(3) 仮説3について ア 複式学級における指導計画の工夫 (ア) 基本的な考え方 国語科の目標を達成させ,思考力・判断力・表現力の育成に向けて言語活動を充実させるためには, 「単元を貫く言語活動」を位置付けた単元の指導計画を構想することが大切である。「単元を貫く言 語活動」とは,下例のように当該単元を通して,一連の学習の過程に即して位置付ける言語活動のこ とである。 例:2年「お話を読んでかんそうを書こう」(教材:スイミー) 単元を貫く言語活動[レオ=レオニ作品を読んで,主人公についての感想カードを書く。 ] 第1次 [課題をつかむ] 第2次[情報を読み取る・情報をもとに考える] 第3次[主体的に考える] 並行読書( 「レオ=レオ二作品コーナー」の設置,ブックリストの活用) しかし,複式学級においては,教材文を読み進める過程における教師の働きかけの時間が少なく, 子どもの思考の深まりが不十分であるという課題が見られた。 そこで,2つの学年の直接指導が重ならないように,教材文の読み取りと発展的な学習を交互に進 める「ABワンセット方式」で単元の指導計画を立てることにした。 (イ) ABワンセット方式とは 展開部(第二次)を,「A 教科書教材」→「B 自分の選んだ本」→「A 教科書教材」→と交互 に進める指導計画である。学習がワンセットになっているため,単位時間に教科書教材を読む目的を 子どももはっきりと理解することができる。また,「教科書で読む」と「自分の選んだ本で読む」が 2時間セットになっているので,一単位時間内に,「教科書教材」→「自分の選んだ本」と取り入れ る場合と異なり,教科書の学びが膨らみ,自分の選んだ本を読む時間が圧迫されるということがない。 さらに,教材での学びを即座に自分の選んだ本の読みや表現に生かすことができるという長所があ る。 複式指導の面からは,ワンセットを単元内でずらして組み合わせることで,子どもの主体的な学び を保障できるとともに,直接指導の充実を図ることができるという利点がある。 ただし,導入部(第一次)終了までに,発展的な学習で使う自分の本を選んでおく必要があり,単 元導入前から教室に関連図書を揃えておく等の手立てをとらなければならない。 9 【3・4年複式学級での実践例】 (1) 単元の構想 3・4年複式学級の国語科指導において,ABワンセット方式を次のように構想し取り入れた。 3年 単元名「読んで,考えたことを発表しよう」(教材名:海をかっとばせ) 単元を貫く言語活動[リーフレットを作って,発表しよう。 ] 第1次 [課題をつかむ] 第2次[情報を読み取る・情報をもとに考える]A 第3次 [表現の交流] [主体的に考える]B 並行読書( 「ファンタジーの本コーナー」の設置,ブックリストの活用) 4年 単元名「物語を読んでしょうかいしよう」(教材名:一つの花) 単元を貫く言語活動[紹介カードを書いて,友達に紹介しよう。 ] 第1次 [課題をつかむ] 第2次[情報を読み取る・情報をもとに考える]A 第3次 [表現の交流] [主体的に考える]B 並行読書( 「戦争に関する本コーナー」の設置,ブックリストの活用) (2) 指導計画(3年全8時間,4年全9時間) 4年生は戦争について予備学習の時間をとり,3年生と4年生でABの時間を一時間ずらした単元の指導 計画を立てた。 過程 学習課題・主な学習活動(3年) 学習課題・主な学習活動(4年) 1 単元のめあてを話し合い,学習計画を立てよう。 1 単元のめあてを話し合い,学習計画を立てよう。 第一次 お気に入りのファンタジーの本のリーフレッ トを作って,友達に発表しよう。 心にぐっとくる戦争に関する本の紹介カード を書いて,友達に紹介しよう。 10 第二次 2 「海をかっとばせ」の物語の設定を整理しよう。A 2 戦争の様子や難語句について調べよう。 3 お気に入りの本の物語の設定をまとめよう。B 3 「一つの花」の作者について知り,物語の設定を整 理しよう。A 4 ワタルはどんな性格だろう。A 4 お気に入りの本の作者について知り,物語の設定を まとめよう。B 5 お気に入りの本の主人公はどんな性格だろう。B 【本時】 5 ゆみ子たちの生活は,戦争中と戦争後でどのように 変わったのだろう。A 【本時】 6 ワタルと自分をくらべて,にているところやちがう 6 お気に入りの本では,戦争中と戦争後で生活がどの ところを見つけるには,どうすればよいだろうか。A ように変わっているだろう。 7 お気に入りの本の主人公と自分をくらべて,にてい 7 なぜ作者は,「一つの花」という題名をつけたのだ るところやちがうところはどこだろう。B ろう。A 8 お気に入りの本には,作者のどのような思いが込め られているのだろう。B リーフレットや紹介カードを友達に発表し,交流する。 第三次 3年生 4年生 (3) 本時の実際(5/8) 3年生は間接指導(B) ,4年生は直接指導(A)を中心に進めた。 過程 B 3年生 主な学習活動 教師の 位置 2 学習計画表をもとに本時のめあてを確 認する。 1 前時までの学習を振り返る。 5 3 読みの視点,学習の進め方を確認する。 15 5 グループで話し合って交流し,ホワイ トボードに考えをまとめる。 6 グループごとに考えを発表し,みんな で考えを練り上げる。 6 一人ずつ考えを発表し,みんなで考えを 練り上げる。 7 11 深める 深める 4 一人調べをする。 ・音読 ・ワークシート 調べる 調べる 5 ペアで話し合って交流し,自分の考えを まとめる。 ゆみ子たちの生活は,戦争中と戦争 後でどのように変わったのだろうか。 見通す 見通す 4 一人調べをする。 ・微音読 ・ワークシート 過程 2 学習計画表をもとに本時のめあてを確 認する。 5 お気に入りの本の主人公は,どんな せいかくだろう。 3 学習の進め方,読みの視点を確認する。 A つかむ つかむ 1 前時までの学習を振り返る。 4年生 主な学習活動 7 本時のまとめをする。 戦争中は,食べ物も十分ではなく家 族とも別れなければならないつらい生 活だったが,戦争後は,食べ物も選べ るくらいゆたかになり,平和で幸せな 生活に変わった。 トッコは,自分のよわみをみせる のがきらいで,つりばしをわたれな いのをくやしがっているまけずぎら いな女の子。 8 作成したリーフレットを4年生に発表 する。 7 8 紹介カードの「作品のとくちょう」の ページを作成する。 6 生かす 生かす ゆうすけは,たけのぼりがしたい けれど,のぼれる自信がなくて練習 しようとしないいじっぱりな男の 子。 まとめる まとめる 7 本時のまとめをする。 9 本時の学習で分かったことを3年生に 発表する。 (4) 授業記録 ≪一部抜粋≫ ねらいを達成するために,3年生においては主体的な学びを保障するための手立てを講じ,4年生におい ては担任による練り上げ( 「深める」過程)での発問の精選を行った。 3年生・・・「6 一人ずつ考えを発表し,みんなで考えを練り上げる場面」 ガイド:考えたことを発表してください。 A:ぼくは,元気いっぱいな女の子だと思います。 (挿 絵を見て)お友達がいっぱいいて遊んでいるから。 B:Aさんは,お話の最後の方で,トッコが村の子た ちと遊ぶようになったから,そう思ったってこと? A:うん。最後は元気に遊んでいたから。 C:どこに書いてる? B:ここに書いているよ。(その部分を読む。) ※ ペアで同じお気に入りの本を選定させること により,根拠を明確にして自分の考えを伝えた り,相手と自分の考えを比較して聞いたりできる ようにした。 C:本当だ。 B:ぼくも,トッコは本当は元気な女の子だと思う。 最初は友達がいなかったけど,ふしぎな男の子のお かげでつりばしがわたれて,友達ができたから,元 気なトッコに戻ったんだと思うな。 C:男の子のおかげでトッコは変わったってことだ ね。 D:まあ,最初から元気だったけど,一人でさみしく て元気が出なかったんだよ。 C:じゃあ,トッコは元気いっぱいな女の子でいいね。 【主体的な学びを保障するための手立て】 手立て1:読みの視点の提示 手立て2:ワークシートの工夫 手立て3:「人がら(性格)を表す言葉カード」の活用 4年生・・・「6 グループごとに考えを発表し,みんなで考えを練り上げる場面」 (グループごとに発表した後) T:なるほど。戦争中と戦争後の違いについてよく考えたね。では,1班が書いていたんだけど,戦争後の場面に 「一つだけ」という言葉が出てこないのはどうしてかな。【中心発問】 12 A:ゆみ子が大きくなって,食べものをほしがったらいけないと思ったから。 T:本当にそうかな。ゆみ子が変わったのかな。 B:いや,食べ物をたくさん食べられるようになったから。教科書で, 「お肉とお魚どっちがいいの」って,食べ物を選んでいるし。 ※ 教科書の本文の拡大コピーを活用することにより,叙述を根拠 にしながら読ませることができた。 C:戦争後は好きなものを食べられるくらいくらしが豊かになったって ことだよ。 T:そうか,戦争後はくらしが豊かになったんだね。では,コスモスについて,戦争中と戦争後とを比べてみると どうかな。【比較させる問い】 D:戦争中は一輪のコスモスの花だったのが,戦争後はコスモスの花でいっぱいになっている。 E:ゆみ子やお母さんが,お父さんからもらった一輪のコスモスの花を大事に育てたから,いっぱいのコスモスの花 になったんじゃないかな。 ※ 前時までの紙板書や挿絵を掲示することにより,場面の移り変わりやゆみ子の成長の変化といった物語全体 の学習をつないだ読みを進めることができた。 A:お父さんからもらった大事な花だもんね。 B:戦争後は,コスモスのトンネルって書いてあって明るい感じがするよ。 T:今,Eさんが,戦争後にコスモスの花がいっぱいになったのは,ゆみ子やお母さんが大事に育てたからだって 言ったよね。ゆみ子とお母さんの 10 年間の様子が目に浮かぶね。10 年間のゆみ子たちの様子について,コスモス を大事に育てたこと以外に想像できることはないかな。【問い返し】 C:ゆみ子とお母さんはすごく大変だった。 E:それでもゆみ子とお母さんはたくましく生きてきたと思うよ。 F:お父さんが戦地から帰ってくるのをずっと待っていたと思う。 B:待っている間ゆみ子はたくさんお手伝いをして,お母さんを支えてきたんじゃないかな。 T:「十年の月日がたちました。」という一文には,ゆみ子とお母さんのいろいろな思いがこめられているんだね。 (5) 考察 本実践の成果○と課題●は以下のとおりである。 ○ 単元の指導計画をABワンセット方式で行うことにより,一単位時間の教師の関わりに軽重を付けること ができ,直接指導の時間が十分とれるようになった。 ○ 単元の指導計画をABワンセット方式で考えたことにより,Aの学習で習得したことをBの学習で活用す るという小サイクルでの学習方法が確立され,単位時間の目指す子どもの姿が明確になり,Aの学習におけ る指導内容の精選が可能となった。 ○ ABワンセット方式の単元の学習計画は,子どもたちにとって教科書教材を読む目的がより明確になり, 学習意欲の高まりが見られた。また,教科書教材での学びを即座に自分の選んだ本の読みや表現に生かすこ とができ,主体的な学習態度が見られるようになった。 ● Bの学習は間接指導が多くなるため,一人一人の見届けをどのように行うかが課題である。子どもの主体 的な学びを保障するために,具体的な目指す子どもの姿を設定しておく必要がある。 ● Aの学習を生かしてBの学習を自分たちで進めていくことができるように, 読みの視点やワークシート等, 子どもたちが見通しをもって学習できるような手立てを整えておきたい。また,自主学習ができるように, Bの学習の活動内容や方法を一人一人に理解させておく必要がある。 ● 他領域においても単元の指導計画を工夫し,複式学級における単式化が図れないかを今後検討する必要が ある。 13
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