生物進化の焦点

生物進化の焦点
白井 浩子(JSA 岡山支部)
二つの招待講演をいただきます。
浅島 誠(東京大学) 「個体における部分と全
体の統一性」
相沢 愼一(県立広島大学) 「長さを測る悪魔」
浅島さんは、両生類の個体発生におけるオー
ガナイザーの研究者です。
イモリ卵の灰色新月環領域由来の細胞群が、
受精後、卵割の進行で胞胚に至った時に陥
入という細胞集団の移動を起こします。(原口
背唇部)原口背唇部 が裏打ちした外胚葉が
神経組織に分化し、さらに二次胚を誘導する
ことから、原口背唇部 はオーガナイザー(形
成体)と呼ばれます。
一連の研究は20世紀初期にシュペーマンに
よりなされました。(1935年ノーベル生理学賞)。
浅島さんは、形成体の誘導現象の分子生物
学的解明を行いました。(作用遺伝子の同定
と作用解明)
その結果、実験的に順次分化を自在に誘導さ
せることが可能となり、各部域の形成を可能と
し、いわゆる疑似個体を形成できました。疑似
個体は、分化各部の集合であり、外部からの
エネルギー獲得や、生存の否定条件からの逃
避は行わず、個体の全体性を深く考えさせる
ものでした。
実験過程を具体的に解説いただき、部分と全
体の統一性をもつ個体について考察いただき
ます。
相沢さんは、バクテリアのベン毛の研究者で
す。
生物体の用いるメカノケミカル反応は生物多し
と言えども、3種に分類できます。
バクテリアは、水素ポテンシャル利用の ATP
合成系のみもち、真核生物はそれに加えて、
さらに2種の ATP 合成系(分解系)を利用しま
す。アクチン-ミオシン系、チュブリン-ダイニン
系です。
バクテリアのベン毛運動は、モーター構造が
回転しますが、そのエネルギーは水素の偏在
に依存しています。
偏在の生成する仕組み、ベン毛運動の仕組
みについて、詳しい解説をいただきます。
非生命の反応としてのブラウン運動(ランダム)
が生命に普遍的な偏在(不均一)を示す運動
機構へと発展する条件など、分子から生命体
への階層上昇にも関連して解説いただきます。
白井らの提唱している余剰進化論では、生物
体のもつあらゆる機能は、既存の系の派生か
らもたらされる余剰が機能化すると理解します。
物理的ブラウン運動から秩序だった ATP 合成、
細胞集団から全体を統合する神経系の成立、
など、聴衆の皆さんが、生命現象における階
層上昇のいろいろな局面の成立する経緯、に
思いをはせていただくことを期待します。