Document

◆
はじめに
◆
みなさん,こんにちは。数学の馬場 敬之(ばば けいし)です。これまで発刊
した「キャンパス・ゼミ」シリーズ(微分積分,線形代数,確率統計,複素関数
など…)は,多くの読者の皆様にご愛読頂き,大学数学学習の新たなスタンダー
ドとして定着してきたようです。
そして今回,「偏微分方程式キャンパス・ゼミ 改訂 1」を上梓することが出来
て,心より嬉しく思っています。
この「偏微分方程式キャンパス・ゼミ 改訂 1」は,これまで発刊した微分方程
式に関するキャンパス・ゼミシリーズ「常微分方程式キャンパス・ゼミ」,「フー
リエ解析キャンパス・ゼミ」,「ラプラス変換キャンパス・ゼミ」の完結編と言
えるもので,これを学習することにより様々な偏微分方程式が解けるようになり
ます。
微分方程式は 1 変数関数の常微分方程式と多変数関数の偏微分方程式の 2 つに
大別されます。熱伝導や振動など物理的な問題を考えるとき,独立変数として時
刻以外に位置(または変位)を表す座標が少なくとも 1 つは必要となるので,一
般に物理的な問題を微分方程式で表す場合,必然的にそれは偏微分方程式になる
のです。これは経済や経営工学など他の分野においても同様です。
しかし,このように重要な偏微分方程式ですが,それをいざ解こうとすると,
1 階偏微分方程式でも,ラグランジュの偏微分方程式や完全微分方程式など,複
雑でかつテクニカルな解法が必要であるため,最初の時点で挫折してしまう方が
多いかも知れません。しかし,2 階偏微分方程式には,波動方程式や熱伝導方程
式,それにラプラス方程式と物理学上とても重要な偏微分方程式が含まれるの
で,理論解析を必要とされる方は必ず,この偏微分方程式の解法(変数分離法と
フーリエ解析など…)を修得する必要があるのです。さらに,これらを円柱座標
や球座標で表示した場合,その解にはベッセル関数やルジャンドル多項式やル
ジャンドル陪関数が現れるため,数学的にも物理学的にも非常に重要なテーマを
含んでいるのです。
この難しいけれど重要な偏微分方程式を,基本的な微分積分の知識とやる気さ
えあれば,どなたでも 1,2 ヶ月程度でマスターできるように,グラフをふんだ
んに使いマセマ流の親切で丁寧な解説を駆使して,
2
この「偏微分方程式キャンパス・ゼミ 改訂 1」を書き上げました。
これまでの類書にないほど分かりやすい偏微分方程式の参考書に仕上がったと秘
かに自負しています。読者の皆様のご評価を頂けると幸いです。
この「偏微分方程式キャンパス・ゼミ 改訂 1」は,全体が 4 章から構成されて
おり,各章をさらにそれぞれ 10 ~ 20 ページ程度のテーマに分けていますので,
非常に読みやすいはずです。偏微分方程式は難しいものだと思っている方も,ま
ず 1 回この本を流し読みされることをお勧めします。初めは難しい公式の証明
などは飛ばしても構いません。全微分と偏微分,スカラー値関数とベクトル値関
数,勾配ベクトルと発散と回転,ラプラシアン,ラグランジュの偏微分方程式,
完全微分方程式,シャルピーの解法,波動方程式 utt = v2Δu,熱伝導方程式 ut =
aΔu,ラプラス方程式 Δu = 0,変数分離法,フーリエサイン級数と 2 重フーリエ
サイン級数,フーリエ変換,調和関数,ラプラシアンの円柱座標表示,ラプラシ
アンの球座標表示,ベッセルの微分方程式とベッセル関数,ルジャンドルの微分
方程式とルジャンドル多項式,ルジャンドルの陪微分方程式とルジャンドル陪関
数などなど,次々と専門的な内容が目に飛び込んできますが,不思議と違和感な
く読みこなしていけるはずです。この通し読みだけなら,おそらく 2 週間もあれ
ば十分のはずです。これで偏微分方程式の全体像をつかむ事ができるのです。
そして,1 回通し読みが終わったら,後は各テーマの詳しい解説文を精読して,
例題,演習問題,実践問題を実際に自力で解きながら,勉強を進めていって下さ
い。 この精読が終わったならば,後はご自身で納得がいくまで何度でも繰り返
し練習することです。この反復練習により本物の実践力が身に付き,「難解な偏
微分方程式もご自身の言葉で自在に語れる」ようになるのです。こうなれば,「数
学の単位はもちろん,大学院の入試も共に楽勝のはずです!」
この 「 偏微分方程式キャンパス・ゼミ 改訂 1」により,皆さんがこの奥深くて
面白い偏微分方程式の世界を堪能されることを心より願っています。
け い
し
マセマ代表 馬場 敬 之
こ の 改 訂 1 で は, 新 た に Appendix( 付 録 ) と し て , シ ュ レ ー デ ィ ン ガ ー
方 程 式 の 概 略 の 解説を加えました。
3
◆ 目 次 ◆
講義1
偏微分方程式のプロローグ
§ 1. 常微分方程式の解法 ……………………………………………8
§ 2. 偏微分と全微分
………………………………………………16
§ 3. ベクトル解析の基本
…………………………………………26
§ 4. 偏微分方程式のプロローグ
…………………………………34
● 偏微分方程式のプロローグ 公式エッセンス
講義2
1階偏微分方程式
§ 1. ラグランジュの偏微分方程式の解法
§ 2. 完全微分方程式と全微分方程式
§ 3. シャルピーの解法
………………………50
……………………………60
……………………………………………76
● 1階偏微分方程式 公式エッセンス
講義3
………………48
…………………………88
2階線形偏微分方程式
§ 1. フーリエ解析の復習
…………………………………………90
§ 2. 波動方程式 ……………………………………………………106
§ 3. 熱伝導方程式 …………………………………………………122
§ 4. ラプラス方程式 ………………………………………………148
● 2階線形偏微分方程式 公式エッセンス ……………………164
4
講義4
円柱・球座標での偏微分方程式
§ 1. 極座標・円柱座標におけるラプラシアン …………………166
§ 2. ベッセルの微分方程式とベッセル関数 ……………………176
§ 3. 円形境界条件をもつ偏微分方程式 …………………………192
§ 4. 球座標におけるラプラシアン ………………………………208
§ 5. ルジャンドルの微分方程式とルジャンドル多項式 ………216
§ 6. ルジャンドルの陪微分方程式とルジャンドル陪関数 ……232
● 円柱・球座標での偏微分方程式 公式エッセンス …………245
◆ Appendix(付録) …………………………………………………………246
◆ Term・Index(索引) ……………………………………………………250
5
§1.常微分方程式の解法
さ ァ , こ れ か ら“ 偏 微 分 方 程 式 ” の 講 義 を 始 め よ う 。 1 変 数 関 数 の 微
分 を “ 常 微 分 ”, 多 変 数 関 数 の 微 分 を“ 偏 微 分 ” と い い , し た が っ て , 1
変 数 関 数 u ( x ) の 微 分 方 程 式 を“ 常 微 分 方 程 式 ” ( o rd i n a ry d i ffe re n t i a l
eq u a t i o n ) ,ま た,多変数関数 u ( x ,y ) などの微 分 方 程 式 を“ 偏 微 分 方 程 式 ”
( p a rt i a l d i ffe re n t i a l e q u a t i o n ) と呼ぶこと は ,既 に 御 存 知 だ と 思 う 。
一般に,経時変化する熱伝導や振動などの物理的な問題を考える場合,
独立変数として時刻 t 以外に位置
( または変位 ) を表す座標が少なくとも
1 つは必要となるので,様々な物理現象を表す微分方程式は必然的に偏微
分 方 程 式 に な ら ざ る を 得 な い。 だ か ら , 学 生 , 社 会 人 を 問 わ ず 理 工 系 の
方 々, お よ び 文 系 で も 経 済 な ど 数 学 を 必 要 と す る 方 々 は, こ の 偏 微 分 方
程 式 の 解 法 に 当 然習熟しておく必要があるん だ ね 。
し か し, こ こ で は ま ず, 偏 微 分 方 程 式 の 解 説 に 入 る 前 に, そ の 基 礎 と な
る 常 微 分 方 程 式 に つ い て, 簡 単 な 例 題 を 解 き な が ら, そ の 基 本 的 な 解 法 パ
タ ー ン を 教 え よ うと思う。
● まず,常微分方程式から始めよう!
1 変 数 関 数 u ( x ) の導関数
( 常微分 ) u ´ ( x ) = dd ux は ,
u(x + Δ x) − u(x)
du
= lim
……( * a )
d x Δ x→0
Δx
で 定 義 さ れ る。 こ の 意 味 は ( * a ) の 極 限 が
図 1 常微分と微分係数
u
あ る 関 数 に 収 束 す る と き, そ れ を u(x) の
導 関 数 u´(x) =
u = u(x)
( x 1,u ( x 1))
du
とおくということな
dx
傾 き u ´ ( x 1)
ん だ ね。 そ し て , 微 分 可 能 , す な わ ち
u ´ ( x ) が 存 在 す る と き, 変 数 x に 定 数 x 1 を
接線
0
x1
x
代入したものを微分係数といい,これは図
1 に示すように,曲線 u = u(x) 上の点
( x 1 ,u ( x 1 )) に お ける曲線の接線の傾きを表す 。 以 上 が , 1 階 の 導 関 数 ( 微
8
● 偏微分方程式のプロローグ
分係 数
) に 関 す る 基本事項なんだね。
さ ら に , 必 要 な 階 数 だ け 微 分 可 能 な 1 変 数 関 数 u ( x ) の 2 階 , 3 階 , …,
n 階 , …の 導 関 数 ( 常微分 ) は次のように表すこ と も 大 丈 夫 だ ね 。
・2 階 導 関 数 u ´´ ( x ) = u
(2)
2
( x ) = d u2
dx
d 3u
(3)
・3 階 導 関 数 u ´´´ ( x ) = u ( x ) =
dx3
…………………………………………………
・n 階 導 関 数 u
(n)
n
( x ) = d un
dx
…………………………………………………
で は 次 ,
“ 常 微 分 方 程式”についても簡単に解説 し て お こ う 。で も 何 故“ 偏
微分方程式”の講義に,常微分方程式の解説をするのかって ? それは,偏
微 分 方 程 式 を 解 く 際 に 様 々 な 工 夫 を し て, 常 微 分 方 程 式 の 形 に も ち 込 む こ
と が 多 い か ら な ん だ。 だ か ら, こ こ で, 常 微 分 方 程 式 の 基 本 的 な 解 法 に つ
いて だ け で も 復 習 しておくことにしよう。
常微分方程式
x の 1 変 数 関 数 u ( x ) に つ い て , x と u と u ´ , u ´´ , …と の 関 係 式 を ,
u(x) の常微分方程式といい,この常微分方程式をみたす関数のこと
を , そ の 常 微 分 方 程 式 の 解 と い う。 そ し て , こ の 解 を 求 め る こ と を
常 微 分 方 程 式 を 解 くという。
一般 に n 階 の 常 微 分方程式は,
F ( x ,u ,u ´ ,u ´´ ,…,u
(n)
) = 0 の形で表される 。
そ し て, u ,u ´ ,u ´´ ,…, u
(n)
が す べ て 1 次 式 で あ る と き,“ 線 形 ” と い い,
そう で な い と き “ 非線形”という。いくつか例 を 示 そ う 。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
u´ + 2xu = 0
(u´)
2
= 4u
u´ + 2xu = 2x
u ´´ − u ´ − 6 u = 0
u ´´ + 9 u = 0
1 階線形常微分方程式
( u ´ ) 2 があるので, 1 階非 線 形 常 微 分 方 程 式
u ´ + P ( x )・u = Q ( x ) 型の 1 階 線 形 常 微 分 方 程 式
定数係数 2 階線形常微分 方 程 式
u ´´ + ω 2 u = 0 型の 2 階線形 常 微 分 方 程 式
9
● 1 階常微分方程式を解いてみよう!
常 微 分 方 程 式 の解法には様 々 なパターンが あ り ,こ れ ら を 詳 し く 勉 強 さ
れ た い 方 に は ,「 常 微 分 方 程 式 キ ャ ン パ ス・ゼ ミ 」 ( マ セ マ
) をお読みにな
る こ と を 勧 め る 。 こ こ で は, こ れ か ら 偏 微 分 方 程 式 を 解 い て い く た め に 必
要 な 最 小 限 の 知 識 を 整 理・確 認 す る た め に, 前 述 し た 5 題 の 常 微 分 方 程 式
を 実 際 に 解 い て いくことにしよう。
ま ず , 常 微 分 方 程 式 の 最 も 基 本 的 な 解 法 パ タ ー ン は, 次 に 示 す “ 変 数 分
離形”なんだね。
変数分離形の解法
du
= g ( x )・h ( u ) ……①
dx
(h(u) ≠
= 0) の形の微分方程式を“変数
分 離 形 ” の 微分方程式と呼び, その一般解 は 次 の よ う に 求 め る 。
① を 変 形 し て,
1
du = g(x) dx
h(u)
(u の式 )× du
∫
左 辺 は (u の 式 )× du, 右 辺 は (x の 式 )× dx
と そ れ ぞ れ 変 数 を 分 離 し て,
( x の式 ) × d x
1
du =
h(u)
すればいい。
∫
を付けて積分
∫ g(x) dx
そ れ で は , 次 の変数分離形の微分方程式を 実 際 に 解 い て み よ う 。
例 題 1 関 数 u ( x ) について,次の微分方程 式 の 一 般 解 を 求 め よ う 。
( 1 ) u ´ + 2 x u = 0 ……① ( 2 ) ( u ´ ) 2 = 4 u ……②
( 1 ) ま ず , dd ux
+ 2 x u = 0 ……① を変形し て ,
du
1
= − 2 x u du = − 2x dx
u
dx
( u の式 ) × d u ( x の式 ) × d x
1
du = −
u
∫
∴ u ( x ) = ± e ・e
10
∫ 2 x d x l o g u =
C1
− x + C 1 2
l o g は“自然対数”を表す。
−x
2
= Ce
−x
2
……① ´
こ れ を 新たに任意定数 C とおく。
変数を分離した !
u = e −x
2
+ C1
任意定数
( C : 任 意 定 数 ) となって,答えだ。