安定のトランプ、安堵のヒラリー~3月決戦に向かう米大統領予備選挙

みずほインサイト
米 州
2016 年 2 月 23 日
安定のトランプ、安堵のヒラリー
欧米調査部 部長
3 月決戦に向かう米大統領予備選挙
03-3591-1307
安井明彦
[email protected]
○ 2月20日にサウス・カロライナ州(共和党)、ネバダ州(民主党)で行われた予備選挙・党員集会
では、現時点で各党の指名候補争いをリードする候補が明確になった。
○ 共和党ではトランプ氏が勝利、得票率伸び悩みの疑念を一蹴した。主流派候補の一本化はもちろん、
「反トランプ」候補が一本化されなければ、トランプ氏には届かない状況になっている。
○ 民主党ではクリントン氏が勝利、ひとまずサンダース氏の勢いを止めた。クリントン氏は指名候補
争いでは優位に立つが、早期にサンダース氏を引き離せるか否かが焦点となる。
1.トランプ氏とクリントン氏が指名候補争いをリード
2016年2月20日、米国の大統領選挙は、サウス・カロライナ州で共和党の予備選挙、ネバダ州で民主
党の党員集会が行われた。その結果、いずれの政党においても、現時点で指名候補争いをリードする
候補が明確になった。
共和党では、実業家のドナルド・トランプ氏が、サウス・カロライナ州の予備選挙で勝利を納めた
(図表1)。初戦となったアイオワ州党員集会でクルーズ氏の後塵を拝したトランプ氏は、支持率の高
さが得票率の高さにつながらない可能性が示唆されていた。トランプ氏は、ニュー・ハンプシャー州
に続く勝利によって、そうした疑念を一蹴した。トランプ氏の戦いぶりには、安定感すら感じられる。
図表 1
図表 2
得票率・共和党
得票率・民主党
クリントン
トランプ
アイオワ
(2/1)
ルビオ
ニューハンプシャー
(2/9)
ニューハンプシャー
(2/9)
サウスカロライナ
(2/20)
ネバダ
(2/20)
0
10
20
30
サンダース
アイオワ
(2/1)
クルーズ
0
40
20
40
60
80
(%)
(%)
(資料)New York Times 資料により作成
(資料)New York Times 資料により作成
1
トランプ氏にとっての脅威は、「反トランプ」候補の一本化である。支持率を見る限り、もはや主
流派候補の一本化だけでは、トランプ氏を凌駕することはできない。サウス・カロライナ州での惨敗
を受けてジェブ・ブッシュ氏が脱落する等、遅まきながら主流派では、マルコ・ルビオ氏を中心とし
た候補の一本化が進んでいる。しかし、一本化に手間取っている間に、トランプ氏は着実に勝利を重
ねている。主流派が候補を一本化できたとしても、ティー・パーティー派であるテッド・クルーズ氏
をも糾合しなければ、トランプ氏の支持率には届かない。
一方の民主党では、前国務長官のヒラリー・クリントン氏が、ネバダ州の党員集会で勝利した。ク
リントン氏は、ひとまずはバーニー・サンダース氏の勢いを止め、民主党予備選挙での優位さを改め
て印象づけることに成功した。
クリントン氏にとって、ネバダ州の党員集会は、絶対に負けられない戦いだった。サンダース氏の
弱みは、マイノリティにおける支持の弱さである。実際に、クリントン氏が苦戦したアイオワ州、ニ
ュー・ハンプシャー州は、マイノリティの存在感が薄かった。マイノリティ票が多いネバダ州でもサ
ンダース氏が勝利すれば、その勢いに拍車がかかりかねなかった1。
もっとも、結果が僅差であったように、クリントン氏の戦いぶりは、「横綱相撲」と言うには程遠
い。本来であれば、サンダース氏との自力の差は大きい。脱落を余儀なくされたブッシュ氏ほどでは
ないが、前評判ほどの強さを発揮していないことに変わりはない。予備選挙での優位は動かないにし
ても、本選挙に向けた不安は払しょくされていない。
2.3月決戦に向けて
3月に入ると、予備選挙は一気に加速する(図表3)。共和党、民主党いずれにおいても、極めて
重要な時間帯が訪れる。
大きな節目となるのは、テキサス州などで予備選挙が行われる3月1日(いわゆるスーパー・チュー
ズデー)と、フロリダ州などで予備選挙が行われる3月15日である。指名候補獲得の指標となる各州の
代議員は、3月15日までに予備選挙・党員集会を終える州だけで全体の5割超が決まる2。
重要な時間帯と言っても、共和党と民主党で趣は異なる。予備選挙・党員集会の仕組みの違いが一
因である。
共和党では、トランプ氏が一気に抜け出す可能性がある。これまでのところ、予備選挙におけるト
ランプ氏の支持率は40%に届かないが、クルーズ氏、ルビオ氏との三つ巴状態が続く限り、トランプ
氏は過半数の支持を得ずとも勝利を重ねることが出来る。まして、今後の共和党の予備選挙・党員集
会では、多数の票を獲得した候補者が全ての代議員を獲得する方式を採用する州が少なくない。三つ
巴状態が続いた場合には、相対的に優位にあるトランプ氏が、多くの代議員を獲得する結果になり易
い。追う立場のクルーズ氏、ルビオ氏にとっては、少なくとも、それぞれの地元であるテキサス州(ク
ルーズ氏)、フロリダ州(ルビオ氏)での勝利は欠かせない。
民主党は、クリントン氏が早期にサンダース氏を引き離せるか否かが注目される。民主党では、全
ての予備選挙・党員集会において、代議員を得票率に応じて比例配分する。指名候補獲得に向けて優
位にあると言っても、クリントン氏が獲得代議員数でサンダース氏を引き離すためには、大差での勝
利を重ねる必要がある。
2
優位を奪われないまでも、サンダース氏が獲得代議員数を積み重ね、予備選挙からの脱落が遅れる
ことは、本選挙に向けたクリントン氏の不安材料である。クリントン氏にとっては、予備選挙が長引
けば、サンダース氏による批判で評判が傷つけられるリスクが残るだけでなく、サンダース氏が一定
の代議員数を獲得することで、政策面でサンダース氏への譲歩を迫る圧力となる。「社会主義」とも
言われるサンダース氏の極端な政策にすり寄れば、クリントン氏は本選挙で無党派層の支持を失い易
くなる。クリントン氏の優位が続いた場合でも、いかに早期にサンダースを引き離し、本選挙に照準
を合わせられるかが問われよう。
図表 3
予備選挙・党員集会の日程と代議員の決定割合
(%)
100
スーパー・チューズデー(3/1)
90
フロリダ等(3/15)
80
70
60
50
ニューヨーク(4/19)
40
ペンシルバニア等(4/26)
30
カリフォルニア等(6/7)
20
10
0
2016/2
共和党
2016/3
2016/4
民主党
2016/5
2016/6
(年/月)
(注)Super Delegate を除く
(資料)The Green Paper 資料により作成
1
安井明彦「トランプ旋風とサンダース革命」(みずほ総合研究所『みずほインサイト』2016 年 2 月 12 日)
以下、代議員と言った場合には、Super Delegate(予備選挙・党員集会の結果に縛られず、党大会における指名候補
を選択できる代議員)を除く。
2
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