抄録 - 京都大学外科交流センター

「腹腔鏡下肝切除術における当科の工夫」
京都大学 肝胆膵・移植外科
瀬尾 智
【はじめに】当科では 2002 年からこれまでに 161 例の腹腔鏡下肝切除術を経験してき
たが、開腹肝切除に劣らない手術の質の担保を最優先に考えている。今回、当科におけ
る手術の質を担保するための腹腔鏡下肝切除術の工夫につき報告する。
【症例】疾患は、肝細胞癌 90 例、肝内胆管癌 4 例、転移性肝癌 48 例、その他 19 例で、
術式は肝部分切除 117 例、外側区域切除 19 例、葉切除 21 例、区域切除 2 例,亜区域切
除 2 例であった。HALS は 8 例で腹腔鏡補助下は 68 例、完全腹腔鏡下が 85 例であった。
【手術手技】臍部小開腹下にマルチポートアクセスを装着し、8 から 10mHg 気腹下、4
または 5 ポートにて手術を施行している。現在部分切除と外側区域切除は完全腹腔鏡に
て施行し、亜区域切除以上は、補助下で施行している。手術の質の維持ための工夫は、
①牽引糸をかけて切離面に適切なカウンタートラクションが常にかかるようにする。②
フレキシブルスコープを用いて常に切離面を正面視する。③肝切離には CUSA を用い、
止血にはシリゲータを装着した生食滴下バイクランプを用いることで開腹手術の手技
を再現する。④出血コントロールには Pringle 法を用い、止血困難時にはタコシールを
用いる。⑤再肝切除に備え、小開腹創下にはセプラフィルムを貼付する。
特に部分切除は①くりぬき切除、②切り落とし切除、③亜区域未満の系統切除の三種類
に分類し、それぞれの手術手技を定型化している。
くりぬき切除の手技:切除マージン確保のため、手前は 1.5 倍の距離をとり 3、6、9
時方向に牽引糸をかけ、腫瘍直上ポートから体外に誘導し前後左右に引っ張り視野を展
開する。肋間からの挿入時は、バルーン付きポートを使用することで、気胸の合併を防
いでいる。
切り落とし切除の手技:静脈系の出血が問題となる後半に難易度が上がるため肝臓を
hanging することで切離面を手前し、静脈系の出血を軽減している。
亜区域未満の系統切除の手技:術前にシュミレーションしたグリソン切離ポイントを術
中超音波で確認し、テストクランプでデマルケーションラインを確認後、手前から奥に
向かって肝切離を行う。
【結語】開腹手術の手技を腹腔鏡下に再現することを目指した手技の定型化によって、
手術の質を担保することが出来ると考える。