-1- サギソウの研究(Ⅰ) −栽培方法および開花調節に関する研究− 岡山

サギソウの研究(Ⅰ)
−栽培方法および開花調節に関する研究−
岡山県立高松農業高等学校
古
澤
氏
寺
尾
隆
1
はじめに
由
児
サギソウの開花期間は1週間程度なので,年間を
環境破壊が進行するこの現代社会では,数多くの
通じて楽しめる商品にするため,球根の冷蔵による
動植物が絶滅の危機にさらされている。サギソウは
開花調節の検討を行った。湿らせたミズゴケに球根
湿地帯に生息する植物で,岡山県にも自生地はいく
を入れ,冷蔵処理(5℃)を行った。浅型5号駄温
つか存在するが,岡山県レッドデータブックには危
鉢に冷蔵した球根を ,大球・中球・小球に分けて 15
急種として掲載されるほど,絶滅が心配されている
球ずつ毎月植え付けた。用土は,赤玉土と鹿沼土を
植物の一つである。また可憐な姿から,盗掘による
1:1とした。
被害も報告されている。
第1表
昨年度,地域の栽培育種家の方からサギソウの球
球根の分類基準
球根の大きさ
縦の長さ
20 球重量
根をわけてもらうことができた。そこで,サギソウ
大
球
21 ∼ 25mm
16.95g
の自生地保護と,安価な商品開発により盗掘を防止
中
球
15 ∼ 20mm
11.30g
す る た め ,( 1 ) 栽 培 方 法 の 確 立 ,( 2 ) 開 花 調 節
小
球
4 ∼ 14mm
5.73g
の確立 ,(3)増殖方 法の確立を目的に,生 徒とと
もに研究を行うこととした。
(3)増殖方法の確立
①完熟種子からの無菌播種による増殖
自然交配したサギソウの完熟種子を 10 月 30 日に
無菌播種した。種子を 70 %エタノールで 30 秒,次
亜塩素酸ナトリウム溶液( 有効塩素濃度1% )で 10
分消毒し,滅菌水で3回洗浄後,培地へ播種した。
培地はハイポネックス寒天培地(ハイポネックス
2.0g/l,ショ糖 30.0g/l ,寒天 1.0g/l , pH5.6)とした。
第1図
2
本校で咲いたサギソウの花
材料および方法
(1)栽培方法の確立
露地圃場で栽培を行うために,用土の検討を行っ
た。育苗バットにミズゴケ,赤玉土,鹿沼土の3種
類の用土をそれぞれ入れ,大球の球根を3月 24 日
に植え付けた。植え付けの深さは,球根の大きさの
第2図
無菌播種の様子
3倍程度を目安とした。かん水は,表面が乾いたら
行い,施肥は行わなかった。また,球根の大きさに
②球根による増殖
よる生 育の違いを ,(2)開花調節法の確立 の実験
サギソウは,親の球根1個当たり子の球根を3個
で調査した。
つける性質がある。2月頃まで栽培を継続し,その
(2)開花調節法の確立
後球根を掘り上げて肥大状況を調査する。
-1-
3
気温(℃)
40
35.
7
35
3
2.
6
30
2
9.
6
2
8
.
6
2
5.
6
25
24.
8 2
4.
4
22
2
1.
5
20
1
9
15
1
4.
8
10
7.
8
5
0
4月
5月
6月 7月
8月
9月
結果および考察
(1)栽培方法の確立
同じ大きさの球根でも花茎の伸張度合い(草丈)
が異なるため,地上部の生育を判断する指標として
葉の中で最も大きい第3葉( 葉身長と葉身幅 )を 10
株ずつ調査した。
用土の違いを見てみると,葉身長はミズゴケで最
も大きくなり,赤玉土,鹿沼土では大きな差は認め
られな かった(第2 表 )。これらの結果には 用土の
最高温度
保水力が関係していると考えられた。また,葉身長
第3図
最低温度
月別最高最低平均気温
に比べて葉身幅はどの区もあまり変わらないことが
観察から明らかとなった。
第2表
調査日
根 からは発芽し なかった(デ ータ省略 )。3ヶ月冷
用土が第3葉の生長に及ぼす影響( cm)
ミズゴケ
赤玉土
蔵の植出し日は7月 10 日であり,暑さが原因と考
鹿沼土
えられた。また,冷蔵中にもいくつかの球根の芽が
長さ
幅
長さ
幅
長さ
幅
動いており,冷蔵庫内で何度かミズゴケが乾いたこ
6/23
7.2
0.6
4.8
0.5
4.6
0.6
とも原因の一つと考えられた。
7/13
7.4
0.7
5.2
0.7
5.2
0.6
(3)増殖方法の確立
8/26
7.5
0.8
5.6
0.7
5.7
0.6
①完熟種子からの無菌播種による増殖
培養1ヶ月後には,種子は緑色のプロトコームを
球根別に生育の違いを見てみると,葉は大球が最
形成し,いくつかは幼芽を形成し始めていた。
も大きく,続いて小球,そして中球が最も小さくな
った( 第3表 )。冷蔵1ヶ月の影響も考えられるが ,
鉢への球根の植え付け個数を 15 個に統一したため ,
小球が中球よりも生育が進んだのかもしれない。
第3表
調査日
球根が第3葉の生長に及ぼす影響( cm)
大球
中球
小球
長さ
幅
長さ
幅
長さ
幅
6/23
3.8
0.7
2.5
0.5
3.0
0.5
7/13
6.1
0.7
3.6
0.5
4.1
0.5
8/26
6.1
0.7
3.6
0.5
4.1
0.5
第4図
4
用土試験及び球根の大きさでの試験は,いずれも
完熟種子からの発芽の様子
まとめ
サギソウの栽培を今回初めて行った 。球根であり ,
開花にまで至らない株がほとんどであったため,輪
無施肥でも花を1輪は咲かせると聞いていたが,2
数に与える影響を明らかにすることはできなかっ
割程度の株しか開花しなかった。来年度は遮光のさ
た。また,花蕾を含めた茎の先端部位が枯れ込む黒
らなる工夫と薬剤散布を徹底し,多くの株が開花す
点病の症状も見られた 。これらは鉢での栽培であり ,
るように栽培したい。また,来年度は0℃での密封
夏季の高温と乾燥のために用土が乾いたために発生
冷蔵処理を行い,開花調節をしていきたい。
したと考えられた。
最後に,本研究を行うにあたり御助成いただいた
(2)開花調節法の確立
岡山県産業教育振興会,並びに貴重な素材とアドバ
1ヶ月冷蔵の球根は順調に生育したが,2ヶ月冷
イスをいただいた岡山市津高の育種家池上氏に,こ
蔵は草丈が短くなり,3ヶ月冷蔵,4ヶ月冷蔵の球
の場を借りて厚くお礼申し上げます。
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