平成 22 年度 経済学研究科 修士論文要旨 □ 氏名 杉田智男 □ 所属 経済学研究科経済学専攻 □ 論文題目 定期保険料の損金性に関する基礎的考察 -保険金受取人を特定役員の遺族とする場合- □ 論文の概要 (1)最終目的 法人契約の定期保険について、「保険料負担者および契約者=法人、被保険者=特定役 員、死亡保険金受取人=役員の遺族」の場合における定期保険料の損金性の有無を判断 した。 (2)理由 ・キャプティブ保険、ファイナイト保険等の支出金の課税上の取扱いについては議論され ているところである。その支出金の損金性について、日本、米国で争訟があり、その判 断に、従来から損金として取り扱う伝統的保険たる定期保険等が引き合いに出され、双 方の比較において検討がなされているが、そもそも伝統的保険たる定期保険等について、 損金性を示す明確な根拠付けはなされていない。 ・上記の損金性の考察に際し、定期保険の保険料に関する現行税制として、損金性を示す 法人税基本通達 9-3-5 等と資産性を示す法人税施行令 138 条等があり、双方は相対立す る関係にある。 ・従い、キャプティブ保険等の支出金の課税上の取扱いの解明には、法人税法 22 条 4 項に、 損益法を基調とする企業会計との連動において、その基礎的考察としての定期保険の保 険料の損金性に関わる考察が不可避であると考えた。 (3)方法等 キャプティブ保険等の支出金の課税上の取扱いの解明に、アプローチを保険契約者と 保険者とに何ら人的・資本的関係を有さず、長期平準定期保険や逓増定期保険等に該当 しない法人税基本通達 9-3-5 に該当する伝統的な定期保険の損金性理論の再構築に見出 し、被保険者を特定役員とする場合において、 (1)保険金受取人を保険契約者たる法人、 (2)保険金受取人を被保険者たる役員の遺族とする契約形態のうち、 (2)の「契約者を 法人とし、被保険者を特定役員、保険金受取人を当該役員の遺族」とした場合の定期保 険料に限定し、定期保険料の損金性の解明について考察を行った。 第 1 章では、先ず、キャプティブ保険等の裁判事例を通して支出金の課税上の問題が 把握され、それら支出金の課税上の取扱いの解明には、定期保険等といった伝統的保険 の支出金の損金性の再構築が不可避であることを明らかにし、第 2 章において伝統的保 険に対する課税上の考え方を確認するために、定期保険料を特定役員に対する給与とす る現行法人税基本通達 9-3-5 等に至るまでの定期保険税制の歴史的沿革を概観し、第 3 章 では、保険法、企業会計原則等の近隣法令を交え、定期保険の経済的性格や法的性格に 触れつつ、経済的利益の享受者側の検討に所得税法、供与者側の検討に法人税法の各立 場において、保険金請求権説、安心料説等に経済的利益の検証を行い、さらに、給与課 税の妥当性、法人税法 22 条 2 項「無償の譲渡又は提供」に定期保険料の対価性、損金概 念及び債務確定基準等の観点から法人が拠出した定期保険料の損金性について検討を加 えた。 なお、(1)及び(1)(2)の場合に損金性に疑義が付された場合、法人税法 22 条 4 項 が損益法を基調とする企業会計に依存する旨を定めれば、法人税法施行令 138 条等に謳 うところの資産概念等に照らし、(3)キャプティブ保険等の個別性格等に基づき、その 支出金の課税上の取扱いの検討が妥当とされ、今後の筆者の継続研究テーマとしたいと 考えるものである。
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