of specification for panel
data: Monte Carlo evidence and an application to employment equations,” Review of
Econometric Studies, Vol. 58, No. 2, pp. 277-297.
33
青島矢一・武石彰・マイケル=A=クスマノ編著(2010)
『メイド・イン・ジャパンは終わ
るのか』東洋経済新報社。
浅羽茂(2008)
「ポスト・バブルの企業経営の変化」香西泰・宮川努+日本経済研究センタ
ー編『日本経済 グローバル競争力の再生』
、143−156 頁(第 4 章)、日本経済新聞出版社。
浅羽茂・牛島辰男(2008)
「日本企業のダウンサイジング——変化、決定要因、業績への影響」
香西泰・宮川努+日本経済研究センター編『日本経済 グローバル競争力の再生』、157−185
頁(第 5 章)
、日本経済新聞出版社。
Berry, Charles H. (1971). “Corporate growth and diversification,” The Journal of
Law & Economics, Vol. 14, No. 2, pp. 371-383.
Blundell, Richard and Stephen Bond (1998). “Initial conditions and moment
restrictions in dynamic panel data models,” Journal of Econometrics, Vol. 87, No.
1, pp. 115-143.
Chang, Sea Jin and Harbir Singh (1999). “The impact of modes of entry and resource
fit on modes of exit by multibusiness firms,” Strategic Management Journal, Vol.
20, No. 11, pp. 1019-1035.
藤本隆宏・武石彰・青島矢一編(2001)
『ビジネス・アーキテクチャ 製品・組織・プロセ
34
スの戦略的設計』有斐閣。
井上達彦編著(2006)『収益エンジンの論理—技術を収益化する仕組みづくり—』白桃書房。
伊丹敬之(2000)
『経営の本質を見誤るな』日本経済新聞社。
伊藤邦雄(2016)
『新・現在会計入門(第 2 版)』日本経済新聞出版社。
伊藤宗彦(2005)『製品戦略マネジメントの構築—デジタル機器企業の競争戦略—』有斐閣。
加護野忠男・野中郁次郎・榊原清則・奥村昭博(1983)
『日米企業の経営比較——戦略的環境
適応の理論』日本経済新聞社。
菊谷達弥・齋藤隆志(2006)「事業ガバナンスとしての撤退と進出—どのような事業から撤
退し、どのような事業に進出するか—」『組織科学』Vol. 40, No. 2, pp. 15-26。
児玉文雄(1991)
『ハイテク技術のパラダイム——マクロ技術学の体系』中央公論社。
三品和広(2004)
『戦略不全の論理』東洋経済新報社。
Montgomery, Cynthia. A. and S. Hariharan (1991). “Diversified entry by large firms,”
Journal of Economic Behavior and Organization, Vol. 15, Vol. 10, pp. 71-89.
35
村上路一(1999)
「危機意識から生まれたイノベーション・マネージメント」
『Works』1999
年 12 月・2000 年 1 月号, pp. 10-13, リクルート。
延岡健太郎(2011)
『価値づくり経営の論理』日本経済新聞出版社。
大日方隆(2013)
『利益率の持続性と平均回帰』中央経済社。
大津広一(2009)
『戦略思考で読み解く経営分析入門——12 の重要指標をケーススタディで理
解する』ダイヤモンド社。
榊原清則(2005)
『イノベーションの収益化:技術経営の課題と分析』有斐閣。
Sharma, Anurag and Idalene F. Kesner (1996). “Diversifying entry: Some ex ante
explanations for postentry survival and growth,” The Academy of Management Journal,
Vol. 39, No. 3, pp. 635-677.
36
Var i abl e
OCF
ROS
RND
ADS
CAP
CCC
JSI C2
JSI C4
SALES
Obs
28, 594
28, 573
28, 594
28, 594
28, 594
28, 544
28, 594
28, 594
28, 594
表1 記述統計
Mean
St d. Dev.
-1. 005612
7. 762452
-0. 0033269
442. 7701
2. 83E-08
180. 0766
-7. 70E-09
88. 21747
-0. 011395
530. 81
0. 0208073
1758. 167
2. 386165
1. 711647
3. 287788
2. 568577
3. 33E-07
779. 4951
Mi n
-480. 2177
-66184. 14
-133. 2623
-107. 415
-3869. 076
-5531. 471
1
1
-2347. 528
Max
151. 8729
354. 6636
23066. 74
14857. 03
40294. 24
277952. 3
13
26
26306. 03
OCF
OCF
ROS
RND
ADS
CAP
CCC
JSI C2
JSI C4
SALES
1
0. 1793
-0. 1328
0. 0002
-0. 0477
-0. 0279
-0. 0291
-0. 0337
-0. 0289
ROS
1
-0. 8796
0. 0004
-0. 4779
-0. 1507
0. 0107
0. 0214
0. 0098
RND
1
0. 2188
0. 4397
0. 1101
-0. 0134
-0. 0232
-0. 0041
表2 各変数間の相関
ADS
CAP
1
0. 0053
-0. 0001
-0. 0039
-0. 0046
0. 0005
1
0. 0273
-0. 0049
-0. 0077
-0. 004
CCC
1
-0. 0098
-0. 0098
-0. 0046
JSI C2
1
0. 8882
0. 2178
JSI C4
1
0. 2537
SALES
1
I ndependent
var i abl e
ROS( 1期前)
ROS( 2期前)
ROS( 3期前)
RND
ADS
CAP
CCC
JSI C2
SALES
YEAR
Const ant
Number of Obser vat i ons
Number of Gr oups
Wal d chi 2
Sar gan t est
Hansen t est
Ar el l ano-Bond t est ( AR1)
Ar el l ano-Bond t est ( AR2)
Not e: * p > 0. 10, ** p >
表3 パネルデータ 分析結果( 被説明変数=ROS)
Model 1
Model 2
Model 3
Model 4
Model 5
( デバイ ス ) ( デバイ ス ) ( I CT機器) ( I CT機器)
( 自動車)
0. 437
0. 457
0. 619
0. 740
0. 659
( 4. 24) ***
( 4. 45) ***
( 3. 76) ***
( 22. 94) *** ( 10. 73) ***
-0. 136
-0. 281
( -2. 72) ***
( -5. 52) ***
0. 072
0. 175
( 0. 78)
( 2. 66) **
-0. 663
-0. 863
-0. 386
-0. 483
-0. 043
( -2. 26) **
( -2. 45) **
( -1. 85) *
( -5. 32) ***
( -0. 58)
1. 071
1. 657
-0. 196
0. 650
-0. 007
( 0. 61)
( 0. 57)
( -0. 24)
( 1. 33)
( -0. 06)
-0. 090
-0. 087
-0. 026
-0. 029
-0. 018
( -2. 58) **
( -2. 13) ** ( -12. 59) *** ( -35. 08) *** ( -2. 17) **
-0. 010
0. 009
-0. 447
-0. 021
-0. 001
( 0. 48)
( 0. 42)
( -1. 91) *
( -1. 75) *
( -0. 22)
-1. 839
-2. 640
-0. 870
-0. 405
0. 139
( -2. 02) **
( -2. 01) **
( -1. 81) *
( -1. 25)
( 0. 92)
-0. 011
0. 015
0. 000
-0. 000
0. 000
( 3. 12) ***
( 3. 25) ***
( 0. 20)
( -0. 08)
( 1. 71) *
Yes
Yes
Yes
Yes
Yes
1. 931
5. 670
1. 432
1. 361
-0. 318
( 0. 69)
( 1. 85)
( 0. 52)
( 0. 71)
( -0. 58)
1493
1255
1157
935
1608
120
113
103
95
122
302. 68***
465. 91***
1498. 46*** 503975. 68*** 480. 01***
885. 23***
762. 28***
1512. 86*** 1402. 88*** 1804. 01***
106. 54
98. 90
86. 97
82. 18
105. 97
-2. 54**
-2. 89**
-0. 99
-2. 87**
-3. 50***
-1. 09
1. 77*
-1. 28
0. 21
0. 78
0. 05, *** p > 0. 01.
Model 6
( 自動車)
0. 647
( 7. 05) ***
0. 010
( 0. 12)
0. 002
( 0. 03)
-0. 081
( -1. 02)
0. 036
( 0. 29)
-0. 017
( -1. 89) *
-0. 002
( -0. 58)
0. 076
( 0. 44)
0. 000
( 1. 39)
Yes
0. 514
( 1. 00)
1365
120
348. 27***
636. 26***
102. 89
-2. 78**
0. 48
I ndependent
var i abl e
OCF( 1期前)
OCF( 2期前)
RND
ADS
CAP
CCC
JSI C2
SALES
YEAR
Const ant
Number of Obser vat i ons
Number of Gr oups
Wal d chi 2
Sar gan t est
Hansen t est
Ar el l ano-Bond t est ( AR1)
Ar el l ano-Bond t est ( AR2)
Not e: * p > 0. 10, ** p >
表4 パネルデータ 分析結果( 被説明変数=OCF)
Model 7
Model 8
Model 9
Model 10
( デバイ ス ) ( デバイ ス ) ( I CT機器) ( I CT機器)
0. 342
0. 322
0. 327
0. 184
( 4. 75) ***
( 2. 78) ***
( 2. 45) **
( 1. 14)
0. 010
0. 105
( 0. 12)
( 1. 33)
-0. 087
-0. 267
0. 066
-0. 035
( -1. 04)
( -0. 31)
( 0. 54)
( -0. 27)
-1. 081
-0. 960
-0. 266
-0. 144
( -0. 81)
( -0. 93)
( -0. 62)
( -0. 35)
-0. 018
-0. 018
-0. 001
-0. 001
( -3. 32) ***
( -2. 52) **
( -6. 11) *** ( -7. 07) ***
-0. 002
-0. 007
-0. 035
-0. 028
( -0. 16)
( -0. 57)
( -2. 46) **
( -2. 61) ***
-0. 256
-0. 392
0. 059
0. 063
( -0. 66)
( -1. 08)
( 0. 29)
( 0. 25)
-0. 002
-0. 002
-0. 001
-0. 001
( -1. 19)
( -1. 25)
( -2. 10) **
( -1. 60)
Yes
Yes
Yes
Yes
-1. 156
-1. 896
7. 266
-0. 658
( -0. 48)
( -0. 89)
( 0. 73)
( -0. 45)
1495
1375
1157
1054
120
116
103
101
192. 21***
2090. 81*** 2134. 25***
290. 56***
711. 32***
709. 73***
724. 61***
616. 51***
101. 20
96. 08
87. 08
86. 24
-2. 27**
-3. 05***
-1. 81*
-3. 10***
-0. 13
0. 80
1. 18
0. 09
0. 05, *** p > 0. 01.
Model 11
( 自動車)
0. 259
( 4. 55) ***
-0. 008
( -0. 05)
-0. 529
( -2. 44) **
-0. 003
( -0. 24)
-0. 015
( -1. 68) *
0. 149
( 0. 74)
-0. 000
( -1. 81) *
Yes
-3. 030
( -3. 81) ***
1608
122
163. 01***
458. 99***
109. 56
-5. 64***
2. 05**
Model 12
( 自動車)
0. 205
( 3. 41) ***
0. 111
( 1. 93) *
-0. 104
( -0. 75)
-0. 337
( -1. 76) *
-0. 003
( -0. 31)
-0. 012
( -1. 40)
0. 124
( 0. 51)
-0. 000
( -1. 77) *
Yes
-2. 427
( -2. 89) ***
1486
121
247. 26***
426. 97***
108. 63
-4. 73***
-0. 24