“せいかい”

水産総合研究センター研究開発情報
ISSN 1882-2711
西 海
“せいかい”
No.17(2015.3)
人工種苗生産して育成中のタイラギ稚貝(殻長約 8cm)
目 次
有明海及び八代海等における赤潮・貧酸素のモニタリング
-自動観測ブイによる連続観測と水質・赤潮分布情報の迅速な公表-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
タイラギ人工種苗の大量生産と垂下育成試験
-有明海のタイラギ再生を目指して-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
有明海の水質環境をめぐる様々な問題
-貧酸素水塊の形成と珪藻赤潮の発生に注目して-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
編集
西海区水産研究所
有明海及び八代海等における赤潮・貧酸素のモニタリング
-自動観測ブイによる連続観測と水質・赤潮分布情報の迅速な公表-
有明海・八代海漁場環境研究センター
有明海及び八代海では平成 21 年、22 年に大規模な
シャットネラ赤潮が発生し、この 2 年間にブリ等の魚
類養殖業で合計 87 億円を超える大きな被害が発生し
ました。平成 21 年には、有明海及び八代海の奥部で
増殖し、表層に濃密に分布したシャットネラ赤潮が、
北寄りの風に流されて南部まで輸送され、魚類養殖場
で大きな漁業被害が発生したことが明らかになってい
ます。また、有明海奥部では赤潮だけでなく、夏季に
は貧酸素水塊が発生し、重要な漁業対象であるタイラ
ギやサルボウなどの二枚貝類がへい死しています。さ
らに、冬季には珪藻赤潮により養殖ノリが色落ちする
被害がしばしば発生するなど、大きな問題となってい
ます。
そこで、当所では赤潮及び貧酸素水塊による漁業被
害を防止するため、水産庁の補助事業「赤潮・貧酸素
水塊漁業被害防止対策事業」により、平成 22~24 年
度に水質と流向流速の鉛直分布ならびに風向風速を自
動観測する大型自動観測ブイ(図 1)を開発し、八代
海に合計 3 基のブイを設置して周年の連続観測を行っ
ています。さらに、平成 25~26 年度の水産庁補助事
業「赤潮・貧酸素水塊対策推進事業」により、赤潮プ
ランクトンの増殖に必要な水中の光条件も測定可能な
大型自動観測ブイを開発し、有明海奥部の大浦沖と沖
神瀬西の 2 カ所にそれぞれ設置し、連続観測を行って
います。これらの連続観測結果は「有明海・八代海等
の水質観測情報」
(図 2)として提供しております。
これらの自動観測ブイを活用して、平成 25 年度か
ら水産庁委託事業「赤潮・貧酸素水塊対策推進事業」
により、有明海及び八代海等において、水産総合研究
風向風速計
木元克則
センターと関係県、漁業協同組合、民間会社などが、
赤潮及び貧酸素水塊の発生機構解明と発生予察、被害
防止技術の開発のための共同研究に取り組んでいます。
図 2 有明海・八代海等の水質観測情報.
(http://ariake-yatsushiro.jp/)
さらに、観測した植物プランクトン及び水質の分布
データを迅速に収集し、情報提供するシステムを上記
の共同研究で開発して運用しています。現在、有明海
及び八代海を含む九州西岸域及び瀬戸内海西部海域の
関係機関が観測後に速やかにデータを入力し、赤潮プ
ランクトン及び水質の分布情報をホームページで提供
しています(図 3)
。
このような赤潮及び貧酸素水塊の広域のモニタリン
グと迅速な情報提供により、赤潮と貧酸素水塊の実態
を適切に把握することができ、それにより魚類養殖な
どに対する被害軽減・防止の取組が適切に実施され、
成
果が得られることが期待されます。
点滅灯
太陽電池パネル
空中光量子計
自動昇降装置
超音波式流向
流速計
図1
多項目水質計
図3
大型自動観測ブイ(大浦沖).
沿岸海域有害赤潮広域分布情報.
(http://akashiwo.jp/)
2
タイラギ人工種苗の大量生産と垂下育成試験
-有明海のタイラギ再生を目指して-
有明海・八代海漁場環境研究センター
資源培養グループ
幸彦
育水温は 25~27℃)であり、殻長 450~500μm のサ
イズで着底を開始することが確認されました。最も多
く着底稚貝が得られた試験区では、幼生の 5.5%が着
底稚貝に変態し、既に種苗生産技術が確立されている
アサリやマガキに匹敵する着底率が得られました。
2000 年以降、有明海のタイラギ資源は立ち枯れへ
い死や浮遊幼生の減少などにより、潜水器漁業が成立
しないまでに低下しました。こうした背景の下、タイ
ラギ資源を増やすために、天然の親貝や稚貝の移植、
ならびに垂下育成による生残率向上が試みられていま
す。タイラギの資源増大を図るには、天然稚貝だけで
はなく、人為的に作られた稚貝(人工種苗)を用いる
必要があります。しかしながら、タイラギの人工種苗
生産については、浮上死の頻発などにより、未だに安
定した大量生産手法が開発されていません。そこで当
所では、
瀬戸内海区水産研究所で開発した技術を基に、
平成 26 年度から水産庁の「二枚貝資源緊急増殖対策
委託事業」により、タイラギの人工種苗生産技術開発
試験を実施しました。
その結果、大量の着底稚貝の生産に成功するなど、
大きな成果が得られました。以下にその取組の概要を
紹介します。
②人工種苗からの親貝までの育成技術の開発
天然海域で着底稚貝を育成したところ、ポリエチレ
ン製のカゴに基質として破砕無煙炭を用いた場合に、
最も高い生残率(70%前後)ならびに成長速度(殻長
の平均日間成長=0.55~0.88 mm)が得られました(図
1)
。この方法により当所では、平成 27 年 2 月下旬現
在、殻長 50~70 mm の稚貝約 1,400 個体を含む約
5,500 個体を育成しています(図 2)
。
今後、タイラギ親貝を計画的に産卵させる技術の確
立、浮遊幼生の死亡要因の解明、着底稚貝へ効率的に
変態させる手法の開発、初期の人工種苗(殻長 10 mm
以下)を海域で育成するための飼育容器の改良などの
検討が必要です。関係機関の協力を得て、引き続き研
究・技術開発に取り組みます。
タイラギは二枚貝の中でも成長が早く、大きく成長
することから、新規の養殖対象種としても有望です。
本成果を活用してタイラギの人工種苗の垂下育成
や実海域への移植を図ることにより、タイラギの親貝
集団の育成、ひいては有明海のタイラギ資源の回復を
目指します。平成 27 年 4 月には、有明海沿岸の漁業
協同組合等の協力を得て、稚貝約 1,000 個体の垂下育
成試験を開始する計画です。
①親貝の養成と人工種苗生産手法の開発
平成 26 年 1 月と 2 月に、福岡県の協力を得て、有
明海の干潟域からタイラギの 2~3 才貝を 130 個体採
集しました。この親貝をネットに収容して、長崎県内
の天然海域で垂下飼育しました。
7 月に、19 個体の親貝から、十分な量の卵と精子を
採集するとともに、受精卵を得ることに 2 回成功し、
浮遊幼生の飼育を行いました。その結果、2 回目の飼
育試験では約 28 万個の着底稚貝を得ることができま
した。タイラギ浮遊幼生の期間は最短で 23 日間(飼
図1
松山
垂下育成によるタイラギ稚貝の成長.
図2 海面育成中のタイラギ稚貝.
日にちは垂下育成開始からの日数.
(垂下育成開始後 3 ヶ月目、殻長
50~60 mm)
3
有明海の水質環境をめぐる様々な問題
-貧酸素水塊の形成と珪藻赤潮の発生に注目して-
有明海・八代海漁場環境研究センター
環境保全グループ 樽谷 賢治
を実施するなど、その発生機構を解明するための調査研
究に取り組んでいます。ノリの色落ちの原因種として注
目されているのは、珪藻類のなかでも比較的サイズの大
きいものです。例えば、有明海では、平成 26 年冬季に、
大型珪藻類のユーカンピア(図2左)が例年よりも早期
に広範囲で赤潮を形成したことによって、海水中の栄養
塩濃度が急激に低下し、多くの漁場で色落ち被害が発生
しました。一方、平成 27 年冬季にも、湾奥部西側海域な
どでノリの色落ち被害が発生しましたが、その原因はス
ケレトネマ属(図2右)などの小型珪藻類による赤潮が
長期間継続したことでした。これら珪藻赤潮の発生には、
日射量が影響していると考えられていますが、まだ仮説
の域を出ておらず、発生機構を解明するまでには至って
いません。また、スケレトネマ属は、沿岸域において、
ごく普通に見られる小型の珪藻類であることから、大型
珪藻類のみならず、珪藻類全体の発生機構を解明するた
めの取り組みが、今後必要となります。
平成 27 年度からは、新たに「二枚貝の養殖等を併用し
た高品質なノリ養殖技術の開発委託事業」を実施します。
この事業では、アサリやカキなどの二枚貝類をノリ養殖
漁場周辺で養殖することで、二枚貝類がノリの色落ちを
引き起こす珪藻類を捕食するとともに、その排泄した栄
養塩をノリが利用することによって、色落ちを防止し、
高品質なノリを安定して生産する技術の開発を目指して
おり、その成果が期待されています。
現在、有明海は水産業に悪影響を及ぼす様々な環境問
題にさらされています。その代表選手とも言えるのが、
貧酸素水塊の形成と珪藻赤潮の発生です。貧酸素水塊は、
夏季に有明海の湾奥部西側海域の底層で形成され、生物
が生息するのに必要不可欠な酸素濃度が低下することに
よって、タイラギやサルボウなどの二枚貝類の大量へい
死を引き起こします(図1)。一方、珪藻赤潮は、主に
秋季~冬季に問題となります。有明海では、この季節に
大規模なノリ養殖が行われており、その風景は有明海の
風物詩のひとつとなっています。ノリ漁期に珪藻赤潮が
発生すると、珪藻類が海水中の栄養塩を急速に吸収する
ため、ノリの利用できる栄養塩が不足することになりま
す。その結果、ノリの色調が本来の濃黒色から茶褐色に
変化し、商品価値が大きく低下してしまいます(この現
象をノリの色落ちと言います)。
当所では、水産庁から委託された「赤潮・貧酸素水塊
対策推進事業」により、有明海における貧酸素水塊や珪
藻赤潮の発生機構を解明し、水産業への被害を軽減する
ため、関係機関と連携して調査研究を進めています。こ
こでは、その概要についてご紹介します。
貧酸素水塊については、夏季を中心に高頻度の観測調
査を実施するとともに、これまでに蓄積されてきた観測
データを解析することによって、形成機構の解明に取り
組んでいます。その結果、有明海における貧酸素水塊は、
湾奥西側海域と諫早湾で別々に形成されること、貧酸素
水塊の発生には、筑後川などの河川からの出水によって、
塩分の異なる海水が層状の構造を作り、表層水と底層水
の混合が阻害されることが重要な役割を果たしているこ
となど、その形成機構が明らかとなりつつあります。こ
れらの研究成果を活用して、貧酸素水塊の形成時期や規
模を短期的に予測することが可能となり、その情報を Fax
やホームページで関係県や漁業者に提供しています。
珪藻赤潮についても、秋季~冬季に高頻度の観測調査
図2.ノリの色落ちの原因となる珪藻類.
左:ユーカンピア・ゾディアカス、右:スケレトネマ
発行:独立行政法人水産総合研究センター
編集:独立行政法人水産総合研究センター
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図1.貧酸素水塊の形成によってへい死したサルボウ.
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