科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム) 第 12 回年次総会

STS forum (NPO)
科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)
第 12 回年次総会
(2015 年 10 月 6日、京都)
声明(仮訳)
1.STSフォーラム(特定非営利活動法人、本部:東京都千代田区、理事長:尾身幸次)は、
10 月 4 日から 6 日にかけて第 12 回年次総会を開催した。総会には、100 近くの国・地域・国
際機関から 1,000 名を超える科学技術、政策、ビジネス、メディア各界の世界的なリーダーが
参加した。
2.総会では、21 世紀の今日、地球の資源は人類の活動にとって有限になりつつあるとの認識
に基づき、どのように科学技術の「光」を強化し、「影」を克服していくかについての検討が
行われた。我々は、人類の未来と社会の持続的な発展について、単に今後 20 年、30 年ではな
く、100 年後、500 年後の世界がどのようなものかという長期的な視点に立って考察していく。
3.本年の総会での議論に基づき以下の点を強調したい。
A.エネルギーと環境
長期的には、化石燃料の継続的な消費は、地球環境が受容できないコストを強いるとともに
限りある資源を使い尽くすことになる。信頼できる安定したエネルギー供給を確保するために
は、多様なエネルギー源が必要であり、原子力は、安全の確保、核セキュリティ及び核不拡散
の取組みの強化を前提として、重要なエネルギーオプションの一つであり続けるべきである。
全ての国が参加した、効果的に温室効果ガス排出を削減する国際的な枠組の設置も必要であ
る。我々のこの場での検討が本年 12 月にパリで開催される「気候変動枠組み条約第 21 回締約
国会議(COP21)」における議論に反映されることを期待する。
B.イノベーション
新しい製造技術、ロボット、ナノテクノロジー及び新材料がもたらす産業上のイノベーショ
ンは、製品開発、健康、都市生活を含む様々な分野で不可欠な役割を果たしている。
公的部門・民間部門、アカデミア、政府及び産業界間の連携を強化することを目指すべきで
ある。企業の最高技術責任者(CTO)は、ビジネスとアカデミアの間の架け橋となって、イノ
ベーションを促進していくべきである。主なイノベーションの根源は基礎科学であり、この基
礎科学は公的部門及び民間部門の両方から支援される必要がある。
C.情報通信技術(ICT)とスマートシティ
情報セキュリティとプライバシー保護の向上を前提とした先進的な ICT の活用が将来の人
類の発展に不可欠となっていることから、ICT に関する普遍的なルールを構築することについ
て世界規模で合意することが必要である。インターネットと携帯電話やその他の機器との融合
が社会を変え、さらに途上国の発展を支援するとともに、女性に活力を与えている。IoT(モ
ノのインターネット)及びビッグデータの使用もまた、人工知能(AI)やロボットの登場と同
様、社会に対し新しい課題とチャンスを作り出している。
科学技術を活用することで、より住みやすく・より人にやさしく・より災害に強く・よりエ
ネルギー効率の良い都市環境を整備するべきである。特に、情報通信技術(ICT)は、都市計
画とより優れた管理体制を通じて、「スマートシティ」の創造を助け、都市自体、都市に住む
人々、都市の価値及びその文化が進化していくことを支援する。
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D.世界的な健康問題
近年、iPS 細胞とゲノムに関する研究がライフサイエンスン分野で新たな局面を切り開きつ
つある。健康や安全面や倫理的な問題と調和した形でこれらの成果を実用化することにより、
オーダーメイド医療及び先制医療をさらに発展させるべきである。人間の福祉に貢献するため、
栄養に関する科学的知見を拡大することも望まれる。
世界的な健康問題、特に感染症の世界的流行に対処するために、先進国、発展途上国及び世
界保健機構(WHO)間の協力をより一層向上させる新しい国際的なシステムの構築が不可欠で
ある。
E.資源保護
海洋やその深層水の流れは気候や温室効果ガスの排出管理にとって重要な役割を果たして
いる。地球の海洋と淡水に関する理解を深めることが、人類の持続可能な未来を効果的に実現
するために必要である。社会に重大な問題を発生させないように留意しながら、様々な種類の
資源を効率的に活用していくより良い方法を検討する必要がある。
天候の変化がこれまでの経験では予測できないほど激しくなりつつある状況で人類に必要
な食料を生産するためには、土地と水の利用の仕方を改善するとともに、安全であることが示
され、貧しい人々の食べ物の栄養を改善することに大きく貢献することができる遺伝子組換生
物の使用も含む、最善の科学の知見が活用されたその土地に適した災害に強い作物が必要であ
る。
F.科学技術における協力
世界の一地域のイノベーションをそのイノベーションを必要とする他の地域に結び付け、こ
れにより、確実に持続可能な解決策を世界中に普及させるべきである。
教育、研究及び地域における起業努力を支援することが発展途上国の人材育成に不可欠であ
る。今日のグローバル経済での科学技術に焦点を当てた産業界間の協力が益々重要となってい
るが、他方、産業界におけるグローバルな競争がイノベーションの創出にとって不可欠である。
G.科学、技術と教育
科学者と社会の間の意見交換の機会の拡大とその内容の向上により、一般の人々はリスクと
利益を明確に説明され、十分な情報を得た上で物事の判断をすることができるようにすべきで
ある。
STEM(科学、技術、工学、数学)教育の重要性は強調されるべきである。科学技術の社会に
おける役割について一般の人々の関心を高め、情報を提供するため、質の高い科学プログラム
を開発することが求められる。教育を強調することと女性に活力を与えることが持続可能な発
展の強化を助けるだろう。
4.本年、STS フォーラムは、クアラルンプール、ミラノという世界の主要都市でワークショッ
プを開催した。また、今回の総会では STS フォーラムの持続的発展につなげるため、約 80 名
の活動的な若手リーダーが参加した「STS フォーラム 未来のリーダー・プログラム」を創設
した。我々は、このような取組を通じ、これまでに我々が培ってきた人的ネットワークに基づ
いて活動していくとともに、さらにこのネットワークを拡大し、人類が直面しているチャンス
をどのようにいかし、また課題を克服していくかについてさらに検討していくこととしている。
5.我々は、この場に来年再び集うことを楽しみにしている。STSフォーラム第 13 回年次総
会は、京都で 2016 年 10 月 2 日(日)から 4 日(火)まで開催することが合意された。