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農村地域における生活排水由来の医薬品による水質汚染
の実態と対策に関する研究( 学位論文要旨 )
菅田, 伴
. vol., no., p.-
2015-09-15
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/4656
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受理:2015-7-15,審査終了:2015-8-28
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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/
(第3号様式)(Form No. 3)
学 位 論 文 要 旨
Dissertation Abstract
氏名:
Name
菅田
伴
学位論文題目:
Title of Dissertation
農村地域における生活排水由来の医薬品による水質汚染の
実態と対策に関する研究
学位論文要旨:
Dissertation Abstract
本研究では,生態系への悪影響が危惧されている生活排水由来の医薬品を研究
対 象 と し た . そ し て , 農 業 集 落 排 水 施 設 (以 下 , 集 落 排 水 施 設 )と , そ の 処 理 水 を
送水した農業用ため池における医薬品の存在実態を明らかにし,農村地域での医
薬品による水質汚染対策としての集落排水施設と農業用ため池の有効性を検討す
ることを目的とした.
そ し て , 愛 媛 県 A市 内 で 実 稼 働 中 の 5施 設 の 集 落 排 水 施 設 (活 性 汚 泥 法 : 4施 設 ,
生 物 膜 法 : 1施 設 )に お い て , 流 入 水 と 処 理 水 の ス ポ ッ ト 採 水 を 2010年 の 秋 に 実 施
し ,医 薬 品 の 分 析 を 行 っ た .調 査 対 象 医 薬 品 は ,解 熱 鎮 痛 消 炎 剤 4種 (Indomethacin,
Propyphenazone,Ketoprofen,Naproxen),抗 脂 血 症 用 剤 2種 (Bezafibrate,Clofibric
acid), 鎮 痒 剤 2種 (Crotamiton, Lidocaine), 強 心 剤 (Caffeine), 抗 潰 瘍 剤 (Sulpiride),
抗 真 菌 剤 (Griseofulvin),抗 生 物 質 (Clarithromycin),抗 て ん か ん 剤 (Carbamazepine),
紫 外 線 吸 収 剤 (Benzophenone), 防 虫 剤 (DEET)の 合 計 15種 類 と し た . こ れ ら の 医 薬
品は、いずれも日本国内で一般に広く使用され,都市地域の公共下水道での検出
事例がある.
そ の 結 果 ,全 5施 設 の 流 入 水 と 処 理 水 か ら 15種 類 の 医 薬 品 す べ て が 検 出 さ れ ,そ
の 濃 度 範 囲 は ,流 入 水 で 2ng/L-21,746ng/L,処 理 水 で 3ng/L-5,536ng/Lで あ っ た .そ
して,活性汚泥法の集落排水施設では,流入水より処理水の濃度が多くの医薬品
で 低 下 し て い た .例 え ば ,微 生 物 分 解 性 の 高 い Caffeine,Bezafibrateは 全 施 設 で 80%
以 上 の 低 下 率 で あ り , 微 生 物 分 解 性 の 低 い Carbamazepineや Propyphenazoneも 施 設
に よ っ て は 30% 程 度 の 低 下 率 が 得 ら れ た . 一 方 , 生 物 膜 法 の 施 設 で は , 濃 度 低 下
率 が 活 性 汚 泥 法 の 施 設 よ り 低 い 成 分 が 9種 類 存 在 し ,医 薬 品 除 去 能 力 は 活 性 汚 泥 法
の施設より低いことが示唆された.流入水と処理水に対して生態リスク評価を行
っ た 結 果 ,流 入 水 で は Ketoprofen,Clarithromycinの リ ス ク 評 価 値 が 1を 上 回 り ,生
態系へのリスクが危惧されるレベルと評価された施設が多かったが,処理水では
全施設で生態系に悪影響を及ぼす濃度には達していなかった.
さ ら に ,愛 媛 県 B市 内 で は ,実 稼 働 中 の 集 落 排 水 施 設 と ,そ の 施 設 か ら の 処 理 水
が 送 水 さ れ た 農 業 用 た め 池 (有 効 貯 水 量:10,000m 3 ,最 大 水 深:4.5m)で ,2013年 の
灌漑期に調査を行った.調査ため池には,流入河川等はなく,調査期間中にため
池 に 流 入 し た 水 は 処 理 水 と , 降 雨 に 伴 う 集 水 域 (林 地 の み )か ら の 流 出 水 の み で あ
っ た .調 査 期 間 中 は 処 理 水 と た め 池 か ら の 流 出 水 (余 水 吐 か ら オ ー バ ー フ ロ ー す る
直 前 の 表 層 水 )を 週 1回 程 度 採 水 し , た め 池 内 の 深 さ 方 向 に つ い て も , 調 査 期 間 中
に 1回 ,表 層 か ら 底 層 ま で 水 深 1mお き に 採 水 し た .そ し て 採 水 し た 試 料 に 対 し て ,
5種 類 の 医 薬 品 (Bezafibrate, Carbamazepine, Crotamiton, DEET, Ketoprofen)の 分
(第3号様式)(Form No. 3)
析を行った.
その結果,ため池からの流出水の医薬品濃度は常に処理水の医薬品濃度よりも
低 か っ た .調 査 期 間 中 の 処 理 水 の 平 均 濃 度 は ,Bezafibrateが 45.6ng/L,Carbamazep
ineが 108.4ng/L, Crotamitonが 967.2ng/L, DEETが 318.1ng/L, Ketoprofenが 61.4ng/L
で あ っ た が , 流 出 水 の 平 均 濃 度 は , そ れ ぞ れ 7.0ng/L, 16.5ng/L, 130.1ng/L, 42.9n
g/L, 1.0ng/Lで あ っ た . 調 査 期 間 全 体 で の た め 池 で の 濃 度 低 下 率 は , Ketoprofenが
98% , そ れ 以 外 の 4成 分 が 85%~ 87%と い う 高 い 値 で あ っ た . そ し て , こ の 濃 度 低
下 の 大 き な 要 因 は , 希 釈 と 光 分 解 で あ る と 考 え ら れ た . 水 深 方 向 の 調 査 で は , Ke
toprofenが 全 水 深 で 定 量 下 限 値 以 下 の 低 濃 度 で あ っ た が , そ れ 以 外 の 4成 分 は , 表
層の方が底層より濃度が高いという不均一性が明らかとなった.この原因は,た
め池に水温躍層が生じていて,処理水は主に水温躍層より浅い部分に流入しやす
かったためと考えられた.ただし,前述のように表層の医薬品濃度は処理水と比
較すると極めて低く,水温躍層が生じて,ため池内が完全混合状態になりにくい
場合でも,大きな医薬品濃度低下効果が得られることが示された.
以上のように,本研究では,農業集落排水施設と処理水を送水した農業用ため
池における医薬品の存在実態を明らかにし,農業集落排水施設とため池が農村地
域における医薬品による水質汚染対策として有効であることを示した.