血液浄化療法について

平成 27 年 7 月 22 日放送
血液浄化療法について
茨城県厚生連 総合病院土浦協同病院
臨床工学部 工学技士主幹 関 貴弘
司会者:血液浄化療法とはあまり聞きなれない言葉ですが、いったいどのような治療なの
でしょうか?
関
:患者体内に蓄積した毒物および病因物質によって体液の恒常性が著しく損なわれ
た病態に対して、その原因物質を除去することにより、病態改善・治癒をはかる
治療法と定義されています。少し難しい表現になりますので例えて申しますと「血
液を浄水器のような浄化器を通すことにより、体に悪い影響を与えている物質を
除去することによって病気を治す治療法」と言えるかと思います。
血液浄化療法は、血管にカテーテルと呼ばれる管や留置針を脱血用と返血用の 2
本挿入し、1分間で 50~200ml 程の速度で血液を体外循環させ、透析・濾過・吸
着・分離することにより病気の原因物質を除去します。その際、専用の血液浄化
装置や血液浄化器が必要となります。血液浄化装置の設定や血液浄化器の選択に
よって多数の治療方法が存在します。
司会者:血液浄化療法にはどのような種類があるのでしょうか?
関
:間歇的治療と、持続的治療の 2 種類に大別されます。
間歇的治療は1回数時間の治療を週に数回行う方法で、血液透析・血液濾過・血
液濾過透析・腹膜透析・血液吸着・血漿吸着・単純血漿交換・二重膜濾過血漿交
換・白血球除去療法があります。
持続的治療は1日に 24 時間、数日間連続的に行う方法で、主に集中治療室で重症
患者さんに適応される透析治療です。近年最も施行されている方法は持続的血液
濾過透析で CHDF と呼ばれています。
司会者:血液浄化療法はどのような病気に対して行われる治療なのでしょうか?
関
:血液浄化療法は全ての病気に適応されるわけではありません。癌や糖尿病を治す
ことはできません。血液中に病気の原因物質が存在し、その物質を選択的に除去
できる血液浄化器が実用化されていることが前提となります。
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現在もっとも血液浄化療法を受けている患者さんが多い病気は腎不全で、日本で
約 32 万人、茨城県では約 7600 人の方々が血液透析・血液濾過透析・腹膜透析と
いう治療を受けています。
ところが、これらの透析治療は腎不全を治す治療ではありません。腎臓は尿を作
り出す臓器ですが腎不全の患者さんは尿を作れませんので、本来尿として排泄さ
れるべき尿毒症物質や、摂取した水分が体内に蓄積してしまいます。透析はこれ
らの物質を一時的に除去しているにすぎません。そして血液透析を受けている患
者さんは、週3回、1回4時間の治療を生涯受け続けなければ生存することがで
きません。さらに食事制限や飲水制限も厳しく管理しなければいけないので腎不
全患者さんは大きな負担を負うことになります。
透析以外の血液浄化療法に、血漿交換という治療があります。血液は体積の約半
分が赤血球で、残りの半分が血漿という成分で構成されており、血漿の中に病気
の原因物質が存在する場合に行う治療方法となります。血漿交換は、血液を体外
循環させ血漿分離膜というフィルターを通すことで血球と血漿に分離させます。
分離された血漿を廃棄し、代わりの血漿成分を補充することで病気の原因物質を
体から除去します。ところが血漿交換では体にとって有用なアルブミンや免疫グ
ロブリンも一緒に廃棄されてしまいますので、補充液はアルブミン溶液や新鮮凍
結血漿が用いられます。1 回の治療で体格によりますが平均で約 3 リットルの血漿
を交換します。
血漿成分に病気の原因物質が存在する疾患で血漿交換は効果が期待できますので、
自分の免疫機能が自分の体を攻撃してしまう自己免疫性疾患や、肝蔵の機能不全
で保険適応されています。自己免疫性疾患による神経疾患として重症筋無力症・
ギランバレー症候群・慢性炎症性脱髄性多発神経炎・多発性硬化症、皮膚疾患と
して天疱瘡・類天疱瘡・中毒性表皮壊死症、さらに腎臓疾患・リウマチ・膠原病
などで血漿交換は保険適応が認められています。
肝不全に対しては、劇症肝炎・術後肝不全・急性肝不全・慢性 C 型ウイルス肝炎
で適応されます。さらに薬物中毒でも血漿交換が行われます。
他の治療方法として血液を吸着器に通すことで病気の原因物質を除去する吸着式
血液浄化法という方法があります。血液を直接吸着器に通す血液吸着と、血漿分
離膜を通過させてから吸着器に通す血漿吸着の 2 種類に分けられます。
敗血症の原因物質であるエンドトキシンを除去する吸着器や薬物中毒の原因薬物
を除去する吸着器等があります。また、血球成分除去療法といって白血球を除去
する吸着器もあり、潰瘍性大腸炎や関節リウマチに適応されています。
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司会者:血液浄化療法を行っている間、患者さんはどのように過ごしているのでしょうか?
関
:血液浄化療法の治療時間は血液透析で約 4 時間、血漿交換で約 2 時間と長時間に
及びますので、治療中の患者さんにはなるべくリラックスしていただけるように
心がけています。ベッドで横になったり、読書をしたり、テレビや映画を見たり、
音楽を聴いたり、パソコンをしたり、ゲームをしたり、眠ったりしながら自由に
過ごされています。その間我々医療者は、常に患者さんの状態を観察しながら脈
や血圧のチェックを行っています。
司会者:血液浄化療法は子供でも受けられる治療なのでしょうか?
関
:子供は大人と比べ体格に大きな差があり、循環血液量が少ないことなどで留意し
なければいけない点がいくつかありますが、血液浄化装置の精度の向上と子供用
のカテーテルや低容量の血液浄化器が開発されているので子供や新生児、未熟児
にも血液浄化療法は行うことが可能となっています。子供ではさらに先天性代謝
異常の急性憎悪・先天性心疾患の開心術後・ガンマグロブリン不応性の川崎病な
どに適応されています。
司会者:血液浄化療法の今後の展望や未来の姿はどうなのでしょうか?
関
:血液浄化療法で用いられる血液浄化フィルターや吸着器は、日本が世界に誇る繊
維産業の最先端技術から発展してきた医療材料です。今後も産業技術・工業技術
の発展によって医療の場に新しい治療法として応用されることが多いに期待され
ます。また、原因不明や不治の病とされる病態の解明が進み血液中の物質が原因
と特定されれば、将来的にそれらを特異的に除去する方法が見つかることも期待
できます。
日本で 32 万人の方々が受けている透析治療では、週 3 回病院やクリニックに通院
しなければいけないわけですが、自宅で自由な時間に透析が行える在宅透析とい
う方法を選択される患者さんも少しずつ増加しています。最新の調査では全国で
約 460 名の方が在宅透析をうけておりますが今後増加していくものと思われます。
血液をきれいにして病気を治すというシンプルな原理の血液浄化療法にはまだま
だ未知の部分が多く、救える患者さんがたくさんいるという思いを胸に、我々臨
床工学技士もさらなる発展に寄与していきたいと考えています。
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