メネラウスの定理

第 章
メネラウスの定理
メネラウスの定理は、頂点から頂点へ分点を中継して巡ると、一周したときに辺と分点を結
ぶ線分の比の積が
となる、というものです。これほど簡潔に美しくバランスを内存する定理
は類を見ません。この定理から図形の補助線はヒラメキではなく、実は任意の直線に仕組まれ
たものであり、論理的に比が配置されていることが分かるといえます。
図形を直線が切るというイメージは俗物的ではありますが、科学や論証を重んじたこの時代
にあっては妙に新鮮に映ります。メネラウスがこの定理にどれだけの価値を見出したかは分か
りませんが、既にユークリッド、アルキメデス、アポロニュースの3大数学者により古代幾何学
は円熟し、図形の性質は枝葉を整える程度しか残されていなかったヘレニズム後期においては
傑出した定理といえるのではないでしょうか。この定理から派生して、様々な性質が生み出さ
れ、後生の射影幾何の発展へと続きます。さらには、定理が記されている「球面論」では、メ
ネラウスは球面においてもほぼ同様の性質が成り立つことを示しており、ユークリッド幾何の
土壌にありながらも独自の幾何学を展開することで、意識はせずに非ユークリッド幾何学に到
達していたともいえます。時代を超えて横たわるメネラウスの定理を巡ってみましょう。
メネラウスの定理
メネラウスの定理とその証明
(定理)メネラウスの定理
点
をそれぞれ△
の 辺
の内分点、またはたは外分点とする。 点
が同一直線上にあるとき、
(証明 :補助線を用いる)頂点
∽
より、
が成り立つ。
を通り対辺
、
に平行な直線と直線
∽
との交点を
とする。
より、
∴
(証明 :面積比を用いる)下図において、
とすると,
∴
■
【練習】 次のように補助線の引き方を変えて証明せよ。
各頂点を通り直線
に平行な直線を引く。
各頂点から直線
に垂線を引く。
メネラウスの定理の応用
例題
において、辺
線分
上の 点をそれぞれ
の交点を
の交点を
とする。さらに直線
と辺
とし、
と
とするとき、
が成り立つ。
(解答)
と直線
と直線
において、
において、
∴
■
【問題 】
の辺
をそれぞれ
比に内分した点を
とする。線分
角形の面積と三角形
との面積比を求めよ。
の
で囲まれる三
(方針)
と
、
と
、
の面積を求めることで、
と
:
の各交点を
がわかる。
とする。
と直線
にメネラウスの定理を用いる。
チェバの定理とその証明
(定理)チェバの定理
点
をそれぞれ
の
辺
の内分点、またはたは外分点とする。 直線
が一点で交わるとき、
が成り立つ。
(証明:メネラウスの定理を用いる)
と直線
において、
と直線
において、
より、
■
【練習】チェバの定理のパターンを、定理で示した図以外に、あと
【練習】チェバの定理を次の つの方法で証明せよ。
頂点 を通り直線
に平行な直線を引く。
つ答えよ。
面積比を用いる。
学習院大
は
を満たすとする。辺
の
また,辺
ようにとり、
の側への延長上に点
と
の交点を
上に点
を、三角形
とする。
をとり、
の面積と三角形
の長さおよび
の長さを
とおく。
の面積が等しくなる
で表せ。
創価大
面積が
に等しい
し,線分
において,辺
と
,
と
ア
(東京大
,
イ
,
を : に内分する点をそれぞれ , ,
の交点をそれぞれ
である。
を
とし,線分
をそれぞれ
と
,
に内分する点をそれぞ
と
,
とするとき、
と
の交点
を求めよ。
の辺
を 、
と
の中点を
の交点を
、更にその延長線上の
と
と
を
の外部の
の中点をそれぞれ
の交点、
、辺
に内分する点
とする。直線
とし、
と辺
点を
と
の交点をそれぞれ
の交点を
とする。線分
の交点,
と
とする。
の比を求めよ。
と
の面積比を求めよ。 平面上に
の中点で点
がある。点
は線分
を
だし、
、線分
を
三角形
と直線
の交点を
の面積
は線分
に内分する点である。た
とする。直線
と直線
の交点を
とする。三角形
の面積
をとおくとき,
, ,
の面積は
年、類題)
において、辺
れ
,
と
の値を求めよ。
とするとき、
ウ である。
と
メネラウスの定理、チェバの定理の逆
メネラウスの定理の逆
平面幾何において辺の長さや面積を求める問題には、メネラウスの定理の利用が非常に有用である。特
に、平面幾何では、
つの点が同一直線上に存在する 共線問題
つの直線が1点で交わる 共点問題
であることが重要な性質として扱われる。これらのことの証明は、メネラウスの定理の逆を考えることで、
より容易になることがある。
メネラウスの定理の逆は成り立たない
点
をそれぞれ△
の
辺
の内分点、またはたは外分点とする。
が成り立つならば、 点
が同一直線上にある。
単純にメネラウスの定理の逆を取ると成り立たない。反例は右の図のよう
な場合である。
そこで、次のように修正することで、これをメネラウスの定理の逆とする
ことにする。
(定理)メネラウスの定理の逆(修正版)
点
をそれぞれ△
の
辺
の内分点、またはたは外分点とする。内分点が
偶数個、外分点が奇数個で、かつ、
が成り立つならば、 点
は同一直線
上にある。
(証明)
が辺の内分点で、直線
と
の交点を
とすると
き、
条件より
∴
∴
■
例題
平行四辺形
点を
の辺
とする。
の交点を
と
と直線
よって、
を通ってそれぞれ
とすれば、
(解答)直線
上の点を
は
とし、
の交
に平行にひいた直線
直線上にあることを証明せよ。
との交点を
とする。
において、
は
直線上にある。■
【問題 】四角形
の
において
等分線がそれぞれ辺
の外角の 等分線と対角線の延長の交点を
と交わる点を
とすれば、
は
とし、
直線上にあることを証明せよ。
チェバの定理の逆
チェバの定理の逆もなりたたない
点
をそれぞれ
の
辺
の内分点、またはたは外分点とする。
が成り立つならば、 直線
は一点で交わる。
やはり単純にメネラウスの定理の逆を取ると成り立たない。反例は右
の図のような場合である。
そこで、次のように修正してみよう。
チェバの定理の逆(修正版)もなりたたない
点
をそれぞれ
の
辺
の内分点、
またはたは外分点とする。内分点が奇数個、外分点が偶数個で、かつ、
つならば、 直線
が成り立
は一点で交わる。
実はこのメネラウスの定理の逆の修正版も成り立たない。反例は右の
図のような場合である。
そこで、さらに次のように修正することで、これをチェバの定理の逆
とする。
(定理)チェバの定理の逆(再修正版)
点
をそれぞれ△
の
辺
の内分点、またはたは外分点とする。内分点が
奇数個、外分点が偶数個で、かつ、
が成り立つならば、 直線
は一
点で交わるか、またはすべて平行である。
(証明)
の交点を
が辺の内分点で、直線
と
の交点を
、
と
’とするとき、
条件より、
∴
∴
■
例題
の内部の任意の点をと
二等分線と辺
は
(解答)
し、
の
との交点をそれぞれ
とすると、
点で交わることを証明せよ。
はそれぞれ
の二等分線であ
るから、
∴
したがって、
は
点で交わる。■
【問題 】
点をそれぞれ、
の辺
上に頂点と異なる点
とすると、
は
をとり、
の二等分線が
点で交わることを証明せよ。
と交わる
メネラウスの定理の逆と共線問題
(定理)シムソンの定理
の外接円の任意の点
から、 直線
ろした垂線の足をそれぞれ
に下
とする。このとき、この
点
は同一直線上にある。
(証明)
と
点
において、
が成り立つことをいえばよい。(メネラ
ウスの定理の逆)
とすると、
∴
よって、 点
は同一直線上にある。■
(定理)ニュートンの定理
四角形
の対辺
の延長線の交点を
とする。
とするとき、この
(証明)
の中点を
れ
の延長線の交点を
、
、
の中点をそれぞれ
点は同一直線上にある。
と
の交点を
、
と
との交点を
とする。 点
がそれぞ
の中点であるから、 点は同一直線上。
と
理の逆)
点
において、
が成り立つことをいえばよい。(メネラウスの定
と
点
において、
より、
∴
は同一直線上にある。■
よって、 点
(定理)デザルグの定理
と
点
’ ’ ’において、直線
で交わっている。直線
と
と
’ ’の交点をそれぞれ
’
’ ’、
’
と
’が
’ ’、
とするとき、この
点
は同一直線上にある。
(証明)
と
点
において、
が成り立つことをいえばよい。(メネラウスの定理の逆)
と直線
’において、
と直線
’において、
と直線
において、
∴
よって、 点
は同一直線上にある。■
(定理)パップスの定理
直線上の 点をそれぞれ、
分
’と
’ 、
れぞれ
’と
’
’ 、
とするとき、この
’
’と
’とする。線
’ の交点をそ
点は一直線上にある。
【練習】パップスの定理を証明せよ。
(方針)直線
’と
’との交点を
とする。
との交点をそれぞれ
、
’ と
と 点
’
,
’
において、
が成り立つことをいえばよい。(メネラウス
の定理の逆) (定理)パスカルの定理
円に内接する六角形
、
と
において、
のそれぞれの交点を
と
、
と
とすると、この 点
は一直線上にある。
【練習】パスカルの定理を証明せよ。
(方針)直線
ぞれの交点を
と
、
とする。
と
,
と
と
点
の交点をそれ
において、
が成り立つことをいえばよい。
(メネラウス
の定理の逆)
チェバの定理の逆と三角形の五心
(定理)重心
三角形の中線は
点で交わる。
(証明) 辺
の各中点を
とすると、
より、
よって、チェバの定理の逆より、 直線は
点で交わる。また、
∴
■
(定理)垂心
三角形の
頂点から対辺に下ろした垂線は
(証明)頂点
から、対辺
点で交わる。
の各中点を
とすると、
よって、チェバの定理の逆より、 直線は
点で交わる。■ (定理)外心
三角形の
辺の垂直
等分線は
(証明) 辺
点で交わる。
の中点を
の垂直 等分線は、
て、
の垂直
とすると、
に対しても垂直。よっ
等分線の交点は△
の垂心に一致する。垂
心はすでに証明済み。■
(定理)内心
三角形の
頂角の
等分線は
点で交わる。
【練習】三角形の 頂角の 等分線は 点で交わることを証明せよ。
(方針)頂角
の 等分線と対辺との交点を
角の二等分線の性質を用いて、
バの定理の逆) と直線
とする。
をいう。
(チェ
において、
(定理)傍心
三角形の
頂角の内角と、他の外角の
【練習】三角形の
等分線は
頂角の内角と、他の外角の
点で交わる。
等分線は
点で交
わることを証明せよ。
(方針)頂角
の内角、
の外角の 等分線と対辺との交点を
とする。角の二等分線の性質を用いて、
をいう。(チェバの定理の逆) チェバの定理の逆の応用
例題 (ジュルゴンヌ点)
の内接円と辺
ると、 直線
(解答)円外の
との接点を
は
とす
点で交わる。
点から円に引いた接線の長さが等しいことを利用
して、
をいう。(チェバの定理の逆)
より、
チェバの定理の逆より、
は
点で交わる。■
【問題 】(ナーゲル点)
点を
の傍接円と辺
とすると、 直線
は
との接
点で交わることを
証明せよ。
(方針)円外の
して、
点から円に引いた接線の長さが等しいことを利用
をいう。(チェバの定理の逆)
とおく。
∴
(京都大
年)
において、
とする。 同様に
直練
の辺
,
, , ,
で交わり、この点
上に頂点と異なる点
とすると,
平行四辺形
に
の二等分線とこの外接円との交点をそれぞ れ
は 点
それぞれ
の二等分線とこの三角形の外接円との交点で
内の
,
点
は三角形
をとり,
,
は
,
とする。 このとき
の垂心と一致することを証明せよ。
,
の二等分線が
,
と交わる点を
点で交わることを証明せよ。
を通り,各辺に平行線を引き,辺
とする。 直線
と異な る点を
が点
,
で交わるとき, 点
,
,
, ,
との交点を,順
は
つの直線上にある
ことを示せ。
の内部の任意の点を
点をそれぞれ
の
二等分線と辺
, ,
とし,
とすると,
,
,
の外角の二等分線が線分
,
の交点をそれぞれ
,
,
は
の二等分線と辺
の延長と交わるとき,その交点を
,
とすると, 点
示せ。
と直線 がある。
の に関する対称点を
し、 上の任意の点
と
と交わる点を
とするとき、
せよ。
,
,
との交
点で交わることを証明せよ。
と
を結ぶ直線とそれぞれ
は共線であることを証明
,
は
とする。
,
の
つの直線上にあることを
メネラウスの定理の拡張
多角形におけるメネラウスの定理
(定理)多角形におけるメネラウスの定理
角形のどの頂点も通らない直線が、直線
・
・
・ ,
)と交わる点を
(
とするとき、
が成立する。
(証明 :線分の相似比を用いる)
頂点
から直線
に下ろした垂線の足を
とすると、
より、
■
(証明 :帰納法を用いる)
角形の辺
に対して、
と直線との交点を
’
を作り、
とする。三角形では明らか。
角形で
次の関係が成り立つとする。
と直線
式をかけると、
’を
におきかえると、
において、メネラウスの定理より、
より、
角形でも成立。よって、
■
例題
直線が
の辺
またはその延長上と交わる
とする。線分
点をそれぞれ
とし、直線
がそれぞれ
とすれば、
は
(解答)四角形
と交わる点を
直線上にある。
と直線
において、
四角形
と直線
において、
四角形
と直線
において、
と直線
の中点を
において、
と
より、
∴
よって
【問題 】
の辺
し、
は
直線上にある。■
またはその延長上の点を
は 点で交わっているとする。直線
点をそれぞれ
とし、 直線
と交わる点を
とする。
が同一直線上にあるならば、
と
上の
がそれぞれ
も同一直線上にある
ことを証明せよ。
が
点で交わるならば、
ることを証明せよ。
も
点で交わ
多角形におけるチェバの定理
多角形におけるチェバの定理は、対辺が存在する奇数多角形
(定理)多角形におけるチェバの定理
角形の辺または延長上にない平面上の 点
と
して、直線
・
・
・
,
が成立する。
(証明:面積比を用いる)
とおくと、
∴
■
に対
)と交わる点を
とすると、
多角形 においてのみ拡張される。
空間におけるメネラウスの定理
(定理)空間におけるメネラウスの定理
空間内の四面体
の辺
が平面 π と交わる点をそれぞれ
またはその延長
とすると、
が成立する。
(証明)直線
と平面 π との交点を
とする。
と直線
において、メネラウスの定理より、
と直線
において、メネラウスの定理より、
より、
■
(証明:頂点の巡る順を変える)直線
と直線
において、
と直線
において、
と平面 π との交点を
とする。
より、
■
の辺
またはその延長上の点を
は共点であるとする。共線
し、
点をそれぞれ
とし、 直線
と交わる点を
と
上の
がそれぞれ
とする。このとき、次を証明
せよ。
が共線ならば
も共線である。
が共点ならば、
も共点である。 (空間内のメネラウスの定理の逆)空間内の四面体
またはその延長の点をそれぞれ
が成り立つとき、 点
の辺
とする。
は同一平面上にあることを証明せ
よ。
(パップスの定理)平面上の 点
らの直線が
を通る 本の直線がある。これ
を通らない 本の直線 と交わる点を順に
とするとき、
の値は、直線
(注意)
を
に関わらず一定であることを証明せよ。
の値をを複比 非調和比 といい,
を中心とする束線という。 と表す。また、直線