201508 華鐘通信№246 246 号巻頭言 2015 年上半期経済実績にみる中国経済の展望 日本も中国も今年の夏はかなり暑い。日本で な降伏文書署名、9 月 3 日は中国の抗日戦勝記 は地方によって摂氏 35 度以上の猛暑日が連続 念日(国定休日)と続く。更に中国における日 で 10 日以上も続いて、熱中症で死亡する人が相 中戦争に関する記念日としては、1931 年日本軍 次いでいるが、2020 年のオリンピックではちょ が満州事変を引き起こした柳条湖事件の 9 月 18 うど今の季節に行われるというのだから大変で 日(中国では九一八事变と呼ぶ国辱記念日)、 ある。予算不足で屋根なしになりそうだが、8 1937 年 7 月 7 日は日中戦争の発端となった盧溝 月という今の季節ですり鉢型の炎天下スタジア 橋事変(中国では七七事変という)、同年 12 月 ムで陸上などの決勝が行われることを考えると 13 日は後に南京大虐殺と言われる事件の発端と 恐ろしい。観客も含めれば確実に死者が出そう なった日本軍の南京占領の日である。 なオリンピックになりそうだが、なぜ国の借金 ウイキペディアによれば、先の第二次世界大 が 1,057 兆円(一人当たり 832 万円、2015 年 6 戦で全世界の戦争犠牲者は、 世界全人口の 2.5% 月末)もある日本がオリンピックを誘致しなけ 前後の 50~80 百万人、中国では人口の 3%前後 ればならないのか、なぜ 8 月にしなければなら の 10~20 百万人、 日本では人口の 4%前後の 2.6 ないのか、なぜ現在の国立競技場を壊して新し ~3.1 百万人と言われている。これだけ多くの い競技場を新築しなければならないのか、関係 人々の命が、日本やドイツが引き起こした戦争 者にはそれぞれの理屈があるのだろうが、素人 で失われたことは紛れもない歴史の事実である。 の私達には何とも理解し難いことが多すぎる 中国では「前事不忘,后事之师(過去を忘れず、 2020 年の東京オリンピックである。 未来の師となす)」或いは「以史为鉴,面向未来 話題は変わるが、今年は第 2 次大戦後 70 周年 (歴史を鑑(かがみ)として未来に向かう)」 ということで、日本の安倍晋三総理は戦後 70 周 という言葉がよく用いられるが、先の戦争を起 年の総理談話を出すという。折しも多くの憲法 こしてこれだけ多くの犠牲者を出したことへの 学者が憲法違反とする集団的自衛権行使を含む 真摯な反省も世界平和への将来展望もないなら 安保改正関連法案が衆議院で強行採決されて参 ば、まことに悲しいとしか言いようがない。 議院で審議中である時期だけに、戦後 70 年、不 余談ついでだが、昨日と今日で中国人民銀行 戦の誓いをして平和国家として世界に認められ が人民元為替レートの基準値を 3.5%ほど切り てきた日本の総理として人類共通の歴史観に沿 下げた。 1 年前の 7 月に比較すれば日本円は 20%、 った談話が出されることを強く願っている。 ユーロは 23%も対ドル為替レートを切り下げて 6 月から 9 月までは日本と中国において先の いるが、 人民元は逆に 1%高くなっていたので、 悲惨な戦争に関わる記念日が続く。6 月には米 今年 7 月の輸出額が前年同期比 8.3%減の数字 英を中心とする連合軍が沖縄を制圧、今も米軍 を見て、さすがの中国も我慢の限界にきた感じ 基地問題で苦しむ沖縄では軍民あわせて 20 万 である。世界中が米ドルに対する為替レートを 人の犠牲者を出した。8 月 6 日、9 日は広島、長 引き下げている中で、中国もいつまでも人民元 崎への原爆投下があり両市合わせて 25 万人の 高を維持するわけにも行かないであろう。日本 市民が犠牲になった。8 月 15 日は日本のポツダ 円やユーロほど大幅切り下げではなくても、5% ム宣言受諾の玉音放送、9 月 2 日は日本の正式 程度の切り下げはやむを得ない感じである。そ 1 201508 華鐘通信№246 れにしても人民元のわずか 3.5%ほどの切り下 それに対して社会消費品小売総額は 10.4%増と げで日本の株式市場は 8 月 11 日の午後から 12 前年の 12.0%増よりは減少しているが減少幅は 日にかけて日経平均株価指数が 500 円以上も下 少ない。 また実質住民所得も都市部で 6.7%増、 げ、世界中の株価も下げた。何とも過剰な反応 農村部で 8.3%増と堅調に増加している。 最近の株価暴落?について、日本での識者と と思うが、それだけ世界経済の中国に対する依 言われる人々の論調があまりにもでたらめなの 存度が大きいということであろう。 本題の中国経済の 1~6 月第 2 四半期までの国 で一言コメントしておきたい。見にくいと思う 内総生産(GDP)は 7.0%増となって、大方の予 が、下図は 2013 年 11 月から直近までの 2 年足 想であった 6.9%を上回った。今年初めからの らずの上海総合指数のグラフである。長らく 株式市場の活況、株高によって多少上振れした 2,000 前後で低迷していた中国の株価は昨年 11 のかもしれないが、詳しいデータはいつものフ 月から上がり始めて、今年 6 月 19 日に 5,178 の ォームで次ページをご参照いただきたい。 ピ-クを付けて、現在は 3,500~4,000 の間であ 上半期の GDP 総額は 29 兆 6868 億元(日本円 る。恐らく当分はこの範囲で落ち着くと思われ で約 594 兆円)で前年同期比(以下同じ)7.0% るが、1 年前から株を保有している人にとって 成長(前年は 7.4%成長)、第一次産業は 2 兆 は 1.7 倍から 2 倍になっていて十分に儲かって 255 億元で 3.5%成長(前年は 3.9%成長)、第 いる水準であり、これで消費や外国旅行にそれ 二次産業は 12 兆 9648 億元で 6.1%成長(前年 ほどの影響があるとは思えない。 は 7.4%成長)、第三次産業は 14 兆 6965 億元 で 8.4%成長(前年は 8.0%成長)であり、極め てはっきりしているのは製造業の成長率が鈍化 して、サービス業の成長率が加速している、サ ービス業の GDP 総額が製造業よりもかなり大き くなったということである。GDP7.0%成長への 寄与度は最終消費が 4.2%と過半を越えて、固 定資産投資と純輸出をあわせて 2.8%となって 株価下落の過程で政府が様々な対策を取った いる。つまり 2015 年上半期の中国経済は、国内 ことは確かであるが、日本でも 1960 年代後半の 消費は比較的堅調であり GDP の成長に寄与して 株価暴落時には日銀が証券会社に特融するなど いるが、政府や製造業或いは不動産などの固定 ほぼ同じことをしたし、公安が空売り規制をし 資産投資と純輸出の成長率がかなり急激に低下 たとぼろくそに言われているが、事実は P2P と していて全体として 7.0%成長であったという いうインターネットを使って違法な資金操作を ことである。1~6 月の固定資産投資は前年同期 していた「場外配資」を手入れしたに過ぎない。 比 11.4%増であり、前年同期の 17.3%、通年の 中国の株式市場は下がったとはいえ、時価総 15.3%に比較して大きく下がっている。これは 額は日本の倍以上、売買金額も多い時は日本の 製造業の設備過剰による投資の抑制と相まって、 10 倍以上ある。個人の参加者が 80%以上だが、 昨年後半から政府が力を入れたシャドーバンキ 時価総額の 7 割程度は国が保有し、制度も規制 ングなどの非銀行ルートの資金流通を正常化し もまだまだ十分ではない未熟な市場である。当 ようとしたことと、住宅価格抑制のための不動 分は試行錯誤が続くであろう。 (総経理 古林恒雄 2015/8/12 記) 産投資の抑制などが影響していると思われる。 2 201508 華鐘通信№246 2015 年第 2 四半期の中国経済実績値 項 目 単位 国内総生産(GDP) 第一次産業 2014 年 通年 2014 年 前年比 億元 億元 636,463 7.4% 58,332 第二次産業 第三次産業 億元 億元 271,392 工業生産付加価値額 億元 固定資産投資 東部地区投資 中部地区投資 西部地区投資 1-6 月 2015 年 前年同期比 1-6 月 前年同期比 269,044 7.4% 4.1% 19,812 7.3% 123,871 306,739 8.1% 125,361 - 8.3% 億元 億元 億元 億元 502,005 227,452 141,644 125,980 15.7% 14.6% 17.2% 17.5% 212,770 100,921 58,327 52,395 17.3% 16.3% 19.2% 18.6% 237,132 111,127 67,037 57,581 11.4% 10.1% 14.9% 9.9% 億元 億元 億元 11,983 208,107 281,915 33.9% 13.2% 16.8% 4,820 89,186 118,764 24.1% 14.3% 19.5% 6,159 97,446 133,527 27.8% 9.3% 12.4% 不動産開発投資 億元 95,036 10.5% 42,019 14.1% 43,955 4.6% 社会消費品小売総額 億元 262,394 12.0% 124,199 12.1% 141,577 10.4% 小売業 億元 234,534 12.2% 111,210 12.4% 126,581 10.3% 飲食業 億元 27,860 9.7% 12,989 10.1% 14,996 11.5% 自動車販売台数 万台 2,349 6.9% 1,168 8.4% 1,185 1.4% - -1.9%↓ 2.0%↑ - -1.8%↓ 2.3%↑ - -4.6%↓ 1.3%↑ - 3.1%↑ - 3.4%↑ - 2.0%↑ - 2.4%↑ - 2.3%↑ - 2.9%↑ 第一次産業投資 第二次産業投資 第三次産業投資 卸売り物価指数(PPI) 消費者物価指数(CPI) 食品 衣服 - 296,868 7.0% 3.9% 20,255 3.5% 7.4% 129,648 6.1% 8.0% 146,965 8.4% 8.8% - 6.3% 全住民可処分所得(実質) 元 20,167 8.0% 10,025 8.3% 10,931 7.6% 都市可処分所得(実質) 農村部純所得(実質) 元 元 28,844 10,489 6.8% 9.2% 14,959 5,396 7.1% 9.8% 15,699 5,554 6.7% 8.3% 億㌦ 億㌦ 43,030 3.4% 20,209 1.2% 18,808 -6.9% 23,132 5.3% 11,110 7.3% 10,401 -6.3% 加工貿易 輸出総額 億㌦ 億㌦ 14,100 3.8% 6,389 -1.7% 5,840 -8.6% 23,427 6.1% 10,619 0.9% 10,720 1.0% 輸入総額 貿易黒字 億㌦ 億㌦ 19,603 0.4% 9,590 1.5% 8,088 -15.5% 3,825 47.3% 1,029 -5.1% 2,632 155.8% 外貨準備高 対外債務残高 億㌦ 億㌦ 38,400 8,955 0.5% 2.5% 39,900 9,072 14.1% 17.5% 36,900 - -7.5% - 社会融資増加額 億元 164,600 -4.8% 105,592 4.0% 87,940 -16.7% 輸出入貿易総額 一般貿易 億元 62,764 -12.7% 56,296 9.6% 18,923 -53.4% 千億元 1,228 12.2% 1,210 14.7% 1,333 11.8% 件 億㌦ 23,778 4.4% 10,973 3.2% 11,914 8.6% 1,196 1.7% 635 1.5% 684 8.3% 億㌦ 億㌦ 226 947 -11.9% 5.8% 121 495 -12.7% 6.7% 144 525 19.0% 6.2% 億㌦ 1,029 14.1% 433 -5% 560 29.2% 3,235 1,119↑ 2,048 69↑ 4,277 2,229↑ 億元 億元 372,547 743,913 55.8% 58.7% 244,130 217,183 14.7% 2.6% 627,465 1,391,484 157% 541% 1US$ 元 6.1190 0.4% 1 ユーロ 元 元 5.1371 7.4556 -11.1% -11.4% 6.1528 6.0815 8.3946 -0.4% -2.9% 4.2% 6.1136 5.0052 6.8699 -0.6% -17.7% -18.2% 非銀行融資増加額 マネーサプライM2 外国投資契約件数 外国投資実行総額 合弁・合作 独資 対外投資実行総額 上海株価指数 株式時価総額 株式取引総額の総計 為替レート 100 円 3
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