収束定理 測度空間 (X, M, µ) をひとつ固定する.特に断らない限り,X の部分集合は M に属す るものだけを扱い,関数はすべて X 上の R = R ∪ {±∞} に値をとる M-可測関数とする. 記号 関数 f, g について,すべての x ∈ X に対して f (x) ≤ g(x) が成り立つとき,f ≤ g と書く.関数 fn (n = 1, 2, . . .) について,すべての x ∈ X に対して lim fn (x) = f (x) が 成り立つとき,f = lim fn あるいは fn → f (n → ∞) と書く. n→∞ n→∞ ほとんどいたるところ成り立つことに関しても,同様の記号を用いる.すなわち,零集 合 N が存在して,すべての x ∈ X − N に対して f (x) ≤ g(x) が成り立つとき,f ≤ g a.e. と書く.またすべての x ∈ X −N に対して lim fn (x) = f (x) が成り立つとき,f = lim fn n→∞ n→∞ a.e. あるいは fn → f (n → ∞) a.e. と書く. 注意 N を零集合とすると,関数 f の X 上の積分と X − N 上の積分は一致する.ま た,可算個の零集合の和集合は零集合である.よって以下の収束に関する定理において, “すべての x ∈ X に対して成り立つ” という条件を,“ある零集合 N が存在して,すべて の x ∈ X − N に対して成り立つ” あるいは “ほとんどいたるところ成り立つ” という条件 に置き換えてもよい. 定理 (単調収束定理, Monotone Convergence Theorem) 可測関数 fn (n = 1, 2, . . .) が 0 ≤ f1 ≤ f2 ≤ · · · を満たすならば, ∫ ∫ ( ) lim fn dµ = lim fn dµ. n→∞ X n→∞ X 証明 仮定によりすべての x ∈ X につて 0 ≤ f1 (x) ≤ f2 (x) ≤ · · · である.単調増加 な R の元の列は収束するか +∞ に発散するので, lim fn (x) ∈ R を f (x) で表すと,写像 n→∞ f : X −→ R が得られる.fn (n = 1, 2, . . .) は可測関数だから,f = lim fn も可測関数で n→∞ ∫ ある. 各 n について fn ≤ f だから,非負値可測関数の積分の性質により fn dµ ≤ X である.n → ∞ とすると, ∫ f dµ X ∫ fn dµ ≤ lim n→∞ ∫ X f dµ X が得られる.よって,逆向きの不等号が成り立つことを示せばよい. 非負値可測関数 fn の積分の定義より,各 n に対して,単関数 fn,k (k = 1, 2, . . .) で 0 ≤ fn,1 ≤ fn,2 ≤ · · · , lim fn,k = fn を満たすものが存在して, k→∞ ∫ ∫ fn dµ = lim X k→∞ fn,k dµ X である.x ∈ X に対して,gk (x) = max{fn,k (x) | 1 ≤ n ≤ k} として写像 gk : X −→ R を定義する.fn,k が非負値単関数だから,gk も非負値単関数である.gk の定義より,0 ≤ g1 ≤ g2 ≤ · · · で,1 ≤ n ≤ k の範囲で fn,k ≤ gk ≤ f (1 ≤ n ≤ k) 1 である.ここで k → ∞ とすると, fn ≤ lim gk ≤ f k→∞ が得られる.これが任意の n について成り立つので, lim gk = f がわかる.よって,非 k→∞ 負値可測関数 f の積分の定義より ∫ ∫ f dµ = lim k→∞ X gk dµ X ∫ ∫ ≤ fn ≤ fk だから,gk ≤ fk である.よって, gk dµ ≤ fk dµ となる. 1 ≤ n ≤ k の範囲で fn,k X である.k は任意なので, ∫ ∫ ∫ gk dµ ≤ lim f dµ = lim k→∞ X X k→∞ X fk dµ X となり,求める不等号が得られる. 定理 (B. Levi の定理) ∑ fn ≥ 0 (n = 1, 2, . . .) が可測関数ならば, ∞ n=1 fn も可測関数で, ∞ ∫ ∑ n=1 fn dµ = ∫ (∑ ∞ X X ) fn dµ. n=1 ∑k 証明 gk = n=1 fn とおく.これは可測関数の有限個の和だから可測関数であり, ∑ 0 ≤ g1 ≤ g2 ≤ · · · を満たす. ∞ n=1 fn の定義より lim gk = k→∞ で,これも可測関数である. ∞ ∑ fn n=1 ∫ 可測関数の有限個の和の積分について gk dµ = X k ∫ ∑ n=1 fn dµ が成り立つので,前定理 X を gk (k = 1, 2, . . .) に対して適用すると ∞ ∫ ∑ n=1 X ∫ ∫ fn dµ = lim k→∞ gk dµ = X ( ) lim gk dµ = k→∞ X 定理 (Fatou の補題) fn ≥ 0 (n = 1, 2, . . .) が可測関数ならば, ∫ ∫ ( ) lim fn dµ. lim fn dµ ≥ n→∞ X X 2 n→∞ ∫ (∑ ∞ X n=1 ) fn dµ. 証明 gn = inf fk とおく.gn は可測関数で 0 ≤ g1 ≤ g2 ≤ · · · であり,下極限の定義か k≥n ら lim gn = sup gn = lim fn である.よって,単調収束定理により n→∞ n n→∞ ∫ X ∫ ) ( ( lim fn dµ = n→∞ X ∫ ) lim gn dµ = lim n→∞ n→∞ gn dµ X ∫ となる. gn の定義より gn ≤ fn であること,および gn dµ (n = 1, 2, . . .) が単調増加であるこ X ∫ とから, ∫ fn dµ ≥ lim lim n→∞ ∫ n→∞ X gn dµ = lim n→∞ X gn dµ X がわかるので,求める不等式が得られる. 定理 (Lebesgue の収束定理) fn (n = 1, 2, . . .) は可測関数で,X 上で積分可能な関数 φ ≥ 0 が存在してすべての n = 1, 2, . . . について |fn | ≤ φ が成り立つとする. ∫ ∫ ∫ ∫ ( ) ( ) (1) lim fn dµ ≥ lim fn dµ, lim fn dµ ≤ lim fn dµ. n→∞ X X n→∞ n→∞ X X n→∞ (2) fn (n = 1, 2, . . .) の極限 lim fn が存在するならば, lim fn は X 上で積分可能で n→∞ n→∞ ∫ lim n→∞ ∫ ( fn dµ = X ) lim fn dµ. n→∞ X 証明 g = lim fn , h = lim fn とおく.|fn | ≤ φ だから,|g| ≤ φ, |h| ≤ φ である.仮 n→∞ n→∞ 定により φ は X 上で積分可能だから,これにより fn , g, h はどれも X 上で積分可能であ ることがわかる. lim (−fn ) = − lim fn = −h に注意する. n→∞ n→∞ φ + fn ≥ 0, φ − fn ≥ 0 だから,Fatou の補題により ∫ ∫ lim (φ + fn )dµ ≥ (φ + g)dµ, n→∞ X ∫ lim n→∞ X ∫ (φ − fn )dµ ≥ X (φ − h)dµ X がわかる.この 2 つの不等式は ∫ ∫ ∫ ∫ fn dµ ≥ φdµ + lim φdµ + gdµ, n→∞ X X X ∫ ∫ fn dµ ≥ φdµ − lim n→∞ X X ∫ X ∫ φdµ − X hdµ X ∫ と書き換えることができる. φdµ は有限の値だから,(1) が成り立つ.(2) は (1) からわ X かる. 3 系 1 fn (n = 1, 2, . . .) は f1 ≥ f2 ≥ · · · ≥ 0 を満たす可測関数で,f1 は X 上で積分可 能とすると, ∫ ∫ ) ( lim fn dµ = lim fn dµ. n→∞ X n→∞ X 証明 f1 ≥ f2 ≥ · · · ≥ 0 だから,極限 lim fn が存在する.φ = f1 として Lebesgue の n→∞ 収束定理を適用すればよい. 系 2 (有界収束定理) µ(X) < ∞ とする.定数 M > 0 が存在してすべての n について |fn | < M で,fn (n = 1, 2, . . .) の極限 lim fn が存在するならば, lim fn は X 上で積分 n→∞ n→∞ ∫ 可能で, ∫ lim n→∞ ( fn dµ = X ) lim fn dµ. n→∞ X 証明 µ(X) < ∞ だから,定数関数 M は X 上で積分可能である.よって,φ = M と して Lebesgue の収束定理を適用すればよい. 系 3 µ(X) < ∞ とする.fn (n = 1, 2, . . .) が X 上で積分可能で,X 上で一様に f に 収束するならば,f は X 上で積分可能で ∫ ∫ lim fn dµ = f dµ. n→∞ X X 証明 仮定により,ある番号 K が存在して,すべての n ≥ K に対して |fn − f | < 1/2 が成り立つ.このとき,すべての n ≥ K に対して |fn − fK | < 1 となるので,φ = |fK | + 1 として Lebesgue の収束定理を適用すればよい. 例 X = (0, 1] を R の区間,µ を Lebesgue 測度,M を X の部分集合で Lebesgue 可測 なもの全部の集合とする.fn : X −→ R を { n (0 < x ≤ 1/n) fn (x) = 0 (1/n < x ≤ 1) で定義される単関数とする.各点 x ∈ X で lim fn (x) = 0 だから単関数の列 f1 , f2 , . . . は n→∞ ∫ 0 に収束する.すなわち, lim fn = 0.一方,任意の n について fn dµ = 1 だから, n→∞ X ∫ ∫ fn dµ ̸= lim n→∞ X X ( ) lim fn dµ n→∞ となる.実際,左辺は 1 で右辺は 0 である.この単関数の列 fn (n = 1, 2, . . .) に対して, Lebesgue の収束定理の条件を満たす関数 φ は存在しない. 定理 fn (n = 1, 2, . . .) が可測関数で, ∞ ∫ ∑ n=1 |fn |dµ < ∞ X 4 ならば,A ∈ M, µ(X − A) = 0 で次の条件を満たすものが存在する. ∞ ∑ (1) A 上で fn が存在し,その値は有限である. (2) n=1 ∞ ∫ ∑ n=1 fn dµ = A ∫ (∑ ∞ A ) fn dµ. n=1 ∑∞ 証明 |fn | ≥ 0 は可測関数だから,φ = n=1 |fn | とおくと φ も可測関数で, ∫ ∞ ∫ ∑ φdµ = |fn |dµ X n=1 X が成り立つ.仮定によりこれは有限な値だから,N = [φ = ∞] とおくと N は零集合であ る.A = X − N とおく.各点 x ∈ A において 0 ≤ φ(x) < ∞ だから fn∑ (x) は実数である. ∑∞ ∞ さらに,各点 x ∈ A において φ(x) =∑ n=1 |fn (x)| < ∞ だから,級数 n=1 fn∑ (x) は有限 ∞ ∞ の値に収束する.よって,x ∈ A に n=1 fn (x) ∈ R を対応させる A 上の関数 n=1 fn が 定義できる. ∑ ∑ gn = nk=1 fk とおく.gn は可測関数で,A 上で lim gn = ∞ n=1 fn である.各点 x ∈ A n→∞ において |gn (x)| ≤ n ∑ |fk (x)| ≤ φ(x) k=1 だから,A 上で gn (n = 1, 2, . . .) に対して Lebesgue の収束定理を適用すると n ∫ ∞ ∫ ) (∑ ∑ fk dµ fn dµ = lim n=1 A n→∞ ∫ k=1 = lim n→∞ A gn dµ = A ∫ ( ) lim gn dµ = ∫ (∑ ∞ A n→∞ A ) fn dµ. n=1 定理 f は X 上で積分可能とする. (1) En ∈ M (n = 1, 2, . . .) が E1 ⊂ E2 ⊂ · · · を満たすならば,E = ∫ ∫ f dµ = lim f dµ. E n→∞ n=1 n=1 について En (2) En ∈ M (n = 1, 2, . . .) が互いに交わらないならば,E = ∫ ∞ ∫ ∑ f dµ = f dµ. E ∪∞ ∪∞ n=1 について En 証明 最初に f ≥ 0 の場合を考える.fn = χEn f とおく. (1): lim fn = χE f だから,単調収束定理により (1) が成り立つ. n→∞ ∑ (2): ∞ n=1 fn = χE f だから,(2) が成り立つ. 一般の場合は,f = f + − f − において f + と f − に対して f ≥ 0 の場合の結果を適用 すればよい. 5
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