レンビマカプセル(Lenvima Capsules):根治切除不能な甲状腺癌の治療薬 北村 正樹=東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部 抗悪性腫瘍薬レンバチニブメシル酸塩(商品名レンビマカプセル 4mg、同カプセル 10mg)が薬価収載と同時に発売された(2015 年 5 月 20 日)。 適応は「根治切除不能な甲状腺癌」で、1 日 1 回 24mg を経口投与する。日本では 2012 年 8 月に希少疾病用医薬品に指定されている。 甲状腺癌は、気管付近、頸部の前面に位置する甲状腺の組織に生じる癌である。男性より女性に多く発症し、日本の総患者数は約 1 万 3000~2 万 9000 人と推定されている。最も多くみられる甲状腺癌の乳頭癌と濾胞癌(ヒュルトレ細胞癌を含む)は、分化型甲状腺癌(DTC)として分類され、甲状腺癌 の 95%を占めている。 甲状腺癌の多くは、外科的手術や放射性ヨウ素療法などでの治療が可能である一方、根治切除不能な甲状腺癌に対する治療選択肢は限られているの が現状であった。さらに放射性ヨウ素療法によって病変が制御不能となった DTC、並びに切除不能の甲状腺髄様癌および甲状腺未分化癌では標準治療 が存在しないことから、新たな治療薬の開発承認が望まれていた。 レンバチニブは、根治切除不能な DTC に適応を有するソラフェニブトシル酸塩(商品名ネクサバール)などと同じ、キナーゼ阻害薬である。 なお適応の範囲は、ソラフェニブは DTC のみ、レンバチニブは甲状腺癌である。 作用機序 レンバチニブは、甲状腺癌に対しては特に 3 種類の受容体チロシンキナーゼ、VEGFR1~3、FGFR1~4、RET の阻害によって抗腫瘍効果を発揮すると考 えられる。これまでキナーゼ阻害剤の標的とならなかった FGFR に対する阻害活性を有し、かつ VEGFR に対する強力な阻害活性を有することで、FGFR と VEGFR が協働的に働いて惹起される腫瘍血管新生を強力に阻害する。また多くの甲状腺癌の発症と増殖に関わる RET を阻害する。このように、本剤は 甲状腺癌の高い腫瘍血管依存性と RET 依存の増殖を遮断することで、甲状腺癌(分化癌(DTC)、未分化癌(ATC)、髄様癌(MTC))にも優れた治療効果 を発揮することが期待できる。レンバチニブは一方で臨床用量において、二次発癌のリスクが報告されている RAF や、また心血管の恒常性維持に関与す る PDGFRβ の阻害作用が弱い特徴も有する。これらの特徴は後述するように、本剤のキナーゼへの結合機構が、新規の結合様式 Type V に起因してい るものと考えられている。 用法・用量 通常、成人にはレンバチニブとして 1 日 1 回 24mg を経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。 〈用法及び用量に関連する使用上の注意〉 1)副作用があらわれた場合は、症状、重症度等に応じて以下の基準を考慮して、本剤を減量、休薬又は中止すること。減量して投与を継続する場合には、 1 日 1 回 20mg、14mg、10mg、8mg 又は 4mg に減量すること。 休薬、減量及び中止基準 Grade は CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)version 4.0 に準じる。 2)本剤と他の抗悪性腫瘍剤との併用について、有効性及び安全性は確立していない。 3)重度の肝機能障害患者では、本剤の血中濃度が上昇するとの報告があるため、減量を考慮するとともに、患者の状態をより慎重に観察し、有害事象 の発現に十分注意すること。〔「慎重投与」及び「薬物動態」の項参照〕 併用薬の影響 (a)ケトコナゾール (外国人のデータ) 外国人健康成人を対象に 2 期のクロスオーバー法を用いてプラセボ併用時とケトコナゾール併用時のレンバチニブの薬物動態を比較し、本薬の薬物動態 に及ぼすケトコナゾールの影響を検討した。本薬の Cmax は、ケトコナゾールの併用投与により 19%増加し、AUC(0⊖t)及び AUC(0 inf)は 15%増加した。 tmax 及び t1⊘2 にケトコナゾール併用による変化はみられなかった。 強力な CYP3A の阻害剤かつ消化管における P 糖蛋白(P⊖gp)阻害作用を有するケトコナゾールとの併用においても、曝露量の増大の程度はあまり大きく ないことから、CYP3A の阻害剤及び消化管における P⊖gp 阻害剤とレンバチニブの併用は、臨床上問題とならないと考えられた。 ( ) (b)リファンピシン (外国人のデータ) 外国人健康成人を対象に、本薬単独投与時、リファンピシン単回併用投与時及びリファンピシン反復投与後に本薬と同時併用した時のレンバチニブの薬 物動態を比較し、本薬の薬物動態に及ぼすリファンピシンの影響を検討した。本薬を単独投与したときと比べ、リファンピシン単回併用投与によりレンバチ ニブの Cmax は 33%増加し、AUC は 31%増加した。これはリファンピシン単回投与によって消化管の P⊖gp が阻害され、P⊖gp の基質であるレンバチニブ の吸収が増加したためと考えられた。一方、リファンピシン反復併用投与時では、リファンピシン単回併用投与時と比べ、レンバチニブの Cmax は 24%低 下し、AUC は 37%低下した。t1⊘2 は本薬単独投与時で 23.2±7.28 時間(平均値±標準偏差、以下同様)、リファンピシン単回併用投与時で 22.8±7.57 時 間と同程度であったが、リファンピシン反復併用投与時では 19.7±8.60 時間となった。リファンピシンの誘導作用による薬物動態パラメータの変化は大きく なく、臨床上問題とならないと考えられた。 特性 (1)レンバチニブは、腫瘍血管新生、腫瘍増殖等に関与する、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体(VEGFR1-3)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR1-4)、 血小板由来成長因子受容体(PDGFR)α、幹細胞因子受容体(KIT)、Rearranged During Transfection がん原遺伝子(RET)等の受容体チロシンキナーゼ を阻害することで、抗腫瘍効果を発揮します。 (2)国際共同第Ⅲ相試験(303 試験, SELECT)において、レンバチニブは放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性の分化型甲状腺癌患者に対し、プラセボに比 べて無増悪生存期間を有意に延長し、抗腫瘍効果を示しました。 ● 無増悪生存期間の中央値 レンビマ群:18.3 ヵ月、プラセボ群:3.6 ヵ月 ● 奏効率(CR+PR) レンビマ群:64.8%(CR:1.5%)、プラセボ群:1.5% ● 病勢コントロール率(DCR=CR+PR+SD) レンビマ群:87.7%、プラセボ群:55.7% ● 臨床的有用率(CBR=CR+PR+23 週以上の SD) レンビマ群:80.1%、プラセボ群:31.3% [レンビマ群(n=261)、プラセボ群(n=131)] (3)海外第Ⅱ相試験(201 試験)において、レンバチニブは放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性の分化型甲状腺癌患者及び切除不能の甲状腺髄様癌患者 に対し、抗腫瘍効果を示しました。 ● 奏効率(CR+PR) 分化型甲状腺癌:50.0%、甲状腺髄様癌:35.6% ● 病勢コントロール率(DCR=CR+PR+SD) 分化型甲状腺癌:93.1%、甲状腺髄様癌:79.7% ● 臨床的有用率(CBR=CR+PR+23 週以上の SD) 分化型甲状腺癌:77.6%、甲状腺髄様癌:64.4% [分化型甲状腺癌(n=58)、甲状腺髄様癌(n=59)] (4)国内第Ⅱ相試験(208 試験)において、レンバチニブは放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性の分化型甲状腺癌患者、切除不能の甲状腺髄様癌患者及び 切除不能の甲状腺未分化癌患者に対し、抗腫瘍効果を示しました。 ● 奏効率(CR+PR)a 分化型甲状腺癌:69.6%、甲状腺髄様癌:12.5%、甲状腺未分化癌:27.3% ● 病勢コントロール率(DCR=CR+PR+SD)a 分化型甲状腺癌:100%、甲状腺髄様癌:100%、甲状腺未分化癌:90.9% ● 臨床的有用率(CBR=CR+PR+長期 SD※)b 分化型甲状腺癌:86.4%、甲状腺髄様癌:71.4%、甲状腺未分化癌:81.8% a:[分化型甲状腺癌(n=23)、甲状腺髄様癌(n=8)、甲状腺未分化癌(n=11)] b:[分化型甲状腺癌(n=22)、甲状腺髄様癌(n=7)、甲状腺未分化癌(n=11)] ※分化型甲状腺癌及び甲状腺髄様癌は 23 週以上、甲状腺未分化癌は 11 週以上 (5)副作用 放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性の分化型甲状腺癌患者を対象にした国際共同第Ⅲ相試験(303 試験,SELECT)(無作為化期)において本剤が投与さ れた 261 例(日本人 30 例を含む)において、副作用が 254 例(97.3%)に認められました。 主な副作用は、高血圧 177 例(67.8%)、下痢 159 例(60.9%)、食欲減退 135 例(51.7%)、体重減少 123 例(47.1%)、悪心 107 例(41.0%)、疲労 104 例(39.8%)、 口内炎 96 例(36.8%)、蛋白尿 85 例(32.6%)、手掌・足底発赤知覚不全症候群 83 例(31.8%)等でした。(承認時) なお、重大な副作用として高血圧、出血、動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症、肝障害、腎障害、消化管穿孔、瘻孔形成、可逆性後白質脳症症候群、心障 害、手足症候群、感染症、骨髄抑制、低カルシウム血症、創傷治癒遅延が報告されています。 製剤
© Copyright 2024 ExpyDoc