XCPを用いた ECUテスト

Technical Article
XCPを用いたECUテスト
シーケンスの詳細を探る
ブラックボックステストは一般的
に、ECU の 開 発プロセスの 一 部
として、あるい はECU の 動 作 異
常を解析するために実施されま
す。テストでは刺激入力と測定
のために、ECUの入出力をテスト
システムに接 続します。この 方
法は広範囲にわたる解析を可能
にしますが、テストによっては直
接 ECU 内部にアクセスする必要
があります。これを行うことなし
に、有意義なテスト結果を得るこ
とはできず、テスト工 数 の 削 減
もできません。
ほとんどの場合はECUの入出力を点検すれば、デバイスの機
必要な値以外の診断プロトコル情報が大量に伝送されるという
能テストには十分です(図1)。ところが、ECU内でステートマシン
欠点があり、それによりバスシステムのインターフェイス負荷が
が使用されている場合には、それが困難になります。ステートマ
大きくなります。
シンの状態は、そのステートマシンがECUの出力に与えている影
響を調べることで間接的に知るほかありません。値がバスシステ
ムで伝送されないセンサーの場合も、ソフトウェアインターフェ
XCPによるテストアクセス
イスのどこでエラーが発生しているのかをテストエンジニアが特
バス負荷を低く維持する必要がある場合は、上記の方法の代
定するのは非常に困難です。センサーの値が正しく処理されて
わりにキャリブレーションプロトコルを使用できます。そのよう
いない箇所は、ECUの外部から見ても正確には分かりません。
なプロトコルは元来、ECU のキャリブレーションエンジニアのた
ECUの内部データにアクセスする方法は、ECUの開発フェーズ
によって異なります。たとえば開発の初期段階では、内部ECU値
は通常「開発用の予約メッセージ」で出力されます(図1)。サプ
ライヤーの機能開発者は、このターゲット用特定メッセージを使
用して、効果的かつ迅速に値を確認できます。ただし、そのよう
な付加的なメッセージは、開発後期には削除しなければなりませ
ん。システム統合と量産工程の妨げになるからです。それらの
メッセージはバス負荷を増やし、最悪の場合には他のシステムデ
バイスのメッセージと衝突することさえあります。
内部ECU 値にアクセスするもう1つの方法は診断です(図1)。
診断では、たとえばフォールトメモリーにアクセスし、特定の情
報を直接得ることが可能で、メモリーから必要な値を読み取る
ための専用診断サービスも提供されています。この方法の利点
は、標準化されたアクセス手法が使用されることです。唯一の前
提条件は診断ドライバーが完全に統合されていることですが、こ
れは現在のECUならほぼ問題ありません。その一方で診断では、
August 2015
図 1:従来型の ECUテストシステム。診断機能や、開発者
が作成した専用メッセージを通じて、ECUの内部値に限定
的にアクセス
1
Technical Article
めに開発されました。キャリブレーションプロトコルを使用する
ことで、エンジニアはECU内のパラメーターや特性マップに変更
を加え、アルゴリズムを最適化できます。ASAMで標準化された
キャリブレーションプロトコル「 XCP 」では、ECU のメモリーを必
要に応じて個別に読み取ることができます。さらにDAQ(Data
Acquisition)と呼ばれるデータ収録リストを通じて、定義済みの
測定値セットをECUのアプリケーションと同期して取得すること
も可能です。XCPプロトコルは、バス媒体経由でのデータ伝送の
効率化を目的として定義されています。したがって、DAQリスト
の設定後にテストシステムから識別子を1つ渡せば、それに応じ
たデータを伝送できます。DAQリストの測定タイミングをECU内
部のプロセスに対して最適化させることもできます。自動テスト
システムでも、システムに対する要件は同様です。XCPプロトコ
図2:XCPオプションを使用しているCANoeテストシステム。
ECUの内部値に直接アクセス
ルを使用すれば、ECUやバスシステムに過剰な負荷をかけること
なく、テストシーケンスで内部値を統合できます。
に軽減されます。たとえば、センサーを使用するテストケースの
XCPのように広く使用されている標準規格は、ツールチェーン
場合、テストシステムがXCPを使用してセンサーの値をECU内の
内での設定がきわめて容易という点でも理想的です。内部プロ
メモリーセルに直接書き込みます。したがって、センサーをECU
グラムメモリー内での位置、それらの位置の名称、通信パラメー
の入力に接続して制御するという、手間のかかる作業は必要あり
ターなど、必要なすべての情報が、あらかじめA2Lファイルに収
ません。ECUには、センサーと関連ハードウェアドライバーが値
められています。A2Lファイルは開発環境により、自動生成され
を正しく測定したことが通知されます。同じアプローチは他の方
る場合があります。次のステップとして、リンカーマップファイル
向にも応用できます。一例として、出力ステージとアクチュエー
からA2Lファイルにコンパイルされたメモリーアドレスが引き継
ターがテストされ、評価される状況を想定してみましょう。この
がれます。A2Lファイルの設定は、テストツールで対象のECUご
場合、アプリケーションがXCPを使用してドライバーステージに指
とに1回ずつ行うだけです。その後、テストシーケンスに必要な
定する値を、テストシステムが測定します。
シンボルをA2Lファイルから選択します。
大量のデータを伴うアクセス
CANoeオプションXCP
XCPオプションは、ベクター の 車 載ネットワーク開 発ツー ル
「 CANoe 」にECU内部の値の読取・書込に役立つ機能を追加した
オプション製品です。このオプションはXCP on CAN/CAN FD、
XCP on FlexRay、XCP on EthernetのXCP規格に対応している
だけでなく、XCPの前身プロトコルであるCCPにも対応していま
す。A2Lファイルを設定して必要なパラメーターを選択すると、
CANoeが値を自動的に取得してシステム変数に割り当てます。
テストシステムとECUの間で大量のデータを交換したり、処理
速度が特に速いプロセスをモニターする必要があるテストケー
スには、CANやFlexRayバス上のXCP接続は利用できません。そ
のような場合に推奨されるのが、ECU のデバッグインターフェ
イスに直接アクセスする手法です。この手法を実装するには、
値が割り当てられた変数は、テストのあらゆるタスクで使用でき
NEXUSやJTAGをインターフェイスとして使用します。これらのプ
ロトコルは、マイクロプロセッサーのデバッグ/トレースなどの手
段によってECUのメモリーに直接アクセスします。その結果、バ
スやECUの負荷を高めることなく、膨大な量のデータをシステム
ます。ECUの入出力へのアクセスのほか、これらの変数ではECU
から迅速に読み取ることが可能です。
のメモリーの詳細情報も得られます(図2)。
ベクターの VXハードウェアには、ECU の NEXUSやJTAG のイ
シンプルな解析では、トレースWindowやグラフィックWindow
ンターフェイスに直接アクセスする機能があります(図2)。この
にデータを表示し、パネルを使用して結果を評価できます。ベク
ハードウェアはXCPを使用し、Ethernet経由でテストシステムと
ターの「vTESTstudio」には、CANoeのテストケースを作成して
通信するため、CANoeとの統合もCAN経由のXCPアクセスと同様
自動評価するための包括的なオプションが含まれており、ネット
に容易です。VXハードウェアとCANoeテストシステムを組み合わ
ワークマネジメントステートマシンが正しく機能しているかどう
せると、通信バスに何ら悪影響を与えることなく、テストシステム
かのチェックなど、より複雑なテストシーケンスも実装できます。
のパフォーマンスを一段と高めることができます。
必要な刺激入力はCANoeの残りのバスシミュレーション内で実
行され、ECUの反応をバス上だけでなく、XCPを使用してECU内
でも直接測定できます。 テストケースの実行に伴う工数も大幅
August 2015
本稿は、2010 年 6月にドイツで発行されたAutomobil Elektronikに
掲載のベクター執筆による記事の和訳を更新したものです。
2
Technical Article
執筆者:
Oliver Falkner:ドイツのシュツットガルト
大学にて電気工学を専攻。同大学卒業後、
1999年にベクターに入 社。現 在 はネット
ワークおよび分散システム製品シリーズと
CANoeオプションXCPのプロダクトマネー
ジャーを兼任。
関連リンク:
ベクター・ジャパン株式会社
http://www.vector-japan.co.jp
CANoeオプションXCP
http://www.vector.com/vj_canoe_xcp_jp.html
vTESTstudio
http://jp.vector.com/vj_vteststudio_jp.html
■ 本件に関するお問い合わせ先
ベクター・ジャパン株式会社 営業部
(東京) TEL: 03-5769-6980 FAX: 03-5769-6975
(名古屋)TEL: 052-238-5020 FAX: 052-238-5077
E-Mail: [email protected]
August 2015
3