超伝導入門-低温の不思議な世界- 新潟大学理学部物理学科 大野義章 はじめに 金属を冷やしていくと、ある温度で突然電気抵抗がゼロになる現象が観測され、これ を超伝導といいます。超伝導は、ゼロ抵抗の他にも磁場を完全に排除するなど様々な 不思議な性質を示します。この様な不思議な性質は、金属中の膨大な数の電子が一斉 に足並みをそろえて運動することによって引き起こされます。また、超伝導は 送電ケ ーブルや電力貯蔵、リニアモーターカー、病院のMRIなど、様々な分野で応用され ています。この様な超伝導の驚くべき性質やメカニズム、さらにその応用の最前線ま で、分かりやすくお話ししたいと思います。 超伝導の性質 <ゼロ抵抗、永久電流> 【図1】 のように、金属を冷やしていくと、ある臨 界温度 Tc 以下で電気抵抗がなくなり超伝導になり ます。超伝導になった金属のリングに電流を流すと、 その電流は永久に流れ続けて減衰しません(永久電 流)。超伝導のコイルに大電流を流すこと により、 超強力な電磁石も作れます(超伝導電磁石)。 【図1】電気抵抗の温度依存性 温度 <マイスナー効果、磁気浮上> 【図2】 のように、通常の金属では磁場はほぼ素通 りしますが、超伝導になると内部から磁場が排除さ れます(マイスナー効果)。この効果により、 【図3】 のように超伝導体の上に磁石が浮く現象がおこり ます(磁気浮上)。 磁気浮上した磁石が落下しなく なるのは、超伝導体に一部侵入した磁束が不純物な どにトラップされるためです(ピン止め効果)。 【図2】 完全反磁性 超伝導のメカニズム 【図3】磁気浮上 <クーパー対> 超伝導は、金属中の 1cm 3 当たり 10 23 個もの膨大な 数の電子が相互作用によって2電子ずつ対(クーパ ー対)を作り、その膨大な数の電子対が同じ 運動状 態で足並みをそろえて動くこと(ボース・アインシ ュタイン凝縮)によって実現します。電子は、もと もとフェルミ粒子という同じ運動状態(例えば同じ 速度)を1つの粒子しか取ることができない性質 (パウリの排他原理)をもった粒子で すが、クーパー対を作った2電子は、ボース 粒子という同じ運動状態を幾らでも取りうる性質に変わ ります。超伝導の発現には、 2電子をクーパー対にするための何らかの引力相互作用が必要不可欠となります。 <従来型(BCS)超伝導> 金属中では、規則正しく並んだ原子からマイナス の電荷をもった電子が飛び出して電流を運ぶ一 方、残った原子はプラスの電荷をもつイオンとな ります。このイオンの格子振動(フォノン)を仲 立ちとして電子間に引力の相互作用が働いてク ーパー対が形 成され 、 超伝導が実現 します(【 図 4】)。この超伝導メカニズムは 1957 年にバーデ ィーン、クーパー、シュリーファーらによって提 唱され、3人の頭文字を取って BCS 理論とよば れます(1972 年ノーベル物理学賞)。ある臨界温 度 T c を超えるとクーパー対はばらばらになり、超 伝導は破れます。フォノンを介した相互作用は弱 いため、T c は絶対温度で 40K を超えないと考えら れています(BCS の壁とよばれる)。 【図4】従来型(BCS)超伝導 【図5】 銅酸化物高温超伝導 <銅酸化物高温超伝導> 1986 年、ベドノルツとミュラーによって発見され た銅酸化物超伝導体は (1987 年ノーベル物理学 賞)、臨界温度 Tc が BCS の壁をはるかに超えて常 圧下で 135K、高圧下では 160K に達しました(【図 6】)。銅酸化物の母物質は、電子のスピン(自転)が隣り合う銅原子間で互いに逆 向きに揃う反強磁性を示します(【図5】)。ドーピングによってこの反強磁性が消失 すると、揃いかけたスピンの振動 (スピン揺らぎ)を仲立ちとして隣り合う銅 の電 子間に引力相互作用が働き、クーパー対が作られる と考えられています。スピン揺 らぎのエネルギーはフォノンに比べると大きいため高い Tc が期待されますが、どこ まで Tc は上がるのか、定量的に説明出来る理論は未だ解明途上です。 終わりに 1948 年のショックレー、バーデ ィーン 、ブ ラッ テン ら による ト ランジ スタ の発 見 を き っかけ と して(1956 年ノーベル物理学賞)、 コンピュータや IT などが飛躍的 に進歩しました。このため、20 世紀は 「半 導体 の世 紀 」と言 わ れていますが、21 世紀は室温超 伝導の 発見 をき っか け として 環 境問題 やエ ネル ギー 問 題が 解 決 されれ ば「 超伝 導の 世 紀」と よ ばれる こと に な るで し ょう。 よ り高い T c を目指した物質探索や メカニ ズム の解 明に お いて、 物 理学が 果た す役 割は ま すます 大 きくなっています。 【図6】 超伝導の臨界温度( Tc )の推移
© Copyright 2024 ExpyDoc