110 第4章 剛体の姿勢力学 図 4.13 剛体 R の姿勢運動。単位球は R に固定、 h は慣性空間に固定;各曲線は一定エネルギー に対応。 ({ I 1 , I 2 , I 3 } {6, 4, 2} kg m 2 ) 同様にエネルギー楕円体も{ c1 , c 2 , c3 }で表されるが、次式 T : c12 c 22 c32 2T 1 I1 I 2 I 3 h 2 I ( 22 ) で定義される。そしてこれら両者の交線(図 4.13)が慣性的に固定された方向 h を R から見たとき の運動を定義している。図 4.13 で見ると、 h を固定しそしてこの h が上記の交線によって定義され 」上にとどまるように座標系 Fp を動かせばよいということになる。なおこの場合も る「軌跡(slot) T が完全に単位球面内に含まれるならば、またはその逆も同じであるが対応する物理的な運動は存 在しないことになる。 4.4 の運動の安定性 上述の議論で暗に示されていたのは、4.3 節のオイラー方程式 ( 1 ) に対する次の 3 つの基本解 (elementary solution)すなわち次のような「純粋スピン(pure spin) 」の存在である: ω1 ν constant ; ω2 ω3 0 (1) ω2 ν constant ; ω3 ω1 0 (2) ω3 ν constant ; ω1 ω2 0 (3) これらのスピンは ν の全ての値に対して運動方程式を満足する。当面は慣例通りに I 1 I 2 I 3 とし、 、 「中間慣性主軸まわり 式 ( 1 ) 、式 ( 2 ) 、および式 ( 3 ) をそれぞれ「最大慣性主軸まわりのスピン」 のスピン」 、および「最小慣性主軸まわりのスピン」と呼ぶことにする。これらの解はそれぞれ I I 1 、 I 2 、 I 3 に対応しており、図 4.8、図 4.9 に示す線図における重要な解であることが容易に認識され よう。これらの解の安定性は宇宙機姿勢力学の中心的な課題である。 111 4.4 の運動の安定性 リアプノフの第 2 の方法; ω-安定性 安定性に関する議論を始める前に「安定(stability)」という言葉の意味を明確に理解しておく ことが必須となる。本書で「安定」という場合リアプノフ安定を意味している。安定性の議論で必 要となる各種の定義と定理は付録 A にまとめて示してあるが、簡単に述べると、基準運動 x (t ) に対 してその近傍の運動 x (t ) x (t ) を考え、 t t o におけるこの両者の違いを十分小さくすると、すな わち任意の正数 ε に対して任意の正数 δ が存在して 0 || x (t o ) || δ (ε, t o ) にすると、全ての t t o にお いて近傍の運動 x (t ) x(t ) が基準運動 x (t ) の任意の近くに存在し得る(言い換えると任意の正数 ε に対して|| x || ε である)とき、リアプノフ安定であるという。現在の議論においては状態ベクト (例えばオイラー角またはオイラーパラメータ) ル x は 3 つの角速度成分{ ω1 , ω2 , ω3 }および姿勢変数 より成る。この安定性の問題を調べるために、以下無限小の(線形)安定性解析(A.3 節および A.4 節を参照されたい)およびリアプノフの間接的な方法(A.5 節)を含めいくつかの方法を用いるこ とにする。 現在対象にしている 3 つの単純スピンの解の中で、1 つの解に対してはすぐに結論を出すこと ができる:すなわち中間の慣性主軸まわりのスピンは不安定であるということである。この不安定 性は図 4.9 のポールホードによって幾何学的な言葉で強く示されているが、この解( ω2 ν ; ω1 ω3 0 )が ω の変化に対して不安定であるということを示そう。いま ω の変化分を ξ と表す ことにするがこの場合姿勢変数は考える必要はない。不安定性を立証するためには付録 A の定理 A.22 を用いるが、[Chetayev]に従ってリアプノフ関数を次式 v ξ1ξ 3 (4) のように選ぼう:また運動方程式 4.3 節の式 ( 1 ) から ω1 ξ1 および ω3 ξ 3 と置くと v (ν ξ 2 ) I 1 ( I 1 I 2 )ξ12 I 3 ( I 2 I 3 )ξ 32 I 1I 3 (5) を得る。ここで定理 A.22 で用いている近傍 N および領域 R(ω-空間において)を次式のように定 める: N: ξ 2 ν (6) R: ξ1ξ 3 0 (7) R の境界は ξ1ξ 3 0 であるがこの境界は明らかに点 ξ 0 を含んでいる。したがって定理の全ての条 件が満たされていることになり( I 1 I 2 I 3 ということを思い出していただきたい) 、中間の慣性主 軸まわりのスピンは不安定であると結論できる。この証明のエレガントな点は、線形化を必要とし ないということまた ω (t ) に対する解が必要でないということにある。 最大慣性主軸まわりのスピンおよび最小慣性主軸まわりのスピンの安定性もこの方法によっ て調べることができるが、この方法の長所は再度述べるが|| ξ ||の大きさに制限がない(線形化は不 必要)ということであり、また運動方程式を解く必要がないということである。それでは再び摂動 ξ のみに注目し当面は姿勢変数を無視することにして、最大慣性主軸まわりのスピンより成る基準 。リアプノフ関数として 運動を考えよう( ω1 ν ; ω2 0 ω3 ) v 2 I 1T h 2 2( I 1 I ) T (仮の) を選ぼう。ここで T および h は新しい(近傍の)運動の運動エネルギーおよび角運動量である。4.3 112 第4章 剛体の姿勢力学 節の式 ( 3 ) に従って ω1 ν ξ1 、 ω2 ξ 2 および ω3 ξ 3 とすると次式を得る。 v I 2 ( I 1 I 2 )ξ 22 I 3 ( I 1 I 3 )ξ 32 (仮の) I 1 I 2 および I 1 I 3 であるのでこの v は ξ 2 および ξ 3 に関して正の定符号である。しかし ξ1 に関し ては正の定符号ではない。何故なら ξ1 が零でなくても v は零であり得るからである。そこでこの弱 点を償うために代わりのリアプノフ関数として次式を定義する。 v 2( I 1 I ) T 4(T Tν ) 2 ここで Tν I 1ν 2 2 である。この新しい v は ξ 2 ξ 3 0 のときでも v (2 I 1νξ1 (8) I 1ξ12 ) 2 である。つまり v は ξ に関して正の定符号となる。したがって式 ( 8 ) は ξ に関して適切なリアプノフ関数となって いる。さらに式 ( 8 ) の全ての項目がこの運動において定数であるので、如何なる運動において評価 した場合も v 0 (9) となる。したがって付録 A の定理 A.18 を使うと、この権威によって最大慣性主軸まわりのスピン は摂動に関して ω-安定であることがわかる。同様に v 2( I I 3 ) T 4(T Tν ) 2 と選ぶことによって(ここで Tν I 3ν 2 ( 10 ) 2 である) 、最小慣性主軸まわりのスピンも摂動 ξ に関して ω-安定であることが結論できる。 これまでの安定性の結果をまとめると:剛体の中間の慣性主軸まわりのスピンは不安定であり、 最大慣性主軸まわりのスピンおよび最小慣性主軸まわりのスピンは摂動 ξ に対して ω-安定である。 この時点で未解答のままに残されている主要な疑問は、上記の安定が同時に姿勢(attitude)安定で あるかどうか、また姿勢の初期の変化に関しても安定であるかどうかである。その解答は以下に見 るように綿密に検証しなければならない。 姿勢安定:無限小解析(Infinitesimal Analysis) 宇宙機の安定化の観点から非常に興味のあることは姿勢安定(attitude stability)である。そこで 最初に変分安定解析(variational stability analysis)の手法を使って基準運動からの無限小の偏差を検 討する。この解析法については、その方法、長所、および限界について付録 A(A.4 節)で論じて ある。ここで特に懸念される不安定は「厳密な」非線形方程式系における不安定であるが、この変 分安定解析の手法を用いて、上述の R に対する 3 つの相対平衡(純粋スピンの解)のいずれも姿勢 安定でないということを示す。また姿勢安定のより劣った形式すなわち 方向 安定( directional stability)を定義し、この方向安定が変分(線形)方程式において一定の状況の下で存在することを 実証する。つづいてリアプノフ関数を用いてこの結果が有限大の摂動に対しても成り立つというこ とを確かめる。 姿勢安定を議論するためにはもちろん姿勢変数を導入することが必要である。純粋スピンの運 動からの偏差に関する無限小解析にとって最も都合のいい姿勢変数は{ α1 , α 2 , α3 }である。これにつ いては 2.3 節の式 ( 33 ) の上の部分に記述してあるが、これらの姿勢変数は基準運動である定-ω 運 動からの R の姿勢偏差を表している。ここで本章でこれまで使ってきた取り決め I 1 I 2 I 3 を放棄 することにして、基準運動である純粋スピンの運動が起こる軸として p̂ 2 を選ぶことにしよう。した
© Copyright 2024 ExpyDoc