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論
文
内
容
の
要
旨
研究では慢性期の妄想を対象としていない。
さらに、潜在自己評価の評価尺度の信頼性の問題が挙げられる。Implicit
論文提出者氏名
中
村
光
男
Association Test(IAT)は、潜在意識の尺度として最も信頼性が高いが、
先行研究のいくつかでは用いられていない。
論
文
題
目
本研究では、第一に被害妄想患者は潜在自己評価が低い、第二に他責的
Defensive function of persecutory delusion and discrepancy between
被害妄想患者では、顕在自己評価が潜在自己評価よりも高いという仮説を
explicit and implicit self-esteem in schizophrenia: Study using the
検証した。
Brief Implicit Association Test
五条山病院デイケア通所中で、症状が安定した統合失調症患者、統合失
調感情障害患者 71 名が研究に参加した。対象者に対し、被害妄想を Brief
論文内容の要旨
Psychiatric Rating Scale (BPRS)、Paranoia Check List (PCL)、顕在自己評価
従来、妄想は理解不可能なものとされていたが、近年、部分的には一般
を Rosenberg Self-esteem Scale 、 自 責 傾 向 を Brief COPE 、 抑 う つ を
心理学の理論を適応できることが判明してきた。妄想の心理学的理解の一
Montgomery Åsberg Depression Rating Scale (MÅDRS)、潜在自己評価を IAT
つとして、被害妄想が心理的防衛の役割を担うという仮説がある。すなわ
の簡易版である Brief Implicit Association Test (BIAT)を用いて評価した。
ち、自分にとって悪い出来事を自分に帰属すると、自尊心が傷つけられ、
データは SPSS 22.0 を用いて解析し、p < 0.05 を統計学的有意とした。
自己評価が低下する。それを防衛するため、悪い出来事の原因を他人に帰
BPRS を用いて対象者を被害妄想群(n = 35)、非被害妄想群(n = 36)に分
属し、その結果「他人に悪いことをされている」という被害妄想が生じる
類したが、年齢、罹病期間、抗精神病薬用量において、有意差を認めなか
というものである。この場合、表面的な顕在自己評価が、潜在的な、現実
った。顕在、潜在自己評価を各々t 検定で比較したが、被害妄想群と非被
の自己評価よりも高くなり、両者に乖離が生じると考えられる。
害妄想群の間では、両者ともに有意差を認めず、仮説は棄却された。
この仮説に基づき、被害妄想患者を対象に、顕在自己評価と潜在自己評
次に Brief COPE の結果で対象者を自責群、他責群へと下位分類し、4
価を比較する研究が行われてきた。顕在自己評価は質問紙、潜在自己評価
群とした。群間で患者背景情報に有意差は認めなかった。顕在-潜在自己
は、特定の刺激語への反応時間等、被験者の反応バイアスを受けない尺度
評価のデータを z スコア化した上で、各群内で顕在-潜在自己評価の差を t
で評価されているが、仮説通り顕在自己評価が潜在自己評価よりも高いと
検定し直接比較した。他責的被害妄想患者群(n = 14)のみ顕在-潜在自己
する研究がある一方、より大規模な研究では両者に乖離を認めず、結果は
評価の有意差を認めたが(p < 0.001)、他の群では顕在-潜在自己評価の
一貫しない。
乖離は認められず、仮説は支持された。
結果が一貫しない要因として「自分が悪いから攻撃される」という自責
的な被害妄想が存在していること、つまり、上述の仮説が全ての患者に該
当する訳ではないということが挙げられる。また、精神病の急性期におけ
る妄想と、慢性的に維持される妄想の病理の差異が挙げられる。慢性期の
妄想の方がより心理的要因の関与が大きいことが指摘されているが、先行
本研究の結果から、他責的被害妄想患者において被害妄想が防衛的な役
割を担っていることが示唆された。