第34回:「ピンピンコロリを目指して」2回目

「ピンピンコロリを目指して」2回目
先日、北海道労災病院院長の宮本先生御夫妻が書かれた「欧米には寝たきり老人はいない」
という著書を読む機会がありましたので、紹介致します。目次をみれば大体の内容は解る
と思いますので、目次の一部分のみを抜粋しました。
第一章 終末期医療の現場から
職員も受けたくないと言う「苦しみの多い終末期医療」
医療現場からの手紙:無理な延命はメシの種?
これでいいの?本人や家族の意思が無視される日本の現状
延命を希望しなかった家族の葛藤
第二章 硬直化する終末期医療
終末期の高齢者に栄養管理は不要
ドッキリ!自然な看取りなのに警察が介入
第三章 安らかな死を妨げるさまざまな要因
希望しない延命が行われる五つの理由
延命を希望するのは年金受給のためというケースも
濃厚な医療は安らかな死への妨げ
第四章 穏やかに死を迎える医療が望まれている
世界の非常識!終末期高齢者への人工的水分、栄養管理
点滴1本の栄養は、缶ジュース1本分しかない
胃ろうで幸福な暮らしができる人はホンノ一握り
本当は、一日 500mlの点滴も勧めたくない
安らかな死を迎えた人は、経管栄養、点滴、なしだった
第五章 欧米に寝たきり老人はいない
ほとんどの人が延命を望まないと選択
第六章 納得のいく死を迎えるために
ことさら死を恐れることのない高齢者
「リビング・ウィル」生かされるかどうかは担当医師次第
胃ろうで生かされるのはだれのため?
「あなたがして欲しくない事は、私にもしないで」
目次だけをみれば、大体が理解できたと思いますが、一番の違いは、経管栄養とか点滴も
ナシという点です。私達が思っている延命治療とは、胃ろう、人工呼吸器までなのですが、
欧米では一日 500mlの点滴もしていません。日本では、お年寄りがご飯を食べられなくな
ったら、点滴治療をしてあげる事が、日本人の優しさだと考えておられることと思います。
ところが、一日 500mlの点滴治療をしても、約 1-2 ヶ月程度の延命であり、この間、生命
が存続するために、体中の脂肪、筋肉を使い果たす事になり、最後はガリガリになって亡
くなります。一方、本人の食欲のみに任せた場合、食べなくなれば、軽度の脱水となり、
1-2 週間で眠るように亡くなります。顔も体もさほどの変化もありません。
医療従事者のほとんども、このような亡くなり方を希望しているにもかかわらず、日本で
は、未だに寝たきりの方々がおられます。何故なのでしょうか?
一番の原因は、日本人の医療というものに対する考え方にあると思います。日本では、医
療は、
「手当て」と言います。病の人に対して、とにかく「手を当てること」が大切なので
す。有効かどうかよりも、
「思い」を大切にしてきたのです。手を当てたとて、全く無効だ
としても、何もせず放置することは、バチ当たりな所業のような気がするのです。だから、
できるだけの事をしてあげることが大切だったのです。ところが、医療が進み、いろいろ
な事ができるようになった現在、今度は逆に患者さんを苦しめる結果となった訳です。
原因の2番目、本当はこれが一番の理由のような気がするのですが、病院側の経済的要因
です。全国の療養病院入院中のうちの相当数がこのような患者さんです。もし、これらの
患者さんが全て 1-2 週間で亡くなった場合、つぶれる病院がたくさん出る事と思います。当
院の療養病床 30 床のうち、10 床くらいはこのような患者さんです。今までは、ベッドを満
床にしておくためには必要な方々だったのです。
そして最後の原因、これはほんの一部ですが、現実にはお年寄りの年金を当てにして生活
されている御家族の方々もおられます。口ではっきりとは言われませんが、患者さんが 90
歳だとすると、
御家族も 60 歳台です。支える家族の生活の基盤がないケースも多いのです。
これら 3 つの要因が複雑にからまり合って、
「できるだけの治療をお願いします」という言
葉に集約されます。
でも、本当は、医療は患者本人のためにあるもので、本人が何を望んでいるかを推し量り、
もし自分だったらどうして欲しいかを考え、治療方針を決めていくべきなのですが、実際
には、別の方向に走ってしまいます。
だからと言って、明日から、急に胃ろうとか点滴をやめる訳にはいきません。強引に行え
ば、場合によっては刑事罰に問われる可能性があるからです。大切な事は、医療従事者、
患者、家族、皆が、この問題に真剣に取り組み、徐々にコンセンサスを形造っていくしか
ありません。当面は、アマノグループの職員一人一人には、
「欧米では、経管栄養、点滴も
行っていないんだ。その結果、寝たきり老人はほとんどいない。
」という事を知って欲しい
のです。そして、その後、社会がその事を知ってくれば、徐々に変わってくると思います。
1 年前にも書いたのですが、私だったら「ピンピンコロリを目指して」行きたいと思うので
す。これからも、患者さん一人一人の本心を推し量って、一番いい治療方針を選択してい
きたいものです。