x - 生体運動制御システム研究室

topics
1.
2.
3.
4.
計算論的神経科学とは
運動制御に関わる脳の生理学的知見
パーセプトロン、強化学習
生体の運動制御のための学習モデル
– 逆モデル学習
5. 運動の滑らかさを規範とするヒト腕運動生成
モデル
–
–
躍度最小モデル
トルク変化最小モデル
6. 運動のばらつきをもとにしたヒト腕運動生成
モデル
7. ヒトの指の運動について
1
ヒトの手指運動
• コップ等の対象物を
移動させる
• 道具を操作する
– 必ず「把持」
(Grasping)を含む
Graspingの計算論的な
研究、モデルは?
2
把持運動の計算問題
(福田ら1990)
1) 合力決定 (Determination of Combined Force)
運動完了時の対象物の状態(対象物の最終状態)を実現するために
対象物に与えられなければならない外力の総和(合力)を計算する
問題
2) 把持点決定 (Determination of Grasp Points)
対象物のどの部分を把持するのかを決める問題
3) 力分配 (Distribution of Force)
合力を実現するためにどの把持点にどれだけの力が必要かを計算す
る問題
4) 手形状決定 (Formation of Hand Shape)
把持点を押さえるための手形状を計算する問題
5) 制御 (Control of Hand)
計算された把持運動情報を実現するための運動指令を生成する問題
3
把持運動の計算問題
(福田ら1990)
4
把持運動の計算問題
(福田ら1990)
制御の問題を除き、これらの問題が独立してい
るわけではなく、交互に関係(拘束)し合いな
がら解かれている。
– 把持点決定には適切な指先位置を実現できる手形
状の制限、合力の与えやすさ、無理の無い力が配
分できるという拘束条件
– 力分配には合力、把持点決定に加えて力分配で解
かれた把持力をなるべく少ない消費エネルギーで
実現できる事が拘束条件
把持運動の計算論モデルの困難さ
5
把持運動の計算問題
(福田ら1990)
1) 合力決定 (Determination of Combined Force)
運動完了時の対象物の状態(対象物の最終状態)を実現するために
対象物に与えられなければならない外力の総和(合力)を計算する
問題
2) 把持点決定 (Determination of Grasp Points)
対象物のどの部分を把持するのかを決める問題
3) 力分配 (Distribution of Force)
合力を実現するためにどの把持点にどれだけの力が必要かを計算す
る問題
4) 手形状決定 (Formation of Hand Shape)
把持点を押さえるための手形状を計算する問題
5) 制御 (Control of Hand)
計算された把持運動情報を実現するための運動指令を生成する問題
6
手形状決定問題
• 手は多自由度なシステム
– 拇指と他の指が対向できることで多様な運
動ができる
– あるタスクを行うための手形状は様々にあ
り得る
• 軌道は考えずに、把持した時の手の形状だけを
考える
– 可能な手形状は?
7
ヒトの手の構造
• 手の自由度(関節)
– 手首から順に
小指
環指
中指
示指
• 主根中手関節(CM関節)
• 中手指関節(MP関節)
• 指節間関節(IP関節)
親指以外は
– 近位指節関節(PIP関節)
– 遠位指節関節(DIP関節)
– 合計19関節
– 拇指以外のMP関節は自由
度が2
– 示指、中指のCM関節はほ
とんど可動性がない
拇指
合計22自由度
8
ヒトの手の構造(筋肉)
• 可能な手形状は?
– 22自由度のすべての
関節を独立に動かす
事ができない
• 1つの関節を動かす
ために複数の筋肉が
作用
• 1つの筋肉が複数の
関節に作用
9
手形状決定問題
筋肉の構造により自由度
は軽減
まだ十分な自由度
– 典型的な手形状が存在
– 対象物の形、重さ、タ
スクの目的(把持をし
て何を行うのか?)に
応じて手形状を選択
10
把持形状の分類
(Taylor& Schwartz,1955)
• Schlesinger(1919)によって分類された手形状を整理
• 把持対象物の形状やサイズを考慮
11
把持形状の分類
(Napier 1956)
Power Grip(握力把握)
力を加える事を要求
親指と掌で挟み込む
Precision Grip(精密把握)
正確さを要求
親指と他の4本指で把持
• 把持したときの操作の性質に依存した分類
• 同じ対象物で異なる把持形状を取る
12
把持形状の分類
(Napier 1956)
Power Grip(握力把握)
Precision Grip(精密把握)
13
把持形状の分類
(Cutkosky et al. 1990)
Napierの分類を
さらに細分化し、
17パターンに
分類
タスクなどの条
件から把持形状
を決定する
Expert Systemを
構築
14
把持形状の分類
(Iberall et al. 1985)
安定把持のための力の加え方のパターン
A. Pad Opposition:指先で持つ (x軸方向に対向)
B. Palm Opposition:掌を使って持つ(z軸方向に対向)
C. Side Opposition:指の側面で持つ (y軸方向に対向)
15
Virtual Finger
(Arbib et al. 1985)
例:大きさの異な
るカップを持つタ
スク
– タスクは本質的に
同じ
– 何本の指を使うか
はマグの大きさや
重さなどに依存
– 複数の指や掌が同
じ機能をもち、一
つの指のように使
われる
16
把持形状の分類
(Iberall et al. 1985)
Virtual Fingerと組合せて19通りに分類
A. VF1: 拇指
B. VF1: 掌
C. VF1: 拇指
⇔
⇔
⇔
VF2 :示指
VF2: 4本の指
VF2: 示指
17
到達把持運動
対象物を持つために手を伸ばす運動
– 手が対象物に届く前に、把持するために適
した手形状を準備
Preshaping
– 事前に視覚情報から手形状を決定している
18
把持手形状決定モデル
(Iberall et al. 1988)
• 入力:把持対象物や
タスクの条件
• 出力:Opposition
• 3層神経回路モデル
と誤差逆伝搬法によ
り、学習
19
把持手形状決定モデル
(Iberall et al. 1989)
Virtual Fingerを実際の指に変換
するモデル
• 入力:タスクの性質と円柱の長さ
• 出力:Pad Oppositionの2つのVFに
実際の指をそれぞれ何本割り当て
るか
• 学習:円柱を使った実験データ
20
把持手形状決定モデル
(Iberall et al. 1989)
入力の条件を追加
• 入力:タスクの性質と円柱の長
さ、被験者の手形状など
• 出力:どの指がPad Opposition
のVFになるか
• 学習:円柱を使った実験データ
学習は難しい
同じ条件でも被験者の選択する手形状が異なる
=同じ入力で異なる出力は学習できない
21
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
x
x’
u
y
y’
砂時計モデル(Auto-Encoder)を応用
– 5層の神経回路モデル
– 恒等写像を学習(入力と出力が同じ)
– 中間層のニューロン個数が入出力より少ない
自由度を削減=情報圧縮した表現
22
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
手形状情報
データグローブの出力
画像情報
側面と底面の画像
5cm
Side Plane
手袋
10 cm
ケーブル止め
DIP関節
PIP関節
8
5
6
2
IP関節
MP関節
13
7
4
オプティカルファイバ−ケーブル
11
10
9
12
1
3
CM関節
Bottom Plane
(a)
(b)
23
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
• 把持対象物
– 円柱:直径3〜7cm
– 球:直径4〜6cm
• Opposition
– Pad Opposition
– Palm Opposition
対象物を持った時の手形状
データとその画像情報の組
み合わせを学習
24
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
中間層の表現
Neuron activity
Neuron activity
Neuron activity
1.00
1.00
1.00
4cm
4cm
4cm
4cm
5cm
5cm
5cm
5cm
6cm
6cm
-1.00
3
6cm
0.00
Pad
円柱
0.00
0.00
7cm
-1.00
4
Neuron index of the 3rd layer
Diameter
3cm
7cm
2
Diameter
3cm
6cm
1
1.00
Diameter
Diameter
0.00
Neuron activity
-1.00
1
2
3
4
Neuron index of the 3rd layer
Palm
1
2
3
Neuron index of the 3rd layer
Pad
-1.00
4
球
1
2
3
4
Neuron index of the 3rd layer
Palm
対象物形状、把持形状によってパターンが変化
大きさによって単調変化
25
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
対象物の画像情報から把持形状を計算
手形状は一意には決定できない
1つの対象物に2つのOpposition
• 評価関数を導入してどちらかのOppositionを選択
• Pad Oppositionの場合:IP関節が伸びている
• Palm Oppositionの場合:すべての関節が曲がっ
ている
26
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
入力
評価関数
が小さく
なるよう
に
x
x
(image)
yy
(hand)
出力
u
u
Internal
representation
of an object
x'
x’
(image)
xと一致する
ように誤差
を逆伝搬
y’y'
(hand)
yと一致する
ように誤差
を逆伝搬
恒等写像を満たす解の中から評価関数を最小にする手形状を計算
27
把持手形状決定モデル
(Uno, Fukumura, Kawato, Suzuki 1995)
Pad Opposition
推定手形状
学習データ
Palm Opposition
推定手形状
学習データ
円柱
直径5cm
球
直径5cm
手形状の関節角まで計算
28
把持手形状決定モデル
(Fukumura, Otane, Uno, Suzuki 1998)
中間層の構造を変える事で両方の情報に
共通である対象物のintrinsicな情報を抽出
u11
u
x'x’11
x1
x
uucc
x'
x’22
x
x2
u22
u
29
把持手形状決定モデル
(Fukumura, Otane, Uno, Suzuki 1998)
• 円柱のみに限定
• 視覚情報の位置をずらした情報も用いる
• 共通する中間層のニューロンを1つ
– 大きさに関する情報が抽出される
14
同じ対象物に関す
る異なる手形状、
視覚情報入力に対
する値が重なって
いる
12
N euron activity
10
8
6
4
2
手形状の計算も容易に
0
-2
3
4
5
6
7
Diameter of circular cylinder (cm)
30
モデルの対比
• Iberallらのモデルはシンボリックな把持
形状の型を決定
• Unoらのモデルは把持形状の型(評価関
数として表現)から把持する際の関節
角情報を出力
31
到達把持運動
対象物を持つために手を伸ばす運動
手が対象物に届く前に、把持するために適し
た手形状を準備
Preshaping
32
Preshaping
対象物は見える
が手は見えない
条件
手首位置
拇指と示指の開き幅
– 手が対象物に届く前に、把持するために
適した手形状を準備
– 対象物よりも大きく手を開き、閉じる
• 拇指と示指の最大開き幅(Maximum Aperture)
を指標に使う
33
Preshaping
最大開き幅(cm)
対象物の大きさに合わせ
て最大開き幅も変化
対象物の大きさ(cm)
対象物の大きさ、形状な
どを事前に知覚し、それ
に合うような運動計画を
立てている事を示唆
34
到達把持運動
• 異なる大きさの対象物
を把持する時の腕運動
と開き幅の変化
• 到達運動成分は対象物
の大きさの影響を受け
ない
• 把持運動成分だけが変
わる
実線:位置 点線:速度
手首
位置
手指
幅
棒(直径2mm) 円柱(直径5.5cm)
35
到達把持運動
• 距離が異なる位置に
置かれた対象物を把
持する時の腕運動と
開き幅の変化
• 到達運動成分は対象
物の位置により変化
• 把持運動成分は変わ
らない
手指
幅
手首
速度
40cm
32cm
25cm
運動時間(ms)
36
到達把持運動の制御スキーム
(Arbib 1985)
• 視覚からタスクに
関する情報を抽出
• 右側が把持運動
• 左側が到達運動
• 独立に制御
視覚経路の機能分担
と関連?
37
視覚経路
視覚情報はまず一次視覚野へ
一次視覚野から2つの視覚処理経路へ
– 腹側皮質視覚路(Ventral Stream)
– 背側皮質視覚路(Dorsal Stream)
38
視覚経路の機能分担
これらの2つの経路の機能の違いは?
Ungerleiderら(1982)
– 背側経路は物体の形態情報(“what”)
– 腹側経路は物体の位置情報(“where”)
– “what”は把持運動成分に、
– “where”は到達運動に関連?
39
到達把持運動における錯視の影響
(Milner & Goodale 1992)
• Ebbinghaus錯視
– 中央の円は同じ大きさ
– 左の方が大きく見える
40
到達把持運動における錯視の影響
(Milner & Goodale 1992)
• Ebbinghaus錯視
– 中央の円が同じ大きさ
に見えるように中央の
円の大きさを調整
– 実際は左の方が小さい
が同じ大きさに見える
41
到達把持運動における錯視の影響
(Milner & Goodale 1992)
• 中心にそれぞれの大きさの円盤を配置
• 指先で大きさを見積もった時の開き幅
• つかんだときの最大開き幅
比較
42
到達把持運動における錯視の影響
(Milner & Goodale 1992)
• 見積もる場合:
– 錯覚の影響を受けて、
同じ大きさの場合には
左の方が大きく開く
• 把持する場合
– 錯覚の影響なし
– 同じ大きさに見えるよ
うに調整しても、最大
開き幅に差が出る
知覚的に同じ大きさ
の円盤の把持運動
43
知覚−運動モデル
(Perception-Action Model)
Milner & Goodale(1992)
– 腹側経路は物体の知覚の処理に関連(“what”)
– 背側経路は運動に関係する視覚情報処理に関連
(“how”)
– 視覚失認の患者でも運動ができるケースが存在
腹側経路が損傷?
44
計画−制御モデル
(PCM : Planning – Control Model)
Gloverら(2001)
– 錯視の実験を再検証
• 運動の初期段階:錯視画像の影響が出現
• 運動の中〜終期:錯視画像の影響は徐々に減少
• 運動開始前の運動計画における視覚情報処理
→錯視画像の影響を受ける
• 運動中のフィードバック制御における視覚情報処理
→錯視画像の影響を受けない
45
PAMとPCMの比較
視覚系
運動の実行過程
運動計画
知覚
(運動に関係
していない)
運動開始前の
対象物認識の
視覚情報処理
運動制御
運動中のフィード
バック制御のための
視覚情報処理
46
PAM
視覚系
同じ情報
知覚
(運動に関係
していない)
運動開始前の
対象物認識の
視覚情報処理
運動計画
運動中のフィード
= バック制御のための
視覚情報処理
運動制御
運動中に錯視画像の影響が現れない
47
PCM
視覚系
異なる情報
知覚
(運動に関係 =
していない)
運動開始前の
対象物認識の
視覚情報処理
運動中のフィード
バック制御のための
視覚情報処理
運動計画
運動制御
運動初期に錯視画像の影響が現れる
48
錯視画像の運動に与える影響
• 錯視画像の影響は比較的小さい
→ データを多く取って比較する必要
• 視覚経路の機能分担はまだはっきりとは
わかっていない
49
到達把持運動の制御スキーム
(Arbib 1985)
• 視覚からタスクに
関する情報を抽出
• 右側が把持運動
• 左側が到達運動
• 独立に制御
– どこまで独立なの
か?
50
手指幅が最大となるタ
イミングと、手先速度
が減速を開始する時間
の関係 Jeannerod(1984)
– 相関がある
両方の成分の時間的な協調
手先の減速開始時刻(ms)
到達運動成分 と
把持運動成分の時間的関連
最大開き幅の時刻(ms)
51
到達把持運動の制御スキーム
(Hoff &Arbib 1991)
• 時間情報を調節するモジュールが存在
52
到達運動成分 と
把持運動成分の関連
• 運動中に対象物の
位置を移動する
• 両方の成分に影響
Jeannerod &
Marteniuk1992
手首の速
度と手指
幅
指先と
手首位置
W: 手首
T: 拇指
I: 示指
左へ移動
移動なし
53
到達運動成分 と
把持運動成分の関連
運動中に対象物の大きさを変化させる
Paulingnan et al. 1991
– 到達運動成分に影響しない
変化なし
小→大
54
把持運動に関与する脳部位
Ø AIP野:3次元物体を見
たり操作したりするとき
Sakata et al. 1995, 1998
Ø AIP野はF5(腹側運動前野
の一部)と結合
Luppino et al. 1999
Ø F5野は把持運動の運動計
画や実行に関与
Rizzolatti et al. 1990
Ø F5野から指の関節を制御
する筋肉を支配する運動
ニューロンへの投射
Dum & Stick 1991
Ø F1野(1次運動野)が運
動の実行に関与
AIP-F5-F1の経路が把持運動の
計画、実行に関与
Gallese et al. 1994,
Jeannerod et al. 1998,
Colby & Goldberg 1999
55
到達運動に関与する脳部位
Ø MIP,LIP, VIP野(腹側、
外側、内側頭頂間
野):対象物の位置を
表現
Colby & Dunhamel 1996,
Duhamel et al. 1998,
Colby & Goldberg 1999
Ø 位置の表現はF4(腹側
運動前野)で到達運動
の実行と計画に利用さ
れる
Ø F1野(1次運動野)は
運動の実行に関与
(VIP/MIP/LIP)-F4-F1の経路が到
達運動の計画、実行に関与
56
FARS モデル
(Fagg, Arbib 1998)
神経生理学の知見を基に到達把持運動の
ための情報処理と脳部位の対応をモデル
化
57
他の把持運動の計算論的アプローチ
• 把持力決定、把持点決定などの問題もそれぞれ
に運動計測実験と対比しながらの研究が進行
• 把持運動の解析の難しさ
– 多自由度で、複雑な構造なので正確な測定が困難
• 指関節、把持力、把持点など、正確な計測は難しい
– 計算問題において条件が互いに影響しているため、
実験において調べたい要因以外の影響を排除する
ことが難しい
到達運動と比べて普遍的な運動の特徴が見出しにくい
把持運動のモデルは比較的、抽象的でシンボリックな
モデルにとどまっている
58