安 定 生 産 マ ニ ュ ア ル

夏 秋 トマトの
準 備と定植
❶ 植え穴掘りと定植準備
若 苗 や 老 化 苗 定 植 は、 後 の 生 育 に 大
き く 影 響 す る の で、 鉢 の 大 き さ に 合 わ
(第2図)。
い よ う に、 土 を 株 元 の 周 囲 に 置 き ま す
せ ま す。 そ し て マ ル チ 内 の 熱 が 逃 げ な
回りを両手で押して土と根鉢を密着さ
❷ 低温の影響
す(第3図)。
場 合 は、 液 肥 を 潅 水 と 兼 ね て 施 肥 し ま
に 潅 水 し ま す が、 そ の と き 葉 色 が 淡 い
経過しても葉露が付かない株には株元
早 朝 に 葉 露 が 付 い て き ま す。 7 日 以 上
ます(第4図)。
熱量が変わるので余裕をもって配置し
量 で 十 分 で す が、 気 温 の 低 下 に よ っ て
き ま す。 暖 房 す る 場 合、 霜 害 防 止 の 熱
回避するために暖房機器を準備してお
定 植 時 期 が 早 い 場 合 は、 霜 の 被 害 を
定 植 後 は、 株 元 に 1 株 0 ・ 2 ~ 0 ・
5 ℓ 潅 水 し て、 土 と 根 鉢 の す き 間 を 埋
〜正しい生育の診断と対応〜
とし み
定 植 後 は 生 育 が 旺 盛 に な り、 最 低 気
温が ℃以下になると花芽分化に影響
鉢のまま植え穴に
入れておく
12
定植が遅れる
場合
め る と 活 着 が 早 ま り ま す。 や む を 得 ず
薬剤施用 ※穴が乾いている場合は潅水
せて定植日を決めます(第1表)。 早
め に マ ル チ を 張 っ て 地 温 を 高 め て お き、
植え穴掘り
若 苗 で 定 植 す る 場 合 は、 新 聞 紙 を 巻 く
※地温15℃以上確保
℃以上を確保してか
と 根 の 伸 長 が 抑 制 さ れ て、 初 期 の 生 育
定植 3 時間前鉢に潅水
㎝の地温
ら 定 植 す る こ と が 大 事 で、 地 温 が 低 い
第1図 定植の手順
深さ
後藤 敏美
株元潅水
が過繁茂になりにくいのでおすすめし
定植
と 根 の 伸 長 が 悪 く、 し お れ や す い 株 に
1番花開花5∼3日前
な り ま す。
12.0 ㎝
ます(写真1)。 定植が間に合わない
よ う で あ れ ば、 鉢 の ま ま 植 え 穴 に 入 れ
て お き、 後 で 定 植 す る よ う に し ま す。
気 を付けたい潅水と低温
❶ 手潅水
1番花開花 3 日前∼開花始め
定植2~3時間前に鉢に潅水してお
き ま す が、 肥 料 が 不 足 し て い る 場 合 は
追 肥 を 兼 ね て 行 い ま す。 ま た、 定 植 前
に 植 え 穴 が 乾 い て し ま っ た 場 合 は、 活
全農あおもり営農対策部
営農指導課専任アドバイザー
株元潅水
着が悪くなるので1穴0・5ℓの潅水
を行ってから定植するようにしてくだ
活着が遅れると開花や生育が不ぞろ
い に な っ て、 そ の 後 の 潅 水 や 追 肥 の 判
断 が 難 し く な る の で、 2 段 花 房 開 花 ま
さい(第1図)。
❷ 定植方法
で は 手 潅 水 で 生 育 を そ ろ え ま す。 活 着
に は 5 ~ 6 日 要 し ま す が、 活 着 す る と
13.5 ㎝
地温15℃以上
1番花開花
←2∼3日
以内に定植
定植
地温
定植適期苗
規格
深さ10㎝の
15.0 ㎝
15
深 植 え に な ら な い よ う、 畝 面 と 同 じ
高 さ に 花 房 を 外 側 に 向 け て 植 え、 鉢 の
第1表 鉢の規格と定植適期苗
10
ご とう
安定生産マニュアル
定植とその後の管理
第2回
61
2016 タキイ最前線 秋種特集号 し て、 果 実 品 質 が 悪 く な る の で 温 度 管
理には十分注意します(第2表)。
株 を整える
❶ わき芽とり
生育の強弱に関係なく早めにとりま
す が、 特 に 開 花 花 房 直 下 の わ き 芽 は、
開花する前にとらないと落花の原因に
な り ま す。 わ き 芽 と り や 摘 葉 は、 傷 口
写真1
を 早 く 乾 燥 さ せ る た め、 で き る だ け 晴
殺虫剤
天 日 に 行 い ま す。 雨 天 日 に と る と 傷 口
植え穴の周囲に
盛り土
が 乾 か ず、 病 害 に 感 染 し や す く な り ま
畝面と同じ高さ
す(写真2)。
摘 果 時 期 や 成 り 果 数 は、 草 勢 の 強 弱
花房は同じ通路側に
そろえる
❷ 摘果時期と成り果数
第2図 定植方法
第3図 活着の目安
葉露が付かない
葉露が付着
成長点が黄緑色
定植∼4 日後
定植 5∼6 日後
定植 7∼8 日後
↑若苗定植では、新聞紙を根鉢に巻くことで過繁茂を予防する。
第4図 暖房機具例
写真2
だるま型
ストーブ
反射型
ストーブ
ハウス
ヒーター
ハウス用
キャンドル
練炭
加温
面積
40坪
20坪
15坪
10坪
15坪
燃焼
時間
8∼10時間
8∼10時間
40∼50時間
大40・中20時間
8時間
第2表 気温と生育障害
最低気温
影響を受けやすい時期・箇所
−1℃以下
生育期間
−1∼0℃
〃
0∼4℃
症状
全身枯死
成長点枯死
開花4日間∼開花
窓あき果、チャック果
1∼7℃
成長点付近
湾曲による生育停滞
12℃以下
4日以上続くと花芽分化に影響
乱形果、生育停滞
62 2016 タキイ最前線 秋種特集号
↑上写真はわき芽とりの限界期で、下写真はわき芽とり
が遅れてしまった状態
(破線部)
。
を 考 え て 決 め ま す が、 3 段 花 房 ま で は
全 体 に 均 一 に 付 着 す る た め 、着 果 率
❶ トマトトーン処理
に 、高 濃 度 の 少 量 噴 霧 は 1 ~ 2 番 花
が 高 く 果 実 の 肥 大 が そ ろ い ま す 。逆
数回に分けて作業すると摘果株と無摘
て3番花以降に養分が十分供給され
確 実に着果させる
果 株 の 判 断 が 付 き に く く、 時 間 を 要 す
前 回 で も 説 明 し た よ う に、 着 果 数 が
収 量 に 最 も 影 響 す る の で、 目 標 と す る
な い た め 着 果 が 悪 く な り ま す( 第 8
着 果 節 位 の 高 低 と 合 わ せ て 判 断 し ま す。
る の で 一 斉 に 摘 果 し ま す。 草 勢 維 持 の
果数を確実に着果させることが重要で
の 果 実 肥 大 が 早 く 、養 分 競 合 に よ っ
た め 4 段 花 房 以 降 は、 偶 数 段 を 4 果、
図・第5表)。
ン 剤 の 使 用 時 期 は 、比 較 的 温 度 が 高
す。 そ の た め、 ト マ ト ト ー ン の 処 理 方
ま す。 適 正 な 濃 度 で 適 期 に 処 理 し な い
いことや草勢が低下しやすい時期に
奇 数 段 を 3 果 に 摘 果 し ま す が、 途 中 で
と 着 果 や 品 質 に 影 響 し ま す。 高 温 時 に
な り ま す 。基 準 倍 数 で 使 用 す る と ト
・処理濃度:トマトトーンやジベレリ
す(第3表)。
は 果 実 内 の ジ ベ レ リ ン が 減 少 し、 空 洞
マ ト の 感 受 性 が 高 く 、各 種 障 害 が 発
法を十分理解して使用する必要があり
❸ 葉切り
果や着果不良が多くなるためジベレリ
ハサミ切りの場合は病原菌の
侵入防止のため3∼5㎜残す
下葉2枚残す
不規則になった株は交互に繰り返しま
過繁茂で葉が果実を覆っている場合
は、 空 洞 果 の 発 生 を 防 ぐ た め 葉 切 り を
生するので基準倍数より薄めに使用
日後ごろに果
ン 剤 を 加 え ま す。
行 い ま す。 最 初 は 着 果
3
します(第5表)。
3∼4
実 が 見 え る よ う に 葉 切 り し ま す。 次 に
4
着果率向上の方法
3段花房
トマトトーン処理後
日 後 ご ろ で、 葉 が 果 実 を 覆 っ て
-
着果
9・10葉
の上
処理時の注意事項
3
・噴霧器具:着果率は噴霧器によって
3
い る 場 合 は、 花 房 周 辺 の 葉 を 先 端 か ら
2
も 違 う の で 、霧 が 細 か く 均 一 に 噴 霧
2段花房
トマトトーン処理後
半 分 に 切 り ま す。
・適期処理花房:花の寿命は開花後3
噴霧は薬液が均一に付着するように
花 を 手 の ひ ら で 集 め、 柱 頭 め が け て 行
弱い
鬼花を残しておくと花房全体が開花
つぼみ
不 ぞ ろ い に な り や す い の で、 蕾の う ち
摘葉は果実の均一な着色を促すこと
に 加 え、 風 通 し を よ く し て 病 害 虫 の 発
~ 5 日 で す が 、高 温 期 は 短 く 低 温 期
い ま す。 そ の 時、 成 長 点 に 飛 散 す る と
3
できる蓄圧式の専用噴霧器を使用し
生 を 防 ぐ た め に 行 い ま す。 果 実 が 着 色
は 長 い の で 、上 段 花 房 に な る ほ ど 寿
糸 葉 が 多 く な る の で 注 意 し て く だ さ い。
4
❹ 摘葉
始 め と な っ た ら、 花 房 下 の 葉 を 2 枚 残
命 は 短 く な り ま す 。そ の た め 開 花 状
2 度 処 理 防 止 の た め 目 印 と な る よ う に、
3
に 摘 み と り ま す。
し て す べ て 摘 葉 し ま す。 ハ サ ミ で 切 る
態を見ながら処理することがポイン
食 紅 な ど を 加 え て 行 う こ と も 必 要 で す。
3段花房
普通
∼強い トマトトーン処理後
ます(写真3、第4表)。
よりも手で折ると傷口が乾きやすいの
ト に な り ま す 。 ま た 、処 理 が 早 い と
❷ ブロワー交配
で、 で き る だ け 手 折 り で 行 っ て く だ さ
とんがり果〝に、濃度が濃いと 先
人工交配にはマルハナバチや振動受
粉 な ど が あ り ま す が、 こ こ で は ブ ロ ワ
い(第5図)。
理済みの1~2段花房下の果実の形
とんがり果〝 になりやすいので、処
8月は気温が高く水分の要求量も多
く な る こ と か ら、 開 花 花 房 直 下 ま で の
完 全 受 粉 す る た め、 ト マ ト ト ー ン 処 理
介 し ま す。 マ ル ハ ナ バ チ な ど と 同 様 に
ー (送 風 機) を 使 用 し た 風 媒 受 粉 を 紹
・処理方法:低濃度の多量噴霧は花房
す(第7図)。
状を参考にして処理するようにしま
葉を最低
を 増 や し、 水 あ げ を 促 進 さ せ ま す (第
6図)。
3段
4・3果
交互の
繰り返し
5・6葉
の上
手折りの場合は茎部から折る
2段
10
枚以上残して水分の蒸散量
„
4段∼
1段
7・8葉
の上
„
各花房段の成り果数(果)
成り果数の判断
摘果時期
草勢
着果節位
20
第5図 摘葉方法
第3表 摘果時期と成り果数
25
※判断が難しい場合は着果節位を優先します。
63
2016 タキイ最前線 秋種特集号 秋
夏
トマトの 安定生産マニュアル
第6図 高温期の摘葉方法
12
に 比 べ て 空 洞 果 が 少 な く、 品 質 は す ぐ
れています(第9図)。
処理方法
花粉が出る気温 ℃以上で使用しま
す が、 ど の 作 型 で も 1 段 花 房 は 花 粉 量
が少ないためトマトトーン処理を行い
ま す。 ブ ロ ワ ー 処 理 時 間 帯 は 午 前 中 で
す が 時 期 に よ っ て 違 い ま す (第 6 表、
写真4)。
開花花房を中心にダクトを上下に振
り な が ら、 花 が 弱 く 揺 れ る 程 度 の 弱 風
で 行 い ま す が、 強 く 揺 れ る 強 風 で 処 理
す る と、 先 と ん が り 果 が 発 生 し や す い
の で 注 意 が 必 要 で す。
8月は葉を最低
20枚以上残す
8 月 中 旬 か ら は、 人 工 受 粉 に 比 べ て
果実の肥大と着色が早いトマトトーン
処 理 に 切 り 替 え ま す。
開花花房
写真3
第4表 噴霧器別の着果率
(H26)
噴霧器
5∼7段花房平均着果率
蓄圧式
69.0%
加圧式
79.8%
第8図 トマトトーンの濃度と散布量
↑写真左が加圧式噴霧器、写真右は蓄圧式噴霧器。
低濃度多量噴霧
第7図 花房段とトマトトーンの適期処理時期
高濃度少量噴霧
果実肥大が早い
1∼4段花房:4番花開花始め
2 番花
1 番花
4 番花
5段花房以降:3∼4番花開花始め
2 番花
1 番花
3 番花
果実肥大が
遅い
3 番花
着果
落花
開花始め
(3分咲き)
第5表 花房段別トマトトーンの処理濃度
(5月上旬までの定植)
花房段
ブロワー処理
80
60
備考
・着果率向上のた
1段
80∼90倍
め低濃度で多量
に噴霧する
(約1
90∼100倍
2段
∼1.5㏄)
100倍
3段
・20℃以下や樹勢
110∼120倍 +ジベレリン7∼10ppm が強い場合には
4∼6段
濃い倍数
7段∼8月下旬 130∼140倍 +ジベレリン7∼10ppm ・20℃以上や樹勢
が弱い場合には
110∼120倍
9月上旬以降
薄い倍数
第9図 ブロワーとトマトトーン処理の着果率
(H17年)
%
100
倍数
写真4
トマトトーン処理
ブロワー +トーン処理
40
8段
7段
9段
10 段
第6表 ブロワー処理時期別の時間帯と間隔
5月下旬∼6月中旬
6月下旬∼8月上旬
時間帯
午前8∼11時
午前7∼10時
間
2∼3日おき
1∼2日おき
隔
64 2016 タキイ最前線 秋種特集号
←
ブロワーを使
って送風して
いる様子。