第5章.サブプライム金融危機 ○金融危機の経緯 • 2006年後半:サブプライムローンの不良化 • 2007年6月:米投資銀行ベアスターンズ傘下のヘッジファン ドの破綻 • 7月:サブプライム関連証券化商品の格付け引下げが相次ぐ • 8月:「パリバ・ショック」 – 仏大手銀行BNPパリバが傘下の投資ファンドの解約凍結 – 欧米の銀行間市場が信用不安に襲われ、中央銀行による大規模な 資金供給 • 冬:欧米の大手金融機関による巨額の損失発表 – 政府系ファンドSWFからの資本調達 • 2008年3月:ベアスターンズ実質破綻、FRBの支援を受けJP モルガン・チェースが救済 1 • 2008年7-9月:住宅金融公社GSE2社の経営悪化、 政府による救済 – 公的RMBSの保証:3.6兆ドル、保有住宅ローン:1.5兆ドル – 米国の住宅金融の大黒柱 – 海外投資家も公的RMBSやGSE債を大量に保有 • 9月:「リーマン・ショック」 – 米大手投資銀行リーマンブラザーズ破綻 – 負債総額6130億ドル、アメリカ史上最大規模の倒産 – 金融危機が一挙に深刻化 • 保険大手AIGは米政府が救済 – 巨額のCDS保証提供(4000億ドル超、自己資本の5倍超) • 10月:緊急経済安定化法成立 – 資金枠:7000億ドル 2 ○サブプライム住宅ローンの拡大と その不良債権化 • サブプライムローン: – 信用力が低い人向けのローン – 金利はプライムローンより高い – かなりのサブプライムローンが借り換えを想定 • 住宅価格上昇による担保価値向上を利用した低金 利ローンへの借り換え • 住宅価格の上昇から下落への反転 – それに伴うサブプライムローンの行き詰まり 3 ・ Federal Reserve Bank of San Francisco 2007 Annual Report ;The Subprime Mortgage Market p.8 4 ・ 日本銀行「金融市場レポート」2008年7月p.6 5 ○サブプライムローンの証券化 • 2000年代に入り証券化の割合が急上昇 • 証券化されたサブプライムRMBS、再証券化された CDO – 様々な金融機関・投資家によって保有される – アメリカ以外の海外の金融機関・投資家も保有 – 証券化を通じてサブプライムローンが、間接的に上記の 米国内外の様々な金融機関・投資家によって保有される • ・ 6 ・サブプライムローンの証券化は2003年以降急上昇 大澤和人『サブプライムの実相』p.6 7 ・サブプライム証券化商品への投資は、 幅広い金融機関・投資家によって行われる IMF. Global Financial Stability Report April 2008 p.78 8 ・サブプライム証券化商品への投資は、米国以外の国からも 大規模に行われ、その損失は世界的に広がる IMF Financial Stability Report April 2008 p.52 9 ・金融のグローバリゼーションにより、 ・ 海外からの対米証券投資が急増 米国の社債・証券化商品の保有構成の推移 30% 25% 20% 15% 10% 海外 銀行 生保 年金 投信 5% 19 50 19 65 19 80 19 83 19 86 19 89 19 92 19 95 19 98 20 01 20 04 0% 10 ○全般的な信用状態の悪化と 損失の拡大 • 信用状態の悪化:サブプライムを超えて幅広 い金融分野に広がる • 背景: • 世界的な経済の安定化、金余り、金利の低下 – 景気の悪化 • 金融機関の損失拡大 – 歴史的規模の損失 11 ・アメリカの IMF Global Financial Stability Report Oct. 2008 p.11 12 ・ GDPの変動性は1980年代半ば以降急低下 Bank of England Financial Stability Report October 2008 p.7 13 ・ 日本銀行『金融市場レポート』2008年1月p.23 14 -2% 長期実質金利 長期名目金利 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1976 1974 1972 1970 1968 1966 1964 1962 ・米国の金利:2000年代は歴史的低水準 米国長期金利の推移 16% 14% 12% 10% 8% 6% 4% 2% 0% -4% 15 ・ 日本銀行「金融システムレポート」2008年9月 16 ・証券化は世界的には2000年代に急拡大 Bank of England Financial Stability Report April 2008 p.6 17 ・世界のLBOローン供与額は2004年以降急増 LBOローン:買収対象企業の資産を担保として買収資金を提供するローン Bank of England Financial Stability Report Oct. 2008 p.8 18 ・アメリカの銀行の住宅ローン伸び率:2002年以降高い水準を維持 米銀:住宅ローン実質伸び率 25% 20% 15% 10% 5% 2006 2002 1998 1994 1990 1986 1982 1978 1974 1970 1966 1962 1958 1954 1950 -5% 1946 0% -10% 19 ・バブル期の日本の不動産業向け貸出の激増 日本の不動産業向貸出実質増加率:国内銀行 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 2000 1999 1996 1997 1994 1993 1991 1990 1988 1987 1985 1984 1981 1982 1979 1978 -10% 1976 -5% 1975 5% 0% 20 19 46 19 50 19 54 19 58 19 62 19 66 19 70 19 74 19 78 19 82 19 86 19 90 19 94 19 98 20 02 20 06 ・アメリカの銀行のバランスシート: 米銀:住宅ローン/総資産 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 21 ・ ⇒借金のスリム化・返済のための消費節約が始まる ⇒アメリカ向けの輸出に依存していた世界中の国に対して大きなデフレ圧力 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 19 46 19 50 19 54 19 58 19 62 19 66 19 70 19 74 19 78 19 82 19 86 19 90 19 94 19 98 20 02 20 06 0 家計負債可処分所得比 家計負債保有資産比 22 ・ 2000年代の信用拡大の特徴:家計向け信用の拡大 証券化は小口のローンを集めて、機関投資家の大口の資金を 呼び込むのに適している IMF Global Financial Stability Report Oct. 2008 p.18 23 ・ IMF Global Financial Stability Report Oct. 2008 p.15 24 ・今回の金融危機で歴史的規模の損失が発生 IMF Global Financial Stability Report Oct. 2008 p.16 25 ○金融危機対策 • アメリカの緊急金融安定化法08年10月 – 公的資金注入枠:7000億ドル – 当初:金融機関からの不良債権の買取 –⇒ • 大手銀行4行:各250億ドル、GSとMS:各100億ドル • AIG:400億ドル、シティ:270億ドルの追加 • FRBの流動性供給策 – – 証券市場向け対策 08年3月 • 企業発行のCP買取制度08年10月 • RMBSの買取、ABSを担保とする金融機関への融資08年11月 • ヨーロッパ諸国の公的資本注入政策 • 日本の金融機能強化法改正 26 滝田洋一『世界金融危機:開いたパンドラ』日経プレミアシリーズp.214 27 ○従来の金融危機との違い • 信用の行き過ぎと収縮、バブルの発生と崩壊は過去何度も繰 り返されている • 今回の危機の特徴: – 証券化の進展、ABSCDOの登場・拡大、クレジット・デリバティブの拡 大、ヘッジファンド等のファンドの登場・急拡大(ファンド資本主義) – 市場における流動性危機の凶暴さ(市場の取付け cf. 銀行取付け) • ゲートキーパー:証券市場が円滑かつ健全に機能するための専門的サー ビスを提供する業者(証券会社、格付会社、監査法人) • 市場型の金融システムは今挑戦を受けている 28 第5章:参考文献 • 春山昇華『サブプライム問題とは何か』宝島新書2007 • みずほ総合研究所『サブプライム金融危機:21世紀型経済 ショックの深層』日本経済新聞社2007 • 大澤和人『サブプライムの実相』商事法務2007 • 竹森俊平『資本主義は嫌いですか:それでもマネーは世界を 動かす』日本経済新聞社2007 • 小林正宏・大類雄司『世界金融危機はなぜ起こったのか』東 洋経済新報社2008 • 滝田洋一『世界金融危機:開いたパンドラ』日経プレミアシ リーズ2008 • 水野和夫『金融大崩壊:「アメリカ金融帝国」の終焉』NHK出 版生活人新書2008 29
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