PPPニュース 2015 No.17 (2015 年 12 月 10 日) 公会計改革の推進と政策評価機能の再生・・・地方自治体財政計画の戦略化 総務省で公会計改革、地方公営企業への適用拡大等地方の財務情報の改革議論が進んでいる。こう した改革は、財務情報の質を毎年度のフローベースから将来を見据えるストックベースにも視野を広 げ、そこから得られる異化効果(今までの情報では気付きづらい姿を認識すること)を発揮し、戦略 的経営や政策評価に結び付けていくことを意図している。既存政策見直しのルール化として位置づけ られる政策評価は、国では「行政機関が行う政策の評価に関する法律」に基づき、地方自治体は各条 例に基づいて広範に展開されている。北海道庁の「時のアセスメント」から本格化した評価制度は、 北海道日高横断自動車道路の実質的な建設中止等各地の個別事業の見直しに止まらず、補助金返還制 度の見直し等の制度改革への成果も生み出してきた。しかし、毎年度繰り返される評価作業が行政内 でルーティンワーク化し従来の利害関係調整型の政策形成過程に埋没する実態が多くみられる。評価 とは、一定の「ものさし」をあてはめて政策の良し悪しを判断することである。従って適用する「も のさし」によって評価は異なる結果となるため、 「ものさし」の設定内容と位置づけ自体が重要な政 治的争点とならざるを得ない。この「ものさし」の形成及び適用が利害関係調整型で形成されると、 評価制度自体が既存政策の行動ルールに埋没し、見直しのルールとして機能しない結果となる。従来 の政策形成過程は利害の均衡を関係集団間の影響力を行使し合うことで追求する構図であり、政治と の関係がとくに重視される。利害関係集団間の調整は、最終的に政策決定者間の政治的パワー構造に 委ねられ、そこで決定される内容は利害調整に関与していない国民や他集団も予算や法令を通じて拘 束する力を持つ。このため、利害関係集団間の調整過程の中で評価やその前提となる財務情報を如何 に位置づけるか重要な要因となる。従って、財務情報の質の変革に取り組むことは利害関係調整に大 きな影響を持つ。 評価の実施形態は、管理志向型と行動志向型に分けることができる。管理志向型とは、国や地方自 治体の継続的事務事業、義務的事務事業を中心に目標を着実に達成するため、決められた基本的な枠 組みを堅持しながら進行管理を行う形態である。管理志向型には、大きな限界がある。限界とは、具 体的には①制度・政策、施策・事務事業どのレベルであっても、新たな手段の構想には及びづらいこ と、②内外を通じた環境変化に伴う未経験な現象を対象として取り扱う視点が欠落しやすいこと、③ 既存政策の枠組みを堅持した範囲内で選択できる代替案のみを構想しやすいこと、などである。この ため、目的達成のために手段レベルの見直しが必要な時にも適時に対応できず、手段の維持を優先し 目的自体を見失う手段の目的化や政策ラグの深刻化を発生させやすい。政策の進化のために重要とな る行動志向型とは、漸進的であっても次に取り組むべき新たな枠組みや手段の構築を常に意識し、現 実の政策手段の形成と執行等を通じて集積する情報を活用し社会経済情勢の構造的環境変化に対応 しつつ、政策の目的達成の実効性を担保することである。 評価の「ものさし」が既存政策の見直しのルールとして有効性を持つには、公的部門に限定された 情報ではなく、常に他の領域と比較できる客観性を持った情報の形成と活用が重要となる。具体的な 情報の質的転換の取組みとして、公会計改革がある。財政民主主義を支える財政法の現金主義(財政 法2条)、単年度主義・会計年度独立性の原則(同法 11 条、12 条)等諸原則を基本としつつ、政策 議論にフルコスト、ライフサイクルコスト、機会コスト等の企業会計の視点を組み込んだ新たな財務 情報を形成し、既存政策に対する異化効果を生み出す。国や地方自治体の外郭組織からその流れが強 まっており、一般会計等の財政議論への実質的拡充に結び付くことで、資源配分の構図の新たな視点 が形成される。その形成が財政法、会計法等基本法の一段の進化への流れを形成する。他方、こうし た流れは、グローバル化の大きな影響を受ける。政策を支える財務情報とその根底にある公会計制度 の見直しは、民間との連携等開かれた政策の領域形成に資する一方で、企業会計に急速に求められて いる国際企業基準との整合性確保の流れとも接点を持つ。政策情報のあり方がグローバル化とリージ ョナル化の接点、政治と市場の接点として位置づけられることを意味する。 © 2015 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE
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