有明海の水質環境をめぐる様々な問題

有明海の水質環境をめぐる様々な問題
-貧酸素水塊の形成と珪藻赤潮の発生に注目して-
有明海・八代海漁場環境研究センター
環境保全グループ 樽谷 賢治
を実施するなど、その発生機構を解明するための調査研
究に取り組んでいます。ノリの色落ちの原因種として注
目されているのは、珪藻類のなかでも比較的サイズの大
きいものです。例えば、有明海では、平成 26 年冬季に、
大型珪藻類のユーカンピア(図2左)が例年よりも早期
に広範囲で赤潮を形成したことによって、海水中の栄養
塩濃度が急激に低下し、多くの漁場で色落ち被害が発生
しました。一方、平成 27 年冬季にも、湾奥部西側海域な
どでノリの色落ち被害が発生しましたが、その原因はス
ケレトネマ属(図2右)などの小型珪藻類による赤潮が
長期間継続したことでした。これら珪藻赤潮の発生には、
日射量が影響していると考えられていますが、まだ仮説
の域を出ておらず、発生機構を解明するまでには至って
いません。また、スケレトネマ属は、沿岸域において、
ごく普通に見られる小型の珪藻類であることから、大型
珪藻類のみならず、珪藻類全体の発生機構を解明するた
めの取り組みが、今後必要となります。
平成 27 年度からは、新たに「二枚貝の養殖等を併用し
た高品質なノリ養殖技術の開発委託事業」を実施します。
この事業では、アサリやカキなどの二枚貝類をノリ養殖
漁場周辺で養殖することで、二枚貝類がノリの色落ちを
引き起こす珪藻類を捕食するとともに、その排泄した栄
養塩をノリが利用することによって、色落ちを防止し、
高品質なノリを安定して生産する技術の開発を目指して
おり、その成果が期待されています。
現在、有明海は水産業に悪影響を及ぼす様々な環境問
題にさらされています。その代表選手とも言えるのが、
貧酸素水塊の形成と珪藻赤潮の発生です。貧酸素水塊は、
夏季に有明海の湾奥部西側海域の底層で形成され、生物
が生息するのに必要不可欠な酸素濃度が低下することに
よって、タイラギやサルボウなどの二枚貝類の大量へい
死を引き起こします(図1)。一方、珪藻赤潮は、主に
秋季~冬季に問題となります。有明海では、この季節に
大規模なノリ養殖が行われており、その風景は有明海の
風物詩のひとつとなっています。ノリ漁期に珪藻赤潮が
発生すると、珪藻類が海水中の栄養塩を急速に吸収する
ため、ノリの利用できる栄養塩が不足することになりま
す。その結果、ノリの色調が本来の濃黒色から茶褐色に
変化し、商品価値が大きく低下してしまいます(この現
象をノリの色落ちと言います)。
当所では、水産庁から委託された「赤潮・貧酸素水塊
対策推進事業」により、有明海における貧酸素水塊や珪
藻赤潮の発生機構を解明し、水産業への被害を軽減する
ため、関係機関と連携して調査研究を進めています。こ
こでは、その概要についてご紹介します。
貧酸素水塊については、夏季を中心に高頻度の観測調
査を実施するとともに、これまでに蓄積されてきた観測
データを解析することによって、形成機構の解明に取り
組んでいます。その結果、有明海における貧酸素水塊は、
湾奥西側海域と諫早湾で別々に形成されること、貧酸素
水塊の発生には、筑後川などの河川からの出水によって、
塩分の異なる海水が層状の構造を作り、表層水と底層水
の混合が阻害されることが重要な役割を果たしているこ
となど、その形成機構が明らかとなりつつあります。こ
れらの研究成果を活用して、貧酸素水塊の形成時期や規
模を短期的に予測することが可能となり、その情報を Fax
やホームページで関係県や漁業者に提供しています。
珪藻赤潮についても、秋季~冬季に高頻度の観測調査
図2.ノリの色落ちの原因となる珪藻類.
左:ユーカンピア・ゾディアカス、右:スケレトネマ
発行:独立行政法人水産総合研究センター
編集:独立行政法人水産総合研究センター
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図1.貧酸素水塊の形成によってへい死したサルボウ.
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