標本化定理と折り返しひずみ

標本化定理と折り返しひずみ
この節ではサンプリングの限界を与える標本化定理と、デジタル信号最大の欠点である折り返しひずみについて学び
ます。
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標本化定理 (サンプリング定理)
アナログ信号編で学んだように、どんなアナログ時間領域信号 f (t) も様々な角周波数のサイン波の無限個の和によっ
て出来ています。ではこの f (t) をサンプリングして得られたデジタル時間領域信号 f [i] にも元の無限個のサイン波 (を
サンプリングしたデジタルサイン波) が含まれているのでしょうか?
もちろんそんなことはありませんね。連続的な信号である f (t) を無理やりデジタル化する訳ですから、どこかで無理
が出てきます。サンプリングの限界を与える重要な定理として「標本化定理 (サンプリング定理)」があります。
標本化定理 (サンプリング定理)
角周波数 w = 2π · f (rad/秒)、つまり周波数 f (Hz) のアナログサイン波は fs = 2 · f (Hz) 以上でサンプリングしな
いと、得られたデジタルサイン波から元のアナログサイン波を復元出来ない
これは次の様に言い換える事が出来ます。
標本化定理 (サンプリング定理):言い換えた場合
fs (Hz) でアナログ時間領域信号 f (t) をサンプリングした場合、得られたデジタル時間領域信号 f [i] には fs /2 (Hz)
以上の周波数のデジタルサイン波は含まれない
ここで出てきた fs /2 の事を「ナイキスト周波数」と呼びます。「ナイキスト周波数」を使って定理を言い換えると次
のようになります。
標本化定理 (サンプリング定理):
「ナイキスト周波数」を使って言い換えた場合
fs (Hz) でアナログ時間領域信号 f (t) をサンプリングした場合、得られたデジタル時間領域信号 f [i] にはナイキスト
周波数以上の周波数のデジタルサイン波は含まれない
更に定理を言い換えるとこうなります。
標本化定理 (サンプリング定理):もっと言い換えた場合
あるアナログ時間領域信号 f (t) をサンプリングしようとする場合、f (t) に含まれるアナログサイン波の最大周波数が
fmax ならば、 fs = 2 · fmax (Hz) 以上でサンプリングしないと得られたデジタル時間領域信号 f [i] から元の f (t) を
復元出来ない
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折り返しひずみ (エイリアシング)
標本化定理によると fs (Hz) でアナログ時間領域信号 f (t) をサンプリングする場合、得られたデジタル時間領域信号
f [i] にはナイキスト周波数 fs /2 (Hz) 以上の周波数のデジタルサイン波は含まれない訳ですが、では万が一 f (t) にナイ
キスト周波数以上の周波数のアナログサイン波が含まれていたらどうなるのでしょうか。
実はその様なナイキスト周波数以上の周波数のアナログサイン波は「折り返しひずみ」または「折り返し雑音」また
は「エイリアシング」と呼ばれる雑音 (ノイズ) となって出てきます。具体的には次のことが言えます。
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折り返しひずみ
f (t) に f (Hz) のアナログサイン波が含まれていて f > fs /2 とする。その様なサイン波をサンプリング周波数 fs (Hz)
でサンプリングすると f 0 = f − fs (Hz) のデジタルサイン波となって出てくる。
なお f 0 < 0 となった場合は位相が反転して上下が逆になった |f 0 | (Hz) のデジタルサイン波になる ( sin(−2π · |f 0 | · t) =
− sin(2π · |f 0 | · t) なので )。
例えば f (t) に f = 4 (Hz) のアナログサイン波が含まれていて fs = 6 (Hz) でサンプリングすると (ナイキスト周波
数は 3 Hz)、f 0 = 4 − 6 = −2 (Hz) のデジタルサイン波となって出てきます (図 1、2 参照)。
この様に fs を十分に大きく取らないと出てきたデジタル信号の形が元のアナログ信号と大きく変わってしまう性質が
あるため、折り返しひずみはデジタル信号の最大の欠点となっています。
f(t)
1.5
1
0.5
0
0
0.25
0.5
0.75
1
t
-0.5
-1
-1.5
図 1: f = 4 のアナログサイン波を fs = 6 でサンプリングすると・
・
・(黒丸がサンプリング点)
f(t)
1.5
1
0.5
0
0
0.25
0.5
0.75
1
t
-0.5
-1
-1.5
図 2: 出てくるデジタルサイン波の周波数は f 0 = −2 (Hz) となり |f 0 | = 2 (Hz) の位相が反転したアナログサイン波とし
て復元される (これが折り返しひずみ)
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演習
演習 1 (個人):表計算ソフトを使ってアナログ時間領域信号 f (t) = sin(2π · 2 · t) + sin(2π · 4 · t) のグラフを描きなさい。
時刻の範囲は 0 ≤ t ≤ 4 とし、代表点は 0.01 秒刻みとする。グラフタイトルは「元のアナログ時間領域信号」とする。
演習 2 (個人):この f (t) を正しくサンプリングするための fs の最小値はいくらか計算してノートに書け。
演習 3 (個人):この f (t) を fs = 10 で Ts = 4 秒間サンプリングしたデジタル信号のグラフを「標本化と量子化」のテ
キストの標本化の項を参考にして表計算ソフトで描け。グラフの種類は散布図、点および線、平滑化有りとする。グラ
フタイトルは「fs=10 でサンプリング」とする。
またナイキスト周波数も計算してノートに書け。
演習 4 (個人):この f (t) を fs = 5 で Ts = 4 秒間サンプリングしたデジタル信号のグラフを「標本化と量子化」のテ
キストの標本化の項を参考にして表計算ソフトで描け。グラフの種類は散布図、点および線、平滑化有りとする。グラ
フタイトルは「fs=5 でサンプリング」とする。
またナイキスト周波数も計算してノートに書け。
演習 5 (チーム):元の f (t) と比べて上の 2 つのグラフの形の違いが何故生じたのかチーム内で話し合ってノートにまと
めよ。なお「ナイキスト周波数」と「折り返しひずみ」という用語を使うこと。
演習 6 (個人):4 (Hz) のアナログサイン波を fs = 5 (Hz) でサンプリングすると何 (Hz) のデジタルサイン波が出てく
るか計算してノートに書け。
演習 7 (個人):上で作成した f (t) のグラフと fs = 5 でサンプリングした f [i] のグラフのファイルをコピーし、計算式
から sin(2π · 2 · t) の項を削除してグラフを比較し、ひとつ上の答が正しい事を確認せよ。グラフタイトルは「折り返し
ひずみの例」とする。
演習 8 (個人):普通の人間の最大可聴周波数を調べてノートにまとめよ。
演習 9 (チーム):以前の演習で調べた CD やハイレゾ音源の音声の fs が何故その値になっているのかチーム内で話し
合ってノートにまとめよ。
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