ri t( )+Δt ⋅ui t( )

 分子動力学法を用いた分子間力を理解するための学生実験 福井工業高等専門学校 ○芳賀正和
! dui 1
=
Fi
##
dt mi
(4) "
# dri
#$ dt = ui
である.式 (4) における時間微分をオイラーの陽解
法で離散化する.時間ステップを Δt とすると, #
Δt
%ui (t + Δt ) = ui (t ) + Fi (t )
mi
(5) $
% r t + Δt = r t + Δt ⋅ u t
) i( )
& i(
i( )
となる.なお,実際の計算では,蛙跳び法を適用し
て計算精度を上げている.
数値計算は Fortran プログラムをコンパイルした
実行ファイルで行う.計算結果はテキストファイル
に出力される.計算が終了する度にグラフ作成ソフ
トに読み込んで,グラフとして結果を読み取る. 3.二分子運動 実験の1つ目は,孤立した 2 個のアルゴン分子の
運動の数値計算である.LJ ポテンシャル曲線を見な
がら 2 個のアルゴン分子の初期の距離 D を自分で決
定し,初期速度 u は 0 とする.計算を始めると,双
方の分子に分子間力が働き,自発的に運動を始める.
このときの分子に働く力,分子の速度および位置の
時間変化を求め(図 1),分子間ポテンシャルと分子
間力および分子の運動の関係について考察する.初
期の分子間距離 D を変えて実験を繰り返し,分子の
エネルギーの大きさによって,固体,液体,気体の
分子運動に変化する様子を観察する. 150
0.40
Posiotion [nm]
100
Force [pN]
1.はじめに 福井高専機械工学科4学年の熱力学において,理
想気体の温度,圧力,密度,状態変化の講義を行う
際,分子間力と分子運動の関係を用いて解説してい
る.しかし,初学者にとって,分子間ポテンシャル,
分子の運動エネルギー,分子間力それぞれの関係は,
理解しづらいものとなっている.そこで,4学年の
後期に開講している機械工学実験 I において,上記
の分子運動に関する理解を補助する目的で,分子動
力学法による液滴の生成という数値解析の実験テー
マを設定している.この数値実験を体験することに
よって,気体の状態変化において重要な分子運動論
の理解が進み,さらに計算力学の体験も同時に行え
る.本報告では,この実験テーマについて紹介する. 2.数値実験の概要 2.1 機械工学実験 I 機械工学実験 I は,半期 2 単位(週に 90 分 2 コマ
連続)の科目である.約 40 名の学生を 7 組に分けて
編成し,1 テーマ 2 週として 7 つの実験テーマを 14
週かけてローテションしている. 2.2 分子動力学法 実験では,まず初めに分子動力学法 1)の説明を行
っている.以下に示すように,分子の運動方程式,
分子間力,分子間ポテンシャル,蛙跳び法による数
値計算を順に解説している. 分子の運動は Newton の運動方程式で表現され,
分子の質量を m, 分子の速度を u, 時間を t, 分子間
力を F とすると次式になる. du
m
=F
(1) dt
ここで,分子間力 F は,分子間ポテンシャルφ か
ら次式で求まる. ∂φ
F=−
(2) ∂r
アルゴンなどの希ガス原子に用いられる代表的な
分子間ポテンシャルは,LJ(Lennard-Jones)ポテン
シャルで,次式で表される. +$ '12 $ '6 .
σ
σ
φij = 4ε ij -&& ij )) − && ij )) 0
(3) -% rij ( % rij ( 0
,
/
ここで,下添え字 i, j は分子番号を表している.ま
た,ε, σ は LJ ポテンシャルのパラメータで,それ
ぞれ結合エネルギーと分子の大きさを表している. 分子 i の運動を記述する方程式は,式 (1) より, 50
0
-50
-100
-150
0.20
0.00
-0.20
-0.40
0
5
Time [ps]
10
0
5
Time [ps]
10
(a)分子間力 (b)分子の位置 図 1 二分子運動における分子間力と分子の位置 熱力学の講義では,理解の進まない様子が感じら
れるが,この数値実験で初期位置を変えて何度も繰
り返し行うことで,分子間ポテンシャルと分子間力
の向きや大きさとの関係を把握し,分子の動き方を
【連絡先】〒916-8507 福井県鯖江市下司町 福井工業高等専門学校 機械工学科 芳賀正和 TEL:0778-62-8255 FAX:0778-62-3306 e-mail:[email protected] 【キーワード】学生実験,熱力学,分子動力学法,分子間力,数値解析 理解している.また,分子間ポテンシャルの谷に対
して,分子の持っているエネルギーの大きさで分子
の動く範囲が変わる様子を観察して理解している.
実験条件である分子の初期の距離 D を自分で決める
ようにしたことで,実験に夢中になって何度も繰り
返し積極的に取り組む様子が見受けられる. 4.多分子運動 実験の 2 つ目は,孤立した多数の分子を 1 次元上
に間隔 D で配置する.分子数 N と分子間距離 D を実
験条件として,分子運動をシミュレーションし,分
子の位置と系の温度の時間変化を求める(図 2). Temperature [K]
100
Temp.
的な内容を把握した上で,実験の 3 つ目として,気
体分子を冷却して液滴が生成され,固体になる様子
を数値計算している. 一辺 2 [nm] の立方体の箱に 30 個の分子を入れる.
系の初期温度を 100 [K] とし,状態を安定させるた
めの平衡化を 1000 [ps] 行なった後,5 [ps] 間の分子
の位置を記録する.次に,設定温度を 10 [K] 下げ,
1000 [ps] 平衡化したのち,5 [ps] 間記録する.以後,
同様に温度を下げていき,30 [K] となるまで計算を
行う.各温度における分子の軌跡を描いて(図 3),
分子挙動の変化を観察し,系の状態が気体, 液体, 固体のどれに相当するか,相と分子運動の関係を調
査した上で,客観的に判断し,報告書で論述する. Average
80
60
40
20
0
0
100
200
300
Time [ps]
400
500
図 2 10 個の分子における系の温度変化 熱力学の講義中に,分子運動と圧力および温度と
の関係について説明している.例えば,体積 V の立
方体の容器中に,N 個の分子が入っているとする.
このときの容器中の圧力 p は, mN 2
p=
u
(6) 3V
である.また,ボルツマン定数を k とすると,分子
の運動エネルギーの総和と絶対温度 T との間には次
式の関係が成り立つ 2). N
1
3
NkT
(7) 2
i
式 (6), (7) を踏まえながら,計算結果を観察し,
系の温度と分子運動との関係を理解する.各自が設
定した分子間距離 D の値によって分子の持つエネル
ギーの平均的な大きさが決まり,系の運動エネルギ
ーの大きさも決まる.個々の分子の運動は様々に変
化して傾向を捉えることは難しいが,温度は分子の
運動エネルギーの平均であり,時間平均もとれば安
定することが観察できる.式 (7) を見た学生の多く
は,分子数 N が増えれば温度 T も大きくなると勘違
いしてしまっている.これについても実験結果を精
査することで,分子数が増えれば統計平均のバラツ
キが減少し,温度が安定するという正しい理解へと
導くことができる.以上で実験の 1 週目を終了し,
報告書として提出させ,2 週目に添削した報告書を
返却しながら指導をしている. 5.液滴の生成 実験の 2 週目は,1 週目に行った分子運動の基本
2
i
∑ 2 mu
=
90 [K]
50 [K]
図 3 冷却時のアルゴン分子の軌跡 温度が低いときは,分子の運動エネルギーが小さ
く,分子間ポテンシャルの谷から出られないため,
分子間力で分子が凝集して定位置で振動する固体状
態となる.温度が高いときは,分子の速度が速く,
運動エネルギーが大きくなり,分子間ポテンシャル
の谷から脱出するのに充分であれば,分子が自由に
運動できる気体状態となる.固体と気体の中間の状
態が液滴である.冷えて分子が凝集して行く過程で,
分子の軌跡の集合が徐々に球形になっていくことも
確認できる.また,表面張力が分子間力の作用であ
ることも,分子の軌跡を見ることで納得できるよう
である.この内容を講義で理解するのは困難である
が,数値実験を通してじっくりと取り組むことで,
理解を助けている. 6.まとめ 熱力学の講義における分子運動のしくみの理解を
補助する目的で,学生実験のテーマとして分子動力
学法による数値解析を実施している.黒板を使った
受動的な講義では,理解するまでに至らない学生が
多いが,数値実験として分子の動きを観察し,実験
条件を自分で考えて何度も試行錯誤を繰り返すこと
で,楽しみながら集中して内容の理解に至っている
ように思われる. 参考文献 1) 日本機械学会:
「原子・分子モデルを用いる数値
シミュレーション」,コロナ社,pp.12-22(1996) 2) 押田勇雄,藤城敏幸:
「熱力学(改訂版)」,裳華
房,pp.38-50(1998)