論文要旨 - 愛媛大学図書館

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光・熱特性を付与した農業用ETFEフィルムの開発( 学位
論文要旨 )
有賀, 広志
. vol., no., p.-
2015-02-17
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/4575
Rights
Note
受理:2015-01-21,審査終了:2015-02-17
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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/
(第3号様式)(Form No. 3)
学 位 論 文 要 旨
Dissertation Abstract
氏名:
Name
有賀 広志
学位論文題目:
Title of Dissertation
光 ・ 熱 特 性 を 付 与 し た 農 業 用 ETFEフ ィ ル ム の 開 発
学位論文要旨:
Dissertation Abstract
ETFE( エ チ レ ン - テ ト ラ フ ル オ ロ エ チ レ ン 系 共 重 合 体 ) を 用 い た フ ッ 素 樹 脂 フ ィ
ル ム が ,農 業 用 被 覆 資 材 と し て 使 用 さ れ て か ら 25 年 が 経 過 し た .ETFE フ ィ ル ム は ,
農業用被覆資材の必須特性である透明性,高い機械的強度,汚れにくさ,引き裂けに
く さ 等 に 優 れ て お り , し か も そ れ ら の 特 性 が 20 年 以 上 も 変 化 し な い 優 れ た 材 料 で あ
る.そこで太陽光からの全波長域の光(紫外線,可視光線,近赤外線)に対して機能
性 を 有 す る ETFE フ ィ ル ム を 開 発 し , そ の 光 ・熱 特 性 や 耐 久 性 を 評 価 す る と 共 に , そ
れらフィルム下における野菜の成長とハウス内環境について調査した.
紫 外 線 域 に 対 し て は 新 規 に UV カ ッ ト フ ィ ラ ー を 合 成 し , そ の 機 能 や 機 械 特 性 が 屋
外 暴 露 で 12 年 以 上 経 過 し て も ほ と ん ど 低 下 し な い フ ィ ル ム を 開 発 し た . 数 十 ナ ノ サ
イ ズ の 水 酸 化 セ リ ウ ム を 沈 殿 さ せ , そ の 沈 殿 物 を 水 ガ ラ ス (シ リ カ )で 被 覆 し , そ の 後
焼 成 し た 酸 化 セ リ ウ ム : シ リ カ = 40: 60 の シ リ カ 被 覆 酸 化 セ リ ウ ム 粒 子 を 考 案 し た .
シ リ カ は ETFE か ら 発 生 す る フ ッ 酸 か ら 酸 化 セ リ ウ ム を 保 護 す る .加 え て こ の 粒 子 を
分 散 さ せ る 表 面 疎 水 化 処 理 法 も 考 案 し た .従 来 の UV 光 を 透 過 す る ETFE フ ィ ル ム は ,
ポットやカーテンなどのハウス内のプラスチック材料が数年で劣化する問題があった
が , そ の 寿 命 が 4 倍 程 度 ま で 伸 び る こ と , ま た UV 光 の カ ッ ト に よ り 害 虫 の ハ ウ ス 内
密度が減少する効果も確認した.
施 設 栽 培 に お い て は 光 合 成 有 効 波 長 域 (可 視 光 線 域 )の 透 過 率 が 高 い 必 要 で あ る こ と
か ら , 光 合 成 に 特 に 有 効 と さ れ る 600~ 700 nm の 光 量 を 増 加 さ せ る 波 長 変 換 フ ィ ル
(第3号様式)(Form No. 3)
ム を 開 発 し た . 波 長 変 換 材 料 は 558 nm 付 近 の 緑 色 光 を 吸 収 し 620 nm 付 近 の 赤 色 光
を 発 光 す る ペ リ レ ン 系 有 機 顔 料 と し た . こ の 材 料 は UV 光 で 劣 化 す る た め フ ィ ル ム 中
に 無 機 の UV カ ッ ト 剤 を 併 用 す る こ と に よ り 4 年 程 度 の 寿 命 を 7 年 程 度 に 伸 ば す こ と
が で き た .展 張 初 期 は 太 陽 光 の 1.07 倍 程 度 の 高 い 赤 色 光 透 過 を 得 た .実 展 張 が 進 む
に つ れ 青 色 光 や 緑 色 光 の 吸 収 は 少 な く な っ た が ,対 照 区 と し た 通 常 の ETFE フ ィ ル
ム よ り は 約 4 年 後 も 1.07 倍 赤 色 光 が 多 い の を 確 認 し た .ハ ク サ イ で は 地 上 部 生 体
重が増加し,ハツカダイコンでは地下部の肥大が促進された.セロリは最大葉の
SPAD 値 , 草 丈 , 地 上 部 の 乾 物 率 お よ び 最 長 茎 の 第 1 節 の 硝 酸 態 窒 素 濃 度 に 差 異 は
認められなかったが,地上部の生体重と乾物重はやや劣る傾向にあった.レタス
は 最 大 葉 の SPAD 値 , 地 上 部 の 生 体 重 , 乾 物 重 お よ び 乾 物 率 で は 有 意 差 は 認 め ら れ
なかったものの,やや生育が促進される傾向にあった.サツマイモは地上部生体
重 が 波 長 変 換 60 μm 区 で 最 も 低 く な っ た が , 塊 根 生 体 重 は 最 大 と な り , 塊 根 の 肥
大 が 促 進 さ れ た . し か し 波 長 変 換 100 μm 区 で は 塊 根 の 肥 大 が や や 劣 っ て い た .ホ
ウ レ ン ソ ウ で は , 最 終 調 査 で SPAD 値 , 地 上 部 生 体 重 お よ び 草 丈 に お い て 差 異 は 認
められなかった.キュウリについては総収穫高,成長,果実の乾物率が大きくな
ることが分かった.しかし果実の長さと曲がり程度,果実の平均重量には差は認
め ら れ な か っ た . P 含 有 率 は 果 実 , 第 10 葉 と も に 高 く な り , そ の 他 の 無 機 成 分 含
有率は,波長変換区でやや高くなる傾向にあった.このように野菜の種類によっ
て波長変換の効果が異なることがわかった.
近赤外線域については,高温期のハウス内温度上昇を抑制する目的から近赤外線吸
収 フ ィ ル ム を 開 発 し た .近 赤 外 線 吸 収 特 性 を 有 す る 六 ホ ウ 化 ラ ン タ ン( LaB 6 )を ,シ
リ カ で 被 覆 し て 10 年 以 上 の 耐 水 性 及 び 耐 候 性 を 付 与 さ せ た フ ィ ラ ー を 新 規 に 合 成 し
た . シ リ カ 被 覆 LaB 6 粒 子 を 分 散 さ せ た IRC79( 可 視 光 線 透 過 率 79% , 日 射 透 過 率
63%) の フ ィ ル ム を , PET 系 熱 線 反 射 フ ィ ル ム 及 び 農 業 用 UV カ ッ ト PET フ ィ ル ム
と 同 一 ハ ウ ス に 展 張 し ,照 度 ,葉 温 等 に つ い て 測 定 し た .近 赤 外 線 吸 収 型 の IRC フ ィ
ルムにおいても地温や葉温の上昇抑制が認められたが,可視光線域(光合成領域)の
波長も若干吸収されることから生育への悪影響が懸念されたため,今後さらなる研究
開発が必要である.
農業用被覆資材の簡便な断熱性評価法と保温性についても検討した.フィルム上下
に断熱性の高い発泡ポリスチレンを主とするスペーサーで空気層を確保し,市販の熱
伝導率測定装置を使用した熱貫流率測定法を考案した.1 時間程度で測定が終了しそ
の 値 の 再 現 性 は 高 か っ た .既 報 の 熱 貫 流 率 の 値 と 高 い 相 関( R 2 =0.910)が 認 め ら れ た
ことから,農業資材の相対的断熱性評価の簡便な方法として利用可能である.熱貫流
率 に 対 し て は 遠 赤 外 線 透 過 率 が 大 き な 影 響 を 与 え る こ と ,ま た ETFE フ ィ ル ム の 1 重
ハ ウ ス お よ び 2 重 ハ ウ ス の 屋 外 展 張 試 験 に お い て ,厳 冬 期 の 最 低 気 温 の 平 均 は 0.7 ℃ ,
3.0 ℃ そ れ ぞ れ 屋 外 よ り 高 く , 特 に 2 重 ハ ウ ス に お い て 保 温 性 の 改 善 が 見 ら れ る こ と
を確認した.