韓国日本学会第八四回学術大会

◎イベント・レビュー
Tsuyoshi
剛
韓国 日 本 学 会 第八 四 回 学 術大 会
NAMIGATA
波 潟
う真摯な問いかけを交わしていることが印象に残っている。今
して、あるいは一人の人間としていったい何ができるのかとい
回も被災地における実態調査、そして被災地における大学教員
の体験を通して、今後の韓国と日本とのあり方が熱く議論され
ていた。
日本を離れると東日本大震災関連の報道や記事に接すること
つけさまざまな想いがわき起こりもしたが、イベント・レビュ
が少なくなる。出身校である筑波大学の話をあらためて聞くに
れておきたいのは、現在韓国の日本関連学会が、ある「過渡期」
ーの趣旨から逸脱していきそうなのでここでは控える。今回触
昨年九月にソウルに来たので、すでに韓国での滞在が半年に
なる。この間韓国文学関連の学会や日本学関連の学会にいくつ
創立四〇周年企画テーマ発表は三班に別れ、Ⅰ「傘下学会の
に突入したという自覚についてである。
か参加してきた。それぞれ興味深いテーマや議論があったが、
今回は「転換期の日本研究」という大会テーマの下に二月四日
にソウル市同徳女子大学校で開催された韓国日本学会の様子を
研究の 現況と課題 」、Ⅲ「韓国における日本関連研究の現況と
歩んでき た道」、Ⅱ「韓国日本 学会の研究成果および日本関連
ぶ大掛かりな議論が行われた。個々の発表と討論の時間は短く
課題」と、発表者計二三名、討論者計三〇名、総勢五三名に及
大会のテーマ「転換期の日本研究」は、招請講演と創立四〇
紹 介 し た い と 思 う。
招待していて、会津泉氏 (多摩大学)の「東日本大震災と情報行
容を基に、日本語学、日本語教育、古典文学、近現代文学、歴
限られたものになったが、プロシーディングスに載せられた内
史学、民俗学、通訳翻訳学、政治学、教育学など、さまざまな
ネット、ソーシャル、ケイタイは被害者に本当に役に立
周年企画の両方に関連している。招請講演では日本から二名を
―
動
―
」と 、黄順姫氏 (筑波
―
「東日本大地震にみられる日本社会の構造強化と変動
大学)
つ の か ( 三 〇 〇 〇人 へ の 調 査 か ら)
」の講演
学問領域の研究者が今後の韓国における日本学関連研究のあり
―
集団主義・個人主義社会の再帰的構築とメディア
のは残念だが、それでも現在の韓国における研究の課題が垣間
本 関 連 研究 の 現 況 と 課 題 」 に 参 加 し た 。 全 体 を 見 ら れ な か っ た
同時間での進行となったので、わたしはⅢ「韓国における日
方について検討していた。
ンポジウム等が盛んに行われている。もちろん現地の最新情報
災以後、韓国において日本関連の学会を中心に震災に関わるシ
が あ り 、 そ の 後 両 者 同 席 し て 質 疑 応 答 が な さ れ た 。 東日 本 大 震
に対する関心の高さが動機となっているが、隣国の一研究者と
見えてくるのではないかと思うので、一つの企画に絞って内容
が容易な講義システムの開発、韓国・中国・日本の日本古典研
マで学生の興味を導き出す工夫、初心者に古典へのアプローチ
「韓
こ の 企 画 で の 発 表 者 は 七 名 い たが 、 李 康 民 氏 ( 漢 陽 大 学 )
」、金宗植氏 (亜洲
日本近現代文学研究史」の発表があった。この発表では、二〇
「 韓国 の
そ し て 近 現 代 文 学 に関 し て は 、 鄭 炳 浩 氏 ( 高麗 大 学 )
―
」、李 暻洙氏 (放送大学)
究者が協力して資料整備を行うことなどが提案された。
を簡単に紹介していきたい。
―
ことの意義」、「学術論文の質的向上」などが課題として挙がっ
現況と課題
現況と課題
―
〇〇年以後、韓国における日本文学研究のあり方を検討する動
―
「韓国日本学会の 歴史的展 開と日本歴史研究」をはじめ
大学 )
主義」、
「韓国人研究者としての主体性」、「近代文学を研究する
きが活発化したことを紹 介し ながら 、「日本人研究者への追随
本関連学会に大きな原因があるようだが、その量的変化は「激
究が模索の段階にあり、その方向の一つとして、すでにプロジ
ていると指摘した。また、これらの課題に対して現在多様な研
「韓国の日本語教育研究
多くの発表者が言及していたのは、一九九〇年代半ばからそれ
国での日本語学研究
ぞれの分野において学術論文が急速に増えてきた点である。日
増」といっても良い状況だととらえられている。その意味で、
があった。そこでは、ソウルを中心として組織されている全国
「 韓 国 に お ける 日 本 研 究関 連 研 究所の 現 況 と課題 」の 発 表
学)
が、その後議論の時間を延長しても熱気は冷めることなく、結
あっという間に制限が迫った。人数から考えても予測はできた
発表に対する質問を投げかけ、
多種多様な意見が飛び交うなか、
七名の発表が終わってから、一二名の討論者が各自の見解や
性について論じていた。
だけでなく、中国、台湾を含めた東アジア地域で展開する可能
ェクトとしても始まっている植民地の日本語文学研究を、韓国
今後学術論文の質をどのように保ち、また向上させていくのか
について議論されていた点が印象深かった。
「韓
学会や学術機関全体の動きとしては、李京珪氏(東義大学)
学会はもちろんのことながら、地方都市を中心に組織された全
果としては強制的な散会となる他なかった。これは単に登壇者
国における日本研究関連学会の現況と課題」、金鎔均氏 (中央大
る点、日本学関連の学部学科や研究所を抱えている大学におい
が多かったからではなく、分野が異なっていても、日本を対象
国学会でも積極的に数多くの学術論文が機関誌に掲載されてい
て個々に作られている雑誌やデータベースを統合検索するシス
場で持ち越した課題について熱く語り合う姿が散見された。こ
学会後の懇親会でも話題は企画テーマの延長線上にあり、会
からのように思えた。
にした研究者が共通の課題に直面していることを認識している
「 韓 国 に お け る 日 本 古 典 文 学 研 究の 現 況と 課題 」が 、 韓 国
学)
文 学 に つ い て は 、 発 表 が 二 本 あっ た。 ま ず 、 許 坤 氏 ( 江原 大
テムの整備が今後求められる点などが指摘された。
においても古典離れが進んでいることを指摘し、大衆的なテー
も い え ば よ い だ ろ う か )が 以 前 と は 異 な っ て き て い る こ と が 影 響
れだ け喫緊の課 題 となって 議論 されて いるのは 、 韓国の大 学に
申敬愛氏 (漢陽女子大)
「 韓 国 日本 語 通 翻 訳 学 会 の 成 立 と 研 究 成
「日本社会民俗学会の成立と研究成果」
黄達起氏 (啓明大)
孔秉鎬氏 (烏山大)
「日本教育学会の成立と研究成果」
果」
お け る 日 本 関 連 の 学 部 学 科 の 位 置 ( と い う より は 学生 の人 気度と で
」 が 学 生の 韓 国語
して い る。 日 本に おいては 「韓 流 」「 K-POP
や韓国文化に対する興味を底上げしているが、現在の韓国にお
政経 社会学会」
と 研究 成 果 」
「 一 九 七〇 年 代 に お け る 韓 国 日 本 学 会 の 活 動
崔 建 植 氏 ( 釜慶 大 )
Ⅱ「韓国日本学会の研究成果と日本関連研究の現況と課題」
「 融 合 学 と して の 日 本 学の 台 頭 と 日 本
李 鎮 遠 氏 (ソ ウル市 立大 )
いて「日流」がそこまでの力を発揮しているとはいいがたい。
わって いる。
教育 者と して の危機 感も、研 究 に対 する 方向 性の模索と深く関
この問題は当然、巡り巡って日本国内の日本文学研究者にも
「 一九 八〇 年 代 に おけ る 韓 国日 本 学 会 の 活 動
徐 禎完氏 (翰林大)
関わってくる。だとすれば、今回のイベントについて広く内容
が伝わり、さらに多くの研究者と議論されることが重要ではな
と研 究成果」
「 一九 九 〇 年 代 に お け る 韓 国 日 本 学 会 の 活 動
金 煥 基 氏 ( 東 国大 )
「 二 〇 〇〇 年 代 に お け る 韓 国日本 学 会 の
金秀姫 氏 (漢陽女子 大)
と研究成果」
定されているという。基本的には韓国語で執筆されるだろうが、
活 動 と 研究 成 果 」
いかと思う。今後、それぞれの企画は機関誌『日本学報』で論
何らかのかたちで日本語でも読める機会が設けられることを期
文として収録された後、来年初頭までには本としても刊行が予
待している。
と課題」
「 韓国 に お け る 日 本 民 俗 研 究 の 現 況
ノ ・ ソ ン フ ァ ン 氏 (蔚 山 大 )
表者 と 題 目を整 理 すると以 下の 通りで あ る。
課題」
なお、言及できなかった企画テーマを含めて、あらためて発
Ⅰ「傘下学会の歩んできた道」
況と課題」
「韓 国に お ける日本政治研究の現
高 選 圭 氏 (中 央 選 挙管 理 委 員会 )
「 韓国 に お け る 日 本 通 訳 翻 訳 研 究 の 現 況と
金漢 植 氏 (韓 国 外 大 )
「日本文学会の成立と研究成果」
朴一昊氏 (誠信女子大)
「韓日言語学会の成立と研究成果」
宋永彬氏 (梨花女子大)
―
成果と課題
「韓国に おける日本道徳教育研究
洪顕吉 氏 (嘉泉医科学大 )
」
具見書氏 (平沢大)
「日本歴史文化学会の成立と研究成果」
―
「 日 語 教 育 学 会 の 成 立 と 研究 成 果 」
崔恩赫氏 (仁川大)
Ⅲ「韓国での日本関連研究の現況と課題」
李康民氏(漢陽大「
究
) 韓国での日本語学研―
―
李 暻洙氏(放送大「
) 韓国の 日本語 教 育研 究
現況と課―
題
―
現況と課題
」
」
許坤氏(江原大「
) 韓国における日本古典文学研究の現況と課題」
「韓国の日本近現代文学研究史」
鄭炳浩氏 (高麗大)
金宗植氏(亜洲大「
) 韓国日本学会の歴史的展開と日本歴史研究」
李 京 珪 氏 ( 東 義大 )
「韓国に おける日本研究関連学会の現況と課
「 韓国 に お け る 日 本 研 究 関 連 研 究 所 の 現 況 と
金 鎔 均 氏 (中 央 大 )
題」
課題」
*本稿は日韓文化交流基金派遣フェローシップによる研究成果
の一部である。
(九州大学大学院比較社会文化研究院准教授)