研究課題:精神科薬物療法アルゴリズムの最適化と均てん化に関する研究 課題番号:H20−こころ− 一般−003 主任研究者:慶應義塾大学医学部精神神経科 准教授 加藤 元一郎 1. 研究目的 日本の精神科薬物治療においては、向精神薬の多剤大量療法の問題が指摘されており、統合失調症や うつ病に対する精神科薬物療法ガイドラインの早急な整備が望まれている。これらの疾患に対する治療 ガイドラインの作成・整備・普及には、薬物療法アルゴリズムの確立が必須である。本研究では、統合 失調症とうつ病に関してエビデンスに基づいた薬物療法アルゴリズムを作成し、アルゴリズムによる治 療群(ALGO: Algorithm-guided treatment)と従来治療による治療群(TAU: treatment as usual)の 比較を行う多施設共同介入研究によって、従来治療に対するアルゴリズム治療の有効性を検討する。こ れにより、我が国の実情に即した薬物療法アルゴリズムの確立・検証を行い、薬物療法の最適化と均て ん化をはかることを目的とする。 2. 研究方法 (1) アルゴリズムの作成と実行可能性の検討:統合失調症とうつ病に関して、エビデンスに基づく精神 科薬物療法アルゴリズムとその基本的運用ルールを作成し、アルゴリズムの実行可能性 (feasibility)を検討する。 (2) measurement-based care の実現:統合失調症とうつ病の治療アルゴリズムの運用に際し、客観的評 価点に基づいた治療の選択(measurement-based care)を行うために、精神症状評価尺度、社会機 能、QOL、副作用などについての転帰評価尺度セットを作成する。また、クリニカルコーディネータ ーを設定し医師によるアルゴリズムの適用を厳密に管理するとともに、主に臨床心理士による独立 した転帰評価を行う。 (3) 転帰評価の信頼性検討:主治医と独立した評価者による臨床転帰評価の信頼性を検討し、これを向 上させる。 (4) 統合失調症における簡便な社会機能評価法の新たな開発:統合失調症においてより簡便な社会機能 評価法の新たな開発を行う。これは、従来の社会的な機能障害の評価法は、時間的な制約が多く実 際の臨床には使用しにくく、多角的な視点が欠如しているからである。 (5) 多施設共同介入研究の実行:ALGO 群と TAU 群との比較を行う多施設共同介入研究を実行する。 3. 研究結果・考察 (1) 統合失調症の薬物療法アルゴリズムでは、stage1 と2は、基本的に非定型抗精神病薬単剤の切り替 えであり、stage3では、その増強療法が中心であり、その実行可能性が確認された。また、うつ病 に対しては、bipolarity を有する中等症うつ病とこれを有さない中等症うつ病、それぞれに対して、 Stage1-4 からなる薬物治療アルゴリズムを作成した。 (2) 統合失調症とうつ病の転帰評価の Primary measure としては、PANSS と MADRS を用い、Secondary measures としては、CGI, Short Form 36, DAI-10,DIEPSS などを用い、その実行可能性を確認した。 (3) 薬物療法の効果の客観的評価を確立するために、精神症状、社会的機能、認知機能などの評価法・ 検査法の講習会を臨床心理士10名および医師数名を招集して開催し、その信頼性を検討し向上さ せた。特に、PANSSの信頼性は重要であるため、模擬症例ビデオや実在症例ビデオを用いた検討会を 計6回にわたり開催した。陽性症状に関する信頼性は当初から高かったが、陰性症状や総合精神病 理尺度に関する一致率は低かった。このため、再度講習会を開催し、その信頼性を向上させた。 (4) 統 合 失 調 症 に お け る 簡 便 な 社 会 機 能 評 価 法 と し て 、 Targeted Inventory on Problems in Schizophrenia(TIP-Sz) 、 お よ び Functional Assessment for Comprehensive Treatment of Schizophrenia(FACT-Sz)を考案し、その信頼性を実証した。 (5) 現在 ALGO 群と TAU 群に症例が投入され、クリニカルコーディネーターによる管理のもとに評価が 実行されている。 4.まとめ 以上、統合失調症とうつ病の薬物療法アルゴリズムを開発し運用ルールを決定し、measurement-based care により ALGO 群と TAU 群との治療効果の比較を行う多施設共同介入研究を実行している。
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