モーターのマイスターが発想した教材風車

モーターのマイスターが発想した教材風車
○宇野
1.
禎倫((有)UNO)、佐藤
建吉(千葉大学)
コアレスモーターとは
講演者の宇野の会社 UNO は、コアレスモーターの製造会社ですが、コアレスモーター
についての社会の認知度は、まだまだ薄く、コアの無いモーターは回るのかとの声も聞こ
えてきます。
一般的な DC モーターは回転するコイルが積層された鉄心に巻かれており、コイルが発
生した磁力を増幅するという効果があります。しかし、これは磁力の弱い磁石を使った場
合には効果的ですが、近年ネオジウム磁石等の強力な磁石が安価で購入できるようになり 、
鉄心を使用したモーターでは磁力を上げることによって逆に鉄損(ヒステリシス) が大き
くなり、回転が重くなり効率が低下するという欠点があります。
そこで、コアレスモーターはこの鉄心を使わずにコイルだけで回転体を構成しますので、
高い磁力にすればサイズを変えずに、出力が高く、効率の高いモーターを作ることが可能
になります。さらに回転体の重量が非常に軽いので慣性モーメントが非常に低い、起動性
の優れたモーターを設計することができ、高級ラジコンのサーボモーターなどにも使われ
ています。
UNO のモーターでは、さらに独自の巻線技術により通常のコアレスモータ ーに比べて、
3 倍の出力を出すことができますので、高級鉄道模型や自立型ロボットに採用されていま
す。それゆえ UNO では、ポータブル型駆動機器の小型軽量化とバッテリー寿命を伸ばす
ための開発に、力を注いでおります。
2.
風力発電機への応用
DC モーターは、出力軸を回すことによってリード線から電力が発生しますので、その
まま発電機としても使えます。さらにコアレスモーターを使うことによって鉄損も無 いの
でコギングが発生しないため微風から回りやすい風力発電機を作ることが可能になります。
写真 1 は、UNO と弘前大学が共同開発した垂直型風車ですが、 カットイン風速が極めて
微風の 0.8m/s であり、LED 街灯程度であれば 3m/s の風速で点灯可能であり、稼働率の
高い風車を作ることが出来ました。
そこで、この風車は、3.11 東日本大震災の被災地である岩手県野田村に、ハイブリッド
型街灯として無償設置しました。2012 年 2 月に設置以来、問題無く稼働できており、現
在も未だ復旧できていない被災地の街路灯として使われております。この地域は“やませ”
がひどく、年間を通しても晴天が少なくて風が強い地域ですので 、太陽光発電だけでは電
力不足が懸念されるということで、村長より直接依頼を受けて実現したものです。
また最近は、JA から依頼を受けて山間部の農地の管理を遠隔操作するシステムを検討
したいということで実際に農地に設置して農地の気象データと映像を携帯電話回線で通信
し監視するシステムとして実験中であり、自然エネルギーの新たなる可能性が期待されて
おり、同時に貢献できると考えています。
3.
教材としての風力発電機
宇野は、青森県よりモーター用コイル巻線技術の職人として「あおもり マイスター」に
認定されており、子供たちにものづくりの楽しさを伝えて、
「未来のエンジニア」を育成す
る目的で、小学校や中学校でも出前教室の依頼を受けております(写真 2)。その際に、風
力発電機を身近に感じられるものとして、安価な DC モーターにペットボトルで作った羽
根を取り付けるだけで(図 1、説明書の 1 ページ)、扇風機の風や自然の風でも発電して
LED が点灯するというキットを作り、ものづくりの楽しさを伝えたところ非常に好評で、
「こんなに簡単に風力発電機が出来るとは思わなかった 。」、
「 羽根を工夫してもっと回る風
車が出来るか試してみたい 。」、「家に帰ってからもっときれいな色を塗って飾っておきま
す。」などのうれしい感想を子供たちからもらいました。写真 3(左)にペットボトル風車
の外観を、写真 3(右)にペットボトル風車の点灯状態を示します。
UNO では、もう少し上級者向けとして写真 4(左)のような風車キットを開発してみま
した。これには、垂直型の風車を簡単に手作りできるという機能のほかに、実際にコアレ
ス発電機を自分で作れるという楽しさがあります。 写真 4(右)に見られるように、コア
レスモーターは構造が単純であり、空芯コイルとマグネットだけで構成されており、扇風
機の風で LED を点灯させることができます。フレミングの右手の法則について、手軽に
実験できる教材としては非常に簡単であり、出前教室では「発電機ってこんなに単純なも
のだったの?」と、子供たちは驚きます。
本教材の材料は、写真 4(下)のように MDF (Medium Density Fiberboard、中密度繊
維板) という合板の建築廃材を使っており、まさにエコを身近に感じられる教材になって
います。教材キットとしては、写真のように A4 サイズの板から部品を手で外せるように
してありますので、プラモデルのように製作することが出来ます。
4.
今後の展開
これまでの風力発電機の開発では、羽根の形状など風車の回転特性を高めることを主眼
に行われているといえます。事実、風力発電に関する文献を見ると、風車については説明
されていますが、発電機に関することは詳しく説明されていません。風力発電機を開発さ
れている方の意見をうかがっても羽根はいいものが出来たが取り付けられる発電機が無い
との意見が非常に多い現状です。
したがって、風力発電機をコアレスモーター・メーカーが開発することによって、無理
に汎用の発電機を使って複雑にするよりは、発電機を簡単に手作りすることによって新た
なタイプの発電機が生まれる要素が出来てきます。特に小型の風力発電機はコアレスの得
意とするところであり、教材として使うには最適と思います。これは、巻き線技術のマイ
スターとして実務を生かして発想した教材風車です。
さらに付け加えるとすれば、このことにより、自由度を持った教材で羽根と発電機のマ
ッチングを考慮しながら組立できる教材になり、さらなる発展性に期待が持てます。現在、
千葉県で垂直軸型のマイクロ風車を開発している会社と千葉大学が協同して、UNO のコ
アレスモーターを組み込んで、教材としての風力発電機を開発しようとしている。自然エ
ネルギーの利用が必須である今日、風車の回転原理とともに、その回転を利用して発電す
る原理を、一体として学べる教材の開発は、子供たちばかりでなく、わかりやすい技術教
育、ものづくり教育に貢献できるものと考え、その開発と普及に注力しています。
写真 1
ハイブリット
街路灯
写真 2
小・中学校での
出前教室
図1
ペットボトル風車の
作り方説明書
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写真 3
ペットボトル風車
左:外観
右:点灯時
写真 4
MDF 素材の
風車キット
左:外観
右:マグネットと
空芯コイル
下:MDF を用いた
風車キット
(部品は、簡単に取り
外すことができる)