バスケットボール選手に対する ルーティーントレーニングの有効性

バスケットボール選手に対する
ルーティーントレーニングの有効性
9008056 中山 隼佑
1.研究動機
時間及びルーティーンとして行った行為(例えばドリブル
トップアスリートになればなるほどルーティーンを取
など)の内容であった.スローに要した時間はFTライン
り入れる選手は多くなる傾向にあり,自分のパフォーマン
に立ちボールを保持した時を開始とし,リリース時を終了
スの向上に役立てている.筆者はこれまでの経験からルー
として時間を求めた.
ティーンを意識してフリースロー(以下FT)を行うよう
にすると成功率が上がったように感じた.このことから他
者にルーティーンを実施させると,どのような効果が見ら
れるか検討しようと考えた.
(3)集中力の測定方法
集中力の測定として,各テスト時に 5 項目 10 点,計 50
点満点の集中力チェック用紙に記入させた.選手には自己
また,これまでにルーティーンの効果を研究した論文は
のFTについて評価するとともに,他者のFTの様子も評
存在するが,選手がルーティーンを確立したことを明らか
価し記入させた.指導者にも選手一人一人の評価をさせ用
にしている研究は数少ないこのことからFTの様子をビ
紙に記入させた.テストはプレテスト,ポストテスト 1,
デオ撮影し,ルーティーンの確立していく様子を確認し分
ポストテスト 2 の合計 3 回行い,テストごとの集中力を測
析することとした.
定し比較した.
2.本研究の目的
(4)実験の手続き
本研究の目的は,バスケットボール選手に対して,ルー
まず初めにK高校には,プレテストとしてFTを 20 本
ティーントレーニングを行うチームと行わないチームの
打たせ,集中度チェック 1 を行わせた.その際に自己,他
比較を通して,FTの成功率および集中力が向上するかど
者,指導者が選手の集中度を評価した.その後オリエンテ
うかを検討すること,さらにFTの様子をビデオ撮影し,
ーションとしてメンタルトレーニングの説明とルーティ
ルーティーンの確立を確認することであった.
ーンの説明を行い,毎日の練習後にルーティーンを意識し
たFTを 20 本打たせるトレーニングを行わせた.T高校
3.実験方法
にはメンタルトレーニングの説明は行ったが,ルーティー
(1)被験者
ンの説明は行わず毎日の練習後にFTを 20 本行わせた.
被験者はK高校1年生4名および 2 年生 3 名の計 7 名,
またそれぞれにはプレテストの数値に 2 本加えた値を目標
T高校 1 年生 3 名および 2 年生 4 名の計 7 名であった.ポ
値として設定させ,達成できなかった場合はクォーターダ
ジションは,K高校のガード選手 2 名およびフォワード選
ッシュをペナルティとして課した.1 ヶ月後にポストテス
手 5 名,T高校のガード選手 3 名およびフォワード選手 4
ト 1 と集中度チェック 2 を実施した.さらにその1ヶ月後
名の計 7 名であった.
には,ポストテスト 2 と集中度チェック 3 を実施した.
(2) ビデオ撮影
4 .結果及び考察
被験者のルーティーンの変化を確認するために,各テス
ト時に被験者が行うFTの様子をビデオカメラによって
撮影した.分析した項目は,各ショットのスローに要した
(1)ルーティーンに要した時間及び内容について
ルーティーンを行ったグループは,全体的にプレテスト
時よりもポストテスト時においてリリースまでのタイム
が長くなっており,標準偏差も小さくなっていることが明
(3)FTの成功率について
らになった.これは,選手がドリブルなどの動作を(意識
図 2 に示したように,ルーティーンありグループは各テ
して)2 回から 4 回程度行うようになったからである.ま
スト毎にFT成功率が向上しており,プレテストとポスト
た,その行為が同じリズムで行われることによりルーティ
テスト 1 および 2 の間で有意差が認められた.またポスト
ーンに要する時間のばらつきが小さくなった事が考えら
テスト 2 においてはルーティーンなしグループとの間に有
れる.これに対しルーティーンなしグループは,リリース
意差が認められた.今回の実験において,ルーティーンを
までの所要時間に大きな誤差があり,ルーティーンの内容
意識してFTを行ったグループは,テスト毎に FT 成功率
もプレテスト,ポストテスト 1,ポストテスト 2 とそれぞ
が向上している結果であった.これはルーティーンが確立
れに統一性は見られなかった.
することで集中度が向上したためと考えられる.その裏付
けとしては,集中度の得点の図と FT 成功率の図が非常に
似ていることが挙げられる.
ー
表1.FTに要した時間及び標準偏差
プレテスト
ポストテスト1
ポストテスト2
被験者
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
A
2.75
0.45
3.68
0.37
3.77
0.28
あル
B
2.67
0.57
3.60
0.34
3.40
0.27
り
C
2.83
0.49
3.11
0.33
3.21
0.25
グテ
D
2.31
0.51
3.35
0.35
3.17
0.29
ル
E
2.42
0.57
2.94
0.38
2.87
0.28
F
2.15
0.41
4.32
0.31
4.22
0.21
プン
G
2.91
0.44
4.24
0.36
4.97
0.27
H
3.35
0.52
3.39
0.51
3.12
0.47
なル
I
2.86
0.44
2.91
0.41
3.11
0.51
し
J
1.83
0.41
1.94
0.38
2.13
0.42
グテ
K
1.63
0.44
1.98
0.43
1.88
0.39
ル
L
2.67
0.44
2.56
0.38
2.66
0.43
M
1.89
0.46
2.11
0.48
2.21
0.45
プン
N
1.26
0.38
2.33
0.41
2.35
0.46
50 45 ィ ー
ー
ィー
ー
グテ
ル
プン
あ
り
B
リリースまでのタイミングが
不安定
2回ドリブルを行う・一呼吸
ドリブルして膝を曲げる
ドリブルして膝を曲げる(リ ドリブルして膝を曲げる(時
リースまでの時間が延びた) 間はポストテスト1と同じ)
C
D
E
F
H
ー
ル
ィー
ー
グテ
ル
プン
な
し
I
J
K
L
M
N
ドリブルを4回行う→ボール
を回す
変化なし(周囲を気にする傾
向あり)
ドリブルを4回行う→ボール
を回す
変化なし(ミスした後切り替
えができない)
ドリブルを2回行う
ドリブルを1回またはなし
ポストテスト1と変化なし
ドリブルを2回行う(ミスした
ら表情に出る)
ボールをセットしたらシュート
(周囲を気にする傾向あり)
ドリブル回数がバラバラ(ミ
スしたら表情に出る)
ドリブルを行うようになった
(回数はバラバラ)
ドリブルを1~2回行う(落ち
着きがない)
ドリブルを2回行う
ドリブルを2回行う
ドリブルを2回行う
ドリブルを2回行う
足をあげる→ボールを回す 足をあげる→ボールを回す
変化なし
ルーティーンあり
グループ
ルーティーンなし
グループ
PRETEST
POSTTEST1
*p<0.05
POSTTEST2
図1.各テストの各グループにおける集中度の得点
100 90 *
80 平
均
成
功
率
70 %
30 ( )
G
ドリブルを2回行う
*
0 2回ドリブルを行う・一呼吸
リリースまでのタイミングが
不安定
ボールをセットしたらシュート
(ドリブルなし)
ボールをセットしたらシュート
(ドリブルなし)
リリースまでのリズムが不安
定(ドリブルなし)
ドリブルをする時,しない時
あり
*
5 ィ ー
ー
ー
ル
ドリブル回数が不安定
35 10 ポストテスト1
ポストテスト2
ドリブルを3回行う・膝をしっ ドリブルを3回行う・膝をしっ
かり曲げる
かり曲げる
A
*
平 30 均 25 得
点 20 15 ー
表2.ルーティーンの内容
プレテスト
被験者
40 *
*
60 ルーティーンあり
グループ
50 40 ルーティーンなし
グループ
20 10 0 ドリブルを行うが,回数はバ
ラバラ
リリースまでの動作がバラバ
ラになる
変化なし(切り替えを上手く
行えていない)
*p<0.05
PRETEST
POSTTEST1
POSTTEST2
図2. 各テストの各グループにおけるFT成功率
ドリブルを1回行う(行わない
変化なし
時もあり)
リリースまでの動作がバラバ ドリブルを1~2回行う(集中
プレテストと同じ動作に戻る
ラ(集中度は低い)
度は低い)
5.まとめ
(2)集中度の得点について
本研究では,ルーティーンを意識してFTを行うグルー
集中度の得点について,図 1 に示したように,ポストテ
プと行わないグループでFT成功率,集中度の得点,ルー
スト 2 ではルーティーンを意識してFTを行ったグループ
ティーンに要した時間や内容にどのような違いがあるか
とルーティーンを意識せずにFTを行ったグループの間
比較することが目的であった.その結果,ルーティーンを
に有意差が認められた.またルーティーンを意識してFT
意識してFTを行うグループと行わないグループ間では,
を行ったグループは,プレテストとポストテスト 1 および
FTの成功率,集中度の得点に有意差が見られ,ルーティ
2 の間でも有意差が見られた.これはルーティーンを意識
ーンに要した時間とその内容においても違いが見受けら
することで,自分のリズムやタイミングがとれて周囲の様
れた.それらはFT時のルーティーンの様子をビデオ撮影
子やプレッシャーに左右されにくくなったためと考えら
し,分析することにより確認した.このことから集中度と
れる.
FT成功率には,深い関係性があるということがわかった.