コミュニティ・ベース・メディスンとしての統合医療 ―医療過疎対策と地域活性へ、富士山・朝霧高原での試み― 山本 竜隆 先生 朝霧高原診療所は、地域で 51 年ぶりの医療機関として、内科・小児科・皮膚科・漢方内 科を標榜し活動しています。 また在宅医療や往診、複数の学校医や産業医、市内医師会の救急医療センター当番など、 地域のさまざまな活動に従事しています。 朝霧高原診療所は富士山西麓、静岡県富士宮市北部で富士・箱根・伊豆国立公園内にあ る。 標高は 700mで健康増進に適した中山保養地に位置する一方で過疎化が進んでいました。 周知のように本邦の医療過疎は、大きな社会問題となっていますが、医療過疎地の多く は、自然資産に恵まれています。 かろうじて小学校や中学校などの教育機関、交番、地元青年団などで構成される消防団 などは存在しているものの、医療機関がないことが、過疎化を進めている一つの要因にな っています。 ここに医療機関を開設することで、地域貢献は果たせますが、実際には地域人口減少や 人材確保の面で、運営や経営が厳しいのが現状とされています。 さて統合医療というと、一般的に癌などの難病を、現代西洋医学以外の様々な医療を集 結して、個々に合わせてコーディネイトする医療と認識され、都市部のように医療従事者 や各種の代替療法家に恵まれていることが前提とされます。 しかし地域医療型(治療や予防医療)と地域活性型(滞在型自然療法やウエルネスツー リズム)の両輪で進める田舎型統合医療のスタイルであれば、上記の問題点を解決するの ではないかと考えました。 欧州ではそのような事例が多数あるのと同時に、地方創生や観光立国を目指す本邦の方 向性とも合致するからです。 また近年の社会情勢やいわゆる“自然欠乏症候群”対策の視点でもニーズがあると思う のです。 統合医療を提唱するアンドルー・ワイル博士の「統合医療の定義」には以下のようなも のがあります。 “「病気」と「治療」ではなく、「健康」と「治癒・養生」に医療の力点を置く。 患者を「故障した機械」としてではなく、 「精神的・感情的・霊的な実在」として、また 「コミュニティの一員」として、全人的に診る。 検査結果の数値だけではなく、患者の「ライフスタイル」を診る。 患者の他者との「人間関係」のありかたをはじめ、自然・社会・世界・神などの超越的 存在・担当医との関係など、あらゆる「関係性」を重視する。 ”この中で、私は「コミュニティ」「関係性」という言葉に注目しています。 すでに 1980 年代より世界保健機関(WHO)もコミュニティに関して“健康支援環境” という言葉で、健康を支える生活環境の重要性を指摘しているのです。 さて朝霧高原診療所のある地域には、かつて日本のどこにでもあった年配者を尊敬する、 子供達を地域で見守り教育する、公共の活動に参加・奉仕するというような習慣や価値観 が現存していて、その良さを実感すると同時に、医療のみならず生活の根幹ともいうべき コミュニティが存在しています。 ここでは仕事を失った不眠の患者に、眠剤ではなく、仕事の場を提供し対応するような 地域の繋がりがあります。 日本は国土の 70%が森林であり、30000 箇所以上の源泉を保有、海に囲まれ、河川が豊 富な国家である。 欧州の医師からは、日本は何故、この豊かな自然を医療に活かしていないのかと指摘さ れましたが、朝霧高原での活動は、まさに地域力と自然を活かした医療を両立するモデル なのです。 “下医は病気を治し、中医は人を治し、上医は社会を治す”と言われますが、自然環境 や社会、生活全般を含めた幅広い視点で、地域住民の健康増進や医療に関わり、コミュニ ティの一員として活動することが、ある意味で本来の統合医療ではないかと感じるのです。 山本 竜隆( やまもと たつたか) 聖マリアンナ医科大学医学部卒 、医学博士。専門領域は内科、統合医療、東洋医学。米国 アリゾナ州アリゾナ大学医学部統合医療プログラム Associate Fellow、統合医療ビレッジ チーフプロデューサー兼院長、中伊豆温泉病院内科医長を歴任。現在、静岡県朝霧高原診 療院長。日本統合医療学会代表代議員、日本東洋医学会専門医。
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