放射能汚染、放射線被ばくに不安を感じていたのはどのような人々か 佐藤 雅浩 <概要> 福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質の人体への影響について、 (1)全国 の人々がどのような点に不安を感じ、どういった対処法(被ばく回避行動)をとっていた のか、(2)特に不安を感じていたのはどのような属性の人々なのか、について考察した その結果、多くの国民が被ばくに対して何らかの懸念をもって行動(汚染に関する情報収 集や被ばくを防ぐ行動)をしていたこと、特に女性や高学歴の人、幼い子供をもつ母親た ちが、被ばくへの強い懸念を抱いていたことがわかった <明らかになったこと①> 全国では 30~50%程度、被災三県では半数以上の人が、事故後に 被ばくを避けるために積極的なアクションを起こしていた1 今回の調査では、(a)汚染情報の収集、(b)食品汚染、(c)大気の汚染、(d)土壌の汚染について、 それぞれ、事故後にどのくらい配慮した行動をとったかを尋ねている2 全国、被災三県ともに、もっとも心配されていたのは食品経由の内部被ばく 全国で約半数、被災県では約 7 割の回答者が、事故から現在のあいだに「放射性物質 に汚染されていそうな食品を食べないように注意した」と回答3 反対に、吸入(呼吸)による内部被ばくには、あまり対策がとられていない 「マスクをした」人は全国で 10%、被災三県でも 40%程度 多くの人は、吸入による被ばくの影響は少ないと考えている。あるいはマスクをする と回避行動をとっていることが他人に知られやすいため、 「被ばくを恐れていることを、 周囲の人々に知られたくない」という意識が働いた可能性がある 原発事故から現在のあいだに、被ばくをさけるためにとった行動(全国N=1216) 0% (a)食品や土壌の汚染について情報を集めた 10% 10.0 4.2 40% 7.6 60% 70% 80% 90% 100% 45.3 27.4 2.5 17.2 18.7 22.2 ややあてはまる 50% 19.9 23.4 (d)放射線量が高い地域に行かないように注意した あてはまる 30% 22.3 (b)放射性物質に汚染されていそうな食品を食べないように注意した (c)マスクをするなどして放射性物質を吸い込まないように注意した 20% 30.1 2.0 67.0 15.8 あまりあてはまらない 2.5 17.0 42.7 あてはまらない 2.3 無回答 原発事故から現在のあいだに、被ばくをさけるためにとった行動(被災三県N=388) 0% 10% (a)食品や土壌の汚染について情報を集めた 40% 50% 21.4 ややあてはまる 60% 31.2 70% 39.2 あまりあてはまらない 14.7 23.2 17.8 100% 3.6 14.2 34.8 23.7 あてはまらない 90% 23.7 29.9 17.3 80% 18.8 38.7 (d)放射線量が高い地域に行かないように注意した あてはまる 30% 22.7 (b)放射性物質に汚染されていそうな食品を食べないように注意した (c)マスクをするなどして放射性物質を吸い込まないように注意した 20% 2.6 3.4 16.5 2.8 無回答 1 それぞれの項目に「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した人の合計% 2 回答者には、グラフ内の(a)~(d)の項目ごとに、 「あてはまる」から「あてはまらない」までの 4 段階で回答を求めた 3 「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した人の合計% 以下の考察対象は、すべて全国調査4である。先に紹介した事故後の行動に関する質問から、被ばくに対す る不安感を点数化し、回答者を「不安高」から「不安低」まで4グループに区分した。その上で、性別や 学歴、末子の年齢ごとに、上記のグループに属する人々の割合を算出した。 <明らかになったこと②>被ばくの可能性についてセンシティブだったのは女性や高学歴の人 男性と女性を比べると、女性の方が 10%ほど多く「不安高」のグループに入っている 女性の方が、もともと健康問題に関心が高いことが影響している可能性 あるいは、女性の方が子供への影響をより強く懸念したのではないか(→後述) 他方で、学歴においては高学歴の人ほど被ばくを意識した行動をとっている 回避行動が、汚染についての情報を集めるリテラシー能力に影響されている可能性 なお、 「短大・高専」卒業の人々にもっとも不安感が高いが、これは短大・高専卒の人 に女性が多い(約 8 割)ため、性別の影響であると考えられる 事故後の行動から見る 男女の不安感の差 (全国:1186人、p < .001) 学歴と不安感の関係 (全国:1134人、p < .01) 100% 90% 80% 30.2 70% 60% 20.8 20.2 不安低 22.2 ・・ 50% 30.0 40% 30% 27.3 不安高 20% 10% 20.3 ・・ 28.9 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 0% 男性 女性 17.8 27.5 30.9 23.6 17.8 不安低 23.2 22.1 19.1 ・・ 32.2 31.6 29.3 18.4 21.0 ~中学校卒 高校卒 24.6 ・・ 不安高 32.2 28.6 短大・高専卒 大学卒以上 <明らかになったこと③> 子供をもつ回答者、特に低年齢の子供がいる回答者ほど、被ばくを 避けるための回避行動をとっている もっとも不安感が高い人々の割合は、未就学児がいる回答者の中で 38.6%、小学生の 子供がいる人で 30.8%、中学~高校生がいる人で 26.5%、それ以上の年齢の子供がい る人では 21.5%、子供がいない人では 23%であった 多くの人々が、幼い子供に対する放射線の影響を懸念して行動していたことが伺える しかし、この末子年齢と不安感の関係を男女別に見てみると、女性では全サンプルと ほぼ同様の傾向が見られ 末子年齢と不安感の関係 (全国:1176人、p < .01) たが、男性では、両者の関 100% 14.9 90% 19.6 20.8 係性があまり見られなか 25.7 31.5 80% った 21.8 つまり、幼い子供に対する 放射線の影響を意識して 行動していたのは、特に子 供をもつ母親たちであっ たことがわかる 70% 18.3 19.6 22.6 60% 50% 20.0 不安低 ・・ 24.8 30.0 40% 34.3 ・・ 30.1 25.6 21.5 23.0 それ以上 子供はいない 不安高 30% 20% 38.6 30.8 10% 26.5 0% 未就学児 小学生 中高生 4 被災三県では、当然ながら全般的な不安感は高まるものの、性別や学歴と不安感の有意な関連は見られなかった。放 射能汚染に関する意識構造は、全国と被災地で異なる形式をとっている可能性がある。
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