債務上限引き上げ、暫定予算の延長

2015 年 10 月 15 日号
Global Market Outlook
く lo
米国下院共和党内の混乱と、債務上限引き上げ、暫定予算の延長
米国政治が混迷度を増す一方、債務上限引き上げ、及び暫定予算の期限が迫っています。
現在の状況を簡単に整理してみました。
1. ベイナー議長の突然の辞任
9月28日、ジョン・ベイナー下院議長は突然10月末で辞職すると発表、政界に激震が走りました。同氏は
2007年に下院共和党(当時は民主党が多数派)の院内総務に選出され、2010年の中間選挙で共和党が勝
利したため、2011年からは下院議長に就任、穏健派として下院多数派の共和党を束ねてきました。後任とされ
るケヴィン・マッカーシー院内総務(事実上のナンバー2)は一時意欲を示したものの、10月8日に辞退を表明し
ました。有力候補とされる前副大統領候補のポール・ライアン下院予算委員長は、固辞する姿勢を崩していませ
ん。当初はコロンバス・デー(10月12日)明けには新体制をスタートさせるとしていましたが、現在のところ目処
はたっておらず、不透明感が増しています。
2. 深刻化する共和党内の亀裂
ベイナー議長の辞職、マッカーシー院内総
米国議会のイメージ
他国への介入
務の辞退の背景には深刻な共和党内の亀裂
共和党
ネオコン
があると思われます。「ティーパーティー系」と
言われる、減税を主張し小さい政府を志向す
るグループが強い影響力を保持しているため
です。「オバマケア」導入への反発、金融当局
(FRB)による量的緩和、ゼロ金利の長期化
共和党
穏健派
再配分重視
民主党
穏健派
減税・小さな政府
(彼らの目からは財政赤字拡大、つまり大きな
政府を支援しているようにも映る)が、共和党
内での小さな政府志向をより強めているのか
共和党
ティーパーティー
民主党
左派
もしれません。
米国では大統領をはじめ、上下両院議員、
不介入、孤立
知事等の候補者は全て予備選で選出されま
資料:各種報道等から弊社作成
す。現職議員といえども「ティーパーティー系」を敵に回せば、本選に進むことさえ危うくなりかねません。
2011年8月、「債務上限引き上げ」をめぐり議会が紛糾、大手格付会社による米国債格下げという事態に発
展しました。また2013年10月には予算が成立せず、16日間の政府閉鎖に追い込まれました。いずれもベイナ
ー議長が「ティーパーティー系」の議員を粘り強く説得し、何とか乗り切ってきたわけですが、遂に今回「燃え尽き
た」ということでしょう。また後継とされたマッカーシー院内総務も、指導力の発揮に不安を覚えたのではないでし
ょうか。「ティーパーティー系」に近いともいわれるライアン委員長は、将来の大統領選出馬を目指しているとの観
測もあり、「あえてやっかいな役職を、このタイミングで引き受けることは避けたい」と考えているという見方もあり
ます。
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3. 民主党内では左派が勢力拡大?
一方、民主党では、来年の大統領選候補として本命とされるヒラリー・クリントン元国務長官が、メール問題で
伸び悩むなか、自称社会主義者のバーニー・サンダース上院議員が支持を拡大しています。米国経済は金融危
機後、緩やかな回復が続いていますが、量的緩和、ゼロ金利長期化による株価上昇に依存する度合いが強く、
株を保有している富裕層がますます裕福になる一方で、中間層以下の人にとっては賃金の伸びは低く、小額預
金には金利がつかないこと等から、格差が拡大していることがその背景かもしれません。
ビル・クリントン元大統領の時代には、民主党も共和党も中道寄りの議員が多数を占めたことから、議会は想
定以上に機能したと言えます。しかし今回は、前ページのイメージ図のように両党は反対の方向に軸足を移して
いるとも思われます。つまり共和党内の対立、共和党と民主党間の対立、いずれも先鋭化していると考えられ、
今後も議会の機能低下が懸念されます。
ちなみに、本稿の主旨とは離れますが、イラク戦争等から「ネオコン」の地位が低下、また今回サンダース候補
の勢力拡大から、ヒラリー候補もTPP反対を打ち出さざるを得ない状況となりました。「ティーパーティー系」は従
前より孤立主義的な考えが強く、国際協調には積極的ではありません。TPPについては大筋合意には漕ぎ着け
たものの、発効に向けての道は険しいと言えそうです。
4. 債務上限引き上げと暫定予算延長が差し迫る
米国の会計年度は10月から始まります。本予算はもちろんのこと、暫定予算でさえ先月末、ベイナー議長が
事実上、自らの職と引き換えに12月11日までの手当てがされたという状態です。新たな期限までに両党が合意
できない場合、最悪のケースとしては政府機関閉鎖の再来が想定されます。
また債務上限問題については、現在財務省が特別会計等を融通してやり繰りしていますが、ルー財務長官に
よれば11月中にも底をつくようです。
中国等、新興国経済の先行き不安、米国利上げ観測等を背景に、8月中旬以降、内外株は不安定な展開が続
いています。米国政治が新たな火種とならないことを期待したいところです。
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