進行肝細胞癌に対する 5-FU/CDDP 併用、肝動注化学療法の効果

進行肝細胞癌に対する 5‐FU/CDDP 併用、肝動注化学療法の効果:
日本原発性肝がん追跡調査による検討 Effect of hepatic arterial infusion chemotherapy of 5‐fluorouracil and cisplatin for advanced hepatocellular carcinoma in the Nationwide Survey of Primary Liver Cancer in Japan
Br J Cancer. 2013 Oct 1; 109(7): 1904–1907 【はじめに】 進行した肝細胞癌の治療において、肝動注化学療法の有効性は
明らかでない。 【方法】 5‐FU/CDDP 併用、肝動注化学療法を受けた肝細胞癌の患者 476 名
の転帰を、積極的な治療を受けなかった患者(best supportive care; BSC)1466 名の転帰と比較した。 【結果】 既知の危険因子を調整した後、肝動注化学療法の延命効果が認
められた(ハザード比 0.48; 95%CI, 0.41‐0.56; P<0.0001)。傾向スコ
アマッチ分析で(n=682)、肝動注化学療法を受けた患者は BSC の
患者に比べて、生存期間の中央値が有意に長かった(14.0 ヶ月対
5.2 ヶ月、P<0.0001)
。 【結論】 進行した肝細胞癌に対して、肝動注化学療法は有効な治療であ
ると考えられた。 1
【解説】 生存率
肝動注化学療法(HAIC)群の治療成績は、 完全寛解(CR、n=19、4.0%) 部分寛解(PR、n =173、36.5%) 病状安定(SD、n =112、23.6%) 進行(PD、n =41、8.7%) であった。 治療反応別に見た 1 年および 3 生存率はそれぞれ、 CR/ PR(77.7%と 34.6%) 診断後の生存月数
SD(44.2%と 13.3%) PD(23.7%と 10.3%) であった(P<0.0001)。
(図 1) 図 1. 動注ポートを使用した 5‐FU+CDDP
多変量解析では、HBs Ag、3 個以 肝動注を受けた患者の生存期間 上の腫瘍、大きな腫瘍(>3cm)
、 遠隔転移、門脈浸潤(VP3 および VP4)
、高 AFP(>400 ng/ml)が
生存率の低下に関連していた。 傾向スコアをマッチさせたコホート では(n=682)、HAIC 群の 198 名と 無治療群の 199 名が観察期間中に 死亡した。 死因は肝臓関連死(肝臓癌と 無治療群
肝不全による死亡)が HAIC 群で 184 名(92.9%)
、無治療群で 180 名 診断後の生存月数
(90.4%)であった(P =0.47)。 生存期間の中央値は HAIC 群 14.0 ヶ 月、無治療群 5.2 ヶ月であり、 図 2. 傾向スコアをマッチさせた、
HAIC 群で有意に長かった 5-FU+CDDP による HAIC を受けた
(P<0.0001)。
(図 2) 患者と無治療患者の生存期間
生存率
2
CDDP CDDP を初めとした白金製剤では、Pt(白金)に対して 2 つのア
ンモニア分子と 2 つの塩素イオンが cis 配位(同じ側)に結合する
構造を有している(図 1)
。 塩素イオンと Pt の結合は、分子中の不安定な部分である。塩素
イオン濃度の高い血漿中(103mM)では CDDP は安定で電気的に
中性のままであるが、塩素イオン濃度の低い細胞内(4mM)では
塩素イオンが水分子に置き換わり、陽性に荷電した CDDP の水和分
子種が生成される。この CDDP 水和生成物中の水分子が DNA 中の
プリン塩基、あるいはピリミジン塩基と置き換わり、その結果
CDDP が DNA に結合すると推定されている。特にプリン塩基の反
応性に富む 7 位の窒素と相互作用する。 その結果、タンパク質‐DNA 複合体や DNA‐DNA 間において、
CDDP と DNA が結合して、同一鎖内あるいは鎖間に架橋を生成
し、DNA の複製・転写が阻害されて殺細胞効果がもたらされる。 CDDP 3
5-FU 5-FU の抗腫瘍効果は主として DNA 合成阻害に基づく(図 2)
。
腫瘍細内に取り込まれた 5‐FU は、ウラシルと同経路で FdUMP に
転換される。FdUMP は UMP と拮抗して thymidylate synthase(TS)
阻害して dTMP の合成を抑制することにより、DNA 合成が阻害さ
れる。また FdUMP は最終的に FdUTD となり DNA に転入したり、
また 5‐FU はウラシルと同じ経路を経て RNA に組み込まれて F‐RNA
を生成することや、リボゾーム RNA の形成を阻害することも知ら
れており、これらも抗腫瘍効果に関与する。 Biochemical modulation Biochemical modulation とは、抗癌剤の薬理動態が他の薬剤
(modulator)によって修飾され、effecter である抗癌剤の効果が高
まることである。CDDP は細胞内へのメチオニンの輸送を阻害する
ことで、細胞内でのメチオニン合成酵素を活性化する。その結
果、葉酸系の代謝が亢進して還元型葉酸(5,10‐CH2‐FH4)プールが
増大し、 FdUMP、TS、還元型葉酸の複合体の形成を介して、5‐FU
の DNA 阻害が増強される。このように低用量 CDDP/5‐FU 肝動注化
学療法は、おのおのの抗腫瘍効果のみならず、CDDP が modulator
として 5‐FU の効果を増強する作用も有している。この相乗効果が
HAIC 治療の基礎となる。 ホモシステイン
メチオニン
4
メチオニン