複素数とアナログサイン波と信号処理

複素数とアナログサイン波と信号処理
オイラー公式を適用してアナログサイン波を 2 つの複素正弦波の和に分解できます。するとサイン波を含んだ難しい
計算式がネイピア数どうしの単純な四則演算で解けるようになります。
1
アナログサイン波と複素正弦波の関係
オイラー公式その 2 を適用することによってアナログサイン波を 2 つの複素正弦波の和に分解できます。
アナログサイン波にオイラー公式を適用
a を 0 以上の実数の定数、初期位相 φ を −π ≤ φ ≤ π の範囲の実数の定数、角周波数 w (rad/秒) を 0 以上の実
数の定数とするとき、
a · sin(w · t + φ) =
{a
}
{a
}
· e{−j(φ−π/2)} · e{−j·w·t} +
· e{j(φ−π/2)} · e{j·w·t}
2
2
複素数である複素正弦波どうしを足したら実数であるサイン波に変わるのは一見すると不思議な感じがしますが、よ
くよく見ると第一項目の複素正弦波と第二項目の複素正弦波は共役関係にあるので足すと虚数成分が消えます (図 1)。
虚数軸
Im[Z]
第一項目
a・sin(wt+φ)
0
Re[Z]
実数軸
第二項目
図 1: 共役関係にある複素数を足すと虚数成分が消える
1
また sin の代わりに cos を使った場合が次の式で、見た通り初期位相の部分が少しだけ式が簡単になります。以前書
いたように cos を使った場合でもサイン波と呼ぶことに注意してください。
アナログサイン波にオイラー公式を適用 (cos の場合)
a を 0 以上の実数の定数、位相 φ を −π ≤ φ ≤ π の範囲の実数の定数、角周波数 w (rad/秒) を 0 以上の実数の
定数とするとき、
a · cos(w · t + φ) =
{a
}
{a
}
· e{−j·φ} · e{−j·w·t} +
· e{j·φ} · e{j·w·t}
2
2
2
信号処理で複素数が良く使われる理由
sin を使うにしても cos を使うにしても、いずれにしろアナログサイン波を複素正弦波の和に分解することで、
• 振幅と初期位相を同時に処理 (計算) できる
• 難しい計算式がネイピア数 e どうしの単純な四則演算に置き換わって簡単に解けるようになる
というメリットが得られます。これが信号処理で複素数が良く使われている理由です。
もちろん複素数を使わなくても計算出来る状況も多いのですが、もし複素数が無かったら信号処理技術は数十年は遅
れていたはずなので、みなさんが命の次に大事にしている携帯電話とかスマートフォンとかはまだ世の中に無かったと
思います。
話を戻して、例として次の公式を考えてみましょう。
a · sin(w · t + π/2) = a · cos(w · t)
これを代数幾何的に考えると意外に難しいので多分みなさんはこの公式を丸暗記して覚えたと思いますが、複素正弦
波の和に分解して考えると次のようにこの公式が正しいことを計算から確かめられます。
{a
}
{a
}
· e{−j(π/2−π/2)} · e{−j·w·t} +
· e{j(π/2−π/2)} · e{j·w·t}
2
2
{a
}
{a
}
0
{−j·w·t}
0
{j·w·t}
=
·e ·e
+
·e ·e
2
2
= a · cos(w · t + 0)
a · sin(w · t + π/2) =
これはものすごく単純な例でしたが、
「アナログサイン波を複素正弦波の和に分解することで計算が簡単になる」可能
性を感じることが出来たと思います。
2
演習
演習 1 (個人):次の式が正しいことをサイン波を複素正弦波の和に分解して確認せよ。ノートに途中の計算式も含めて
書くこと。
a · sin(w · t − π/2) = −a · cos(w · t)
演習 2 (個人):次の式が正しいことをサイン波を複素正弦波の和に分解して確認せよ。ノートに途中の計算式も含めて
書くこと。
sin(w · t) · sin(w · t) =
3
1 − cos(2 · w · t)
2