i-Method連続講座 ~産廃業者の財務分析法~(第8回)

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i-Method連続講座
~産廃業者の財務分析法~(第8回)
元千葉県産廃Gメン、「産廃コネクション」著者
石渡 正佳
<IM-B編>
5-5 基本4指標
------------IM-B(i メソッド・ベーックバージョン)の基本分析は、公開情報を基本4情報(処理能力、
処理実績、売上高、従業員数)に集約し、そこから基本4指標を計算することである。この4指
標によって、公開情報は比較検証が可能となる。基本4情報にはパフォーマンス、財務、組織
の3要素が入っており、そこから計算した基本4指標は、パフォーマンス、財務、組織のクロス
分析となる。ここが単なる財務分析や生産性分析とiメソッドの大きな違いとなる。基本分析に
は難しい計算式は何もない。しかし誰でも簡単に計算できるからこそ、標準化された分析手
法であると言える。
基本4指標は次のとおりである。
1 施設稼働率
2 平均単価
3 オーバーフロー率
4 生産性
画像5-5
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基本4指標は、結局のところ生産性を検証している。生産性を指標として、基本4情報が無
矛盾であることを検証していると言い換えても言い。データに矛盾があれば、異常な(現実的
でない)生産性となる。
なぜ、4つの生産性指標が必要なのか。実績報告、財務諸表などは、粉飾又は改ざんされ
ている可能性が否めない。処理実績に関して言えば、マニフェスト(産業廃棄物管理票)がな
い受注(裏受注)や、逆にマニフェストだけがある受注(空受注)がありえる。裏受注は現金収
入(ポケットマネー)として売上帳に載らないから売上高が過小になる。空受注は売上帳に載
るから売上高は過大になる。著しい裏受注や空受注は、生産性のいずれかの指標に矛盾を
生じる。処理実績を過小に改ざんすれば、稼働率や平均単価が高くなり、生産性は低下する。
売上高を過小に改ざんすれば、平均単価と一人当たり売上高が小さくなるわけだ。
データの粉飾又は改ざんによって、特定の指標の不都合を解消できたとしても、一つの
不都合を解消すれば、別の指標に新たな不都合が生じる。すべての指標に不都合が生じな
いようにデータを触る(改ざんする)ことは、とても難しいのだ。そのため、生産性を4
通りの方法で指標化している。つまり多重検証である。
「施設稼働率」は、基本4情報の「処理能力」と「処理実績」を用いて計算する。
収集運搬の稼働率
車両回転数=収集運搬実績/(積載能力×積載効率×稼働日数)
なお、積替保管施設の稼働率は在庫回転数となるが、これはベーシックバージョンでは計
算できない。(プロフェッショナルバージョンで検討する。)
中間処理の稼働率
施設稼働率=中間処理実績/(処理能力×稼働日数)
最終処分の稼働率
残余年数=残存容量/(処分実績/比重)
5-6 施設稼働率
収集運搬車両回転数
-------------収集運搬業は、運送業(拠点間運搬)、宅配業(ミルクラン)、倉庫業(保管)など、物流業の
あらゆる業態を兼ねたような業態であり、収集運搬の分析は、実は奥が深い分野である。そ
の分析の醍醐味は、プロフェッショナルバージョンを紹介するまで、待っていただかなくてはな
らない。ベーシックバージョンでは、車両回転数を分析するだけにとどめている。
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車両回転数とは、車両一台が一日あたり何回出動するかという数値である。回転数は、巡
回回収(ミルクラン)をしていれば小さくなり、スポット回収や拠点間運搬をしていれば多くなる
ので、一概に回転数が多ければいいとは言えない。
図表 5-6-1
記号
項目
j
年間処理実績
k
総運搬能力
l
車両回転数
数値
数式
12,779.3t 公開データ
137.2t 公開データ
0.31 回 j/k/b
上記の計算式では、積載効率を1.0、つまりつねに満載状態で運搬していると仮定してい
る。個別業者の分析をするには実績値を用いてもよいが、複数業者を比較するにはむしろ標
準値を用いた方がよい。積載効率αを考慮するなら、この算式はつぎのように修正される。
l = j / k×α / b
巡回回収の場合の積載効率は0.5程度、拠点間運搬の場合には1.0程度であることが一
般的である。
収集運搬には単純運搬のほかに、積替保管がある。産廃処理業にとってもっとも特徴的な
業態である積替保管の分析も、プロフェッショナルバージョンを紹介するまで、待っていただく
ことになる。
中間処理施設稼働率
-------------中間処理施設稼働率は、公開情報の「処理の状況」の中間処理の年間処理実績から計算
する。
中間処理施設が受け入れる廃棄物の比重は、軽量物を0.2(木くず、廃プラスチック類な
ど)、重量物を1.0(がれき類、金属くず、汚泥など)と仮定する。軽量物、重量物の区分がわ
からない場合は、0.7を用いる。
iメソッドでは比重換算にあたって、環境省の通達(マニフェスト集計にあたっての参考値)を
用いない。この通達は運搬時又は処理時の空隙率を勘案していない単体比重を用いている
場合(木くずなど)と、空隙率を勘案している実質比重を用いている場合(廃プラスチック類な
ど)とが混在しており、測定基準が不明確で実務的に使えない。
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一日平均処理実績は、説明するまでもなく、年間処理実績で除して求める。
稼働日数は公開情報がないが、日曜・祭日を休業日とすれば、年間300日程度である。
個別分析するには実際の稼働を用いてもよいが、比較検証の場合は標準値として300日を
用いる。
処理能力は、公開データの許可証から求める。複合施設の処理能力については、施設と
処理の状況から、ラインの構成を推定する必要がある。詳細は、すでに5-4節で説明したと
おりであるが、ここで復習しておく。
ラインXが処理施設Aと処理施設Bからなり、Xの能力をx、Aの能力をa、Bの能力をb、a>
bとした場合、
AとBが並列ラインの場合 x=a+b
AとBが完全直列の場合 x=b (abのうち小さい能力をクリティカルとして用いる)
AとBが不完全直列の場合 x=a (abのうち大きい能力をクリティカルとして用いる)
なお、完全直列とは、すべての廃棄物がAとBを必ず通過する場合である。また、不完全直
列とはA又はBを中抜きすることがある場合、すなわち処理能力の小さい施設が補完的(前
処理的又は後処理的)に連結される場合である。たとえば前処理的な破砕機、後処理的なベ
ーラー(梱包機)などである。
図表 5-6-2
記号
項目
数値
数式
a
年間処理実績
53,866.3t 公開データ
b
稼働日数
c
一日平均処理実績
179.6t a/b
d
処理能力
385.1t 許可証等
e
施設稼働率
46.60% c/d×100
300 仮定
上記計算例では、施設稼働率は46.6%となっているが、施設稼働率は50%が適正値で
あるので、問題ない値だと言える。廃棄物処理施設の能力は定格能力ではなく、最大能力で
算定されていることが多いので、実働の施設稼働率は100%にはならない。ただし、焼却炉
については、定格能力で設置されている場合がある。焼却炉は定格能力で稼働させないと完
全燃焼しないからである。ただし、そもそも焼却炉の能力を熱量ではなく、廃棄物量で規定す
るなど、法の基準には科学的厳密性がない。また、破砕機ついても、廃棄物の比重、硬度、
空隙率によって、処理能力には大きな誤差を生じる。
したがって、許可処理能力をベースとした施設稼働率の適正値にあまり厳密にこだわる必
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要はない。25%以下は低すぎ、100%以上は高すぎるので、原因を究明する必要がある。
最終処分場残余年数
-------------最終処分場の残存容量は、「維持管理記録」として公開されている。残存容量は、設計容
量から埋立済容量を減算して求めることができず、時点ごとに測量して求めるしかない。
計算で求められない主な理由は、次の3点である。
(1)容量は体積、処分量は重量で計算されており、比重換算が必要。
(2)中間覆土による容量の割引がある。(千葉県では2mごとに0.5mの覆土)
(3)コンパクター等による圧密、乾燥や吸水による収縮などで体積が変化する。
比重換算値は、処分場ごとの実測平均値を用いるのが厳密だが、iメソッドでは標準値を0.
7と仮定する。0.7は経験値である。例としては阪神淡路大震災で発生し、最終処分された
神戸市の震災廃棄物800万トンの平均比重が0.7だった。
環境省が発表している残余年数推計では、比重を1.0と仮定している。つまり、容積を重
量で割っているが、根拠はないと思われる。
図表 5-6-3
記号
項目
f
残存容量
g
年間処理実績
h
比重換算
i
残余年数
数値
数式
585,900 立米 公開データ
34,725t 公開データ
49,607 立米 g/0.7
11.8 年 f/h
残余年数とは、現在のペースで埋め立てた場合の最終処分場の寿命であるが、上記の計
算式では、中間覆土や圧密の効果を考慮していない。
中間覆土の影響で容量が 20%割り引かれ、圧密で体積が 30%圧縮するとすれば、この算
式は次のように修正される。
i = f×0.8 / h×0.7
「i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~」バックナンバー
62 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(1)
63 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(2)
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