空家問題解決策としての民事信託活用法【前編】

コンサルティング 基礎講座
Consulting Basic Lecture
民事信託活用法講座②
空家問題解決策としての民事信託活用法【前編】
~空家問題の現状を知る~
石垣 雄一郎
ダンコンサルティング株式会社 取締役
税理士
1 はじめに
[いしがき・ゆういちろう]ダンコンサルティング㈱で中小企業経営サ
ポート、不動産戦略業務を行う。現在、不動産、相続、信託を中心とし
た不動産コンサルティング業務に従事し、大企業、中小企業向け不動産
戦略セミナー講師も務めている。
物などがあり、実際に多くの深刻な影響が各地で起き
ています。
核家族化、少子高齢化、人口減少により空家が増え
このように差し迫った空家問題に対処するため、国
ています。今回は社会の問題を解決する手段としての
は「空家等対策の推進に関する特別措置法」
(法律第
民事信託の活用可能性について、
全国で増え続ける「空
127号、公布日・平成26年11月27日、施行日・平成27
家」に焦点を当て、 2 回に分けて検討してみたいと思
年 2 月26日と 5 月26日(一部残りの規定)
、以下、空
います。そこで、前編となる今月号では日本における
家等対策特別措置法といいます。
)を制定しました。
空家の状況を振り返り、この状況に対応するため、本
この法律を概観すると次のような内容となります。
年(平成27(2015)年)施行された「空家等対策の推
進に関する特別措置法」を概観します。
その上で後編の次月号では目の前の空家問題を解決
3 空家等対策特別措置法の概要
(1)目的
する手段としての民事信託、そして、そもそも空家を
この法律は、適切な管理が行われていない空家等が
生じさせないための民事信託の活用可能性について具
防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影
体例を通して検討してみたいと思います。
響を及ぼしているため、地域住民の生命、身体又は財
2 全国の空家がもたらす深刻な影響
平成26(2014)年 7 月29日に発表された総務省の平
産の保護とその生活環境の保全を図ること、そして、
空家等の活用促進を目的として制定されています(空
家等対策特別措置法第 1 条)
。
成25(2013)年住宅・土地統計調査によれば、空家数
は820万戸と、 5 年前(平成20(2008)年)に比べ、
(2)定義
63万戸(8.3%)増加しています。空家率(総住宅数
①空家等
に占める割合)は、13.5%とやはり 5 年前に比べ、0.4
「空家等」とは、次のように定義されています。
ポイント上昇し、過去最高を記録しています(別荘等
「建築物又はこれに附属する工作物であって居住そ
の二次的住宅数は41万戸ありますので、二次的住宅を
の他の使用がなされていないことが常態であるもの及
除く空家率は12.8%です)
。
びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。
)
空家が長期間放置されると、建物の老朽化が進み、
崩壊・崩落・倒壊、不審者の侵入・放火など防災・保
をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は
管理するものを除く。
」
(同法第 2 条第 1 項)
安上の危険にさらされ、害虫等の発生といった衛生上
の問題が生じ、周辺環境・景観を悪化させる恐れがあ
ります。
「空家」に加え、
「特定空家等」を次の 4 つに定義(同
報道によると、空家について、住居侵入、放火、人
条第 2 項)し、
「特定空家等」に該当すれば、行政に
の遺体発見といった事件が起きているようです。また、
よる助言又は指導、勧告、命令、行政代執行の措置が
異臭が発生する建物、強風による倒壊等で道路へ崩落
とれるようになっています(
(6)を参照)
。
の危険性のある老朽化した建物、周辺の景観を損ね近
隣住民が困っていても所有者が何も対応していない建
2
②特定空家等
2015. 11 ◆ 不動産フォーラム21
㋐そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険とな
るおそれのある状態