10 第 10 回 1質点1自由度系の非線形地震応答(2)

構造振動特論-第 10 回資料
10 第 10 回
10.1
1質点1自由度系の非線形地震応答(2)
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1質点1自由度系の非線形地震応答(2)
復元力特性のサブルーチンの考え方
ここでは,前章で述べた方法により時刻歴応答解析プログラムを作成する事を前提として,その
ために必要な復元力特性のサブルーチンの考え方を述べる.ここで,
「サブルーチン」とはプログラ
ミングの際に必ず出てくる言葉の一つで,いわば大型のプログラムを組む「部品」のようなものと
考えて差し障りはない.
図 10-1 に復元力特性のサブルーチンの流れを示す.ここで,「メインプログラム」と書かれてい
るのは,時刻歴応答解析を行う本体と考えてよい.まず,前章での数値積分法により,既にわかっ
ている現ステップの変位 yn,現ステップの復元力 fRn,現ステップでの瞬間剛性 kTn に加えて,次ス
テップでの変位増分y がわかっているとする.この復元力特性のサブルーチンで行なう事は,これ
らのデータに加え,復元力特性を定める各種データ(初期剛性や降伏耐力など)を用いて,次ステ
ップの変位 yn+1,次ステップの復元力 fRn+1,次ステップでの瞬間剛性 kTn+1 に加えて,次ステップで
の不釣合い力fRn+1 を求め,これらメインプログラムに返して次ステップの応答計算を行なえるよう
にする事である.
メインプログラムからのInput
現ステップの変位yn,現ステップの復元力fRn,現ステップの瞬間剛性kTn
次ステップの変位yn+1,次ステップの変位増分 y
復元力モデルのサブルーチン
復元力
変形
サブルーチンに必要なデータ:
初期(弾性)剛性,降伏耐力,降伏後剛性
その他履歴を定めるパラメータ
メインプログラムへのOutput
次ステップの復元力 fRn+1,次ステップの瞬間剛性 kTn+1
次ステップでの不釣合い力 fURn+1 = fRn+1* fRn+1 = fRn + kTn y
図 10-1
fRn+1
復元力特性のサブルーチンの流れ
10-1
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図 10-2
骨格曲線(スケルトンカーブ)の例
復元力特性を決定するためには,構造物を正負両側に 1 方向載荷したときの荷重-変形関係と繰
返しのルールが必要となる.1 方向載荷したときの荷重-変形関係の事を骨格曲線(スケルトンカ
ーブ)と呼ぶ.図 10-2 に,単純な骨格曲線の例として,正側(あるいは負側)の荷重-変形関係が
2 折れ線で表される場合を示す.図 10-2 に示すように,正負対象の 2 折れ線(バイリニアー)の骨
格曲線の場合,骨格曲線を定めるために必要なパラメータは,初期(弾性)剛性 kE,降伏耐力 Qy,
降伏後の剛性と初期剛性の比の3つとなる.このとき,降伏変位y は式(10.1)で得られる.
 y  Qy k E
(10.1)
加えて,骨格曲線上において変位 y が正の値で降伏変位y より大きい場合,復元力 fR は式(10.2)で
表される.
f R  Qy   k E  y   y 
(10.2)
同様に,骨格曲線上において変位 y が負の値で絶対値が降伏変位y より大きい場合,復元力 fR は
式(10.3)で表される.
f R  Q y   k E  y   y 
(10.3)
また,構造物の損傷の指標として最大変形に着目すると,塑性率は最大変形(正負両領域で大き
い方の値)ymax と降伏変形y の比で表される(式(10.4)).
  ymax  y
10-2
(10.4)
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10.2
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復元力特性の例
以下では,図 10-2 に示す2折れ線で骨格曲線が表されるものを対象として,
(1)座屈挙動の生じ
ない鉄骨造構造物を想定したノーマルバイリニアーモデル,(2)曲げ破壊する RC 造構造物を想定し
た剛性低下型バイリニアーモデル,の2つを紹介する.
10.2.1
ノーマルバイリニアーモデル
図 10-3 にノーマルバイリニアーモデルを示す.このモデルにおいて,初期(弾性)剛性 kE,降伏
耐力 Qy,降伏後の剛性と初期剛性の比の他にコンピュータに記憶させておくべき変数は以下の通
りである.
現ステップにおける履歴ルールの番号
:
il(初期値は 1)
現在のルールにおける変位の上限値
:
yr(初期値はy = Qy / kE)
現在のルールにおける変位の下限値
:
yl(初期値は y)
現在のルールにおける変位の方向を示す変数:
di
サブルーチンプログラムの流れは以下の通りである.
(1)
現ステップでの復元力 fRn,瞬間剛性 kTn,増分変位yn から,次ステップでの見かけ上の復
元力 fRn+1*を式(10.5)より求める.
f Rn 1*  f Rn  kTn yn
(2)
(10.5)
現在の履歴ルールの番号に従い,次ステップでの真の復元力 fRn+1 と次ステップでの瞬間剛
性 kTn+1 を求める.

ルール 1(il = 1)弾性範囲:
現在の履歴ルールの番号
:il = 1
fR
kE
Qy
(2)
(1)
(3)
kE
kE
(3)
2Qy
y
-Qy
図 10-3
(2)
ノーマルバイリニアーモデル
10-3
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次ステップの瞬間剛性
:kTn+1 = kE(初期剛性)
次ステップの真の復元力
: f Rn 1  k E yn 1
yn+1 > yr のとき,以下の更新を実行してルール 2 へ.

現在のルールにおける変位の方向を示す変数
:di = 1
yn+1 < yl のとき,以下の更新を実行してルール 2 へ.

現在のルールにおける変位の方向を示す変数
:di = 2
それ以外の場合,(3)へ.

ルール 2(il = 2)塑性域載荷(骨格曲線上):
現在の履歴ルールの番号
:il = 2
次ステップの瞬間剛性
:kTn+1 =  kE(降伏後剛性)
di = 1 の場合(正側に降伏した場合)
次ステップの真の復元力
: f Rn 1  Qy   k E  yn 1   y 
yn+1 < yl,のとき,以下の更新を実行してルール 3 へ.

現在のルールにおける変位の方向を示す変数
:di = 2(反転)

現在のルールにおける変位の上限値
:yr = yn(前ステップでの変位)

現在のルールにおける変位の下限値
:yl = yn  2y
それ以外の場合,以下の更新を実行して(3)へ

現在のルールにおける変位の上限値
:yr = +∞(プログラム上は 1000y)

現在のルールにおける変位の下限値
:yl = yn+1(毎ステップ更新)
di = 2 の場合(負側に降伏した場合)
次ステップの真の復元力
: f Rn 1  Qy   k E  yn 1   y 
yn+1 > yr のとき,以下の更新を実行してルール 3 へ.

現在のルールにおける変位の方向を示す変数
:di = 1(反転)

現在のルールにおける変位の上限値
:yr = yn  2y

現在のルールにおける変位の下限値
:yl = yn(前ステップでの変位)
それ以外の場合,以下の更新を実行して(3)へ

現在のルールにおける変位の上限値
:yr = yn+1(毎ステップ更新)

現在のルールにおける変位の下限値
:yl = -∞(プログラム上は1000y)
10-4
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
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ルール 3(il = 3)塑性域除荷:
現在の履歴ルールの番号
:il = 3
次ステップの瞬間剛性
:kTn+1 = kE(初期剛性)
次ステップの真の復元力
: f Rn 1  f Rn  kTn 1yn
yn+1 > yr のとき,以下の更新を実行してルール 2 へ.

現在のルールにおける変位の方向を示す変数
:di = 1
yn+1 < yl,のとき,以下の更新を実行してルール 2 へ.

現在のルールにおける変位の方向を示す変数
:di = 2
それ以外の場合,(3)へ
(3)
復元力に関する不釣合い力fuRn+1 を式(10.6)より求める.
fURn 1  f Rn 1*  f Rn 1
(10.6)
図 10-4 にノーマルバイリニアーモデルにおける履歴ルールの遷移図を示す.
図 10-4
10.2.2
履歴ルールの遷移図(ノーマルバイリニアーモデル)
剛性低下型バイリニアーモデル
図 10-5 に剛性低下型バイリニアーモデルを示す.このモデルは,曲げ破壊する RC 造部材の履歴
特性を表すモデルの1つである.なお,実務計算では,このモデルを拡張して降伏前のひび割れ点
を含んで3折れ線(トリリニアー型)の骨格曲線を有する履歴モデルが,一般的に広く用いられて
いる.このモデルのノーマルバイリニアーモデルとの違いは,(1)降伏後の除荷剛性が正負両側で最
大変形に応じて低下する事,(2)復元力が0の点を境にして剛性が変化する事である.
正負両側での降伏後の除荷剛性をそれぞれ kR+,kRとし,正負両側での最大変形をそれぞれ ymax,
ymin とすると kR+,kRはそれぞれ式(10.7)で表される(|ymax| > y,|ymin| > y のとき).
kR   kE
y
ymax
, kR   kE
y
ymin
(10.7)
以下に図 10-5 に基づき,剛性低下型バイリニアーモデルの履歴ルールを述べる.

最初は弾性範囲で応答し(ルール 1),a 点にて正側降伏点を越えた後は,骨格曲線上を移動す
る(ルール 2).

骨格曲線上の点 b において除荷が生じた場合,点 b での変位 ymax に応じて正側除荷剛性 kR+が
10-5
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fR
(2)
a
Qy
g
(1)
f
(8)
j
l
(10)
(7)
(7)
(3)
(6)
m
(3)
kR
h
c
y
(4)
(1)
i
e
(5)
k
(9)
(4)
b
d
(2)
図 10-5
-Qy
剛性低下型バイリニアーモデル
式(10.7)より定まる.そして正側除荷剛性 kR+に応じて復元力が 0 の点まで除荷が生じる(ルー
ル 3).復元力が 0 の点 c を越えると,今度は負側の最大応答点(初期状態では負側降伏点 d)
を目指して移動する(ルール 4).その後,点 d を越えると今度は負側の骨格曲線上を移動す
る(ルール 2).

負側の骨格曲線上の点 e において除荷が生じた場合,点 c での変位 ymin に応じて負側除荷剛性
kRが式(10.7)より定まる.そして負側除荷剛性 kRに応じて復元力が 0 の点まで除荷が生じる
(ルール 3).復元力が 0 の点 c を越えると,今度は正側の最大応答点(点 b)を目指して移動
する(ルール 4).点 b を越えた後は,再び正側の骨格曲線上を移動する(ルール 2).

ルール 4 の線上の点 g で反転した場合,正側除荷剛性 kR+に応じて復元力が 0 の点まで除荷が
生じる(ルール 5).復元力が 0 の点 h を越えると,今度は負側の最大応答点(点 e)を目指し
て移動する(ルール 6).点 e を越えた後は,再び負側の骨格曲線上を移動する(ルール 2).

ルール 6 の線上の点 i において除荷が生じた場合,負側除荷剛性 kRに応じて復元力が 0 の点
まで除荷が生じる(ルール 7).復元力が 0 の点 j を越えると,今度は正側の小サイクルの最大
応答点(点 g)を目指して移動する(ルール 8).点 g を越えた後は,再び正側の最大応答点 b
を目指して移動する(ルール 4).

ルール 8 の線上の点 k において除荷が生じた場合,正側除荷剛性 kR+に応じて復元力が 0 の点
まで除荷が生じる(ルール 9).復元力が 0 の点 l を越えると,今度は負側の小サイクルの最大
応答点(点 i)を目指して移動する(ルール 10)
.点 i を越えた後は,再び負側の最大応答点 e
を目指して移動する(ルール 6).

ルール 10 の線上の点 m において除荷が生じた場合,負側除荷剛性 kRに応じて復元力が 0 の
点まで除荷が生じる(ルール 7).以下ルール 8,9,10 を繰り返す.
なお,ルール 3,5,7,9 の途中で反転が生じた場合は,即時の剛性変化は生じない.
図 10-6 に剛性低下型バイリニアーモデルにおける履歴ルールの遷移図を示す.図 10-6 と図 10-4
10-6
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図 10-6
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履歴ルールの遷移図(剛性低下型バイリニアーモデル)
の比較から明らかなように,剛性低下型バイリニアーモデルはノーマルバイリニアーモデルと比較
して複雑なモデルとなっている.
10.2.3
復元力特性の比較
ここでは,上記の 2 つの復元力特性の理解を深めるため,以下のような簡単な数値計算例を示す.
図 10-7 に数値計算例での骨格曲線を示す.この骨格曲線を有するモデルに対し,以下の変位履歴を
与えたとする.
変位履歴:y = 0 →
y = 0.04m →
y = -0.04m →
y = 0.04m →
y = -0.04m
このときの 2 つの復元力特性より得られる復元力-変位関係を比較する.

ノーマルバイリニアーモデル
初期状態:y = 0 のとき fR = 0
正方向に載荷:
正方向に降伏(点 a)
最大応答点(点 b)
y = 0.01m のとき fR = 200kN
y = 0.04m のとき fR = 200 + 0.01 x 20000 x (0.04 – 0.01) = 206kN
除荷して負方向に載荷:
負方向に降伏(点 c)
最大応答点(点 d)
y = 0.02m のとき fR = 206 + 20000 x (0.02 – 0.04) = -194kN
y = -0.04m のとき fR = -200 + 0.01 x 20000 x (0.04 + 0.01) = -206kN
10-7
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図 10-7
数値計算例での骨格曲線
除荷して正方向に載荷:
y = -0.02m のとき fR = -206 + 20000 x (-0.02 + 0.04) = 194kN
正方向に降伏(点 e)
y = 0.04m のとき fR = 200 + 0.01 x 20000 x (0.04 – 0.01) = 206kN
最大応答点(点 b)
除荷して負方向に載荷:
y = 0.02m のとき fR = 206 + 20000 x (0.02 – 0.04) = -194kN
負方向に降伏(点 c)
y = -0.04m のとき fR = -200 + 0.01 x 20000 x (0.04 + 0.01) = -206kN
最大応答点(点 d)

剛性低下型バイリニアーモデル
初期状態:y = 0 のとき fR = 0
正方向に載荷:
y = 0.01m のとき fR = 200kN
正方向に降伏(点 a)
y = 0.04m のとき fR = 200 + 0.01 x 20000 x (0.04 – 0.01) = 206kN
最大応答点(点 b)
除荷して負方向に載荷:
y
正側除荷剛性 k R   k E
除荷(点 c)
ymax
 20000
0.01
 10000kN/m
0.04
y = 0.0194m のとき fR = 206 + 10000 x (0.0194 – 0.04) = 0kN
負方向に降伏(点 d)
最大応答点(点 e)
y = -0.01m のとき fR = -200kN
y = -0.04m のとき fR = -200 + 0.01 x 20000 x (0.04 + 0.01) = -206kN
10-8
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図 10-8
復元力-変位関係の比較
除荷して正方向に載荷:
負側除荷剛性 k R   k E
除荷(点 f)
y
ymin
 20000
0.01
 10000kN/m
0.04
y = -0.0194m のとき fR = -206 + 10000 x (-0.0194 + 0.04) = 0kN
最大応答点(点 b)
y = 0.04m のとき fR = 206kN
除荷して負方向に載荷:
正側除荷剛性 k R   k E
除荷(点 c)
y
ymax
 20000
0.01
 10000kN/m (変化なし)
0.04
y = 0.0194m のとき fR = 206 + 10000 x (0.0194 – 0.04) = 0kN
最大応答点(点 e)
y = -0.04m のとき fR = -200 + 0.01 x 20000 x (0.04 + 0.01) = -206kN
図 10-8 に両者の復元力-変位関係を比較して示す.図 10-8 より明らかなように,(a)のノーマル
バイリニアーモデルと比較して(b)の剛性低下型バイリニアーモデルでは,復元力-変位関係におい
て 1 サイクルの間に囲まれる面積が小さくなっている.後述するように,1 サイクルの間に囲まれ
る面積の大小は構造物が吸収するひずみエネルギーと直接的に関係するため,非常に重要である.
10-9
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10.3

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演習問題
図 10-9 はある構造物の復元力―変位関係の骨格曲線である.
図 10-9
演習問題1での骨格曲線
この構造物に以下の変位履歴を与えた時の復元力-変位関係を求め,図示せよ.
変位履歴:y = 0 →
y = 0.02m → y = -0.02m →
y = 0.02m →
→y = 0.08m →
y = -0.08m →
y = 0.08m →
y = -0.08m
→y = 0.04m →
y = -0.04m →
y = 0.04m →
y = -0.08m
y = -0.02m
ただし,履歴特性は(a)ノーマルバイリニアーモデルと(b)剛性低下型バイリニアーモデルの2種類
とし,剛性が変化した点での変位,復元力も全て求め,今回資料の図 10-8 のように図示する事.
10-10